離島へ行こう1週間と1.5日目。
此方を見ながら妖艶に微笑む全裸の美女。ベッドに腰掛けしなを作り、挑戦的に脚を何度も組み替える。彼女は惜し気もなくその全てを曝け出している。私は恥ずかしくて何処に視線を合わせたら良いか迷ってしまう。ライドが然り気なく私の前に立つ。もしかして隠してくれた?嬉しい。
「無粋な物をリョウに見せないで下さい。聖獣のくせに露出狂なんですか? みっともないですよ」
「確かにそうですよね。仲間ながら恥ずかしい限りです。主はいない様ですね。女性型の聖獣が主を見付けるのが容易でないことは理解出来ます。しかしその様な格好をしているから、余計に巡り会えないんのですよ」
「あら? そうでもないようよ。そこのイケメンさんは私に反応していないじゃない。魔力と質と量では後ろの彼女の方が好みだわ。でも同性よりは異性の方が良いの。しかも彼と契約すれば彼女も毎日拝めそうね。久々に心地好い魔力に囲まれたいわ」
レインの仲間?やはり聖獣なの?
「自己紹介をするわ。はしたない格好でご免なさいね? 女性型の聖獣は男性型よりも恋愛対象に見られ易いの。試す様な事をしてご免なさい。話を聞いてくれるかしら? 」
そう自己紹介をしながら、彼女はクルリと回りシンプルなワンピースを纏った。
***
私はセリー。ジュゴンの聖獣よ。もう何代になるかは忘れたけれど、一番最初にパートナーになった人間の子孫と代々契約して来たの。しかしとうとうその血筋が途絶えたわ。私は絶望した。少しでも長生きして欲しいと、最後の主に生命力を分け与えて生かしたの。でもやはり死んじゃった。仕方がかいわよね。だって彼は人間だもの。彼は死の間際に私に、一人にしてごめんと言い残し先だったわ。それから私は旅をしながら主を探したの。でも駄目なのよ。皆私を性的対象にみてしまう。結婚してるい人や恋人のいる人と契約をしても、やがて魔力の質が変質してしまうの。
前の主に生命力を与え過ぎてた私は体力的にも限界だった。だからこの海に戻り体を癒していた。海水は母なる力を秘めている。全ての生き物の生命の根源。ここは私がジュゴンだった頃に住んでいた海よ。聖獣として生まれ変り、記憶はない筈だけど体は覚えてたわ。ここに隠れ住み体を癒しながら、時々抜け出して少し先の島で歌っていたの。そんな時にある皇子に出会ったわ。久し振りに感じる心地好い魔力だった。しかし船を引き寄せ目を合わせた途端に私は絶望した。
この皇子も瞳に色を宿してしまった……
私は皇子から逃げた。しかし皇子は執拗で弱っていた私は直ぐに捕まったの。しかも海から陸に上がる事により、私は更に弱り言葉を失った。声は出たけど精神的なことからか、言葉を紡ぐ事が出来なくなっついたの。私は生命力が戻るまでに、皇子の魔力の質が変化する事に希望をかけた。駄目ならば全快次第サヨナラをしよう。全快の目安は五年位だろうか?そう考え日々を過ごした。
やがて皇子は人間の女性と結婚をし嫡子も誕生した。しかしどちらも皇子の心を代える事は出来なかった。やがて私は全快する。皇子に捕らえられもう直ぐ、六年もの月日が経とうとしていた。
後はご想像の通りよ。私は幻影を投射し皇子にあられもない姿を見せ付けた。これは私を諦めさせる為。無垢に拘っていたからね。真珠の涙の話には私もビックリよ。涙が真珠になる訳がないじゃない。私が島で仲良くしていた小鳥がいたの。その子が私の哀しげな歌声を聞き、時おり真珠を運んできてくれていたのよ。海を想い泣きながら歌う私に、海を思い出してと言うつもりだったみたいね。まさかそれを私が気付かない内に、皇子が持って帰っているとは思いもしなかった。私が真珠の事を知ったのは、ある朝枕元で真珠を咥えた小鳥が息絶えていたからよ。慌てて近くの小鳥を呼出し聞いてみたから。そして城内と城下での噂を知ったから。
皇子は私の流した涙の分の真珠を、后のご機嫌取りに贈っていた。私は真珠の数だけ涙を流したのよ。小鳥はそんな事の為に真珠を運んできてくれていたのに!ねえ!私が悪いの?悪いのは私に勝手に惚れる人間じゃない!どうして私ではない人間との愛を育めたのなら、純粋な魔力に戻れないの?何故未練を残すの?体の関係を諦めた?そんなのウソ。真珠が惜しかったからじゃない。私が真珠をもう産み出さないと思った途端に組み強いて来たわよ。だからキッパリ切り捨てたのよ。
***
セリーが切々と訴えている……
なぜ?凄く悲しい。やはり男性と女性の感覚は違うの?私は皆(聖獣たち)が大好き。でも恋愛感情はないわ。確かに皆イケメンよ。でも何かが違うの。セリーは凄い美女だから、確かに私が男性ならば好きになるかもしれない。でも聖獣だと知ったなら?結ばれないと教えて貰えたなら、少しは未来が変わったかもしれない。
「私には男性の気持ちは解らないけれど、セリーは皆に聖獣だと知らせたの? 私も皆をイケメンだと思っているし大好きよ。でも恋愛感情はないと断言できるわ。説明が難しいけれど、聖獣の皆とは根本的に何かが違うの。だってイケメン度から言ったなら、ライドより聖獣の皆の方がイケメンよね。セリーもライドも惚れてしまう様な傾国美女じゃない」
「リョウ! 私は惚れたりしませんよ! 私を信じてはくれないのですか? 」
もう……例えが悪かったのかもしれないけれど、今はその話をする場ではありませんから!
「そう。何となく解るの。人間と聖獣は違うんだって。だからって一線を引いてる訳ではないの。このまま仲良くずっと一緒にいたい。でもそれは出来ないわよね? 私は老いて皆より必ず先に死ぬわ。だからよ。それを理解しているから皆がどんなに素敵でも恋愛対象にならないの」
セリーも皆も私に注目している。
「特にこの世界の男性は直情型が多いのよ。だから一途になりやすく、ヤンデレ化しやすいの。セリーの皇子はその典型みたい。今までの主候補には伝えたの?
まただと最初から諦めてしまわなかった? 私は聖獣だからとキチンと伝えたならば、もしかしたら目を冷ましたかも知れない。最後に組み強いたのも真珠のせいだけではないと思う。執着心から? それとも自分には靡かなかったのに! みたいな感じ。ライドもだけど直ぐ張り合うわよね? ライド風に言うのならばセリーは最後に、知らずに皇子を煽ってしまったのよ。多分ね」
「リョウ……私は張り合ったりは……しかも私よりも聖獣たちの方がイケメンだと? 」
「しています! 一本に対し二本! もう忘れたの? それに聖獣たちと張り合わないで! 」
「比較したのはリョウでは……」
もう!ライドはうるさいの!
***
セリーはかなり長い間考えていた。私は余計な事を言ってしまったの?でも少し顔付きが代わった様な気もする。セリーの皇子は生きているのかしら?生きているなら直接話が出来たら良いわね。
「良し決めた! ねぇ。私、そこのライドとやらと契約をしたいわ。ライドはどう? 」
「ライドとやらですか……私は無理に契約をして貰いたくはないです」
「いいわー。その虫けらを見る様な目にゾクゾクしちゃう。リョウが言う執着心が良く解るわ。そうね。私は諦めていたの。色を含む視線を嫌悪して、己の存在を否定していた。そんな私を受け入れて貰おうとしても無理よね。そうよ! 私は聖獣なの。人間と愛は育めない。そう言えば良かったのよね」
セリー……
「リョウありがとう。本当なら貴女と契約したい。でもやはり異性の方が魔力が落ち着くの。ライドと契約させて? お願いするわ。リョウも周囲は男ばかりでしょ? 私とガールズトークをしましょうよ。恋愛相談にも乗るわよ。ライドがしつこいのならば、私がギュウギュウと締め上げて戒めてあげるわ」
ガールズトークは嬉しいかも。戒めも大歓迎!でも……
「私が口を出す事では……」
セリーがスクッと立上がり、ライドの耳元でゴニョゴニョと何かを囁く。ライドは口を大きく開け、何かを言いかけたが飲み込んだ。
「はい! では決まりね。ライドはちょっとこっちに来て。真名の交換をしてくるだけだから、リョウは心配しないでね」
ライドがズルズルと引き摺られて連れてゆかれた。
「これにて一件落着なの? 」
「そうですね。海竜退治が有りますが、彼女もいるならば瞬殺でしょう」
セリーがヘロヘロになったライドを引き摺り戻って来た。ライドは何故か頬をつねられ涙目になっている。セリーがライドの涙を舐め、さらには目玉をグリグリと舐める。それを変顔で耐えているライド。
「ライドが純情ぶってキスは嫌だと言うのよ。かなりの手練れみたいなのに、まったくなにをいっているのよ。だから目玉をグリグリして魔力を送り込んだの。リョウは焼きもちを焼いちゃ駄目よ。私は聖獣だからね」
「セリー! 私はライドに焼きもち何て焼きません! さあ。さっさと海竜退治にゆきましょう。漸く外に出れるわ」
「そんな……少しも妬いてくれないのですか? 」
まだそんな間柄ではありませんから!私はそそくさとその場を退散する。これ以上はやぶ蛇になりそうよ。
「あら。ライドは残念ね。でも奥の手を伝授したから頑張って貰いましょう。ライドとリョウの子供が楽しみだわ。この魔力が混ざったら……」
「リョウの意志が一番です。余計な事はしないで下さいね」
「キャー怖い。もちろん無理強いはしませんよー。手や口はだしますけど」
海竜は可哀想な位の瞬殺でした。宝箱の中身はスマポンに吸い込まれ……指輪は二重の螺旋になりまた。そういえば指輪の鑑定をしていないわね。
漸く出口ね。出現した転移の魔方陣に乗ろうとしたらセリーに止められた。水上コテージの有る島へ直通の、特別な通路があるとのお話です。
通路は見事な海底鍾乳洞でした。ここには宝箱はないけれど、ダンジョンから流されてくる宝石類が所々に埋まっている。べっ甲や赤珊瑚が多く発見されるとのこと。私たちは探しながらコテージに向かう、
びっくりしたのが巨大なアコヤ貝。何と中身も入っていたの。さぞ巨大な真珠が入っているのかと思ったけれど、一円玉程の虹色の真珠が沢山詰まっていた。
キラキラとまるで虹の様に輝き綺麗。でもあのウェディングドレスの数には敵わないわね。
確かに巨大な真珠よりは此方の方が使い勝手が良いでしょう。鍾乳洞を出るとすでに空は満天の星空でした。
久々の外の空気が美味しい。流石に今日は疲れたわね。夕食を済ませてお休みなさい。
明日はゆっくり出来るかしら?
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