お城3.5日目。
はあ。慣れない事は疲れるわよね。まさか異世界に来てこんな大役を演じるとは思いもしなかった。なにせ次期王妃様のヒロインを助ける役よ。私は恋のキューピットを演じきるわ。
しかし神様?彼に二度と会えない私にも、恋のキューピットさんを派遣してくださいな。彼を此方に連れてきてよ!彼には優しい家族がいたから、さすがにこちらに連れてこいとは言えない……一度自宅に招かれ遊びに行ったとき、本当の娘の様に接してくれた。初めて彼女連れて来たって、お兄さんや妹さんまで出て来たの。ご馳走になったカレーが美味しかった。特別ななにかがあるわけではない、本当に普通のお母さんのカレーなの。でも何かが違う。そう愛情なのよ。そして家族でワイワイ食べるから美味しいの。寮に戻り羨ましくて涙が出たのは内緒。そんな暖かい家族だから、家族から彼を奪いたくはない。頬にキス止まりで本当に良かった。唇にキスをしていたなら、多分こうは思えなかったよ。
さあ!何てブルーになってる時間はありません。今日は夕食まで余り余裕がないのよ。王子にお庭散策を誘われ、余計な時間を食ってしまったの。でも王子の話ってお国と自分の自慢ばかり。中身がないお話にウンウン相槌を打ちながら、ニコニコ微笑み聞き上手を演じる私。ときおり質問をしたりして、その答えに大げさに驚いてみせる。凄い。素敵ですねと持ち上げてヨイショする。あの王子は単純そうだから、かなり上手くいっていると思うの。心配は護衛のルードよ。何も言わないし含み笑いが何だか胡散臭い。でも最初は協力的だったし、私の邪魔はしないでしょう。未だに蹲るルードをほっぽったまま、さあ図書室へゆく本を見てきましょう。取り敢えず聖女関係の本と魔法の本よ。
まあファンタジーならまずは定番のこれ!ステータスオープン!マジ?四角いコマンドウィンドゥが出ましたよ。へえ?ふんふん数字化されているのね。まんまロールプレイングゲームみたい。流石にコンティニューはないから、ここはやはり現実世界なのね。さすがにもう夢落ちは諦めていたけど……残念。
そして魔法は多分魔力量とかイメージとかよね?たぶんこんな感じで人差し指にファイヤーとかやっちゃう感じ?
ぽわんっ。
「…………」
指先にポワンと火がつき浮いている。消えろと念じればスッと消滅する。これってマジですか?ならばお次は掌にウォーターボール!
ぷよん。ぽよよんっ。
スライム?ううん。水の塊よね。本当にこんなに簡単なの?ならば固まれっ!水が凝固し氷になる。お次は溶けてっ!バシャリと溶けて掌が濡れてしまう。冷たいから掌を乾かして!凄いバッチリよ。これって本当に?ならば魔法の王道の転移は使えるのかしら?お城の外に飛んで!念じてみるけど無理みたい。あれ?でも少し体が浮いた気がするわ。もしかして一度行った所でないとダメなパターンなのかしら?では私のお部屋にゴー!あっという間に視界が変わりお部屋に移動している。元の場所に戻って!バッチリ元どおり。やはりテンプレなのね。知らない所はダメみたい。
そうよ!このムカつく腕輪は、魔法では外れないのかしら?
解除、解約、取消し、キャンセル、無効、解消……どのイメージでもダメね。解放、削除、破棄!これらもダメ……ならば重ねてみましょう。契約解除、強制解除、約束破棄!ん?少し反応したみたいね。願いを強くイメージし、脳内に浮かぶ言葉を言霊にし綴ってゆく。
「お願い。意に添わぬ契約を! 婚約の約束を破棄してこの腕輪を無効にして。強制解除! 」
パカンと腕輪の止め金が外れた。あんなに引っ張っても無理だったのにビックリ。でもこれは使えるわね。外れたのがバレない様に、取り敢えず止め金を填めておきましょう。
使えるカードが増えたわね。ニヤリ。
しかし魔法を習う前に出来るのって普通なの?解るまでは隠しておくのが無難よね。習えば解るし多少でもチートならば、お城からの脱走にも役に立ちそうよ。やがて図書室の扉が見えくる。あら?扉の前には、ルードとアニーがいるみたいね。
「リョウ様? どちらへ寄り道されていたのですか? 私よりも先に出られましたよね? 」
「少し迷っていたのよ。悪かったわね。私は方向音痴なの! 」
「部屋から図書室まで一本道ですが? 」
「では何処かでルードさんたちが、私を追い越したのでは? 」
「そんな筈は…………」
これは危なかったね。私が部屋に飛んでいるわずかな間に抜かれたのね。やはり魔法はチートみたいだから隠しておきましょう。それでアニーさんは何故ここにいるのかしら?
「ルードも細かいわね。一本道なら追い越したしかないじゃない。ねぇ?
良かったらお城の中を案内するわよ。方向音痴なら尚更よね。今日は城内で働く人たちの為の出店も来ているの」
「アニーさん有り難う。でも私はこの世界の貨幣を持っていないんです。そうよ貨幣といえば! 私の大切な保険金よ! ルードさん! 神様に会わせて下さいよ! 私文句ありありなんですから! 」
「神様ならついでに地下の王族用の礼拝所に連れてくわよ。貴女が召喚された部屋の近くにあるの。それからお金は大丈夫。ルードが支払いはしてくれるわよね? 聖女にお金の心配をさせるなんて説明不足よ」
「それは失礼しました。今直ぐに行かれますか? 」
私は聖女関係の本と魔法の本などを数冊見繕い、勉強をしたいからと部屋へと配送を頼む。しかしアニーさんは良い人よね。人に気を使えて行動力もあり、王子の好みにピタリの可愛くてフリフリ。エッチが長くても平気だというし、貴女は王子のヒロイン確定よ!これはもう未来の王妃さま確定です。
「未来の王妃様! ぜひ案内をお願いします! 」
「何それ嫌みなの? 」
「いえいえ! 本当に王子とお似合いで理想的! 素晴らしいです! 」
「そうなの? でもありがとう。でも私は王妃にはならないわよ 」
何故?どうして?
「クリスは第二王子だもの」
「クリス様は王太子では御座いません」
オーノー。私の思い込みでしたか?これには流石にビックリよ。
「結婚は好きな人とするの。だからだんぜんアニーと王子よね。私も優しくて素敵な旦那様を探さなくちゃ。ではお城探検へゴー! 」
さあ逃走ルートをを捜しながらのお城探検を始めましょう。ニヤリ。
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