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お礼に行こう6日目・朝。悲しみと真実。

昨晩は色々と調べていたら、殆ど眠れなかった。ベッドでグーグーと寝ているライドが恨めしい。隣の部屋へ投げ込んでしまいたいけれど、エロばかりで邪魔だし正直煩いから、私がこっそりスリープをかけて眠らせたの。だから完全なる八つ当たりよ。ごめんね。重ね掛けをしたので、私が起こさなければグッスリでしょう。


調べた結果論だけでみたら、私は元の世界に戻れるのよ。しかも飛ばされた時間の数分後によ。これは時空の概念を魔方陣に組み込み可能にしたみたい。この地下室の魔方陣は、もしまた不幸な召喚をされた人が現れたらと、姉と聖獣が長年研究を重ね、召喚専用だったものを手直したもの。姉と契約した聖獣は有る条件下にてのみ、時を止める魔法が使えた。この力を模索して魔方陣を手直し、自分たちの時をも止め見守り続けた。(正確には、完全には止まってはいない)


神殿が召喚を止め魔方陣が放置されたことを知った後、姉と聖獣は神殿に結界を張り隠り、帰還用魔方陣を完成させた。魔方陣に魔力を姉と聖獣で期間を掛け補填をし、魔方陣を見守るために、姉と契約した聖獣は共に眠りについた。その後一年に一度だけ起き出し、召喚の有無を確認。異常がなければ再度の眠りに付く……


放置後何事も異常はなく、約五十年の歳月が過ぎる。二人が眠り始めた頃は、起き出す度に聖獣と一緒に色々な国を巡っていた。フロックス国とストレチア国の境の村には良く訪ねていたみたい。しかしこの村はフロックスの領土らしいから、ここからだとかなりの距離よね?なのにかなりの期間をこの地で過ごしている。知り合いがいたのかかしら?


姉と共にいる聖獣は銀色の狼でレインと同じタイプ。成程。この神殿の結界も見事よね。きっとレインの様に瞬間移動が使え、その力で旅をしていた。しかしやがて聖獣は弱り始めてしまう。五年程前から一年に一度のみでも、起き出すのが辛くなっていた。姉も起きていられる時間がかなり短くなっていて、現在は長くても一週間程度しか持たない。


召喚が再度行われる気配も既になく、関係者も既に死亡している。もう見守らなくても大丈夫。そろそろ永遠の眠りにつき休みましょう。そう考えていた所に私たちが現れたのね。


姉がこの世界に召喚され、約百年の年月が経ていた。


***


私は朝少し早起きをして、朝ごはんを作り始めました。殆ど眠れなかったから、動いている方が楽チンよ。メニューは簡単にサンドイッチを作ります。具材はゆで卵とマヨネーズを和えたとものと、甘い炒り卵をやはりマヨネーズで和えたもの。


さらには野菜たっぷりポテトサラダのサンドに、コーンスープにフルーツのヨーグルト和え。コロッケパンが残ってるから、足りなければ出しましょう。このメニューは懐かしいわね。お姉ちゃんは喜んでくれるかしら?


テーブルにセッティングしていると、魔方陣の有るお部屋から人の気配がしてくる。お姉ちゃんが起きたみたい。ライドを起こし着替えをしてくる様に促す。


「リョウおはよう。なんだかとても懐かしいメニューね。私の好みを思い出してくれたの? 嬉しいわ」


「お姉ちゃんおはよう。炒り卵のサンドイッチが好きだったよね。かなり色々と思い出したの。でも思い出す程に許せなくなる。叔父さんはまた一人になったんのよね? 叔母さんが若い頃に召喚されたなら、結婚すらしていない事になってしまう……」


叔父さんは本当に優しくて力持ちな人で、寝てしまった私たちを従姉のお姉ちゃんと一緒に、良くベッドにまで運んでくれたの。私たちは家族の様に仲が良くて、良く皆で川の字になってお布団に転がっていたわ。叔父さんは施設育ちだから家族がいっぱい欲しいと言っていた。良く家族ぐるみでお泊まりしあっていたの。この国が許せない……


「私も恨んだわ。でももう仕方がないのよね。だからこそ私は全てを終わらせたいの。召喚に関わりあった人々は皆死に絶えた。この国の王族さえ既に覚えていないのよ。たった数代前の話なのにね。知らぬ者には罪はないかもしれない。しかし知って過去を顧みる必要は有る筈よ」


そうだよね。過去の過ちを知り悔い改めなければ、この国に聖獣たちとの未来はない。


「この国が聖獣と道を違えたのは、召喚の儀式を何度も強行し、魔力持ちを減らしたからなの。そして魔力を変質させ貶めたから。知らない事もやはり罪なのよ。ライドだったかしら?

朝食の後に詳しく話すわ。隠れていないで出てきなさいな」


あら?ライド?なぜコソコソとしているの?


「かっ隠れてた訳では……ベッドに運んでくれた懐かしさとは、叔父上の事だったのですね。私はまた要らぬ心配を……」


「ベッドに運んでくれた懐かしさ? なによそれ? 」


「寝言です! 気にしないでください! リョウおはよう。姉上もおはようございます」


ちょっ。ちょっと姉上ってなによ?ライドってば変よ!


「あら? では私は義弟(おとうと)と呼ばなくては駄目かしら? でも姉上はちょっとね。私はエティと呼んで貰える? 呼びすてで結構よ。ライドにリョウ、おはよう。朝ごはんを戴きましょう。リョウの手料理なんて嬉しいわ。おままごとの泥団子が懐かしいわね」


***


朝ごはんを食べながら、召喚されてからのエティの生活を聞きました。


エティは約百年前に召喚された。魔力を魔方陣に注ぎ込み、終了次第に麓の町に下りる予定だった。


ちなみに姉以降に召喚された他の人々も、殺されたりはしていない。既定以上の内包魔力持ちは聖女として神殿へ。それ以下でも高い内包魔力持ちの場合は、高魔力持ちの子を産ませる為にそのまま王の後宮へ。


既定以上の魔力持ちは祝詞により魔力線を無理やり解放することができたらしい。しかし規定以上の女性は召喚されなかった。


召喚された女性たちには召喚の魔方陣へ、枯渇するまで魔力と血を捧げさせる。神により魔力線を解放されていない異世界人は、魔力が枯渇しても再度取り込むことができない。結果魔力なしになってしまう為、終了後は麓の町で一般人に混じり暮らしていた。


エティは召喚され魔力を魔方陣に注ぎ混んでる最中に、たまたま訪れていた当時の王に乱暴され身籠ってしまう。妊娠が発覚した後監禁され、子を殺さぬ程度に魔力と血を抜かれ生かされていた。召喚されてから約一年後に男児を出産。子にはかなりの魔力が有った為、王に取り上げられてしまった。


子と離された後、エティは魔方陣に魔力が貯まり次第町へ下りる予定だった。しかし何故か後宮に入り子をどんどん孕めと強制される。エティは魔力を魔方陣に注いだ後も、なぜか魔力なしにはならなかった。徐々にでは有るが魔力が再生していたため、再生する度に魔力を抜かれながら、拘束されたまま後宮へ移動させられる。


魔力が再生しなければ魔力なしとして村に下り、王に強制されることはなかったのかもしれない。


しかし魔力が徐々にでも再生していたからこそ、のちに聖獣に出会うことができた。


後宮には入りたくない。しかし監禁され逃げられない。エティは次の召喚の仕度でゴタゴタしてる中、馬車にて強制的に王宮に連行される。しかしエティは道中の森の近くでトイレだと騙し逃走。死ぬつもりでのとうではあったけど、行倒れ中に運命の出会いを果たす。


聖獣がエティを助けてくれたのね。


その後エティは聖獣とともに旅をする。この世界を周り沢山の知り合いも出来た。しかし約十年後に、今だに聖女召喚が行われていると知り、様子を探りに戻る。そして驚愕な真実を知ってしまう。


自分が一番先に喚ばれ、自分の血液と魔力を媒体にした事による悲劇。麓の村には従姉と叔母が居た。ニ人は互いに親子だとは気づいていなく、エティ自身も信じられなかった。


なぜならば二人は同世代で若く、姉妹にしか見えなかったのだから。しかも叔母の方が年下。まるで過ぎし日の母子逆転の様相。つまり叔母は結婚すらしていない。二人が気づけるわけもない。


エティ調べ余りの事実に驚愕する。自身の血液と魔力を媒体に、従姉と父方の従妹が召喚されていた。更に従姉の媒体で叔母が召喚。(叔母は母の姉)父方の従妹の媒体で父方の親戚縁者が喚ばれ、その後も延々と続いていた。


それでは私たちの女性の親戚縁者は、もしかしたら殆ど喚ばれたのではないの?しかも後年は召喚が失敗に終わる事が増えてたとのこと。母の姉の叔母の媒体では男性が喚ばれ、魔力量は有るからと神官にされている。


エティはそのその神官を見て、更なる驚愕が襲われたそう。なんと彼はエティの息子。しかし息子はまだ十才にもならぬ筈なのに、その神官はとうにその年を越えていた。しかし聖獣も間違いがないと言う。聖獣は魔力の質で親子関係を知ることがでにる。


エティはしらべ確信する。この魔方陣には寿命が来ている。だから今回異世界からは喚べなかった。そして手近の時間軸をねじ曲げ、女性を限定する召喚式までも狂わせ、エティの息子を喚びだした。まるでそれを肯定するかの様に、以降は召喚は上手くいかなくなり、やがて神殿はすたれてしまった。


***


「暗い話でごめんなさいね。後は私の日記に書いて有った事が事実よ。召喚された息子は十五才だったの。召喚のショックの為か、記憶が曖昧で自身の事も良く覚えていなかった。しかも召喚と同時にこの世界からは、息子の存在が消されてたわ。だから私は名乗り出なかったのよ」


「エティはそれで良かったの? 」


「あの子の幸せの為には、私は必要ではなかったの。キツネの聖獣が付いたから余計にね」


「でも……」


「だって混乱させちゃうわぬ。私の見かけは召喚された時のままだったのよ。殆ど年の変わらない母親だなんて変よね? 流石に説明ができないわ」


「えっ? どうして? 年を取らないの? 」


「常に魔力を渇れるほど搾り取られ、さらには胎内の子にも分け与えていた。その為か自身の成長にまでは回らなかったみたい。魔力が再生し始めると再度搾り取られていたからね。聖獣に助けられて魔力線を繋いでから、多少は成長したわよ。でも二、三才分位かしらね? 後は時間を止めていたのよ。私は十三才で召喚されたの。リョウは幾つなの? 私よりお姉さんにみえるわね」


「私は十八才よ。高校の卒業式の後にこの世界に喚ばれたの。エティは中学にも行けななかったの……本当に酷い……許せない……お姉ちゃんはまだ子供だったのに……沢山の人たちの運命を玩ぶ権利なんて誰にもないわよ! 」


エティは怒らないでと私を宥めてくれる。しかしエティは私に告げる。


この神殿と魔方陣を道連れとし、この不幸の連鎖を必ず止めると。この羽を己たちの墓標とすると……


「リョウ。ライド。真実をこの国に伝えて。そして二度と同じ間違いを起こさぬ様に戒めて。私はもう後悔はないわ。神様とやらに会ったら、しっかりと文句を言わせて貰うわ。リョウ。最後に会えて本当に嬉しかった。幸せにね。ありがとう」


ライドが別れの為に気を利かせたのか、エティに別れを伝え部屋から出てゆく。


エティが召喚の間に向かい歩き出す。私は止めたいのに言葉にならない。お姉ちゃん!おねがいだから待って!力をふりしぼり言葉を紡ぐ。


「なっちゃん! エティはフランス旅行に行った叔母さんが名づけてくれたの? 私たちは真夏に産まれたけれど、まるで母体を労るかの様な涼しげな日に産まれたと聞いたわ。だから夏と涼と名を付けられた。私はなっちゃんと呼んでいたわ。お願いだから私をすずちゃんと呼んで! 最後まで偽の名で呼ばれるなんて嫌よ! 」


「すずちゃん……エティはフランス語を捩ったそうよ。叔母さんが教えてくれたわ。すずちゃ……ん……」


ドアに手をかけたエティの足が止まり崩れ落ちる。どうしたの?お腹を押さえているの?どこか悪いの?止めて!なっちゃんを連れていかないで!


「いやー! お姉ちゃん! どうしたの! こんな別れ方は嫌よ。誰か助けて! ライド! お願いだから助けてよ! 神様の馬鹿ー! お願いだからなんとかしてよー! 」


私に駆け寄るライドを目の端に認めながら、崩れ落ち気を失ったエティを抱き止め抱える。私は互いに震える体を抱き締めながら、ただただ泣くしか出来なかった。


*****


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