19話
1.一年生筆頭、矢坂蓮
翌日。イツメンの梓、楓に加え同居することになった花子と共に学校へ。
手続きやら何やらのため花子とは途中で分かれ三人で教室に向かったのだが……。
「な、何だよ……」
教室に入った瞬間、既に登校していたクラスメイトが一斉に蓮を見つめた。
悪口雑言、暴力の類なら鼻で笑って蹴散らすがそうじゃないので蓮はキョドった。
見れば梓と楓は含み笑いを浮かべている。どういうことだと問い質すよりも早く、
「ちゃす筆頭!!」
「ちーっす、筆頭!」
「おはざーっす筆頭!」
「おろろざーっす筆頭!」
「っしゃーせー!!」
「おい、何で一人ラーメン屋入った?」
というのはさておきだ。筆頭? 何それ?
困惑顔の蓮に数人のクラスメイトが近寄って来て……。
「あ、ちょ」
「まあまあまあ」
「何だよいきなり!?」
「まあまあまあ」
拳が先っちょについた杖を渡されお前が筆頭、と書かれた襷をかけられ金色の折り紙でコーティングされた手作り王冠を頭に載せられる。
そしてそのまま席に連行される蓮。完全に成すがままだった。
「威厳パネェ」
「威厳も糞もあるかよ。ただの悪ふざけの産物じゃねえか。何だこの杖? 王権ならぬ王拳ってか? 馬鹿!!」
「まー、おふざけはここまでにして矢坂さんが居ない間に色々決まったんだよ」
「おふざけにしては手が込みすぎてるが……色々って?」
ペン回しの要領で杖をクルクル回転させながら蓮が問うと、
「いや何か乙女塾には学年の代表を一人立てるみたいな決まりがあるみたいでさ」
「クラス委員的な?」
「それとは別。ちな委員長は中村さん」
「ピッタリじゃねえか」
生真面目お嬢様キャラとかもう委員長とか生徒会長になるために生まれたと言っても過言ではなかろう。
「じゃ筆頭って何よ?」
「学生としての面より変身ヒロインの卵である私らの代表? みたいな感じだって」
「なるほど。で、何で私よ?」
《そりゃあんた……ねえ?》
クラスメイト達がハモった。
「居ないでしょ、矢坂さん以外に」
「ヒロイン力はともかくヒーロー力は折り紙つきだし」
「暴の化身じゃん」
「三年死ぬほど努力しても勝てる気がしない」
「戦うために生まれた女」
「たった一人で最終決戦に向かいそう」
「大軍と相対する姿が世界一似合う女」
「酷すぎね?」
「悪鬼羅刹を殴って殺す」
「蓮がやらなきゃ誰がやる」
「知らねーよ。誰かにやらせとけや」
ともあれ決まってしまった以上はしょうがない。
これが本気で嫌なことなら蓮もあらゆる手段を使っただろうが、そこまでではない。
蓮は溜息と共に現状を受け入れた。
「あ、それと筆頭。美化委員も兼任ですよ」
「筆頭美化委員もやんの? 筆頭街のゴミ拾いとかしちゃうの?」
「しちゃうしちゃう。まあ筆頭は別に委員会枠じゃないんで兼任ってのはちょっと違う気もするけど」
美化委員。人気のない委員会の一つだろう。
委員会決めに居なかった者が押し付けられるのは自然の摂理だ。
「あ、それと蓮」
「あんだよ梓。まだ何かあんのか?」
「ええ。あなた、二年生三年生の筆頭と戦うらしいわよ」
「何で!? 脈絡なさ過ぎない!?」
「いや何か乙女塾の伝統だとか」
「ンでそんな野蛮な伝統があんだよ……」
「いやほら、言うてあたしちゃんら変身ヒロインの卵だし」
「便利な言い訳だよなそれ」
可愛がり、というか上級生の……自分達よりも早く戦場に向かう先輩達の力を肌で感じろということだろう。
全員でやるのは時間がかかり過ぎるので代表として一年生の筆頭が受けて立ち、他の者はそれをしっかり見届ける。
「ちなみに今日の午後よ」
「急過ぎない?」
「ホントは決まったその日にやる予定だったみたいだけどね~ほら、れんれん居なかったじゃん」
「ちゃんとした事情があっての欠席なのにお構いなしかよ。厳し過ぎるわ」
「あ、そうだ。この一週間、何してたんです?」
「まー、ちっと本土でな。色々あったんだわ。こまけぇこたぁ……もうちょっと待ってりゃ分かると思うからよ」
駄弁りながら時間を潰し、HR。
田中先生がやって来たのだが、
「……先生、何かお酒の臭いするんですけど」
「いやー、すいません。ちょっと他の先生方と朝まで盛り上がっちゃって」
酒の臭いを漂わせたまま教壇に立つとか教育者にあるまじき醜態である。
普通の高校なら問題になるだろうが乙女塾なら問題はない。
生徒だけでなく教師も色々と融通が利く立場だからだ。
これぐらいのやんちゃなら許される。まあ、仕事に支障をきたすのなら塾長から教育的指導が入るのだが。
「おぉ、矢坂さんお久しぶりですね~。元気してましたー?」
「っす。まあぼちぼちやってました」
「結構結構。あ、そうだ。矢坂さんが欠席してる間に色々決まったことがありましてぇ」
「筆頭と委員会のことっすか? そこらはもう聞いたんで大丈夫です」
「そうですか。じゃあまあ、お昼からは先輩二人と二連戦ですので心と身体の準備をしておいてくださいな」
それから幾つかの連絡事項を知らせた後、田中先生は本題に入った。
「さて。突然ですが今日は皆さんに新しいお友達を紹介したいと思います」
「新しいお友達て……保育園児かいな」
「ってか転校生? ここにもあるんだ、そういうの」
「そりゃあるっしょ。だって転校生とか立派な属性だもん」
「はいはい、先生の話を聞いてくださいね~?」
パンパンと手を叩いて皆を大人しくさせ、先生は続ける。
「新しいお友達はちょ~っと変わった経歴の方ですが悪い人……いや悪い人ではありましたが今はそうでもないんで仲良くしてあげてください」
《事前情報からしてもう何か不穏……》
「はーい、それじゃどうぞ~」
促され、花子が教室に入って来る。
昨日の言葉もあってか、偽装はしていない。そう、キッツイ制服姿のままだ。
「明らかに宇宙船地球号の乗員じゃない感じが……」
「青肌金目ってもう、如何にもな敵じゃん」
「どっかで見た覚えあるんだけど」
「ってかキツッ! 制服キツッ!! 朝からインモラルな空気半端ネェ!!」
「でもめちゃ美人。出来る女オーラがひしひしと伝わって来るわ」
「はいはい、それじゃ自己紹介をお願いしま~す」
小さく頷き、花子はチョークを黒板に走らせた。
さらっと書いたようにしか見えないが、かなり整っている。
「山田花子だ」
《その見た目で!?》
「毎回似たような反応が来るが名前と見た目は関係ない……いや、この国には名は体を表すという諺があるのだったか?」
では山田花子に相応しい外見とは?
考え込み始めた花子だが、田中先生にちょいちょいと肩をつつかれ我に返り咳払いを一つ。
「既に察しはついているだろうが私はこの世界の人間ではない。
現在進行形でこの地球に攻め入っている勢力の一つから亡命して来た者だ」
元敵、その言葉で何人かの生徒が気付く。
「中村さんの記憶の中に居たあのイケメンだ……」
「え、女だったのかお前!? を敵がやるの?」
「いやでも亡命ってことはもう味方なんでしょ? 味方になる敵キャラがやるんなら良いんでない?」
「だとしても普通はそういうロマンス始まりそうなイベントは男キャラとの絡みででしょ」
「相手は矢さ……」
言いかけてはっ、と気付く。
《矢坂さんかぁ》
「何そのリアクション? 喧嘩売られてる?」
《滅相もございやせん》
「……何だかなぁ」
その様子を見てクスリと笑った花子はこう答える。
「察しの通り、私は彼女に恋をして寝返った。色々捨て去る結果になったが特段、思うところはない」
「……生まれた国、生まれた世界を捨て去るってかなり重いよね」
「普通はかなり葛藤しそうなもんだけど……」
「見なよあの澄んだ瞳。言葉通り、どうとも思ってないよあれ」
「たまげたなぁ」
クラスメイト達は驚きはしているものの、ネガティブな反応をしている者は皆無だった。
生来の寛容さに加えて過ごした日々は短いながらも蓮への信頼があるからだろう。
「こちらに来て日も浅く、常識などについてはまだまだ疎いところもある。
日常生活で無知ゆえ迷惑をかけるかもしれないがよしなに頼むよ……先生、こんなもので良いかな?」
「ええ、素敵な自己紹介ありがとうございます。皆さん、はい拍手~」
パチパチと拍手が起こり、花子は少しむず痒そうに苦笑した。
「さて、このまま授業始めても良いんですが折角ですしね。
一時間目は皆さんと山田さんの仲を深めるための時間にしちゃいましょう」
山田さんさえ良ければ質問タイムとか始めちゃって良いですか~? と田中先生が花子に確認を取る。
「私は別に構わないが事前に決めてあるカリキュラムを無視して大丈夫なのかな?」
「大丈夫大丈夫。どーせここに居る子の大半はもっかい高校生活送るでしょうしね~」
変身ヒロインとは大概、ティーンで学校生活にスポットが当たることも多い。
そう、ここに居る面子の殆どは高校卒業後に高校入学が決定付けられているのだ。
まあ事によっては中学、小学校の可能性もあるのだが……。
「そう言えばそうか。ちなみにその場合、学歴はどうなるのかね? 乙女塾か? それとも物語の中で通う高校?」
「当人の希望によりますかね。何なら超有名校の卒業生って経歴にすることも可能ですよ~」
「あぁ、命を賭して戦うのだからそれぐらいの融通は利くのか」
「ええ。就職先だろうが各種資格だろうがどうとでもでっち上げてくれますよ」
ただ資格の場合は資格を与えた後で、能力が身につくよう講義を受けることになっている。
そりゃそうだ。専門的な資格だけを所持していても能力が伴っていないのなら仕事など任せられない。
ただ普通に資格を取るよりかはよっぽど良いだろう。何せ取得は確定でその後に勉強するだけなのだから。
「田中先生はどうしたのかな?」
「私は変身ヒロインとして通ってたとこを卒業した後、そこそこの大学の教育学科を卒業し教免を取得したことになってます」
実際は物語を終えた後は大学に通わず教育免許を付与され、その後職業訓練を受け乙女塾の教師になったのだと言う。
「そういや先生って何で先生になろうと思ったんですー?」
「それは……って何で先生への質問タイムになってるんですか。山田さんに聞きましょうよ。異世界人ですよ異世界人」
ぺしぺしと教卓を叩き、先生は軌道修正を行った。
「はいじゃあ、質問のある人挙手! 先生が指名しますよ~」
すると半分以上、手が上がった。
「それじゃー……はい、榊原さん」
「前職は何をしていらっしゃったので?」
「面接か」
「軍人をやっていたね。直近の職務は尻で椅子を温める仕事かな?」
「え、まさかの社内ニート?」
「否定は出来ないかな」
それで良いのかと思う蓮だったが、
(……そういやコイツ、よくよく考えたら)
別派閥からの監査役として派遣されたと聞いたが話しぶりからして冷遇されていたことが窺える。
その上で初めて出会った時のことを思い返す。
花子は一言も仕事や任務という言葉を使っていなかった。
つまるところあの検証は花子の完全な独断。好奇心を優先させた行動だったのだろう。
(コイツ、真面目そうに見えるだけなんだな……)
そう結論付けた。
「こっちに来て好きになった食べ物とかある? あったら今度一緒に食べ行こうよ」
「そうだな……昨日、梓達が買って来てくれたコンビニスイーツは良かったね。安価で入手手段も容易なのに素晴らしいクオリティだ」
「じゃ、今度皆でスイーツパーティしよっか!」
「楽しみにしているよ」
質問に答える花子を見ていて蓮は思った。ボッチのわりに人当たり良いなコイツ、と。
恋をしたから変わったのだろうか?
「彼氏とか居た?」
「居ないね。居た経験もない。そもそも色事には関心がなかったんだ」
「え、じゃあ矢坂さんが初恋?」
「そうなるかな」
「矢坂さんのどこに惚れたの?」
「彼女の命が放つ凄絶なまでの熱にあてられたから、かな」
「ポエマー……」
そんなやり取りを眺めながら蓮は小さく笑みを浮かべる。
(うん、これなら上手くやってけそうだな)




