河童相撲2
向こう側とこちら側を重ねる、怪異が真っ当な生者に遭う為の五つめの条件。
──神通力による権限。
ただし、神話に出てくる様な有名どころの神さん達と違い、こちとらそんなに長くは無理だ。
だから、オレはパパパッと片を付けないといけない。
相手は3人、まずは一人目。
河童の腕は伸縮自在だ。
オレは姿を隠したまま、人間だったらあり得ない距離から腕を伸ばし、相手の胸ぐらをつかむと、これを元の長さに戻した。
するとどうなる?
体勢を崩した相手の眼前に、オレが出現する。
オレは姿勢を入れ換えると、背負い投げの要領で相手を転がし、そのまま頭部を踏み抜──顎を踏み砕いた。
次に股間を潰し不動化する。
声なんか出す暇も与えないよ?
二人目。
いきなり引っくり返った、前方を歩いていた男の陰から現れたオレに驚いたのも一瞬の隙だ──もらう!
オレは、5メートル程の距離を一気に詰めて懐に飛び込むと、肘打ちを加えながら腕を取り、今度は一本背負いでそいつを投げた。
同じ様に思うかもしれないが、背負い投げは着衣を使用するのに対して、一本背負いは半裸の相手でも投げられる──いまどき、Tシャツとかの連中が多いのよ。
素人っていうのは、なんでこんなに軽々と投げられるのかね?
二人目は、面白いように地面に叩き付けられた。
オレは腕を離さずに関節を極め、一気に折った。
間髪入れずに、やはり股間を踏み抜く。
三人目。
さすがにオレを視認するだけの時間を与えてしまったからか、こいつはオレのことを「チュパカブラ!」とか言って叫ぶ猶予があった。
南米産のUMAだったか?
まったく、今どきの人間は河童も分からんのか?
ま──こいつらには無理か。
オレは、やはり腕を伸ばし、逃げようとする男に一瞬で追い付くと、腰を落として蹴りを出し、膝を砕いた。
そして、いきなりの衝撃にもんどり打って倒れ、それでもはって逃げようとするそいつの股間を…二度と使いものにならないように砕くのを忘れない。
あ、気を失ったかな?
3分。
それで終了だった。
必殺の殺し合いなんて、そんなもんだ。
剣豪同士の果たし合いみたいに長々と切り結ぶなんてのはな、物語の中の話だ。
そうでなければ両者共倒れ、お互いが死ぬ。
ラッキーパンチはもとより、相手に実力なんか一切発揮させないで一瞬で終わらすのがセオリーってもんさ。
さて、最後の仕上げだ。
オレは甲羅からまじないを施してある膏薬を取り出すと、これを気を失って引っくり返っている連中の額に塗っていった。
──さて、ご覧じろ。これぞ河童の妙薬でござい!
はたして、男3人はうめき声を上げながら意識を取り戻した。
何が起きたか分からないといった風情の連中が立ち上がるのを待って──うん、痛みはしっかり消えてるな──オレは、前屈みに腰を落としながら、土俵入りの雲龍型を真似て構えた。
如何にも相手を脅すように上半身を突き出して、ニヤニヤした顔を連中に見せるのを忘れない。
「けけけ!」
正気を取り戻した男達が、恐慌状態に陥って逃げ出すのに、3秒かからなかった。
男達は、やっぱりオレには訳が分からない言葉を叫びながら、去って行った。
ああ…終わった。
やってやったぞ。
うん。
「──さらぞう?」
オレは、ギョッとして後ろを振り向いた。
笑だった。
殺人は、控えようと思ったのです。
それでも、殺陣のシーンはそれなりに書きたくて、当時、武術の動画をひたすら見ながら文章を起こそうとしましたが、これで限界でした。
河童の膏薬っていうのは,昔話にちょくちょく出てまいります。
あったら、救命救急とかで引っ張りだこになるんじゃないかな?