魔王城、最大のミッション!
「カオス小隊よ。数々の武勲を上げた貴様らに、ついに最大の栄誉が下ったぞ。別棟にて休養中の魔王様を、貴様らがお迎えに上がるのだ」
「おおおおお!」
俺達は歓声を上げた。勇者達を相手に八面六臂の活躍をし、多くの敵を蹴散らしてきたカオス小隊。そんな俺達の実力が、ついに魔王様の右腕たるテオリード様に認められたのだ。
魔王城に勤務して八年。やっと、魔王様にお目通りが叶うところまでこぎつけたのである。これほどまでに名誉なことはない。
「これで、俺達も魔王様の直属部隊に格上げってことじゃね!?」
「うんうん!」
「ありがとうございます、テオリオード様!」
「ていうか魔王様ってどんな方なんですか!?」
わいのわいの、屈強な魔物たちから声が上がる。魔王軍の指揮は、すべて右腕のテオリード様が中心になって行ってきた。よって、魔王様本人のご尊顔を賜ったことは一度もないのである。
どれほど恐ろしく姿、あるいは美しい姿の魔物なのだろう。自分達のトップに立つ存在なのだから、自分達の誰よりも強い力を持っているに違いない。
「あー……魔王様は、我らの誰よりも凄まじいパワーを持っているお方だ。だからこそ、ご機嫌を損ねないよう最大の配慮をせねばならん」
長い髪、鋭い角、紫の肌を持つテオリードは、何故か明後日の方を見て俺達に言ったのだった。
「以前、お迎えに上がったダーク小隊の者達魔王様のお怒りに触れ、消し炭になってしまった。お前達はそのような失礼のないようにな」
「は、はい!」
あのダーク小隊が壊滅するほどの魔力とは。
俺は恐れおののき、同じだけ高揚したのだ。武人の性とも言えよう。
強い者と相対することは、いつだって心躍るのである。
***
そう、思っていたのだが。
「オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
「お、お前ら逃げろおおお!氷魔法来るぞおおお!」
「ひいいいいいいい!?」
慌てて扉の影に隠れる俺。逃げ遅れて仲間の数人が、凄まじい吹雪を浴びて氷漬けになる。
聴いてない。
まさか魔王様が、超巨大な赤ん坊だなんて聴いてない。
言葉も通じないし、泣きだすと手当たり次第魔法をぶっ放すなんてそんな話全く聴いてない!!!
「こ、これじゃあ、本棟にお連れするどころじゃねえええっ!」
部隊長の俺は頭を抱えた。なんでテオリード様が別棟に来た途端、そそくさと逃げたのか。
なんで俺達がお迎えの任を任されたのか。
なんてことはない、魔王様の魔法を浴びても即死しなさそうな頑丈そうな魔物が選ばれた、それだけのことだったのである。
ああ、そういえば俺が勤務する数年前に魔王様って代替わりしたって噂を聴いていたけど!魔王族の寿命はめっちゃ長いから成長も遅いとは知っていたけれど!!
「だ、誰か!皆様の中に子育て経験のある魔物はいらっしゃいませんかあああああ!?」
独身ぼっちに、赤ちゃんの気持ちなどわかるはずもない。
俺は半泣きになりながら叫んだのだった。
***
某日、某所。
ギルドの求人募集を見ていた一人の勇者は、ぽかーんと口を開けて固まったのだった。
「……何があったの、魔王城?」
急募、保育士。
勤務地、魔王城。
経験者優遇。育児経験豊富で、魔法耐性の強い方大歓迎。赤ちゃんに好かれる方を募集します。
月給、基本給だけで四十五万ギル確約。
それはもう、掲示板いっぱいに貼られたポスターには、魔王城の必死さがこれでもかと浮彫になっていたのだった。