お礼に行こう5日目。真実はテンプレの先に……
うーん。まだかなり薄暗いわよね?朝から最悪な目覚めよ。考え過ぎて余り眠れなかったから、頭がスッキリしません。ライドは即寝後、揺すっても叩いても全く起きやしません。
しかもまたまたすっぽんぽんだから、なんども蹴ろうかと脳裏を掠めたわ。でもそれは流石にお仕置きとか言って絶対に報復されるわよね。それにやはり直接は嫌!パンツくらいはいてよね!
流石の私も勉強したわよ。やぶ蛇はゴメンよ……
しかしあの朝、私が起きた時には既にカイはいなかったのよ?寝かし付けて撫でるだけなんて、ものすごい紳士よね?なのに理性がなかったの?もしかして私が寝てから何かイタズラをしたの?でも起きた時には何ともなかったわよ?兎に角ライドなのよ!起きなさいよ!こらっ!
「リョウは朝から元気ですね。おはようございます。少し待っていて下さいね」
元気なんてありません!完全に寝不足なのよ!
ベッド脇のサイドテーブルに飾っている、バラのアロマの蓋をライドがあけると、フワリと漂い始める優しいバラの香り。これがどうかしたの?これは寝る前に使うアロマよ。カイが眠れない時にどうぞとくれたの。
やだ!もしかして?チラリとライドの顔を見る。
いやみな顔をしているし……
もしかしなくてもこれですね。神様の加護がまったく効いていないわよ!これは害意ではないの?
「ようやく気が付きましたか? これは快眠のアロマです。一般的に市販されてる品ですが、本当に眠れない様な人が使用する品です。五分も嗅げば朝まで何をされても起きませんよ。いなみに神の加護は害意では無く、好意と判定したのでしょうね」
そんな事を言われても、さすがにこれは気づけないわよ!それに本当にグッスリ寝ていただけかも……
「怒ってる訳では有りません。流石にこれは気が付きませんよ。このアロマが悪いのではなく、一番の原因は、リョウが寝室にカイを連れ込んだ事です。二度目は許しませんよ」
ちょっと!それは流石に理不尽過ぎよ!
「許して貰わなくてはいけないの? ならばライドも許可を取ってよ! 初めにライドが言ったのよ! これ位はこの世界での常識だとね。私はこの世界の常識を知らない。神様に体験させられたバーチャルで考えたら、何でもありに感じてしまうわ。元の世界での常識ならば、ライドは変質者よ。正直犯罪者の変態! まんまストーカーなの! 」
「「…………」」
沈黙が辛い。言い過ぎたかしら?でも己を棚に上げすぎよね……
「カイの事はありがとう、私が危険だからとライドが助けてくれたのよね。確かに信用して先に寝た私も悪いわ。でもライドが嘘を教えたのも悪いわよね?
カイにはライドがお仕置きしてくれたし、私もこれからはもっと気を付けるから! 今回の事はこれでご破算にして? ねぇお願い。ああそうよ! 寝る前にベッドに結界張れば良いのよ。それならば安心よね」
「それはそうですが……」
「今回はかなり話をしたけれど、ライドは基本的には寡黙な人なの? もう少しキチンと話をしてよ。今回助けてくれたことも、私には何も言わずに怒っているし……お城でも色々奔走してくれていたなら、教えてくれたなら安心したわよ? 」
お城では特に、上からの命令に逆らえないのかと思っていたから……
「お城では挨拶もなしに逃走してごめんなさい。誤解は謝ります。いきなり異世界で一人きりになり、私も初めて優しくしてくれたライドには気を許していたの。クリスには男だと言われるし馬鹿にされるし!
私だって女性なんです! ライドみたいなイケメンに助けられたら嬉しいわよ。だからこそ失望して無言で逃げたのよ」
お城のお偉方のすべてを敵認定していたからね!
「でも泣いたことは覚えていないわ。ライドにはかなり酷い事を言ったの? 知り合ったばかりでは、お互いに言葉にしなくては理解できない。私も努力します。これからは沢山お話をしましょう。んぅ……ふっ…ふわぁ~」
やっやだ!真面目なお話中に大きな欠伸が!ライドごめんなさい。私は二度寝しますので、別室へ退去願います。ライドがベッド脇に立っている隙に、私は結界を発動させる。
こらっ!何故結界内にいるの!まったく素早わね!
「リョウ! 私から離れてゆかないで下さい! 私は自分を抑えて生きてきました。其のためか感情の伝え方が上手くないのです! 」
だからそれが理解できているならば、これから気を付けてくれたら良いのよ?
「リョウが召喚の場から逃げ出そうと、ちょこんと私の足の上にお尻を乗せた時から、貴女の自由奔放さに目を引き寄せられました。神との会話を終えた後、静かに涙を流す貴女に見惚れ、愛を確信したのです。私はリョウを愛しています。ベッドを別つのことだけは絶対に嫌です! 離れませんよ! 結婚して下さい! 」
くっ苦しいっ!ギュウギュウと抱き締められ意識が遠くなりそう。眠気も飛びそうだけど、違う意味で先に意識がなくなりそうよ。でも愛とベッドを分けることをいっしょくたにしないで欲しい。愛と肉欲はイコールではないのよ!愛があるというのならば、お願いだから少しは気遣いをして!せめて服を着て抱き締めてよ!すっぽんぽんでは嫌ー!
でも私ってば……神様と話した後に泣いていたの?自分でも気が付かなかったわ……
お願いします。大切なお話は、私の頭がしっかりと覚醒してる時にして下さい。眠くて死にそうよ……
しかもすっぽんぽんでする話ではないわよ!
しかし……くっ、苦しいっ!いつまで締め付けているのよ!早く離れて!もうダメ……死にそう。しかもねっ眠い……
「貴女は強い。しかし貴女も仰る様にやはり女性なのです。弱さを見せまいと己の心を隠す姿が、私には歯痒く見えてしまうのです。私にその弱さの全てをさらけだして頼って欲しい。涙は私の腕の中だけで流して欲しい。もう二度と誰にも頼らない等と言わせなくないのです。私に期待をしてないとは言わせません。あなたが私に雁字搦めになれば……」
「…………」
「リョウ? リョウ? どうかなされましたか? 」
「…………スゥー……」
「寝ていますね……」
***
改めて朝です。清々しい朝ですね。やはり二度寝は最高です。寝たと言うよりは失神した感じですけど……
ライドの馬鹿タレめ……
いきなりのプロポーズ擬きはなんなのよ!起きて朝イチで問い詰めたら、私が結界を張ろうとしたため、ベッドから追い出されると思ったらしいわ。一緒に寝れなくなるのは嫌だ!ならばプロポーズだ!勢いで丸め込め!押し倒せ!な気分になったそうなの。
はい。確かに追い出すというか、ベッドからしめ出そうとはしました。だって同衾は常識ではなかったのよね?ならば言い出しっぺのライドも別に寝なくてはダメよね?丁度お隣にも、もう一つ客間が有りますよ。
しかし何故そういう思考に走るのでしょうか?プロポーズはキチンとした場所でお願い致します。寝ボケ眼の上その場の勢いでのプロポーズなど、返事をするまでもなく、聞き取りすら怪しいのです。私にはそのぶっ飛んだ思考が全く理解出来ません……
結局私が嫌がることはしないと約束させ、一緒に寝るのは今まで通りにしました。だってライドのあの絶望的な顔を見たら何も言えなくなってしまいました。プロポーズの返事も欲しいと催促されましたが、惚れたのをうんたら~の辺りからうろ覚えなのよ。寝ボケ眼でのプロポーズは無効だと撥ね付けました。だってまだ、キチンとしたお付き合いすらしていないのよ?取り敢えずお付き合いから始めましょう。お互いに知り合わないいけません。なんだか絆されて流されている感じもするけれど、私もたぶんライドが好きだと思います。この気持ちを育てていきたいと思うのです。
しかし未だに海の見える部屋がどうとか、離島に閉じ込めてうんたらなどなどを、ブツブツと呟いてるライド。ぜったいに監禁は止めて下さい。海の見えるうんたらに妙に拘っていますね。二度と会えない海翔くんと張り合わないでください。でも確かにムードは大切よね。ロマンチックなデートのお誘いならば喜んで!ライドにはムリかしら?
でもヤンデレは嫌です!これだけは譲れません。
神様……なんとか出来ませんかねぇ?
***
さて今日は本格的に神殿内部の捜索に入ります。朝ごはんを食べた後、ライドと神殿内をくまなく捜索しました。しかし封鎖された神殿のためか、全く何もみつかりません。神殿の神の彫像さえも撤去されていたのです。
これでは村が有ったと言う方を探した方が良いかもしれません。村は現在跡形もなくなり、草原が広がるばかりとのこと。神殿が封鎖される前には聖獣避けの結界などはなく、これがすべての鍵ではないかと思われている。聖獣を中に入れたくない事柄が有るのでは?という訳よね。
やはりここしかないわよね?鑑定をしながら神殿内部を回ったけど、人のいた痕跡が残っているのは書斎兼執務室の様な部屋のみ。キツネの聖獣さんの初代主の書斎にあたるのでしょう。
私はライドとともに部屋の中をくまなく調べ始める。積み上げられた箱の中には、業務日誌の様な書類が沢山詰まっている。しかしやはり聖女召喚等の、大事な事柄が記されている品はみあたらない。しかもこの部屋にはかなり高度な結界が張られていた。しかも魔法を弾いてるとあたうか、多分魔法を阻害する術が展開されている。この部屋に入ってから鑑定が動作せす、神殿を包む結界の魔道具の気配もしなくなりました。
この部屋だけっていうのが怪しすぎるのよね。絶対にこの部屋がキーワードなのよ。ライドと二人で這いつくばりながら、ジュータンの下から引き出しの裏までもを捜索してゆく。
しかし出てきたのは何代か前の神官長の日記のみ。しかも三日坊主の日記帳。子供の夏休みの宿題ではないのよ!本棚の本も殆ど残ってはいない。ライドと一冊づつ中を確認し、床に本を重ねてゆく。地道な作業を続けるが、やはり何もみつからない。
あら?ライドの頭の上の棚の奥に、もう一冊あるみたい。ライドからは死角で見えないのね。
「ライド? あなたの頭の上の棚の奥に、本がもう一冊有るわよ。届かないのならば背中を貸してくれる? イスがないのよ」
ライドが私をひょいと肩車する。この部屋では魔法も使えないのに、私を軽々と持ち上げるなんて凄い力よね……
横になった本は、厚さの半分ほども積もった埃に埋もれている。手を延ばしても中々届かない。これは背中を借りただけでは届かなかったわね。棚に体を押し付け手を更に伸ばす。棚の台と目線が一緒だからかなりキツいのよ。何とか本を手に取ると、モワッと埃が舞い散ってゆく。ゲホゲホ。これは凄いわねー。でもあら?まさかもう舞い散る埃で埋まってしまったの?
しかし期待した本は、普通の歴史本でした。
うーん。八方塞がりです。本当になにもないのよ。でもこの厳重な結界は?さらにはこの部屋の内部には魔法が無効になる術が展開している。さらには建物全体には聖獣避け。絶対に変!大抵こう言う場合は隠し部屋が有るのよね。カーペットの裏や壁に起動スイッチが隠されてるのがテンプレだけど、くまなく探しても何処にもないのぬ。後のテンプレは本棚の本がくり貫かれて鍵が嵌まっていたりとかよね。しかしどの本にもその様な仕掛けはない。やはり奥にあった本も只の本よね?後は並ぶ本を動かしたら本棚がガコンと動くとかよね?しかしもう本棚に本が有りません……
うーん。うーん。うぅーん。
うーん。ん?あ!これー!きっとこれよ!
「ライドっ! さっきの埃まみれの本を貸して! 」
やっぱり!なぜか妙な違和感が有ったのよ。埃に埋もれていたのに本の跡にも埃がかなり積もっていて、棚の板がまったく見えなかったの!てっきり舞い散る埃が積もったのかと思ったけど、板がまったく見えなくなるほど積もるとは考えにくい。つまりは最初から本の下にも埃が積もっていた。
しかし本が浮いているわけがないし、埃の積もった上に本を置かないわよね?多分本と棚の間に隙間が有って埃が入り込んいのよ。ほらっ!本の下になってた裏表紙の方にも埃が付いている!しかも良く見たら、下になっていた本の真ん中辺りに、花札位の綺麗な部分が有るのよ。つまりね!
花札位の何かの上にこの本を乗せていて、その上から埃が積もったのよ。本は少し浮いていたから、密着する花札位の部分を残し埃が入り込み積もった。私の目線が低かったから、入り込んだ埃の厚さが邪魔をし、花札位の何かに気づけなかった!これよー!!
きっとさらに前には本を並べ隠していたのでしょう。しかし前列の本はすべて持ち出され、見えなかった奥の本だけは残された。棚の埃をすべて払ってみればわかるはず!
「ライドっ! もう一度肩車をして! この本の下側がみたいの。重くて悪いけれど、下から押し上げてくれる? お願い! 」
「リョウは重くはないですよ。私は構いませんが……」
「ならば宜しくね! 」
座りながら本を調べているライドに跨がる。ほら早く!早く立ってよ!早く本棚へ向かうの!絶対になにかがあるのよ!
「リョウ? やはりせめて何かを下にはきませんか?
先ほどは大丈夫でしたが、持ち上げたならばきっと、ピンク色のものが見えてしまいますよ。私は役得ですし構いませんが……」
「…………」
嫌ー!今日は神殿内部の探索だからとワンピースを着ていたのよ!それになぜ下着の色を知っているの?朝着替えたばかりよ!下ろしてー!着替えるからー!
***
やはり本の有った場所に、花札サイズのスイッチが有りました。四角いスイッチを押すと本棚がガコンと動き、本棚の後ろには扉が出現。その扉を開くと地下への階段が出現しました。地下から凄い魔力の気配が届いてきます。
私とライドはゴクリと唾をのみこみ、互いに頷き合い階段を下り始めました。
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