離島へ行こう2週間目突入。大団円。
キラキラとまるで宝石を散りばめた様な満天の星空。打ち寄せる波の音のみが疲れた心を癒してくれる。セリーから貰ったドロップティーを飲みながら、コテージから海と空を眺めて一息ついた。
私たちはダンジョンを攻略したのち、翌日から皆が総出で事後処理を始めた。それらがようやく一段落して、今日からしばらくはのんびりと出来る。セリーは洞窟内のお部屋を片付けるため、しばらくの期間洞窟に籠るそう。タルバとモノクはセリーを手伝っている。
***
ダンジョン攻略の翌日。私とライドは王宮とギルドに連絡に訪れた。ギルドは私たちの旅程を二週間とみてたという。戦利品は後程ゆっくりで良いとのことで、残りを離島で楽しんでこいと、早々に追い出されてしまった。
王宮では初めて王と、一対一で正式に対面をし話をしました。通常ならば必ず誰かが同伴するが、今回は聖獣たちも警備のものたち同様、隣室で待機していた。王が私と二人のみで腹を割って話をしたいと手配してくれたという。
まずは捕虜となっている帝国の皇子たちの処遇について。これらは帝国との駆け引きもあり、国預かりになるとのこと。まあ私的には未遂のため構わないので、人魚についての伝承に相違があること。また聖獣についての知識を正しく持って欲しいこと。これらの真実を伝えて欲しいとお願いをした。
ライドとクリスの母親についても話してくれました。王は前王妃でもあり前聖女について、自身の愛が重すぎたと私に伝えました。かなり反省はしているとのことで、世界観の相違に気付けなかったと後悔をしていました。しかしそれだけではない様な……この世界の男性は自分の様な傾向が強い。少し大目に見てやってくれと頼まれた。
「大目には見ません! さすがにあれは鬼畜すぎます。愛があったならばなおのこと、歩みよりが必要だったのではありませんか? 」
「わはははは! 本当に今回の聖女は強くて逞しいな! たしかに私は鬼畜すぎたな。愛さえあればなにをしても許されると思っていた。愛する女性を失いようやく気付いたんだ。遅すぎたがな……若いものたちは己の好きな様にするが良い。私は聖女に未來を託す。あとは宜しく頼む」
「なぜ私に託すんですか! 王が働いて下さいよ! 」
「そんなに気張るな。王しかできぬことは任せておけ。しかし現状では聖女の行動が未来を動かしとる。これはもう間違いがないだろ? 聖獣様たちが人間に混じり、以前の様に暮らし始めてくれた。これが真実だよ。君は今までのお飾りの聖女たちとは違う。お飾りにしたのは我々王家だ。だからこそ誓おう。君の自由は奪わない。好きに過ごしてくれ」
まあ自身の立場の確約が取れただけでも良しとしましょうか。あまりにつつくと蛇がでそうで怖いわ。国王は結構な策士みたいだからね。
「身の保証をありがとうございます。ではそろそろ失礼致します」
「ちと待て。ライドは返品せずとも良いのか? 私はライドに賭けとる。返品なしなら助かるぞ」
賭け?
「私の予想ではシスル王子は弟分だろ? ブラン王は巻き返しは有るかもしれんが子持ちだからな。フリードは出遅れだ。クリスは論外だろ? ルードはまだ解らんか? 気になる所はウィンとイード辺りだな。宮廷医師たちは当て馬にもならんかったな」
ちょっと!競馬ではないのよ!
「知らんかったか? ギルドでトトカルチョが出とるぞ。公式な遊びだから取り締まりはない。一番人気がライドだ。少し前まで倍率が一倍を切っとった。まあ自国だからな。しかしそれにウィンとイードが追い込みを始めた。隣国からも買いが入っとる。どの国も興味津々の様だな」
「…………」
「大丈夫だ。無理強いはさせない。親心としてはライドに頑張って欲しいがな。ルードもライドに遠慮しとるが良い奴だぞ。まあ知っとるよな」
「王様凄すぎ。ライドもだけど私の心を読んでいるみたい。大丈夫。ライドも同じ様な事を言っていたわ。近々ルードに会って、隣国ではウィンとイードと、デートをしてみたらと言われたの。キスや触れ合いの感覚の違いで、好きの違いが解るかもだって。邪魔はしないと言ってくれたわ」
「ほう。奴も中々度量が付いたな」
「でもズルいのよ! この世界ではお付き合い前でもキスは当たり前。夜一緒の布団で寝て弄られる位も当たり前。婚前交渉もOK。まあ流石に婚前交渉は私的には無理だと思う。でもデートで同衾するなと言うのよ! 己はこれくらいは常識だと、散々人を抱き枕にしているし、止めろと言っても皆がしているからと布団に潜り込んで来て弄るのよ! 自分は理性が有るから大丈夫だとか言うけれど、比べて見るなら同じ事を体験しなくては解らないわよ! ライドに理性が有るのならば、ウィンとイードにも絶対にありますから! どう見てもライドの方がエロいし変態よ! やはりエロばかりなのね! 」
はー。一気に捲し立てて疲れたわよ。お茶でもいただきましょうか。あ!王にもブラウニーを差し入れしましょう。袋から取り出しテーブルに並べる。もしかしたら毒味とかが必要かしら?あ!食べた!信頼してくれているなら嬉しいわ。
「腹黒と天然か……お前らお似合いだよ……」
「王! ブツブツ言わずにハッキリと意見を願います。これらをどう思いますか? 」
「聖女の好きにしなさい。嫌ならば魔法でどうにでも出来るだろ? この世界の男はとかく思い込みが激しい。嫌ならハッキリ抵抗しないとヤられるぞ。嫌は口だけ照れているだけ。嫌よ駄目よは好きの裏返しってな。泣いても喚いても泣く位嬉しいんだな。気持ち良いんだなとしか思わん。女性も嫌がらぬ者が多いから余計だ。まあ気を付けてくれ」
「実体験ですか? あのバーチャル体験での王が言われると、本気で洒落になりませんね。貴重なアドバイスをありがとうございます。嫌ならば殺す気でゆきます。まあ息が有れば治療出来るでしょうし……」
はぁー。スッキリ。では帰りましょう。
「それでは失礼いたします」
私は静かに退出をした。
「……それは怖いな……」
***
ラスとレインは帝国に色々と探りにゆきました。先代の王妃様は既に亡くなっていたけれど、セリーの皇子は健在でした。先代は息子に王位を譲り二人は離宮でノンビリと暮らしていたそうよ。いつか話ができたら良いわね。
さてそろそろ寝ましょうか。用事を済ませ水上コテージに戻り、しばらくはまったり休養することとなりました。ここは昼は海で泳げるけれど、夜は本当に何もする事がないのよね。
私はドロップティーの入った小瓶を星空の光にかざしてみる。これはダンジョンの砂漠エリアでゲットしたお花の種の加工品。あの種は岩塩と魔力を取り込んでいる為、殆どが塩分でできている。塩の手に入り難い地方などではかなり重宝されていて、かなりの高値で取り引きされているという。
さらにはその中に突然変異の種が有る。それが甘味玉と香味玉と呼ばれるもね。その名の通り甘い種と香りの有る種。この甘味玉とハーブを煎じると、ハーブにより色々な色と香りのお茶になり、香味玉は石鹸や香水等の香りに使える。ドロップティーの由来は煎じると何故か雫の形になるから。どれも優しい味でセリーさんの手作り。このお茶はセリーの心なのかもしれないね。
そのセリーは洞窟に籠ってる。ご飯は皆で食べているのよ。でもね?なぜかライドとセリーがコソコソとしているの。別に構わないけれど、少し嫌な感じなの。何時もならばもうつきまとっている時間なのにいないし。まあ良いや。やはり眠いかも……
「リョウ。寝てしまいましたか? 仕方がないですね」
突如フワリと体が浮いた。もしかしてベッドに入らず寝てしまったの?誰かが運んでくれているの?
「ありがとう。懐かしいなー。お休みー」
「懐かしい? 」
凄く懐かしい夢を見ていた気がする。でももう思い出せない。ふと目を覚ましたら隣にライドが寝ていた。ちゃっかり抱き枕にしているし……グイグイと押して間を広げる。
すっかり慣れてしまっている自分が怖い……
あら?ここは何処?水上コテージではないの?
何故か見知らぬベッドで目を覚ました私。ここ何処よ?慌てて扉を開くと洞窟?もしかしてダンジョンなの?私は明るい方へ歩き出す。あ!
視界が広けた。見上げれば満天の星空。湯気が立ち上ってるのは温泉?何故かベンチまであるので、私はベンチに腰掛け空を見上げた。
「お気に召されましたか? リョウの大好きな温泉です。意地悪はしませんよ。ダンジョン制覇お疲れ様です。これは私からのサプライズです」
ライド!?何時の間にか隣に座っているし!
「ビックリしたわよ。ここはダンジョンの中なの? 」
「いいえ。ダンジョンの島とコテージ島との中間位です。両方を繋ぐ通路の脇道にありました。長年放置されていたそうですが、整備すれは使えると言われ、私が急遽手直しをしました」
ライドがセリーと契約する最に教えられ、直ぐに掃除をしろといわれたそうよ。だからヘロヘロだったのね。
「これが契約の時に耳打ちされていたことなのね。余りにも大口を開けていたからビックリしたわよ。温泉は大好きよ。ありがとう。でもセリーは入らないの? 」
セリーはジュゴンの聖獣なので、熱いお湯よりも冷たい水を好むそう。
「喜んで貰えたなら良かったです。私は大口を開けていましたか? あれは温泉だけではなく私が散々探していた物を、セリーに言い当てられビックリしたのです。自力では探せず残念でしたがこれをリョウにプレゼントしたくて……」
小さな小箱を手渡される。ライドに促されて箱を開くと、中には空色のブローチとピアスが入っていた。
空色の真珠?
「これは人魚の涙と呼ばれる真珠で作られています。もちろん人魚の涙では有りません。希に見つかる稀少なブルー系の真珠を総称してそう呼びます。父が母に贈ったという例のブローチもです。母の真珠は人魚の愛といわれ、ピンクの真珠の総称です。私とリョウの出合いの記念に貰って戴けませんか? 」
「これって高価な品なのよね? 貰っても良いの? 私はまだキチンと返事をしていないのよ? 」
「私が贈りたいだけですから。付けてもよろしいでしょうか? 」
あっ!私はピアスの穴を開けてはいないけど……ライドの指が耳に触れるとピアスがピタリと吸い付く。私の下ろしたままの髪をくるくると巻き上げ、プローチをあてるとパチンとはまる。どうなっているの?
「魔法ですよ。持ち主を認識し、持ち主に合わせて変化します。ブローチは髪留めにも使えます。リョウを守る為に幾つか守護魔法を付加しました。リョウのお守りになります様に」
「何だか申し訳がないのだけど……」
「いえいえ。是非身につけて下さい。リョウの身を守る為です。牽制にもなりますし居場所も……しかしもしお礼をしてくださると言われるのならば……」
ひょいっと持ち上げられ膝に乗せられた。ちょっと待って!今なにか怖いことを言っていなかった?
それに私はそんなに軽くはないわよ。まさか膝抱っこされるなんて、さすがの私も驚くわよ!
「嫌ならば抵抗をして下さいね」
腰に腕を回され引き寄せられ、瞼に頬に唇に、チュッ。チュッ。とキスの雨が降る。
嫌ならばと言われても……
ギュッと抱き締められ、服の上から不埒な掌が……どうしよう。嫌ではない様な気もするけど、いったいどこまでするの?それに私たちはお付き合いをしているわけではないのよ?どこまでがこの世界での常識なの?まだ好きだと理解したわけではないし、不埒なことはまだ怖い……
らっライドってば!それ以上は駄目!どうしよう……
本当にどうしたら良いの?恥ずかしすぎて顔が上げられない。ライドの肩口に顔を埋めながら脳内がグルグルとしている。
やぁっ。流石にこれ以上は!
「もしなしてパニクっていますか? 大丈夫ですか? 残念ですがリョウの頭がキャリーオーバーしていますね。私は紳士ですから、これ以上は我慢しますよ」
固まる私の顔中に、ライドは再度唇を落とした。続くライドの声にビクリとする。
「温泉に入って下さいね。嫌ですね。またビクついていますよ。本当に何もしません。そんなにビクビクしないで下さい。可愛すぎで続きをしたくなってしまいます。私は先に先程の部屋に戻りますね。少し収まりつかなくなっていますし、先に寝ていますよ。明日からはデートをしましょう」
ライドはバスタオルを私に手渡しベンチを後にし去ってゆく。呆然とする私。
あれ誰?ライド?何故にいきなり紳士に?やだっ。どうしよう。ドキドキが止まらないわよ。取り敢えず温泉よ!頭をスッキリとさせましょう。
***
朝起きるとなぜかすっぽんぽんでした。しかも同じくすっぽんぽんのライドにしっかりとホールドされベッドに寝ていたのです。なっ何事なの?
私ってば温泉に入ってからの記憶がない……
「リョウ。お早うございます。体は大丈夫ですか? 幾ら気持ちが良くても無茶をし過ぎです。流石の私も驚きました。しかし役得でした。ご馳走さまです」
いーやー。もしかして本当にご馳走さまをされてしまったの?全く記憶にございませんけど?
「ライド! リョウ! おはよう! そろそろ起きたかしら? あらあら昨晩は仲良く出来たみたいね? そろそろコテージ島に行きましょう。皆も待っているわよ」
「…………」
私は頭に疑問符を浮かべながらも、着替えてコテージ島へ向かいます。後でセリーに相談してみましょう。特に違和感はないし、最後まではしていないわよね?
しかし最後までしていないなら大丈夫だと思えるなんて……私もかなりこの世界に染まってきたのかしら?
セリー回答を願います!さすがにライドには聞けないわよ……
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