お礼に行こう3.5日目。前皇帝との対談。
凄いわ!帝国の料理人さんは最高よ!カイのご先祖様に感謝です。まんま松花堂弁当なのよ。お弁当といってもご飯と汁椀が別だから、広げれば立派なミニ懐石よね。献立も季節感があり見た目も華やか。あ!これは松茸よ。シスル因縁のコレ松茸よね。ご飯にお吸い物に茶碗蒸しにまで入っている。あら?天ぷらにも有るわね。松茸がいっぱいで本当に豪華よね。
松花堂の弁当箱には小さな器が並べられ、それぞれにお造り、煮物、焼き物、揚げ物などが盛られている。さらにはご飯、汁椀、香の物、水菓子。本格的過ぎてびっくり。お出汁も良く出ていて美味すぎる。あぁ!この酢の物は蛇腹胡瓜にタコよ。更には茗荷が丸ごとは中々に粋よね。
西京漬けが旨ーい。焼き銀杏も旨ーい。海老もプリプリで旨ーい。海老の天ぷらも煮物も美味しいけれど、この塩焼きは特に最高ね。柚子塩が絶妙なの。なぜか海老フライも食べたくなるわね。その内にカニクリームコロッケと一緒に作りましょう。
そういえばシスルたちに、クリームコロッケをご馳走出来なかったわ。その内にまた機会が有れば良いな。次に会える時には皆が普通に接してくれます様に。私もナルシー発動、気を付けまーす。
兎に角旨ーい。この一言に限るわね。あら?
「カイは流石にお箸の使い方が上手なのね。セリーも使った事が有るの? ライドはホークを貰った方が良いわよ。食べ物は刺して食べたら駄目なのよ」
ほらまた落としているし。もったいないし、料理人さんに失礼よ。テーブルに落ちたし三秒ルール発動よ!ライドが掴み損ねた銀杏を私の箸でつまみ、ライドの口に押し付ける。
「里芋は突き刺したら駄目なの。滑って掴みにくいのなら、お箸で半分に割ると楽になるわよ。でも食べにくいならスプーンとホークを貰うべきね。それは失礼には当たらないし、折角の料理が楽しめなかったら損よ」
里芋を半分に割りライドの口に入れる。箸で掴めずグチャグチャになってる酢の物を纏め、タコとワカメをさらに口に入れる。蛇腹胡瓜に箸を入れようとしたら、カイがスプーンとホークを目前に差し出して来た。私ではなくてライドに渡してよ……
「気が利かなくて悪かったな。ほらこれを使え。箸も替えろ。自分で食べろ! 喜色満面なその面がムカつくわ! 」
別に箸まで替える必要は……あ!タコ?タコなのね。カイの酢の物からお箸でタコをつまむ。
「タコを食べてあげるわ。そう言えば海でもタコを投げ捨てていたし、もしかしなくても嫌いなの?
だからってお箸まで替えなくても大丈夫よ。代わりに貝をあげるわ。これは青やぎよね? 酢味噌で食べても美味しいのよ。はいあーん」
はて?なぜか皆が固まっている。あ!流石に子供でもないのに、あーんは不味いのかしら?でも今更引っ込められません。ほら早く食べてよ!グイグイと無理やり口に突っ込み席に戻る。なぜか静まり返り居心地が悪い。セリーまで喋らない。まあ良いや。大人しくしてさっさと食べてしまいましょう。全部食べ終わった所に、料理長さんが挨拶に来ました。
***
料理長さんがお料理の感想等を聞いて来る。今回の献立の説明もしてくれました。
「本当に美味しかったです! 素材が現地のものに差し替えられている以外は、和食そのものです。お出汁も効いているし久々の郷土料理を楽しめました。ごちそうさまです! 」
料理長さんと和気あいあい。苺大福のお話をしたら、何と直ぐに大福に苺を入れて作ってくれたの。わらび餅もサービスしてくれて、抹茶をまぶしても美味しいとの話をしたら、抹茶を粉にして用意までしてくれました。抹茶はお茶としては飲まれているけれど、お料理には使われていないそう。柚子塩の様に抹茶塩での天ぷら。さらには抹茶スイーツのお話で盛り上がりました。夕食のカイセキの際には、創作和菓子をお土産に包んでくれるとの約束まで!嬉しくて大盛り上がり。抹茶の仕入れ先等を聞いていたら、いつの間にかレインが呆れた顔をして迎えに来ていました。
すみません。ついつい長話を……料理長さんとの別れに後ろ髪引かれながら、苺大福と抹茶大福の箱を抱え、ライドに引きずられながら転移をしました。
料理長さんは若いのに気が利くのよ!お話し中に試作品を作ってお土産にしてくれたの。やはり人となりも良くなければ、上に立つ人にはなれないのよね。しかし苺大福が旨ーい。モグモグ。
「セリー。聞きたくは有りませんが、またまた天然ボケフラグですか? 」
「全くやらかしてくれたわよ。有れで無自覚ってのが恐ろしいわ。まあ男もあざといなら墜ちないわよね。無自覚だからやっかいなのよ。でもさすがにやり過ぎには気が付いたみたい。暫く大人しかったんだけど、和食と料理長にやられたわ」
「和食は解りますが、流石に料理長はないでしょう? 」
「解らないわよ。ライドが妙に気にしているの。カイよりもね」
「「まあリョウだから……」」
***
視界が変わる。気が付くと全員集合の部屋に到着です。お城の客間より控え目だけど上品なお部屋。ソファーには年配の男性が一人。多分カイのお爺様でしょう。到着した私たちに気付き、杖をつき立ち上がろうとする。私は男性に近付き手で制す。近くに座るラスに訪ねると、話は既に終了してるそう。但し前皇帝は信じてくれない。頑なにセリーに裏切られたと嘆くのみだそう。
しかし前皇帝はずいぶんと若いのね。ふーん。この世界は成人が早く、子も若い内に産まれるから若いのね。えっ!まだギリギリ五十台なの?足腰が悪いのは加齢によるものではなく、鉱山の人命救助で怪我をした後遺症?ならば私が治療しましょう。
前皇帝の腰と脚に掌を翳す。鑑定を使いながら、悪い部分を探してゆく。これはヒールの重ねがけでいけそう。但しかなり魔力が食いそうね。自身も無理をせぬ様に、ゆっくり何度もヒールをかける。固く凝り固まった塊を、優しく解かし解してゆくイメージね。最後に青く光る。ふぅ。終わった……
「お久し振りね。私が解るかしら? 貴方は年を取ったわね。私は変わらないでしょ? 今の私の姿が理解できる? これが聖獣だと言う証明よ。何なら聖獣姿も見せるわ。体はどう? リョウの治療なら完治した筈よ。リョウの魔力を感じたでしょ? どう思ったかしら。それが私たち聖獣が理想とする魔力なのよ」
前王が呆然とした顔でセリーをみつめている。
「私も聖獣だと告げなかったのは悪かったと思う。でも貴方も私に愛と体の関係を押し付けるだけだった。私は人間に絶望してしまったの。でもリョウに出会い変われたのよ。ライドを主に選んだわ。私はこのニ人の未来に添うつもり。でもまた別れは来るわ。リョウはそこをしっかりと理解してくれているの。出来れば貴方も聖獣を理解して共存して欲しいわ」
セリーがしっかりと目を見て話す。聖獣は人間と結ばれる事はないが、互いに大切に思い合う事は出来る。フィフティフィフティ。持ちつ持たれつなのよね。人間同士の関係も同じなのよ。
「聖獣たちは友だちなの。人間だって友だいとは恋愛をしないわ。互いを高めあうの。恋人ならば別れたら他人よね?でも友人は一生をともに過ごせるわ。でも男性側からしたら、異性の友だちは難しいの? 」
前皇帝は深い溜め息をつき、ゆっくりと話を始めた。
「あなたは私の初恋だった。本当は薄々気づいてはいたんだ。あなたは時を経ても年を取る気配もがない。食事も殆ど食さない。そしてその美貌。しかしそれは人魚だからだと、自分の疑問に蓋をした。妃を迎えたのも、彼女なら愛せる。これで人魚を諦めきれると思ったからだった……」
気づいていたの?それでもセリー。愛していたから手放せなかった……
「やがて私の決心がついたなら、海に帰すつもりだった。しかし妃は人魚を気に留める私が許せなかった。妃は私が見のがしていた人魚の涙の真珠を奪い、一部を己の物としていたんだ」
ならば前王が与えていたわけではないのね……
「しかも妃は人魚を毒殺しようとしていた。食事を殆ど摂らぬから大事には至らなかったが、毒を盛られた食事の一部は配膳されていた。私はその後始末に奔走していたんだ。そのゴタゴタの最中に……あのあられもない現場を……」
セリーの衝撃的なシーンを目撃してしまったのね。それでつい怒りに任せ組み敷いてしまったと。真珠は海に帰す際に贈ろうと集めてネックレスに加工していた。それを見た王妃さまは余計に嫉妬してしまったのね。
「王妃とは険悪になり別居していたが、私が退位をし離宮に暮らす様になってから和解をした。真珠も返しては来たが人魚は既に城にはいない。私は妃に過去を謝罪したのちに、妃が所持をしていた真珠を、用意していたネックレスと対のバングルにした……」
なぜ?もうセリーはいないのよね?
「そして妃にネックレスを身につけさせ、私はバングルを身につけた。本当に勝手な言い分だが、己たちの過去の過ちを忘れぬ為の戒めとしたんだ。罪を忘れぬ様にとな。妃自身も過去の戒めとして、死ぬまで身に付けていた。それがこれだ」
机の上にニつの小箱が置かれる。前王が大きめの箱を開くと、中には大振りで見事な細工の真珠のブローチが入っている。王妃様は己の余命が僅かだと知った後、ネックレスをプローチに作り替えた。何時か人魚に出会えたら返して欲しいと。私が使ったネックレスでは申し訳がないからと、ブローチに作り替えていた。これは妃が亡くななった半月後に、宝石店から届いたという。
「妃と私は性格が似ていてな。夢中になると周りが見えなくなってしまうんだ。本当に申し訳がない事をした。そしてこちらの箱は妃が亡くなったあとに、バングルの真珠で私が作った物だ。まさか妃もブローチにしているとは思いもしなかった。ここまで似るとわな……」
小さめの箱にも真珠のブローチが入っていた。しかしこちらは、先の物よりかなり小振りなもの。真珠が少ないからよね。しかし先の物同様、見事な細工のブローチね。
前皇帝はセリーに頭を下げ小箱を差し出す。
「貰ってくれ。いや、返却させてくれ。若気の至りでは済まされんだろう。しかし私は貴女を手に入れたかった。聖獣だと知らされていたらどうだったか?
正直に言おう。初恋に狂っていたあの頃の私には、聖獣だからと知っても、きっと貴女を諦められたとは思えない。今の私ならば理解は出来るがな。しかし再び貴女に会えて本当に嬉しい。今ならば聖獣の存在を信じられる。裏切られたと逃避する必要もない。本当にすまん。愚かだった私を許して欲しい……」
セリーは前皇帝をじっと見詰めその手を握る。
「許します。私の流した涙の代わりの真珠を大切にしてくれてありがとう。運んでくれた小鳥も報われるでしょう。ブローチは一つ戴くわ。もう一つは……「はーい! 私に頂戴! 」……っ貴女! 」
えっ?誰?突然現れたけれど転移なの?え?窓から入って来たの?もしかして聖獣なの?
「貴女が帝国にいたのね……」
どうやらセリーの知り合いみたい。
さてさてどうなるの?
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