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第6話 魔物狩り

 湖に到着し、俺たちは大きめの木の影に隠れた。

 湖のほとりには小動物たちの姿がちらほらと見える。


「カナリア。これからどうするんだ?」


「しばらく様子を見ましょう。小動物を捕食しようと集まってくる魔物が狙い目です。ただ、攻撃のタイミングはあなたにお任せします。私はサポートに回るので、安心して好きにやってみてください」


「分かった」


 俺も冒険者だ。体が変化しても、技術には自信がある。

 第二階層の奥地にいる魔物はかなり強いと聞くが、無防備な魔物の不意を打てばなんとかなるはずだ。

 しばらく身を潜めて機を伺うことにする。


 息を殺して待っていると、湖の周りには水を飲みに小動物がたくさん集まって来た。

 そして、木々の隙間から黒い魔物が顔を出す。


 その姿を見て俺は思わず叫び声を上げそうになった。

 見間違えようもない。そいつはワーウルフだった。


 あの悪夢のような光景が頭の中で蘇る。

 全身から嫌な汗が噴き出し、指先が小刻みに震えた。


 恐怖を誤魔化そうと、自分の腕を掴んで震えを抑え込む。


「大丈夫ですか?」


 カナリアが心配そうに声を掛けてくる。


「ちょっとな。でも、もう大丈夫だ」


 そうだ。あの時とは状況が違う。今は大群に囲まれているわけじゃない。


 それにあの個体がこちらに気づく前に攻撃を仕掛ければ、すぐに決着がつく。

 俺は気持ちを奮い立たせて、行動を開始する。


 木の影からゆっくりと出て姿勢を下げ、ワーウルフの視界の外から回り込む。

 カナリアも後ろからついて来てくれている。大丈夫だ。


 ワーウルフが湖の近くにいるウサギに気を取られている隙に、背後を取ることに成功した。


 よし、今だ!!


 駆け出そうと足に力を込めたその時、気配を察知したウサギが急に逃げ出す。

 その異変に反応してワーウルフもこちらに気づいてしまった。


 くそっ、もう破れかぶれだ。俺は狼に向かって剣を振りかざし、攻撃を仕掛ける。

 すると、予想外の出来事が起きた。


 ワーウルフは怯えたように飛び上がって一目散に逃げたのだ。


 追いかけようとするが、全力疾走するワーウルフはあっという間に森の茂みの中に飛び込んでいった。俺は途中で諦めて、その場に棒立ちになってしまう。


「気づかれてしまいましたね」


 カナリアがそばに歩いてきて残念そうに森の奥を眺める。


「ああ、でもあんな風に逃げられるとは思ってもなかった」


「魔物たちも生きていますからね。勝ち目のない相手に戦いを挑むことはしません」


 勝ち目のない相手か。


 俺は自分の体を眺める。服からはみ出している四肢は屈強な魔物のそれだ。


 あのワーウルフには俺が恐ろしい怪物に見えたのかもしれない。


「ラルフさん、武器を構えてください」


 突然カナリアの冷たく鋭い声が響いて俺は顔を上げた。

 なにごとかと辺りを見回して、戦慄(せんりつ)する。


 メキメキと音を立てて大木がへし折れ、その陰から巨大なイノシシが姿を現したのだ。


「ワイルドボアです。あれはかなり危険なので、協力して倒しましょう」


 そう言ってカナリアは走り出す。


 ワイルドボアは俺たちを視界に捉えると、猛々しい(いなな)きと共にこちらへ突進を開始した。

 1歩ごとに地面を(えぐ)りながら、瞬時に加速していく。


 人間の倍はあろうかという巨躯(きょく)が凄まじい速度で突っ込んでくる。

 あんなのにぶつかられたらひとたまりもないだろう。

 それなのに、カナリアは暴れイノシシに正面から向かって行った。


「カナリア!危ない!!」


 瞬きする間に両者は激しく衝突。足を地面に突き立てるように踏ん張ってカナリアは抵抗した。


 大地に足をめり込ませながらカナリアは一気に押し戻される。すると、信じられないことにワイルドボアの突進がピタリと止まった。


 ワイルドボアは尚も突き進もうとするがカナリアはそれを許さない。

 彼女はイノシシの湾曲(わんきょく)した牙を素手でしっかと握りしめ、全身を捻ってそのまま投げ飛ばしてしまった。


 ワイルドボアが背中から落下し、ズシンと大地を揺るがす。

 俺は口をぽかんと開けてその様子を眺めるしかできなかったが、カナリアの声で我に返った。


「今です、ラルフさん!!」


 地面に叩きつけられたワイルドボアは起き上がるのに手間取っている。絶好の追撃チャンスだ。


 俺は急いで横たわるイノシシの下に駆け寄り、両手の剣を上段に構えた。

 全力で振り下ろした刃がワイルドボアの体を切り裂く。


 しかし、思ったより手ごたえがない。見れば強靭な筋肉に阻まれて、刃先がこれ以上進まなくなっていた。なんて頑丈さだ。


 血が噴き出し、ワイルドボアがその場でのたうち回る。


「うわっ!!」


 どさくさで足蹴にされ、剣から手を離してしまう。地面へと投げ出されて腕を擦りむいたが、ここで隙を見せてはいけない。俺は即座に飛び起きる。


 ワイルドボアは胴体に刺さった剣をものともせず、立ち上がって再び突進の構えを取った。


 そうはさせるか!


 走り出す前に地を蹴って、ワイルドボアに肉薄する。

 俺は本能的に手刀の要領で、さっきつけた傷口に右手の爪を突き立てた。


 ワイルドボアが悲鳴のような鳴き声を上げる。だが、それでもまだ倒れない。


 右手を捻じ込みながら、俺は全体重をかけてワイルドボアの体にタックルをかます。

 ワイルドボアはよろめいてついに横倒しになった。


 そこにカナリアが駆けつけて、ワイルドボアの首を抑え込みにかかる。

 俺はワイルドボアの上に乗って刺さっていた剣を両手でつかみ、てこの原理で体の奥へと食い込ませる。


 血しぶきが噴水のように上がり、ようやくワイルドボアは動かなくなった。

 ちゃんと止めを刺してから俺は立ち上がり、返り血を拭う。


「お見事です。ほぼ1人でワイルドボアを倒せるのなら、この仕事はお任せして大丈夫そうですね」


 カナリアは手を叩いて、称賛の言葉をかけてくれた。


「いや、カナリアが突進を止めてくれたおかげだよ。1人じゃ厳しかった」


 彼女の怪力には正直たまげた、丸腰であの戦闘力なら確かに武器は不要だろうな。さすがはゴーレムと言ったところか。


「謙遜は不要です。ワイルドボアを押し倒すだけの膂力(りょりょく)があれば、この辺りの魔物は敵ではないでしょう」


「それはどうも」


 少し気恥ずかしくなりながらも、カナリアの言葉を受け取る。

 こうして想像以上の大物を携えて、俺たちは工房へと引き返した。

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