夏の夜語り
笑の奴は、毎晩のようにやって来た。
もっぱらオレが話し、笑が聞いている。
そんな感じだった。
「さらぞうは、人間のこと詳しいね。どうして?」
「オレは、おまえよりも長く生きているからな。詳しいのは当たり前だ。だが、実のところはだな…」
オレは、“ちょっと奥さん聞いてよ”と言わんばかりに、笑の奴に顔を近付ける。
気が付けば、オレも陸に上がって笑とは友人のように話をしていた。
まあ…雰囲気作りは初対面の時の礼儀だが、前屈みの姿勢で水面に向かって話し続ける娘の図というのも、腰に悪そうだと思ったんだよ。
年長者としての気遣いだな。
うん。
「今どきの河川敷っていうのは、ゴミ捨て場だ。なんでも捨ててある。その中には、人間の読む雑誌や新聞、マンガに小説、実用書、情報ソースは何でもあるって訳さ」
「へえ…っ!」
笑の奴、引きつったような何とも言えない微妙な笑い顔だな。
まあ、自分の仲間達の捨てたゴミがオレの役に立っていると言っても、返答に困るわな。
「紙になった物だけじゃないぞ。携帯端末とかからも、情報を得ている」
「うわ…」
まあ、分かるわな。
うん、ああいう物は、川の近くにはちょくちょく落ちている。
昔は水に浸かれば即お釈迦だったが、今どきの機械は防水処理までしてある優れ物だ。
「ロックとか掛かっていて、他人には使えないんじゃないの?」
「ふふん♪河童を舐めちゃあ、いけない。河童の別名、知ってるか?」
「?」
「天狗ならぬ河狗だ。神通力だってあるんだぞ?仲間の中には、神として祀られている奴もいるくらいだ」
「なんまんだぶ、なんまんだぶ…?」
「拝むな。それとそれ、仏教だからな。神は神道で神社」
「意外と細かいのね」
「ちげ~よっ!仏教は外来種だから!外国から聖徳太子の頃に日本に入ってきた宗教なの!?ドゥユーアンダースタン?」
「ショウトクタイシ…って、誰?」
「かぁ~~ッ!これだから今どきの若いもんは!」
「そうしていると、なんだか、お爺さんみたいだよ?」
「芯から年寄りなんだよ!オレは、笑よりも年上なの!」
「かわいいね♪」
「…ふん」
オレは、出来るだけ嫌そうな顔をしながら、河童の神通力で携帯端末のロックを外すんだという説明をした。
──せいぜい、電池が切れるまで遊ぶだけだよ?
ソーシャルゲームで課金とかは、してないからね。
ま、そんな感じで、しばらくの間、オレ達は夜になると川辺で無駄話をして過ごしていたんだ。