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9話

1.おたくらどんな関係?


「や、やや矢坂さん!?」


 自分達のところに吹っ飛んで来た蓮を見て悲鳴を上げる翔子。


「……問題ねえ!!」


 素早く体勢を整え、立ち上がった蓮が心配無用と笑う。

 が、その目は今しがた自分を吹き飛ばした謎の虫歯菌に向けられたままだ。


「直接ではなく部下を介しての干渉。にも関わらずこれほどの消耗と弱体を強いられるのか」


 一方、謎の虫歯菌だがこちらは蓮達のことなど完全に眼中にないらしい。

 手をグーパーさせながら独り言を漏らしている。


「十分の一も力が出せない。世界の理を利用した“ルールの強制”とはこれほどか。

しかもあちら側のルール違反……と言うほどではないか。ちょっとしたズルに便乗する形だというのに。

ルールを破れば破るほどにペナルティは嵩み最終的には取り返しのつかないことになりそうだな。

足し引きによる調整でルールを作ったのだろうが見事なものだ」


 ぺたぺたと自身の身体を触る謎の虫歯菌。

 隙だらけ……のように見えるが蓮は八江と対峙した時と同じ感覚を味わっていた。

 一瞬で殺される、というほどではないがそれでも手痛い反撃を喰らうのは間違いないと。


「こんなやり方を考案し、実行した……名無しの十賢者(ネームレス・テン)だったか? 傑物としか言いようがないな。

世界の理を改変するほどの力を持つなら自らが守護者にと考えても不思議ではないだろうに。

そうはせずより確実でより安定性のあるやり方で目先のそれではなく未来の可能性を守らんと我が身を投げ打つその誠心。敬意に値するよ」


 今は、動くべきではない。見に徹するべきだと蓮は判断した。

 死ぬ時は死ぬ。そして死ぬなら前のめりに。

 そう考えてはいるが、別段自殺志願者ではないのだ。

 戦端が開かれるとしても待つだけ待ってどうにもならなくなってからで良い。


「裏道は悪手だな。“茶番劇”に付き合うのが最善……とは言え、部下の嘆きも分かる。

まさか良い歳をした大人がこんな……こんな格好をさせられるとは……。

嫁や子供に合わせる顔がないと泣いていた気持ちも分からんでもない」


 そこで謎の虫歯菌はようやっと、蓮達に視線を向けた。

 顕著だったのは翔子だ。その視線に射抜かれただけで動けなくなった。


「英雄の卵、か。君らのような者が生まれるのも世界がこのような形に変わったからだな。

とは言えかつての世界の形を知る者が居ないのであれば特別、気にすることでもないのだろう。

水が低きから高きに流れるのが当たり前になってしまえばそれは最早、異常ではなく正常なのだから」


 違う、そうじゃないと謎の虫歯菌はフルフルと首を横に振った。

 イケボで難解なことをくっちゃべっているが、やはり見た目は重要だと蓮は痛感した。

 雑なゆるキャラみたいなビジュアルを相手に緊張感を持続させるのは事の外、難しいのだ。


「すまないな。どうにも私は落ち着きがない。ついつい横道に逸れて伝えるべき言葉を後回しにしてしまう」

「……良いんじゃねえの? それも個性さ」


 懸念事項は多々ある。

 だがそれらは考えても仕方の無いこと。例を挙げるなら期待している救援だ。

 突入した時点で異常が始まっているのであればそこそこの時間が経過している。

 にも関わらず田中先生、ないしは彼女よりも上位の実力者が未だ現れない。

 侵入は困難を極めているか、酷ければ異常に気付いていない可能性もある。

 であれば今はあれこれ考えることに意味はない。流れに身を任せるべきだとザックリ切り替え会話に乗った。

 黙って独り言を聞き続けるというのはこれで中々、苦行なのだ。


「君は寛容だな。うん。強者の正しい在り方だ」

「強者云々は関係なくねえ? 力だけはあるが死ぬほど小物臭え奴だって世の中には居るかもじゃん」


 無数に連なる異世界は当然として単一宇宙ですら人類は把握し切れていないのだ。

 中には神の如き力を持つ小物だって居ても不思議ではないだろう。


「そういうケースがなくもない」

「だろ?」

「だがその手の輩は大概、足元を掬われて負けるのが定めだ」

「む、それは」


 お約束のパティーンだと蓮は頷く。


「子供らが好む物語ならば、それは主人公達の絆や戦いに懸ける想いが手繰り寄せた奇跡と称するのかもしれない」

「おお、良いよな。愛と勇気の物語だ」


 蓮は1%の可能性を勇気で無理矢理引き寄せるとか、そういう展開が大好きだった。


「創作として楽しむのならそれも良かろうさ。だがこれは現実の話。

現実で大物喰らいを達成してのけるケースで考えるなら喰われる側の慢心でしかないだろう。

慢心によって生まれた敗北の可能性を喰らう側が己の持てる性能を最大限に発揮して掴み取っただけ。

負けるべくして負けたのだ。自ら敗北を招くような輩を強者と呼べるかね? 少なくとも私はそうは思わんよ」


 強者ではなく大きな力を十全に御せていないただの馬鹿だと謎の虫歯菌は切り捨てた。


「寛容と慢心は違う。寛容とは広く可能性を受容すること。

そして受け容れられるということはそれだけ状況に対して的確な行動を取り易いということでもある。

不測の事態が起きたとしても迷いなく適切に当たれる者ならば圧倒的格差がある相手に足元を掬われるというようなこともない」


「なるほどねえ」


 ほへー、と感心したように頷く。

 正誤はどうでも良い。そういう考え方をしてるんだなー程度にしか蓮は思っていない。

 小難しい話は話半分にという機能が蓮の中で出来上がってしまっているのだ。


「ちなみに君は強者とはどのようなものだと考える?」

「え? ンなの考えたことねえし……」

「フィーリングで構わないさ」

「そう、だなぁ。あんたからすれば馬鹿な話だとは思うが」


 まあ別に良いかと蓮は自分の思う強者の定義を語る。


「心でそうと決めたのなら、それがどれだけ不合理で世の中の常識や損得と折り合わなくても貫ける奴……かな?」


 そういう人間は強いんじゃねえかなという蓮の言葉を受け、謎の虫歯菌はなるほどと頷く。

 それがあまりにも意外なリアクションだったから蓮もキョトンとしてしまう。


「てっきり否定されるもんだと思ってたわ」

「? 逆に聞くが何故、否定されると? 私からすれば馬鹿な話だとも言っていたが何故そう思ったのかな?」

「何故って、今の質問もそうだけどあんたって理系っぽいじゃん? 喋り方も理屈っぽいしさぁ」

「私が理系かどうかはさておくとして……あれかね。合理性を好む傾向にあると判断したからそう思ったということで良いのかな?」

「ああうん、そんな感じ」

「なるほど。では答えよう」


 ちなみにこの会話を横で聞いている二人。

 麗華は良い時間稼ぎだと静観の構え。

 翔子も時間稼ぎになるのは分かっているが下手に会話を続けて機嫌を損ねるかもと不安げだ。


「確かに私は合理性を好む。が、君自身が言ったことだろう」

「?」

「個性さ。私が合理主義なのも個性なら感情のままに生きることを是とする君のそれもまた個性だ」

「……あぁ」

「誤解しているようなので明言しておくが私は何も感情を否定するつもりはないよ」


 今更の話だが、これは中々にシュールな光景だろう。

 デフォルメされた虫歯菌みたいなのと人間が至極真面目な会話を交わしているのは……何とも言えないおかしさがある。


「これが機械の話なら理に沿わない動きをしたのなら言い訳のしようもない欠陥だ。

しかし知的生命体ならば話は違う。知性と感情は不可分なのだから。

合理性という意味では野山に居る獣の方が余程、人間よりも優れているだろう。

獣に感情がないとは言わないがそれでも人間よりは本能というプログラムに限りなく忠実に生きているのだからね」


 今更ながらに蓮は思った。

 互いに名前も知らないのにこんだけ長々とくっちゃべってるのは妙な感じだなと。


「合理性を至上と置くのならば知性は不純物だ。合理を阻むのが感情ならそれを肥大化させるのは知性なのだから。

それを御するために理性があると言えばまあその通りだが無駄を排するなら最初から感情など必要ない。

ならば知性を有したまま感情を排除する? そういう技術も私達の世界になくはない。この世界はどうかな?」


「え? いやぁー……わかんないっす」


 突然話を振らないで欲しい。蓮は切実に思った。


「そうか。話を戻そう。高度な知的生命体の感情を排除しても合理には近付けない。むしろ不合理だ。

感情を排したがゆえに効率化するものもあるだろう。例えばそう、非人道的な行いなどがそうだね。

だが所詮は一面的なもの。総合的に見れば感情があった方がパフォーマンスを発揮出来る。

知性を十全に活かすのは感情だ。ゆえに私は知性と感情は不可分なのだと考えている」


 結局のところ完璧には届かないのだ。

 限りなく完璧に近付けることしか出来ないのだと謎の虫歯菌は言う。


「私は合理性を好む。そう、好きだからそうしているだけ。

決して私という生命体の本能にパッケージされているからそうしているわけではないのだ。

では好きの源泉は? 感情だろう。感情でそうと決めた生き方をしているのにそれを否定するなど、これほど馬鹿な話はない」


「なるほど……何かごめんな。偏見の目で見ちゃって」

「構わないとも。相互理解に会話は必要不可欠だ。言葉を交わし徐々に徐々に理解を深めていけば良い」


 これが侵略者との会話か?


「更に理解を深めてもらうため自己申告させてもらうとだ」

「うん」

「私とて合理性の優先順位を下げて感情のままに振舞うこともある」

「へえ、具体的には?」

「好奇心。知りたいという欲求に屈することもある。今の私が良い例だ」


 合理的に考えるならこんな風にルール違反を犯してまで検証なんてしないと肩? を竦める。


「嫌いなものを前にした時もそうだ」


 指折り数えながら謎の虫歯菌は嫌いなものを口にしていく。


「身の程を弁えない者。蟲。不味い菓子。私の嫌いなものの一部だ。それらを前にすれば感情を優先させることもある」

「ほーん」

「特に一番最後は最悪だ」


 苦い顔? をする謎の虫歯菌。


「どう考えても淘汰されるべきクオリティにも関わらず歴史の長さゆえしつこく居座るその姿勢は醜いと言わざるを得ない」


 私怨を感じる……。


「いや歴史というものを軽視しているわけではないのだ。食文化に限らず歴史の蓄積によって今が成立しているのだからな。

問題は、だ。ならばそれ相応の立ち位置に居るべきだろうということだよ。デカイ顔をされてどこにでも出しゃばるのは如何なものか。

常用しても問題ないクオリティならばそれも良かろうさ。が、私が知る限りあれを美味だと好んで食している者は多くない。

マイノリティだ。にも関わらずさも伝統のあるお菓子ですが何か? ヅラで出されるのだから不愉快以外の何ものでもない」


 吐き捨てるような言葉。よほど嫌な思い出があるらしい。

 好奇心を擽られた蓮はそのことについて言及してみることに。


「やけに具体的だが何かあったの?」

「……士官学校の食事にね。毎回毎回、ついて来たんだ」

「無視すりゃ問題なくね?」

「軍人の卵が好き嫌いをするのは駄目だよ。戦場であれは嫌いだから食べたくないなどと言う軍人は軍人失格さ」

「あぁ、じゃあそういう目的で……」

「いや違う。校長はマイノリティ側の男でな」

「つまり、布教?」

「簡潔に言うと」

「うへぇ」


 話している内に色々と思い出したのだろう。

 更に怨み節が続きそうだったので、蓮は話題を変えることにした。


「そういや、かーなーり話がずれちまったけど結局、あんたは最初何を私らに伝えたかったんだ?」

「うん? ああ、そう言えば忘れていたな」


 失礼、と咳払いをし謎の虫歯菌は言う。


「そちらにその気がないのならこちらも君らに手を出すつもりはないから安心したまえと言いたかったのだ」


 たったそれだけのことを伝えるのにここまで回り道することってある?

 と思わなくもなかったが蓮はグッと飲み込んだ。


「そりゃありがてえこって。一応、理由を聞かせてもらっても?」

「構わないとも」


 ぴっ、と指を立てる謎の虫歯菌。


「君らをここで殺す理由がない。だって君たちは“我々の物語”とは無関係だろう?

何せ我々のチャンスは一度きり。一度の侵略で始まる物語の中でカタをつけねば再度の侵略は不可能になる。

まあ上手い具合に“ウケ”てしまえば続編や劇場版という形で二度目のチャンスが巡って来る可能性もあるようだが、こちらもな。

二度目ともなれば新たなルールも追加されよう。そして一度負けたのならこちらにとって不利なルールが追加されるのは目に見えている。

地球という惑星は惜しくはあるが、厄介なルールを背負わされた上で二度目を狙うかと言えばそうでもない。我々の敵は君らだけではないのだから」


 つまりはリソースを無駄に消費したくないということだろう。


「勿論、再度の可能性もゼロではない。そしてその際、君らが新キャラという形で参戦する可能性も。

そういう意味で未来の敵になり得るかもしれない君らを殺すというのもありと言えばありなのだろう。

が、ここで私が君らを殺すことで負うリスクも無視出来ない。今やっている茶番劇の中で新たな“設定”が追加されるというリスクだ。

私が悪役として登板した際、物語を盛り上げるために“仇”ということにされ主人公側の力に補正がかかるなど笑えん。

有象無象の雑魚として処理される立場の者が殺したならともかく、私はどう考えても幹部とかそういう立ち位置になるだろうからな」


 謎の虫歯菌の敵である変身ヒロイン達と蓮達に関わりはない。

 精々が乙女塾のOBと後輩、その程度のもの。

 だが設定の追加に実際の縁の有無などは関係ないのだ。


「そのリスクを負ってまで殺す価値のあるとすれば……それは君ぐらいだろう」


 謎の虫歯菌は蓮を指差す。


「他二人は有象無象。現段階では塵芥だし将来的にも脅威になるとは思えん。

わざわざリスクを負ってまで殺し、あるかどうかも分からない二度目に備える必要性は皆無だ」


 その発言を受け麗華は、


「――――」


 言葉を失い俯く。

 それに気付かぬまま蓮は胸を撫で下ろす。少なくとも麗華と翔子に命の危険はないのだなと。


「私は価値がなくもないんだろ?」

「そうだね。だが言っただろう? 私とて感情で物事を判断することもあると。端的にね、君のことは嫌いじゃないんだ」


 折角だ。君の名前を教えてくれないか?

 謎の虫歯菌がそう言おうとした正にその時だ。


「――――どいつも、こいつも……!!」


 若さが、爆ぜた。

惑星規模の領域展開(永続)みたいなもんで

侵略者の方々は悪意を以って地球に干渉した時点で型に嵌められ

「私の頭にゴミのような情報を流すんじゃなぁい!!」って感じでルールを頭に叩き込まれます。


型に嵌められるの例を具体的に挙げるならこんな感じ。

既婚子持ちの生真面目な妙齢の美人女侵略者が居たとして

物語のジャンルがエロもありなら性格や背景などは一切考慮されず

悪の女幹部として配役されエッチな衣装を着させられた挙句、ダメージを受けるとエッチな感じに服が破けたりします。

何なら特に戦闘してない時でも強制お色気イベントに巻き込まれたりするかも。

それだけでも散々ですが創作として事情を知らず画面の向こうで楽しんでるパンピー(♂)のオカズになったり

薄い本を描かれてあんなことやこんなことをさせられたりと尊厳破壊染みたことが起こる可能性も……。

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― 新着の感想 ―
[一言] ただただ性格が悪い……佐藤さんもしかして、ネームレス・テンの1人……?
[良い点] そんなに嫌ぁ?って思ったけど、かびるんるんのコスプレしてデフォルメされた君が全国区の日アサで流れるから。息子も見るよとかされたらそれは嫌だわ。事情を分かってくれる相手に愚痴の一つも零れるわ…
[良い点] ショッカーの戦闘員コスをこれからしてもらいますって、40子持ちで言われたらぜってぇ嫌だしそこまでしてほしい土地でもなさそうなのが酷い(誉め言葉)
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