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こんなにも弱いとはな

リカルドとルミエーンが14歳ぐらいの頃

冒険者の学校にて戦闘訓練が盛んに行われていた、そんな時にいよいよ実践訓練が始まった

2人が通っていた学校の実践訓練とはカカシや組手などの安全なものではなく本当に魔物との戦闘を行うものであり、弱い魔物しかいない場所であったが気を抜いてはいけない訓練であった


2人は出会ったときから成長してクラスの集まりで実践訓練をすることになった

リカルドは大剣や短剣、槍や弓や斧などの様々な武器の扱いがメキメキと上達し、更には武術も上級生にも負けない強さになっていた

けれども友人関係は難があり不器用な性格が災いしてルミエーン以外に話す人はいなかった

ルミエーンは武器や防具の創作、魔物の解体、道具制作の腕がどんどんと上達をしていたがその才能は冒険者ではなく商人としての才能が上達しており、逆に戦闘能力はほとんど上がらず、回避する能力ぐらいしかなく周囲の教師からは転科を勧められたが頑なにルミエーンは変えるつもりはなかった、リカルドとは打って変わって同級生の友達は沢山いたけど、誰も戦闘能力に触れることは無かった


「気は決して抜くな!普通に戦えば死ぬことは無いから相手の動きをよく観察しろ!」


厳しい教師の声と共に生徒たちは散り散りに散策して行った、この場所は学校のある街の外

その場所は草原で見渡せば所々に魔物がいたがあまり強くない魔物が多い

リカルドとルミエーンは2人行動……をしたかったが、教師から「単独行動のみ」と言われており2人は渋々離れて行動しなければいけなくなった


「……はぁ、いきなり単独行動とかセンコーは何を考えてやがんだ」

「まぁまぁ、生徒たちのことを信用しているからじゃないの?」

「……ホントかよ、とにかくルミお前は無理をするなよ?」

「それはこっちのセリフだよリド、いつも…」

「あーハイハイ、前に出すぎているってことだろ?」

「その通り!だから気をつけてね」


そういうとルミエーンは早足で敵のいる所へ向かっていった


「……っち、さっさと終わらせるか」


そう言ってリカルドも実践訓練に向かっていくのであった


……

………



実践訓練の内容は、単独で魔物を3体倒すこと

討伐した証に魔物の体の一部を持って帰って教師に見せるまでが訓練であった


「……」


リカルドの周囲には現在も4体の魔物がいる

小柄の猿のような外見をしていて大きめの枝を手にしており囲んでいる

一方でリカルドは大型の剣を片手で構えており、鋭い目付きで周囲を見渡していた


「キシャアー!」


奇声とも言えるような声を上げながら魔物は大ぶりで枝を振り降ろそうとする


「ザコめ」


リカルドは横に身をかわす、それと同時に攻撃してきた魔物の背を剣で押す

すると魔物はリカルドを挟んで反対側にいた魔物の頭に振り下ろされる

脳天から叩き潰された魔物は動かなくなり仲間殺しをしたが、魔物は気にせずリカルドに向き直る


「少しは気にしろよ、仲間殺してんだろ?」


再び魔物は両手で振り降ろそうとする


「芸がないな、同じことの繰り返しは単調でつまらねぇよ!」


大剣を魔物の腹部に当てて両断する

剣に感じる抵抗は確かに感じたがリカルドは力技で思いっきり振りかぶると派手に魔物の血液が飛び散る

その様子を見た残りの2体は一瞬うろたえるが2体ともガムシャラに棒を振り回す


「動きがさらに単調になったな、ザコめ

こんなにも弱いとはな、こんな退屈な訓練は早く終わりにしてやろう」


大剣で2匹が持っていた枝を剣でたたき落とす、片方の魔物は腕ごと切り落とされたがリカルドはそれを気にせず魔物を回し蹴りで突き飛ばしたあと


「前にボコボコにしたいじめっ子の上級生より弱いぞ!」


倒れて重なった魔物の上から顔面を串刺しにしてトドメを刺した


「はぁ、こんなもんか

んで魔物の体の一部だっけか……メンドイな誰が代わりにやってくれたらいいんだけどな

どこ取ればいいんだこれ?どことは言ってなかったし適当にやればいいだろ」


そう言ってリカルドは雑に魔物の首を切り通して雑に頭髪を掴んで戻って行った


……


「なっ…リカルドそれは…」

「魔物3体これでいいんだろ?」

「あ…ああ、しかし何故4体分の頭が?」

「たまたま4体集まっているところを襲撃した、もっと狩ってくるか?」

「いや、もうここで待機していい」


リカルドは1番最初に帰ってきたらしく、他の人はいなかった、教師はリカルドの異常な早さに驚いていたが発していた威圧感にたじろいでいた

後々に他の生徒は続々と帰ってきたが誰もが多少ばかり怪我をおっており、尚更リカルドの「無傷で」帰ってきた様子は異様ではあった

普通であればどんな戦いをしたか?など他の生徒からの質問攻めなどがあったであろう、しかしリカルドは「話しかけるな」と言わんばかりのオーラを放っており、誰も話しかける人はいなかった


……実際のところはリカルドは


「あの魔物でこのぐらいの怪我を負うのか…ルミエーンは無事なのか?」


戦った魔物の強さと帰ってきた同級生の怪我の具合からルミエーンがどのぐらい戦えるかを真剣に考えていた

けれど


「……分からねぇ、アイツが戦える様子が思い浮かばねぇ…」


戦った様子を見たことある訳では無い、いつまでも一緒にいたからこそ戦えている様子を見たことがなかった


「そろそろ全員か!」


ある程度の時間が経ち実践練習の終わりがそろそろのころ、教師の号令を聞いた生徒たちは学校に戻る準備をしようとしたが


「先生!ルミエーンがいません」

「え?誰か見かけていないか?」


唯一ルミエーンのみ帰ってなかった、同級生たちがキョロキョロと見るがいなかった


「単独行動だったから見てない…」

「まさかルミエーンちゃん魔物に…」

「いやいや、流石にそこまではない……はず…」


生徒たちからも不安そうな声が上がっていき、時期にザワザワをしてくる


「静かに!みんなはここで待機して!今から俺が探しに…」

「センセー!リカルドもいません!」

「ハァ!?」


……


リカルドは無我夢中で走っていた、ルミエーンの場所なんて分からなかったが実践訓練が始まる時に行った方向へ全力疾走していた

最初に生徒が「ルミエーンがいない」と言った瞬間から既に探し始めていた


「……おい!どこにいる!返事をしてくれ!!」


呼びかける声に答える返事はなかった


「……っちぃ!一体どこだ!」


いくら呼びかけても声は帰らない、心には焦燥感が満ちてく


(私と友達と仲間になりませんか?)

「お前とはもう友達だ」


幻聴なのか少しの現実逃避なのか、ルミエーンと友達になった日のことを思い出す…


(もしかしてだけど、本当は守れる自信がないの?)

「…うるせえよ」

(魔王を倒すまでが最後!約束よ!)

「魔王ももちろんボコボコにするから」


聞こえないはずのルミエーンの声に応えていく…


(私は死なないから!)

「………お前が死なないとか関係ねぇ、お前がなんと言おうと関係ない、俺が……俺が守る、自信なんか関係ない…お前を………お前をっ!」


ふと、目の前を見ると異様に魔物が集まっている場所があった、今まで見た中でも物凄い数がいる

けれどその中心からは…


「リ……リカルド!!」


真ん中にはルミエーンがいた

ルミエーンの周囲には近くにある木で即席で作られたバリケードや丸太の罠などで倒されている魔物が何体かいたがそれでも周囲にいる魔物の方が圧倒的に多かった

バリケードからはミシミシと音が鳴っており壊れるのは時間の問題である


「ルミエーン!こいつらを今なんとかする!」


リカルドにとっては初めてみた数ではあったが、ルミエーンを救う気持ちが前に出ていたために迷わずに飛び込んで行った

誰かを呼びに行くような時間は無い、いやリカルドの脳内にそんな選択肢はなかった


「くっ…何だこの……数はぁ!」


誰かを救うために戦うのは何度もあったが、誰かを守るために戦うのは初めてであった

ルミエーンに触れさせないように、けれどこの大人数を相手にするのは戦闘能力の高いリカルドと言えど苦戦を強いられる結果になった



……


……………


「はぁ………はぁ…ぜぇ……」

「ごめん……ごめんなさい」


少しばかりの時間が経った、周囲にいた魔物は動かない骸となっていた。

リカルドは命に別状はないがかなりの怪我をおっており、ルミエーンは泥だらけで必死にリカルドの治療を行っていた


「ごめんなさい、ごめんな…グスッ……」

「………もう泣くな、アイツらは全員殺したからお前を襲う奴はいない、めっちゃ痛ぇけどこのぐらい…ぜぇ…かすり傷だ」

「そうじゃ……ないの……」

「…じゃあなんだ?」

「私……」


ルミエーンは治療の手が震えながら声を絞り出すように……


「こんな、こんな魔物も倒せなくて……」

「この数は仕方ねぇよ、俺だってかすり傷つくぐらいだから……」

「…こんなに…集まったのは……私のせいなの」

「…はぁ?」


息を切らしながらルミエーンの理由を聞いていく、未だにほかの同級生や教師の探している声などは聞こえておらず、周囲は風の音しか聞こえなかった


「最初、数匹だけだったんだけど……強くて、逃げてたんだけど…………どこに逃げればいいか……ひっく…分からなくなって逃げてたらこんな状態に………

身を守るので精一杯だった……」

「………」

「こんな弱い…私なんて……」

「んな事…

んな事言うなテメェ!!」


リカルドは急に大きな声で激しく叱る

急な大声にルミエーンは驚き身を強ばらせるがリカルドは()()()()()()()()()魔物を眼前に突き出しながら叫ぶ


「弱くなんてねぇよ!サボってばかりいるやつとは違って色々とやっているだろ!魔法や剣とか出来なくてもそうやって周りの木から壁とか作ってさ!

ほらコイツとか俺じゃなくてオマエが倒した魔物だろ!6匹もいるだろ!俺が倒したのは4匹だけだからお前は俺よりも全然強い!」

「でも…こんなに沢山…」

「こいつらは授業外だからノーカンだ!

オマエ…俺と友達になる時に言ったあの自信はどうした!

オマエは俺より強いのに自信はないのか!?」

「私は強い……こんな私は魔王を倒せるの?」

「倒せる!!!」


ルミエーンの問いかけにリカルドは即答で叫び、その声は周囲に響き、近くを探していた同級生たちに聞こえて救助されていくのだった……


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そして現在、魔王城にて……


「はぁっ!くらいやがれ!」


1つ目で大柄の魔物の前に並んだ3人は魔王城での戦闘を繰り広げていた、自身の4倍はあるほど本当に大きく普通の人であれば恐怖で体がすくみそうであるが、今まで何体もの魔物との戦闘を繰り広げてきた3人にとってはなんの恐怖も感じなかった


リカルドは2人に目配せをして合図をすると、まず大柄の魔物の足元に大剣の一撃を加える

魔物は痛みで叫び声をあげると足元にいるリカルドに拳を振り下ろしてくる


「させません!」


咄嗟にコルトは魔法壁を張って振り下ろしてきた拳を弾く、狙ったところから拳は逸れて違った方向に落ちる

思いがけないことに魔物は目を開いて驚いていると


「そこだー!」


ニルは火球を開かれた目に向けて放つ

普通の火よりも圧倒的に高温な炎が目に当たった魔物は、地獄のような痛みに大きく仰け反る


「ありがとう2人とも…くらいやがれ!」


大きく仰け反り後ろ向きに倒れている魔物を見たリカルドは股下から滑り込んで後頭部の位置に剣を立てて貫く

その一撃で脳と目を貫かれた魔物は生命活動を停止したのか、動かなくなった


「よし、倒したな……」

「次来るよー!」

「ああ!分かってる!」


魔物の血などの液体を浴びながら剣を抜き、次来る魔物に3人は備える


「本当に休む暇もありませんね?」

「ああ…待機させて正解だったな」

「寂しいけど本当にルミエーンを待機させててよかったね…体力が続かないよ…」

「ニル?疲れましたか?」

「いや、平気……えい!」


腕ぐらいの太さのある大きな蛇の魔物が這って大量に迫ってくる、ニルは地面に氷の刃を発生させると大量に貫いた

半数以上仕留めてはいたが、まだ這っている蛇はいた


「残りは任せろ」

「リーダーさん、痛くないようにこうします!」


コルトが唱えたのは一定時間、体の防御力を上げる魔法、氷の刃が少し触れたとしても蛇に噛まれたとしても怪我を抑えられる魔法であった


「ありがとう、よし残りをぶち殺してやる!」


大剣を背中にしまい、槍を取り出すと上から突き下ろしながら蛇を倒していく


「ニル!反対側からまた魔物が」

「コイツらは私たちが止めるぞ!」

「任せたぞ!」


1つ目の大きな魔物の後ろから今度はトカゲのような魔物が3体現れた、鎧や剣を持っており返り血まみれで見た限り戦闘力は高そうである


「さっきと逆の魔法を…はい!」


トカゲ3体にコルトが魔法をかけると、急に転倒し足をおさえながらのたうち回る、さっきとは逆の防御力が落ちる魔法を足にかけたのか歩くだけで足の骨が折れたようである


「サンキュー!動いていなければ楽勝よ!」


近くにあった大柄の魔物の死体を魔法で持ち上げると、トカゲ3体の頭上から落とした。大柄な体格に押しつぶされたら誰であってもひとたまりもなく、ドシンと乗せられると辺りは静かになった


「終わったよー!」

「終わりました!」

「こっちも、終わったぞ!」


声を掛け合いながら、互いに近づいていく

お互いの様子を見ると怪我こそは無いものの肩を上下に動かしながら3人とも息を切らしていた。リカルドに至っては前線で戦っていたからこそ魔物の返り血が大量に付着している


「はぁ……ここに来るまでに何体倒したっけ?」

「覚えてないです……はぁ…」

「ぜぇ…100まで数えてから忘れた」


魔王城に入ってから3時間ぐらいの時間ではあったがそれまでほとんど休み無しで3人は戦い続けていた

誰も彼もが疲れていたがあまり休んでいる暇はなかった


「待っていたらまた魔物がどこからともなく来る、歩けるなら早く進めるぞ」

「…」

「…」

「どうした?少し休むか?」

「1回休みたいな」

「…はい」

「ああ、無理は絶対するな」


リカルドは懐から魔物避けのクリスタルを周囲に撒くと、その中心に3人は座った


「あっ…僕が結界を」

「魔王戦まで温存しておけ、いくらお前か護る魔法が強くてもルミエーンから貰ったアクセサリーがあっても温存するに越したことはないだろ?」

「ありがとうございます」


地べたに座った3人はようやく水筒を1口飲んで一息を着く


「本当にさー色々と想定はしていたけどここまでずっと戦い続けるとはなー」

「ああ、今までの中で1番のレベルだな」

「……」

「コルト、どうしたの?」

「ああ、ニル…僕は昨日まで心配していたことがありましたが、今は安心したことがありまして」

「え?あー!それなら同じかも!」

「は?なんの事だ?この期に及んで秘密か?」

「いや〜大したことないことなんだけどさ、リーダーさ?ルミエーンに待機を命じてからどんどん調子が悪そうにしていて本当は心配だったんだよ」

「本当は声をかけたかったのですが、でもどう見てもルミエーンがいないからがわかっていたので話せませんでした……けれど、今日の朝になると元気になっていましたのでそれに安心しただけです」

「寝た時にさー?いい夢見たのー?」

「……」

「アレ?」


ニルは軽い気持ちでリカルドに聞いたが、どうやら図星だったようで少し気まずい空気になる


「いいかどうかは知らん、けれど昔のルミエーンの夢を見てなんか振り切れただけだ」

「……差し支え無ければ教えていただきたいのですが」

「あー…あれは俺らが14歳の頃だけど

………

っていうことがあったんだ

約束をはたせなかったけど、俺がくよくよしていて不甲斐なさすぎて何とかしなきゃと思っただけだ、こんな調子をルミエーンに見られたら怒られると思ってな」

「…」

「…」


獣人族の2人は1度顔を見合わせると再びリカルドの方を見た


「なんだか…少し懐かしさを感じました」

「俺達のことなのにか?」

「はい、僕が危険な契約書で自暴自棄になっていた時に、ルミエーンさんが僕に怒ったことありましたよね?」

「懐かしいな、ルミあれほどまでに会ったばかりの人に感情的になるなんでほとんどないからな」

「あの時の説得は昔の自分のことを重ねていたのでしょうか?」

「絶対に重ねていたよ…けれどね、ルミエーンは絶対に弱くない!強いよ!」

「ああそうだ!ルミは強いさ」

「もちろんですルミエーンさんは強いです」


3人で「強い!」と口を揃えて言っているとまた、魔物が遠くから歩いてきた


「来ました、リーダーさん!魔物避けのクリスタルはいくつありますか!」

「あと1回分だ、これは魔王戦前最後の休憩で使う予定だ」

「じゃあここから離れるよ!」


そう言いながら3人は荷物をまとめながら臨戦態勢に入る

魔物避けのクリスタルは外にいるような魔物は1晩持つほどなんの問題もないが、魔王城にいる魔物は誰もが強力であり数分ほどしか持たず、簡単に砕けた

3人は奥に進みながら戦いを続けていく


……

………


再び2時間ほど経過した後、階段を登り終わると少し広い踊り場に出た

魔王以外の魔物は全滅したのだろうか先程までの戦闘の激しさとは打って変わって踊り場は静寂に包まれていた

3人とも返り血まみれであり、肩で息をしていた。


「…はぁ、はぁ」

「はぁ……はぁ……」

「ぜぇ………ぜぇ………」


またも1口、今度は2種類のポーションを飲んで1回呼吸を整える


「ぜぇ……ごめんなさい2人とも、途中から自分のことで精一杯だった」

「いや、謝らなくていいよ…はぁ、私だって自分のことで精一杯だったし」

「はぁ……はぁ………僕もそうでしたが、謝るのはやめましょう、これから魔王との戦いですので」

「そうだね…湿っぽい空気はやめてさ…明らかに魔王のいそうな階段だし…あっ!」

「どうしましたかニル?」

「わっすれてた!何日も前にルミエーンから弁当を貰っていたじゃない!まだ食べてないでしょ!それって今どこに…」

「ここにあるぞ」


そう言ってリカルドは懐からッスと出した


「どっから出した!?」

「このバッグに入れていただけだぞ」

「それであの機動力ですか?凄いですね?」

「重さなんてない、それよりコルト?周囲に魔物の気配はあるか?」

「階段の下からはいませんね、上の階層には…凄まじい気配がしますが動く感じはありません…」

「じゃあここを上るまで魔王は来ないってところか

じゃあ!」


そう言って重箱を置く、念のための最後の魔物避けのクリスタルも撒いてご飯の準備は万端になった


「毎回思うけど、本当にピクニックみたいだね」


リカルドがフタを開けて並べていくと中身は全員の好みに合わせているような内容になっていた


「お…美味しそうです」

「本当にそうだね、今でも美味しそうな匂いがするし」

「……いつもより1番気合いが入っているじゃねぇかルミ」


ニルは肉が多めに、コルトは野菜が多めに、そしてリカルドの分はバランスがいいが量が多めに入っていた


「ん?なんか?ポーションの匂いもある?」

「もしかして、能力向上効果系のポーションでしょうか?」

「考えるのは後だ周囲に魔物がいなくても早めに食おうか、いただきます」

「神様、これからの戦いにご加護を…いただきます」

「いっただきまーす」


3人は1口食べる、ポーションがかかっているから少し味の警戒をしたがそんはなずはなく食べ物の味を崩さないように加えられていた


「うっ…うま!」

「美味しいです!」

「…ああ」


肉の方はニルにとってもリカルドにとっても好みの焼き加減で焼かれており、野菜もコルトの好きな葉野菜が多く詰められており、口の中に旨みが広がっていく


「…リーダー」

「どうした?」

「いつからルミエーンはご飯を作るようになったの?」

「あー…10歳の頃からだったな、サラサに弁当を渡す為にやっていたけど、そのついでで俺にも作っていたな」

「…後々、ついでが逆になっていったとか言いませんよね?」

「え?なんでわかったんだ?」

(あー、やっぱりサラサさんが空気を読んだ感じみたいですね)

「なんとなくです」

「それなら別にいい、ニルみたいにからかわなければそれでいいから」

「ちょっと!私がいつもからかっているみたいな言い方しないで!」

「いつもだろ!」

「まぁ、まぁ……しかし、この量は満腹ではなく腹八分目ですから食いすぎて魔王戦で動きにくくなることもありませんね」

「……」


リカルドは再び一呼吸すると……


「ギルドを出る前に、約束をしただろ?

ラストダンジョンが終わったらみんなで食いに行こうって」

「…そうだね」

「…はい」

「またルミエーンの飯が食えるその時が来るように魔王とは今まで以上の全力で戦うぞ」

「もちろんです」

「当然だよ!

でもさ?からかいとかじゃなくて真面目にさ、リカルドはルミエーンと一緒に2人っきりで食べてもいいんじゃないの?」

「真面目でそれを言っているのか?」

「僕も大真面目に賛成ですね」

「…はぁその間2人はどうするんだ?」

「そりゃ、私達も2人っきりで食べるに決まっているでしょ、ね?コルト?」

「はい、2人っきり同士で食べるのも素敵な提案です!」

「……なぁ、今ここで聞くことじゃねぇのはわかっているけど」

「なんですか?なんでも聞いていいですよ」

「オマエ達はどんなキッカケで付き合ったんだ?ふと気になってんだ」


その質問を聞いた獣人族の2人は赤面する


「なに今更顔を赤くしてんだよ?散々俺らのことをいじってたくせに」

「申し訳ございません」

「わりぃ」

「…とりあえず謝るのはいいからキッカケを教えてくれ、俺からしてたら4人パーティになって3年ぐらいしばらく経ったらいきなり『僕たち付き合うことになりました』って正直驚いたぞ」


2人は頭を掻きながら、口を開いで話し始める


「つってもなーそんなにもドラマティックな内容じゃないし」

「リーダーさんとルミエーンさんとの出会いに比べたらそんなに話すことないぐらいなのですが」

「いいから話せ、謙遜するぐらいなら勿体ぶらなくてもいいだろ」

「じゃあ僕から軽く話します」

「えーと…任せた!」

「僕がパーティに仲間に入った時、1番会話していたのはニルでした」

「獣人同士仲良くって言っていたよな」

「うん、故郷の街以外で獣人のお友達初めてだったからねー」

「パーティに入ってから、慣れてきた頃

ニルにパーティに入ったキッカケのことを話しました」

「色々と知りたくてね、教会とかそういうの知らなかったから何があったのかな?って」

「はい、なので僕もニルからキッカケを聞きました」

「うん、それ以外には私はあの街の昔の様子とお父さんとお母さんのこと、そしてリカルドとルミエーンに助けられた時、あとは復興のためにどんな手伝いをしたかをね?」

「僕はキッカケ以外には教会での思い出や両親のこと、リカルドさんのおかげでどれぐらい強くなったかやルミエーンさんのおかげで子供たちが教会のことを積極的に手伝うようになったこと…」

「そうやって話している時は本当に話がよく盛り上がっていったのよ」

「はい……しばらくそうやって話しているうちに……」


少し言いよどみ、ツノをかきながら……


「ニルに……恋愛感情が湧きました、皆さんのことをよく見ている面倒見の良さにいつも明るい性格…」

「照れちゃうな…」

「思い立ったが吉日という言葉があります、なので僕はすぐに告白したした」

「んで、成功したのか?」

「すぐに『はい』と返事したのよ……私もね、コルトと話しているうちに、優しくて落ち着いていて…そして皆を護る姿勢に密かに思いを寄せていたのよ……告白しようとしたらコルトから来て、嬉しくて嬉しくて泣いちゃうほどだったなー」


お互いを褒めながら、またもや2人の世界を作っていた。少し肌寒い魔王城内ではあったがここだけ少し暖かい気がした…


「……はぁ」

「すまんリーダー!」

「申し訳ございません!」

「いや、そういう訳じゃない

この話もルミエーンに聞かせないとな…って」

「別に良くない?」

「そうですよ、そんなに大きい事じゃないですから」

「よくねーよ、もしかするとルミエーンも今頃知りたがっているかもしれねぇじゃねえか?」

「……でしたら、帰ったあとの約束のひとつに決めましょうか」

「え?何を?」

「決まっています、先程の僕たちの馴れ初めをルミエーンさんに聞かせます」

「またフラグになっちゃうね、でも魔王を倒してへし折ってやるんだから」

「そうだな…」


そう言ってちょうど全員弁当を食べ終わった

全員「ごちそうさま」と一言…ご飯を食べる前に感じていた全身の疲労感はとっくに無くなり

むしろ、全身や魔力にかなりの力が増す

掛かっていた能力上昇ポーションの効果か、ルミエーンの思いを受け取ってか、もしくはその両方か?


3人は1度、ルミエーンから貰ったアクセサリーを見る


「『水平線の灯火』ルミエーンさんから貰ったこのアクセサリーのおかげで皆さんの治療や補助の手助けになりました」

「『魔心の湧出』ルミエーンから貰ったこれのおかげですっごく魔法を使いやすかったよ、威力を増したしな」

「『龍星の要』ルミエーンから貰ったこいつおかげで俺の全身から力が湧き上がったな、攻撃力が増して奴らを蹴散らすのもラクになったしな」

「ありがとうございます、ルミエーンさん」

「ありがとう!ルミエーン!」

「……ありがとう、お前の気持ちと共に魔王と戦いに行くよルミエーン」


決意をしたニルとコルトにリカルドは向き合う


「これから魔王と戦う、魔王の強さは正直分からないがそれでも必ず勝利する、けれど勝利よりも最も大切なことがある」


その話を聞いた2人は1つ息を飲む


「死ぬな!それだけだ

誰1人として欠けるなんて絶対にありえないからな!」

「はい!」

「もちろんよ!」


決意を決めた3人は、階段を駆け上って行った…

次回最終回です

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