「足を引っ張らないように努力していました」
ギルドでのひと騒ぎの後、あれからしばらく仕事が続いた
忙しい時間帯である夕方の時間も終わり、時刻も夜
ギルドの営業時間は終了となり「お疲れ様でした」と店じまいも完了した
ルミエーンとサラサはギルドから出て街を歩いていた
「そういえばギルドは営業時間がありましたね」
「そうッス、いつもアナタらは夕方時間前に着ていたッスね?」
「はい、忙しい時間帯に被らないようにという理由と3人を待たせないようにしていました」
「本当に仲間思いッスね
冒険者パーティって営業時間みたいのはあるッスか?」
「営業時間……そういった物は考えてなかったような…
決まった時間はなくて、依頼を達成したらギルドに報告、3食を食べて夜は寝て朝起きる時間通りの規則正しい生活をしていたかな?」
「その場合だと色々と持ち物とか時間とかを管理する人が欲しくなるッスね、戦うことで色々と忙しそうッスし」
「それは私が色々とやっていました」
そう話していると2人は寮にたどり着く
サラサ達が働いているギルドには役員専用の寮があり役員たちはそこに住んでいる、個室付きで風呂用のタライもあり下手な格安宿よりも結構快適なところでもある
同室に複数人で過ごしている人が多いがサラサは1人で過ごしていた
「部屋に入って落ち着いてからその話はしましょう?」
「おう!楽しみにしているッス、姉妹水入らずってやつッスね!」
ルミエーンもこの時だけはギルドの役員なので歓迎を軽く受けた
2人して「こんばんは」と言いながら軽い案内を受けて2人ともサラサが普段寝泊まりしている部屋に入る
「ようこそ!ここがアタシの部屋っす!」
そう言って部屋を見たが、かなりちらかっていた
ルミエーンからしてみたら「本当に人が住むところなの?」と疑問になるほどのレベルであった
「あの姉さん…片付けは…?」
「いやー意外とこういった部屋が住みやすいって思ったッスし…」
「寝る場所ってありますか?」
「あーそういえば布団はしばらく見たことなかったッス、でも意外とこのゴミ上フカフカっすよ?」
「ゴミの上で寝たくありません!そんな不清潔なうえに体が休められないようなガサガサしているところなんて嫌です!」
「じょ…冗談ッスよ」
「それになんでゴミをすぐに捨てないの!?」
「い…いや〜ちょっとゴミを置いていくの面倒臭いから後でまとめて…って思ってたら面倒くさくなるほど溜まっちゃって」
「それは散らかす人がよく言う言い訳です!
だったら私が片付けます!確かに今日いきなり役員として働きましたから部屋の準備はしていないのは分かるけど…それでもこの部屋は衛生上良くないですよ!もしかして同居人とかいなくて1人で住んでいるのってこれが理由なんですか!」
そうルミエーンが言うとサラサは口笛を吹きながらあさっての方向を見ていた
どう見ても図星である
「もー!こういうのは溜まるから面倒くさくなるの!私も少しの間、ここに住みますから全部片付けさせて!そのかわりもう散らかさないで!」
「わー!わかったッス!わかったッスから落ち着いてッス!」
そういってルミエーンはテキパキと片付け始めた
仕事でお疲れのはずではあったが体は俊敏に動く、麻袋をいくつか用意してゴミの種類を分けていく、それらを分けたあとに袋をひとりで全部持って…
「姉さん、ゴミってどこかに集めてますか?」
「えーと…確か入口の方に固めていたッスからそこへ…」
「分かりました!」
そう言って部屋を出て入口へ向かっていった
綺麗になった部屋の中でサラサは小声で
「こんなパートナーなら安心ッスね」
としみじみ感じていたのだった
「さて、こんなに優れた妹ならこれからはアタシも掃除を毎日頑張るッス!それにアレの準備もしておくッス」
…なお、この決意を2日後に忘れて部屋を散らかしてしまい、またルミエーンに怒られるのは別の話
少し待っている内にルミエーンは再び部屋に戻って来た
「…ただいま、汗かいちゃった」
「沢山持って歩いたッスから仕方ないッス、そう思って風呂の準備をしておいたッス」
「えっ?!」
そう言ってサラサは部屋内の横の扉を開くとそこには脱衣所があった、少し湯気が出ており暖かく風呂は既にできている
ルミエーンは「ここは綺麗なんだね」と言いかけたが飲み込んだ
「ほらっさっさと脱ぐっス」
そう言ったサラサは来ていた服を乱雑に脱ぎ、床に投げ捨てて下着の姿になる
「ちょ!ちょちょっと!」
「ん?恥ずかしいッスか?大丈夫ッス!私たちしかいないッスしそれにパーティに女の子がいたッスから慣れているはずッスが…?」
「二ルのこと?確かに一緒にお風呂に入ったことがあるから恥ずかしくは無いけど…いやそれより!さっき片付けたから雑に床に置かないで!私はそれを言ってるの!」
「あっ!悪いッス!」
そそくさと下着姿でサラサは投げ捨てた服を片付けた。
脱衣所に入った2人は服や下着を脱ぎ、一糸まとわぬ姿になりながらカゴに集めていく
ルミエーンは裸のままで洗濯板と小さなタライを使って洗うと、手早く干していく
「今度の時に洗濯の方法、教えるよ?魔術だと服が破れるかもしれないから手洗いでしっかりとやろうね?」
「う…うーッス」
サラサは内心面倒くささを思いながらも風呂場に向かっていく
浴槽の代わりとなるタライが置かれておりルミエーンがごみ捨て中にサラサが水の魔術と火の魔術を使っていたので暖かなお湯で満たれていた
「お湯加減はどうッスか?」
「うん、とても暖かいよ、ありがとう姉さん」
「いやーそれにしても久しぶりに一緒にお風呂ッスね?体も成長していてアタシは嬉しいッス!」
「そういえば…最後に一緒に入ったのっていつだっけ?」
「そうッスね、学校に入学してからは入ってないッス、華奢なのに健康的で正しく『冒険者』って感じがするッス!」
サラサがあえて強調して言った「冒険者」という言葉を聞いたルミエーンは心が温まる感覚がした
パーティメンバーから仕方がない理由でギルドに待機し今は「商人」として働いていたけど
それでも「冒険者」として扱う姉の姿勢にとても嬉しく感じるのであった
「…ありがとう、姉さん」
「おっとどうしたっすか?照れて?今更裸が恥ずかしくなったっすか?」
「そうじゃないけど…ところで姉さんは結構体がしっかりしているね?特に腕周りに筋肉ができているし」
「あーこれはアレっすよ!あの変なやつが来た時に言ったやつッス」
「無礼な人が来ても抵抗できるように…だよね?」
「そうッス!
…さて、背中を流し合いっこするっスか!パーティでどんなことをやっていたかを聞きながらッス!」
「そうだね…とは言っても何から話せばいいかな?」
背中の洗いっこをしながら2人は会話を続ける
「風呂の方とかどうだったんッスか?」
「私は魔術を使えないのでリドと一緒に旅をしている時は風呂屋のような公衆浴場に行ってました、もちろん男湯女湯別のところでですよ?」
「風呂屋の中には混浴できるところもあるッスが事故も多いと聞いたッスしアタシも怖いッス」
「二ルが仲間になったあとは風呂場のある宿で湯を満たしていたんだけど…うーん」
ルミエーンは少し困ったような表情をする、背中を洗っているからサラサは表情を見ることは出来ないがそれでも困った感じは伝わった
「どうしたッスか?」
「ちょっと…熱すぎたり、逆にぬるかったりしたかな?リドは熱い方が好きだったけど」
「え?男女で時間を分けてたッスよね?」
「もちろんだよ?コルトが仲間になってからは快適でした。風呂の入れ方は今の姉さんぐらいとても上手でしたし」
「上手いって言われて嬉しいッス!じゃあ今度は他に何をやっていたか聞きたいッス」
「そうですね…やったことが多すぎてどれから話せばいいのかな…?
リドとニルが主に戦闘担当していて、治癒とサポートと交渉関係はコルトが担当してましたから…それ以外ですね」
「な…なんか想像つかないぐらい多そうッスね?」
背中の洗いっこが終わり軽くお湯で流した後、2人は浴槽に浸かる
暖かなお湯が全身を包み、安心感が全身に満ちた2人は仕事の疲れもあって眠りに落ち……
「あっ…ぶないッス、お風呂で寝たら溺れちゃうッス」
「そっ…そうだね、眠らないようにお話を続けよ?」
「そうするッス、とりあえず思い浮かぶことを全部話して欲しいッス」
「そうですね?まずは雑用をやってました。あとは皆が扱う武器や防具の手入れを空き時間にやったり薬などの備品の数の確認もして、皆が倒した後の魔物の解体をおこなって、食事の無い宿では皆に栄養満点なご飯を作って提供したり、馬と馬車さえあれば操縦して談笑しながら目的地に向かったり、遠征のために船を扱う時も私1人では難しいので皆と協力して船で外国に渡った時は楽しかったな…
って思い出話になっちゃった、あとは…」
「待て待て待て待つッス!多くないっすか!」
「うーん…でも戦闘は全然できないから足を引っ張らないように努力していました」
「むしろ手を貸してみんなを引っ張っているッスよ!」
「あっ…ありがとう姉さん…」
「だってッスよ!今朝のやり取りを見ただけでも3人からすごく信頼されている様子がわかったッス!一緒に行けないことを共に悲しんだり慰めたり!終わったあとの約束とかしていたッスよね!今頃3人はアナタに会いたくて会いたくて思いにふけているッス!」
「……っ!!」
そういうとルミエーンは赤面しながら片手の手のひらを前にさしだした
「どうしたッスか?のぼせたッスか」
「わかってて言っているでしょ…」
「ン〜?何がッスか?」
「はっ…恥ずかしいからそんなに褒めないでください!」
「アッハッハッハ!」
風呂場にはサラサの大笑いが響いた、2人は知らないが実際に3人ともルミエーンに会いたがっている、物思いにふけているかどうかは微妙ではあるが、残してきたことを少し後悔してはいるが、それでも3人は前を向いている
サラサのからかいにルミエーンはバタバタしながらもひとつ思い出したことがあった
「ハァ…はぁ……なんだか、ニルとコルトの2人が仲間になる前のことを思い出したよ…」
「ハッハッハッ……ふいー…思い出したことッスか?」
「うん、リドは一応魔法は使えるけど主に扱うのは物理攻撃で、そのサポートをしていたよ?
高かったけど魔法が詰まった薬品瓶を投げたりして援護を…
ちょっと今バタバタしていたから、あの時のバタバタしていた時のことを思い出した…それだけなんだけど」
それを聞いていたサラサはひとつ思いついたことがあった
「…ああ、そういうことッスか」
「え?姉さん何に納得したの?」
「最強パーティの理由ッス」
「り…理由?」
「ギルドマスターが話していたことッス、なんでも出来る人は世の中にはいないッス、けれど不足している所を支え合いながら協力出来るパーティが最強って言っていたッス
2人の時点で苦手なことを補い合っていて、4人になったら死角無しになるほど支えあってて…
それが最強の理由ッスね!?」
「そうですかね?」
「何謙遜しているッスか!誇っていいんッスよ!」
「謙遜はしてないです、皆さんとても強くて…ニルもコルトも、そしてリドも誰もが最大限の力を出せるように私は私のできることをしました。
本当は最強とか意識している訳では無いのですよ?」
そう話しているルミエーンの表情は楽しかった日々を思い出すかのように、嬉しそうだがどこか遠くを見ているような顔をしていた
「それに、最強パーティと呼ばれるきっかけはもっと明確なものがあります」
「明確なものッスか?」
「それは獣人族の2人、それぞれニルとコルトが仲間になった時の話だけど…」
話そうとしたルミエーンは少し考える素振りをした後
「ちょっと、これ以上お風呂に入るとのぼせそうなのでそろそろ出る?」
「あーそういえば喉がかわいってきたッスし出るッス!」
そう言いながら2人とも風呂を出た
サラサが底にあった栓を抜くとお湯が抜けていき床からお湯が抜けていった
「そういえばここのお湯は排水路に行くのですか?」
「そうッス、この寮の裏から流れていくッス」
脱衣所で用意していた寝巻きに着替える、仕事の時に着ていた服は動きやすそうな服であったが、寝巻きはゆったりとした服になっており、動きづらいが体を休めるのにはちょうどいい服である
「その服はいつも泊まる時に着ている服っすか?」
「何組かあるけど…そのうちの1つだよ」
2人はゆったりと着替えたあと居間に移動すると、大きな唸り声が…
「えっ!?魔物の声!?」
「あー悪いッス、いっつも仕事後のひとっ風呂のあとは腹が減るッス」
「今のがおなかの音!?でも私もお腹すいたからご飯の準備を…」
「いや、この部屋に招待したのは実質アタシッスよ!今作るから待つッス!」
そう言ってサラサは奥の方に行った
「あっ、お願いします」
とお願いをしていたがルミエーンは1つ疑問を感じたていた
(おかしいな?さっき掃除をした時に調理用具は見当たらなかったし、お昼の時もあまり調理の必要性がないサンドイッチだけ…一体何を作るんだろ?)
「よしできたッス」
「え?!早い!?」
「よーしこれがアタシの得意料理ッス!」
そうやって用意したのは
どっかのお店で買ったと思われる塩漬けの干し肉、バターがちょっと多めに塗られたパン、雑に切られた野菜をただ盛り合わせただけのサラダが置かれた
「……」
「どうっすか!」
(りょ…料理?干し肉やパンってそもそも携帯食として食べるものだからこんな晩御飯に食べるのは物足りないと思うしそれになんだか塩分が非常に多いような…
それにサラダ?の野菜がただ適当に切って乗せているだけ、あんなに大きなのは本当に食べにくそうなのに塩と油があんなにも片寄ってかけられて…
はっ…!そういえば姉さんは味が濃くてしょっぱいのが好きだったんだ!)
「い、いただきます…」
「おや?てっきり何か言われると思ったッスが?気を使わなくていいッスよ?」
「いえ、姉さんなりに頑張って作ったのは分かりますので文句はありません、ただ…」
「ただ?」
「今度一緒に料理のお勉強をしましょう」
「うっ!?うーッス…」
「教える自身はありますよ?ニルに料理を教えたことが何回もありますし」
またもめんどくさいと内心思いながらも2人の晩御飯は始まっていくのでした
「いただきます」
「いただきまッス」
風呂シーンがありましたがお色気シーンは書く予定ありません、いや書けません!