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お互いのことをよく知らなくても好きにはなれる

朝はいつも憂鬱だ。俺、獅子神煌月(シシガミコウガ)は夜型の人間であり、朝目を覚ますことに気だるさを感じている。


休みの日ならいつも昼まで寝ている俺からしたら朝起きることがもはや理解できない。


そんな俺が夜何をしているかというと、自宅学習。というのもなくはないが、一番ハマっているのはゲーム配信だ。配信を見る側ではなく、する側にハマった。といっても、人気のある配信者ではなく同接5人前後のマイナー配信者だ。


だが、俺はこれでいいと思っている。コメントを読みながらゲームをプレイし、雑談もする。これが楽しくてどハマりした。だから宣伝活動をしようとは思わないし、いつも来てくれる常連がいるだけで俺は満足していた。



そんな充実した日常を満喫していた高校二年の春。俺の高校の体育祭は五月の中旬にあり、クラス替えの後の独特の空気感の中行いクラスの結束を高める。


という一面を持ってはいるがそれは応援やダンスに力を入れている人達の話であって俺のようなクラスの日陰者は嫌々参加している行事だ。

そんな体育祭で俺は押し付けられたクラス委員長という役職のせいでダンスをクラスに教える役割を与えられた。


放課後嫌々ながら参加しダンスを覚えてHRの時に先輩と各学年の同連合のクラスに教えて回っていた。嫌々でもやらなきゃいけないのならしっかりと役目を果たすのが俺の信条だから懸命に覚えていたのだが…。


ひとつ上の3年生のクラスに行く時がイヤだった。なぜなら、姉の翠が同連合だったからだ。気まずさと場違い感がすごくて、終わった後は逃げるように帰っていた。



体育祭が終わり、先輩達との縁も切れた。感想としてはまあまあいい思い出にはなった。

体育祭の後はいつも通り日陰者になり、クラスで話す相手は一人だけの生活。これが一番落ち着く。


そんな平穏な日々は長く続かなかった。体育祭の翌週の水曜日。同連合だったクラスの先輩が俺を呼んでいると昼休みに廊下に呼ばれたのだ。


相手は揺籃陽(ユリカゴハル)、高校一の美女として応援団でもないのに連合で目立っていた人だ。ダンスは問題なくできていたから接点もないはずなんだけどな。


訳も分からないまま先輩の元に向かった。

先輩の周りには付かず離れずの距離で男女問わず立っており壁になっていた。それをかきわけ進んで先輩と顔を合わせるととても可愛らしい笑顔を向けてくれた。あまりの照れ臭さで俯いてしまった。が、先輩は俺の目の前まで来て手を取った。


「え、え…?」


「煌月くん。だよね。翠の弟の」


キレイな茶髪から覗く赤みがかった瞳に見つめられドキッとした。


俺ってこんなにチョロいんだ。


「は、はい。獅子神煌月です」


「あのね、本当は体育祭の頃から話したかったんだけどいつも機嫌悪そうだったから終わってからにしたらって翠に勧められたんだ」


「そ、そうなんですか。どういった用件です?」


「あのね、この神月って煌月くんだよね」


「なぁっ!?」

神月というのは俺がゲーム配信をする時に使っているハンドルネームだった。配信サイトの画面を見せられて勘違いではない事が証明されていた。


「さ、さあ…別人じゃないですかね」


「ううん。今こうして話して確信した。煌月くんが神月くんだよ。どうして嘘つくの?」


なんでこの人は確信してるんだ。どこにも証拠なんてないのに。でも、確信してくれているならこれ以上しらばっくれても意味ないな。


「だって、恥ずかしいじゃないですか。翠にバラしたって事ですよね…」


「ううん。まだ話してないよ。確認してからじゃないと煌月くんに迷惑かかるかもだし」


「それは助かります。それで、どうして揺籃先輩が知ってるんですか」


「それはねっ!」


またスマホを操作して、先輩のマイページを見せられた。それはいつも配信に来てくれる常連HARUのマイページだった。


「こういうことだよ!あのね、私リアルでも仲良くなりたいなって。それで呼んだの」


「そうなんですね。光栄ですけど、俺と仲良くしてたら先輩に迷惑がかかるでしょうしお断りします」


「迷惑って?なに?」


「その…色々です」


「私から誘ってるのに私が断らなきゃいけないの?」


「う…、考え直してもいいって事です。俺は日陰者なんです」


「考え直しません。煌月くんが選んで」


「では、お言葉に甘えて仲良くさせていただきます」


「やった!ありがとう!じゃあじゃあ今日の放課後予定ないなら一緒に帰らない?」


予定か、バイトも途中になってる問題集もないしフリーだな。


「分かりました、でも、家の方向とか違うんじゃないですかね」


「翠の家と同じだもん知ってるよ。私の家もあの通りなんだよ」


「まさかのご近所さん」


「うん。あっ、私まだお昼食べてないから放課後に迎えに来るから待っててね。じゃあまた後でー」


ささっと先輩は行ってしまった。お腹すいてたのかな。授業受けてるとお腹空くし正常な反応か。さて、俺も飯の途中だったし、教室に戻るか。


振り返った俺は何十もの目が向けられている事に気がついた。すごく不快な感覚だ。内容は違うけどいつもと同じ目だ。好奇の眼差し。やめてくれよそんな目で見ないでくれ。


「煌月まだかよ。待ちくたびれた」


「あ、あぁ…」


ありがとう唯一の友よ。たまたまだろうけど助かった。一度にこの目に集中攻撃されると動けなくなる。この目に晒され続けて5年以上経つけど慣れることなんてなかった。




放課後になり約束通り先輩が迎えに来てくれた。他に誰もおらず一人だ。


「煌月くん。お待たせ」


「は、はいっ」


「えへへ、緊張するよね。あのね、帰りにケーキ屋さん寄ってもいいかな」


「いいですよ。じゃあ、行きましょうか。案内お願いします」


揺籃先輩は甘い物が好きらしく、これから行くケーキ屋さんには週二で通うくらいハマっているとの事だ。俺も甘いのは好きだしなんら問題ない。

それにしても、ケーキ屋さんとか親について行くくらいしてか行くことないしちょっと楽しみかも。


先輩に案内されたケーキ屋さんは通学路にある傍から見ても高級感のある高そうなイメージのケーキ屋さんだった。自分の分も買おうかと思ってたけど値段見て身の程を知りたくない。


…かと思っていたが店内も高級感はあったが店員さんは爽やかな若い女性店員さんでアルバイトっぽい雰囲気があった。店内に陳列してある商品を軽く見ても手に取りにくい値段の物はなく完全に見た目で勘違いしていた。


「先輩のお勧めってありますか」


「んー、色々あるけど、まずは煌月くんにもっと気になって欲しいな。食べたいのあったら一つ奢るよ」


「ありがとうございます。でも、大丈夫です。俺の方から奢ったっていいくらいです」


ケーキを眺める揺籃先輩は子どもみたいにそわそわしていてそんな姿も可愛かった。


何回も来てるのにいつもこんな反応してるって可愛すぎだろ。


先輩に言われた通りにケーキを見ようと思っても美少女が隣にいるとケーキよりもそっちに目を奪われてしまう。


「煌月くん気になるのあった?」


「え?」


やば、先輩に見惚れすぎてたどうしよ。適当に気になったやつあげるか。


「お、王道のショートケーキとかどうなのかなって思いました」


「ふふふー、ショートケーキ好き?」


「はい。チョコケーキよりショートケーキが良いです」


「そっかそっかー、私も。さっきおすすめ聞いてきたけど、私のおすすめはそのショートケーキだよ」


にこっと嬉しそうな笑顔を向けられると勘違いしそうだ。恋愛なんて縁遠いと思ってたのにチャンスあるって思ってしまう。俺と先輩とじゃ不釣り合いなのに。


「今日は記念日だし贅沢に二つ食べちゃおっかな〜」


「誕生日とかですか?」


「え?違うよ?リアルの煌月くんと仲良くなれた記念日」


「……ずる…」


反則だろ。これ以上は俺本当に勘違いしちゃうからドキドキさせないで欲しい。


「先輩がふたつ買うなら俺は家族の分も買っていきます」


「じゃあ煌月くんのお家で食べよっか!」


あ…ダメだわ。多分明日には告白してる。もう完全に落ちました。勝手に好きにならせてもらいました。


六個で3000円くらいだったし最初くらいは奢ろうと思っていたからまとめて俺が会計した。先輩は申し訳なさそうだったけど高校生のデートはこんなもんだよな。ってデートで合ってるよな?


「ただいま〜」

「お、お邪魔します」


先輩の声が聞こえたからかリビングからドタドタと音を鳴らしてお母さんが迎えてくれた。


「煌月!彼女!?」


「友達。先輩どうぞ入ってください」


「あ、うん。お邪魔します」


お母さんは半分シカトして先輩をリビングに招いた。お母さんは呆然としていたけど俺達がリビングに入った後に追うよう入ってきた。


「先輩、麦茶でいいですか?」


「あ、うん。ありがとう」


「煌月、どういう事よ、あんな綺麗なお友達がいるなんて」


「まあ、たまたまかな。ケーキ買ってきたから俺と先輩で食べるけどお母さんはどうする?」


「私は後でお父さん達と食べようかな」


「じゃあ、部屋に行く」


先輩を自室に招き入れるときょろきょろとしていた。


「あの、あんまり見られると恥ずかしいです。急だったんで掃除もしてないし」


自分でいうのもなんだが部屋はキレイな方だと思う。パソコンの配線周りがちょっとぐちゃぐちゃなだけで基本的にものが少ない。部屋にある本も大体が参考書でつまらない部屋だ。


「このパソコンで配信してるの?」


「はい。バイトして自分で買ったんです」


「えー!すごいね!私は何買えばいいかも分かんないや」


「調べたら色々と出てきました。これ使ってるっていうのをパソコン以外全部通販で購入しました。先輩も配信したいんですか?」


「ううん。私は煌月くんの配信が見れたら満足だよ。自分でもやろうとは思わない」


この先輩は本当にもう…。


「先輩」

「なに?」


やばい逃げ出したい。リアルであって一日で告白とかさすがにイヤかな。でも〜。う〜…。


「ケーキ、食べましょうか」


意気地無しの自分が嫌になる。女性に交際の申し出をするってこんなに大変なんだ。世のカップルすげぇ。


「うん、じゃあ私からもいい?」


「あ、はい。なんでしょう」


嫌われたかな。リアルの俺はキモいとか言われたら寝込んじゃうかも。


「口がケーキの味になる前にキスしてもいい?」


っっ!?!?!?!?

想定の斜め上のお願いをされた。え、先輩ってビッチなの。付き合ってない相手でもキスしたいそういう?まあ、清楚な人もやってるって言うしな。先輩とヤリたい気持ちはあるけどそれでも。


「俺は、恋人でもない人とキスするのは違うと思います」


「え、あれ?恋人じゃなかったの?」


いやいやいや!そんな話なかったよね!?なんで!?どうしてそうなった!


「だって仲良くしようとしか言ってないし…」


「異性で仲良くなるって恋人になるって事じゃないの?」


頭痛くなってきた。どんな教育を受けたらそんな思考になるんだ。共学の学校でよくその価値観揺らがなかったな。


「はぁ…さっき言おうとしたのは本当は付き合ってくださいって言おうと思ってたんです。本気で好きになっていいんですね?」


「いいよ。私は煌月くんの事大好きだもん」


目を閉じた先輩を自然と抱き寄せキスをした。


先輩の唇はその後に食べたケーキよりも何倍も甘かった。


こうして、俺と揺籃先輩の、恋人から始まる甘くてキラキラした物語が始まった。


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