離島へ行こう1週間目。最下層。
メガスコーピオンとさぼサボちゃんたちを倒したのち、その場に残された宝箱を二個拾う。ライドはラスとともにスコーピオンの鋏を抱えて来た。しかしデカいわね。これはかなりの食べ応えがあるわよ。二人から鋏を受け取り、インベントリにしまう。
「さっきお昼をしっかり食べたから、鋏は夕食にするわね」
「うん。でも一本は今から皆で食べなきゃダメ。付加されている魔法で、それを食べると水中で息が出来る様になるんだ。最下層は海だから、そのための討伐ご褒美みたいだね。最下層は一応ボス部屋までの陸路は有るけれど、真珠や珊瑚等の宝は海の中にあるんだって。リョウは潜りが得意だから、頑張ってお宝をゲットしてね」
へー?原理は解らないけれど、美味しくてお役立ちなのね。ならば取り敢えず茹でて見ようかしら?蒸すイメージの魔法で出来そうよね。
でも海中では魔物は大丈夫なの?モノクは可愛らしいから食べられちゃうわよ?
「ねえ。ライドは食べた事が有るのよね? 食感はカニ爪みたいな感じなの? 生では食べられないの? 」
「……はい……味も食感もカニそのものです。私たちは茹でてそのままで食べました。生はお腹を壊す恐れが有るそうです。普通は茹でて保存し、料理に混ぜて食べます……」
その間は何よ?あ……口を利いてしまったじゃない!
ふーん。それならばカニチャーハンや、身がデカいからフライとかにも出来そうね。サラダでも良いけど、取り敢えず先にカニ飯を炊きましょう。野外用の鍋で炊けば沢山出来るからね。ではささっと用意しましょうか。
具材はシンプルに鋏と人参とインゲンを用意。洗ったお米と出汁を火にかけスタンバイ。ご飯は初めトロトロ中ぱっぱよ。蒸らし中にカニモドキと玉子のスープと、カニモドキとレタスとトマトと和えてサラダを作りましょう。
「カニモドキのおにぎりとスープにサラダができたわよ。お昼は食べたばかりだし、おにぎりはお土産にもできるから、無理をしないで食べてね」
おにぎりがウマーい。食感はまんまカニだわ。これならば茶碗蒸しや雑炊も良いわね。普通のカニよりも味が濃厚でプリプリよ。あ!カニモドキクリームコロッケも作りましょう。ダンジョンを出たらお礼も兼ねて、シスルの国にお土産と共にお裾分けしましょう。
「リョウは随分ご機嫌だな」
「蠍が思ったよりも美味しくて、クリームコロッケが食べたくなったの。ラスもコロッケが好きよね?
あのクリーム版よ。お芋のホクホクとは違うけれど、揚げたてでトロリとしたクリームが美味しいの。シスルたちにも食べさせたいから、お土産とともに持ってゆくわ」
「リョウはまた火に油を……まあ好意は仕方がないからな。ライドも一々気にしすぎるな。懐が狭すぎるのも情けないぞ」
「悪気がないことは解ります。しかしそれだけ意識されていないということですよね。これはやはり少し強引に解らせ……「止めとけ。余計に拗れるわ!」……」
るんるん。追加で炊いたカニモドキご飯で、沢山のおにぎりが握れたわ。シソの葉で巻いても美味しそう。味噌で焼おにぎりも良いわね。もう一本はカニ鍋に天ぷらが良いかしら?本当に楽しみだわー。
「お二人方の様な心配は必要ありませんよ。あの至福の笑顔をご覧なさい。リョウは色気より食い気です。本当に私ですら手を貸したくなりますよ……」
おーい!お喋りをしているならば、もうご馳走さまですね。では残りはさっさとしまい込みまーす。
***
さあ。最下層の海岸エリアに向けて出発よ。通路は相変わらずの魔物たち。それらをサクサクと倒しながら進むと、やがて視界が開け目前に広々とした海が広がった。
うわー。ダンジョンの中に海岸線!白い砂浜に青い空!太陽がないのが不思議な位よ。でもかなり穏やかな海だけど、海中に魔物はいないのかしら?
海エリアのボスは海竜とのこと。ダンジョン内の海の沖合いに有る島に住む、海竜の威圧がかなりの範囲まで届いているため、海中の魔物は怯えてダンジョン外へ逃げてしまったおる。そのためこの周囲には魔物といわれる生物は存在していない。以前隣国で埋めたダンジョンボスの威圧で、地上の草原の動物までいなくなってしまっていた。あれと同じ原理よね。今回はどこかで外と繋がっている海を介して、ダンジョン外にあたる水上コテージの有る島にまで、海竜の威圧が影響していた。ならば最下層は楽チン?なわけがないわよね。最下層のフロアに魔物は出現しないけれど、海の生物は存在している。そう聞けばたしかに、コテージのある島にもお魚は泳いでたわよね。タコちゃんもよ。
この海エリアの敵は、巨大なイカにタコにお魚たち。巨大なエビやカニもいるらしい。みな其々にやはりドロップ品を落とす。
現在ダンジョン内に生息する海の生物は、元は普通の生物だったらしい。しかしダンジョンに生息し影響され異形や巨大になり、ダンジョン生物と化してしまった。
「何処かで海に繋がっているのならば、今回は海水をすべて蒸発させてしまうとかは駄目なのよね? 」
「水位を下げるくらいならば可能でしょうが、かなりの海水がダンジョン外と出入りしている状態なので、減らしても焼け石に水ですね。しかもお宝はかなり深目にある様です。素潜りが確実です」
ドロップ品はハズレが倒した生物の加工品。タコならばお刺身やタコ飯やしゃぶしゃぶセット。お魚ならばやはりお刺身や西京漬けや粕漬け、蒲鉾や練製品らしい。当りが貴金属になり、貝類は色とりどりのパール。魚類は珊瑚や鉱物(金やプラチナ)。宝箱からはそれらを加工した装飾品がドロップする。
「何それ! めちゃ素敵じゃない 」
「ほう。余計な心配をせずとも、リョウもアクセサリーには興味が有るのだな。少しは色気も有って良かったわ。ではライドは王よりも素晴らしき品を見付けねばならんな」
「王ってダンジョンに潜ったことがあるの? 」
「聖女が妊娠した際に、結婚と出産祝いの為にと宝を求めたそうだ。実は妊娠中もしつこくて、聖女が閉じ籠り出て来なくなったのが原因だそうだがな。その為臣下が機嫌とりを兼ねてダンジョンを勧めたらしい。ダンジョンで時間を稼ぎ、戦利品でご機嫌取りだな。その時のブローチはかなりの品だったぞ」
「ふーん。それはまんま天の岩戸よね。聖女様にとっては正直ブローチよりも、王がダンジョンに潜りっぱなしの方がご褒美なのでは? あの体験をした私ならば、絶対にそう思うわよ! 」
「それでもアクセサリーは嬉しかろうが? 」
「でもタルバってば、本当に色々と良く知っているのね。やはり年の功なの? アクセサリーはたしかに嬉しいわよ。でもまだ見付かるかも解らないのよね?
ならばそれよりも目先のハズレよ! ハズレなのにお刺身やしゃぶしゃぶセットなのよ! ハズレではなく大当りよ。これは頑張らないと駄目よね! 」
「そう来たか……」
***
そんな訳で各自別行動でお宝探しよ。私は剣と氷の槍で獲物を仕留めてゆく。常時鑑定を張り巡らせ青く光る部分は徹底的に調べてゆく。青く光る所には宝箱そのものが隠されていたり、隠し部屋やダンジョンの外の海に繋がる穴だったりした。
「こらタコ出てこい! いきなり絡み付いて! このエロタコめ! ウィンドブロー! 良し! 出たな! 」
ドス。ブス。ブス……
「やった! タコしゃぶよー! タコ様バンザーイ! あらこちはらは赤珊瑚と金貨? ふーん。あぁっ! 西京漬けセットも出たわよー! 」
「リョウ煩い! ハズレで喜ぶな! 」
「本当に先が思いやられますね。ライドは……まあ頑張って戴きましょう」
私は一足お先に陸に戻りセーフティーゾーンにテントを出す。海で泳ぐにはかなりの体力を消費するし、何気に体温も奪うのよ。だからね?これよ!取り出したります浴槽のみの風呂おけを四つ並べ、お水を張りファイアをボスボスと突っ込み適温にします。中にはこれをぽいっとね。ミントを束にして入浴剤代わりよ。疲れた時にはやはりお風呂よね。皆が戻った順に入って貰いましょう。ラスはモフモフのままで泡まみれにしても楽しそう。私はその間に夕食作り。お昼の後にカニモドキも食べたので、夕食は軽めにしましょう。
そう思いながらもまたご飯がメインです。お米はお腹には貯まるし簡単なので、ドロップ品のシーフードを使いパエリアにしました。
大鍋でニンニクと玉葱を油で炒めまーす。お米を加えて透き通る位まで炒め、ブイヨンスープとサフランモドキと湯剥きしたトマトを混ぜまーす。塩コショウで味を整え、さっと炒めたワイバーンのお肉と、ムール貝に蛤をイン。アサリが無いのが残念。エビ、イカ、タコにカニモドキも入れちゃう。強火で数分ブツブツ沸騰して来たら、蓋をして弱火で15分位炊く。
野菜はパプリカがないから、ピーマンとズッキーニと茄子かな。さっと炒めて炊けた所に乗せ、再度蓋をして15分程蒸らす。最後に強火で煽れば出来上り。
今晩はパエリアと野菜たっぷりスープよ。
デザートはリンゴのシロップ煮を混ぜた蒸しパンに決定。フライパンでできるので簡単。それを切り分けて出来上り。お茶は久し振りにミントティーを用意。さあさあお風呂からあがったら食べてくださいな。私はお風呂に入ってから眠ります。
「明日も潜るのよね? 」
「そうですね。明日の午前中の様子を見て、ラスボスの海竜に挑みましょう。海竜は以前のドラゴンとほぼ同じです。ブレスが炎ではなく水になります。高圧ですが、皆でかかれば大丈夫です」
「よーし! では明日も頑張るぞー! 深目にあるからと後回しにしたけれど、実はかなり気になる穴があるのよ。ぜひ明日は手伝ってほしいの。その為にも今晩はゆっくり休むわね。皆も食べたら寝ていてね。お休みなさい」
***
わーいお風呂よー。のんびり浸りましょう。やはり魔法で綺麗にするのとは段違いなの。疲れが吹っ飛びます。
あー。ホカホカ気持ち良いわー。でもここで寝ては駄目。また意地悪ライドがでてきそうよ。
ザバリと上がりスマポンでトレーニングウエアに着替える。最近寝巻きはこれに決めているの。ジャージも出るから助かるわ。但し中は半袖白シャツに、黒か紺のブルマなのよ……最初は躊躇したのだけど、これがもの凄く高性能だったの!
【白シャツとブルマは脱げないのよ! 】
私の手の認証付きらしくて、私は脱ぎ着出来るけど他人には脱がすことができないの! 素晴らしいわ! 何て鉄壁なガードなの!
おかげで最近は、ライドの不埒な手から逃れられてグッスリ眠れています。
起きると私の布団の中にいるのは定着化してしまったのだけど……
さあ!お片付け終了ー。今晩はゆっくり眠れそうだわ。ではではおやすみなさーい。
しかし数時間後、私の安眠は失われ……
こらー!ライドー!どうやって白シャツを脱がしたの!何もしてない?抱き付いていただけ?ならば何故上半身がブラだけなの?私が自分で脱いだ?そんな訳はありえません!
ほうほう?
ライドがピッタリ抱き付いてたいから、私が暑いと体を捩っていたと?脱ぎたそうにしていたから手を貸したと?自分は服には触れてない。手を触れてただけ?成る程。他人の手ではなく、ライドが握った私自身の手で脱がしたのね。何て納得するわけがありませんから!
「勝手に布団に入らない! 抱き付かない! 手を触れていただけで脱げるハズがりません! つまり誘導をしたのよね? 兎に角布団から出てよ。私は抱き枕ではないの。お願いだからゆっくりと眠らせて……」
「…………」
その耳の垂れたすがるワンコの様な目は止めて……まるで私がいじめているみたいよ。もー!はいはい解りました!ならば一緒の布団は我慢します。でも抱き付かないでよ。約束よ。
同衾が常識のこの世界……マジで怖すぎるわ……
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