離島へ行こう6日目。チートだから。
ザクッ。ブスッ。ドシュッ。通路にはやはりゴブリンとオークのみ。一階層との違いといえば、魔法を使う個体が増えた位よ。あと数も増えたかしら?一階層では一桁単位での出現だったけれど、ここでは一度に二桁単位で出現してくる。ここから漸く皆も動き始めた。
「リョウー! すぐにまた十匹以上が来るよー」
「モノクオーケーよ。さあブスブスゆくわよー」
利き手からまるで針が飛ぶ様に魔力を放出し、敵を手際よくブスブスと刺してゆくモノク。大きな魔法も使えるそうだけど、今の様な限られた場所では、魔力を変化させて放出することも効果的。物理で戦うのが一番だけど、モノクは体が小さいから工夫しているそうよ。私は短剣がついつい面倒で、魔法で小石を打ち出しブスブスと貫通させてゆく。
「おら! 背後も気をつけい。尻を触ろうとしとったぞ。女性はゴブリンやオークには気を付けねばならん。とてもじゃないが、コイツらはライドより酷い。捕まったら地獄じゃぞ! リョウは激しいのは嫌なのであろう? 」
知っています!それも異世界でのテンプレよ。私はくっ殺は絶対に嫌です!
しかし魔物の酷さと比較されるライドって……
指から銃の様に魔力を打ち出し魔物たちの急所に一撃。ドサリと倒れるオークを踏みつける。子供姿でオークたちを瞬殺しながら、セクハラモ発言を繰り返すプチ親父のタルバ。
この方法もモノクの様に、己の体格の不利を埋めるため、魔力の放出方法を変化させたのね。
「リョウ! さっさと倒せ! この狭い通路では、ワラワラとむさ苦しいわ! サボるな! 」
サボってなんていませんから!
ファイアを連打しながら、魔物の頭を次々に消し炭にするラス。暑苦しいなら火を使わなければ良いのでは?狭い場所で使えば蒸すのがわからないの?
「リョウはなるべく剣で仕留めて下さい。魔力の心配はない様ですが、とにかく剣の上達が先です! しかし本当にウザいですね」
敵を見極め結界で分断したり、魔法で拘束したりと、皆が動き易く敵を誘導してくれているレイン。
「面倒臭がらないで一体毎に倒して下さい。たしかに魔法は便利ですが、リョウが剣に慣れる為なのです。尻を触ろうとしたオークは微塵切りにしました。決して触らせはしませんので、安心して討伐してください」
どうせ消滅するのだから、わざわざ微塵切りにまでしなくても……相変わらずのライドよね。
こんな感じで進んでゆくと、ようやく森林エリアに突入です。
***
うーん。ダンジョンの中に森林があるなんて不思議よね。吹き抜けるさわやかな風に、マイナスイオンまで感じるわよ。中々心地よい森よね。
「本当にこの森を焼いてしまうの? 」
「ドカンと魔法一発で、丸裸に焼いてしまって良いですよ」
「えー。でも爽やかな森だし、もったいない様な……」
「クリアして一定時間が経てば元に戻りますし、この森の奥は湿地です。大ミミズの様な大蛇もいますし、食虫植物ならぬ特大の食人植物も存在します。ああ……リョウの天敵もいますよ」
え……こんなに爽やかな森なのに、まさかエロ魔物や植物の存在が?
「大蛇に絡みつかれ逆さ吊りにされ、触手生物にいやんなことをされたいのですか? ちなみに奴らはビキニアーマーも溶かします。手出しができぬ振りをしニヤニヤ。または助ける振りをして嬉々としてセクハラ。そんな想像のつくライドに、リョウはご褒美をあげたいのですか? 」
「解りました! やりますから! レイン? その言い回しはいやらしいわよ。それもセクハラです! でも本当に換気は大丈夫なのよね? ならば一階層みたいに更地にすれば良いのね? 」
うーん。換気が大丈夫ならば、特大ウィンドカッターで木々を薙ぎ倒してから、特大炎で森を焼き払うのがベストかしら?その後雨を降らして乾燥ね。あれ?ドロップ品は焼けてしまわないの?へえ……魔法の炎では焼けないのね。はい解りましたー。ではゆきまーす!
「魔物の巣食う魔の森の木々を! この場の全てを薙ぎ倒したまえ。そして全てを焼き払いたまえ。シュープリーム! 風の回転カッター! 続けて業火の炎!
炎蛇の姿を具現せよ! 」
風の特大カッターが、回転しながら木々を薙ぎ倒して行く。倒れた木々を炎をその身に纏う大蛇が舐めつくし、木々をそして森を炎が飲み込んでゆく。
「アイスエイジ発動! 瞬間冷凍! ギブリ! 高温の風よ吹け! 氷をとかし乾燥させて! 」
雨を降らすより凍らした方が直ぐに炎も収まるわよね?私はその場をすべて氷結させる。最後の仕上げに熱風で氷を溶かし、地面を乾かして出来上がりよ。燻りや暑さも収まったみたい。
「はい。終わりました! 」
ライドが神妙な顔をしているけど、まさか残念がっているわけではないわよね?
「リョウは全く疲れないのですか ? 」
やだ!心配してくれていたの?セクハラ野郎とか思っていてごめんなさい。
「特に疲れないわね。お腹は空いてきたけど」
「流石のチートですね。普通はここまでの魔力は出せませんし、一階層だけでも魔力切れで倒れますよ。騎士団で潜った際には、一階層に三日かけました。魔力切れになれば抱き抱えて移動をするつもりでしたが、このまま二階層のボスまで軽々と辿り着けそうですね」
……抱き抱えられてダンジョン内を移動するなんて虐めです!それならば休みなさいよ!
「えー。先にご飯が食べたいわよ。とっくにお昼を過ぎているのに! 」
結果ドロップ品を拾い集めながら、ボス部屋前に到着しました。ボスとは対戦せずに、先に横のセーフティーゾーンで少し遅いお昼を食べます。ここには魔物が入って来ないそうよ。ダンジョンって不思議よね?
おばちゃまたちの差し入れが美味しいわー。バケットのサンドイッチだけど、色んなパテが塗られているの。ローストビーフやチキン。野菜も新鮮野菜からピクルスまで色々。素材にも良くあっている。本当に贅沢だわ。確かにお城の食事は美味しかった。良い働き手がいるという事は、実は王様も話せば良い奴人だったりするの?バーチャル体験のイメージだけで決めつけては駄目よね。一度腹を割って話をしてみたいわ。んー。でもこのサンドイッチ美味しー。モグモグ。
「これらも旨いがまたリョウの料理が食べたいな。たしか生姜焼きだったか? 和食とやらも旨かった。シスルと奪い合って食べたよな。ぜひまたその内にご馳走してくれ」
「ラスがほめてくれるなんて嬉しいわね。落ち着いたら色々作るわよ。庶民的だけど牛丼とか親子丼とかの丼ものも良いわよね。そう言えばシスルはコロッケが気に入っていたわ。次回はクリームコロッケも作って、瞬間移動でお届けしようかしら? 」
「リョウの手料理……」
「もちろんライドにも作るわよ。また変なことを考えないでよ。ライドはあのときはいなかったの! 」
「そうですね。ご馳走になるのを楽しみにしています。しかしリョウ? 幾ら美味しくても少し……いえかなり食べ過ぎなのではありませんか? 」
魔法をぶっ放すとお腹がすくのよ……
***
はあ……やはり殺るのね……
デザートの桃のコンポートを食べていたら、ライドが二階層のボス部屋の話を始めました。ここのボスはサンダーモンキー。猿型の魔物でとにかくデカくてキーキー煩い。魔法は雷を放出するのみだが、手先が器用なので注意。手下はポイズングレズリーがニ体。その名のまま毒を持つ熊とのこと。狂暴だけど図体がデカいために機敏に動けず、爪先と牙の毒を武器とする。私は加護が有るので毒は平気とのこと。ただし爪と牙はなかり鋭く、傷がつくとかなり痛んでしまう。襲われる前に首を落とせとのお言葉です。はい。了解です。しかし今から戦うんですか?はい。戦うんですね。
「元の世界には親が死んでも食休みと言う諺があるの。それだけ食事の後の休憩は大切だという意味なのよ。お茶くらいは飲ませてよ」
「充分休んだではないか。茶は構わんが流石に食べ過ぎだろう? そのデザートにはかなりの酒が入っとる様だが大丈夫なのか? 食べ過ぎて酔っぱらうなよ」
「タルバってば心配し過ぎ! これが終わったら絶対に本日は終了なのよね? あとは寝るだけだから大丈夫よ。さあ頑張るわよ! 」
***
重厚な扉がコゴゴゴゴ……と開く。際奥にどデカイ猿が鎮座している。確かにキーキーと煩いが、あの図体では猿と言うよりもゴリラよね。ウホウホの方が似あいそう。なぜか動かないみたいだから、先にグレズリーにゆきましょうか!
「お猿さんの前に土壁! 頭上からくらえ! ビリビリ放電ー! 倒れかけにザクザクっとウィンドカッター! 熊さんの三枚おろしの出来上がりっと! 」
ぶつぶつと三つに切断されたグレズリーが、地面にごろごろと崩れ落ちてゆく。あら?
お猿さんには雷が効いていないのね。しかもまったく動かない。では此方からゆきます!
「お猿さんを結界でくるんで! あら? また魔法が効かないの? 」
……もしかして魔法が効かないの?でも土壁は出たわよね?試しにファイヤー!でていない?まさかこの部屋には魔法無効の効果があるの?でも土壁はでたし、ボスの足元には燻ってはいるけど着火をしている。つまり本体のみに魔法無効の効力ありなのね。ならば肉弾戦よね。練習した短剣が役に立ちます。私は土壁の高さを低くして、ボスの首だけをだし猿を壁でぐるりと囲んでゆく。
「剣よ出て! 狙いは首よ! ギロチンゴメン! 」
土壁の上から頭だけを出しているサンダーモンキーの、首を狙い剣を奮う。しかし大猿も馬鹿ではないから、頭を引っ込め再度出した隙に雷を放出してくる。やがて土壁に雷でヒビが入ってしまう。どうしよう?補強をすべき?でもこのままでは埒があかないわ。
ならばヒビを利用しましょう。私はボスの左胸の辺りのヒビに剣を突き刺す。突き!突き!ヒビを狙い剣を何度も突き刺し、ググッと奥まで捩じ込むみ素早くもう一本を呼び出す。どうやら大猿に攻撃が届いていた様で、痛みに暴れ土壁が崩れ始めた。崩れる壁にもたれかかっていたボスは、前のめりに倒れ込んでくる。それをチャンスととらえ、すかさず頭部を剣で落した。
やったわ!倒れたわよ!やはり魔法なしはキツいわね。土壁が効かなかったらアウトだったわよね。宝箱をニ個ゲットよ!
「お疲れー。やはりリョウは凄いや!」
「だな。流石のチートだ。無双しとるな」
「そうですね。剣もチートなのですか? 」
「リョウは度胸が座っとるからだろう」
剣技までチートを貰っていないわよね?魔法は確かにチートだけど。少しは私のの努力を認めてよ!魔物の首を落とすなんて恐怖以外の何物でもないのよ!
「魔法はチートかもしれないけれど、さすがに剣は知らないわよ。大猿に魔法が効かないし必死だったの! 部活動は演劇部だったけれと、たぶん学園の授業にフェンシングがあったから助かったのよ! 少しは労ってよ」
「フェンシングとはあの構えと突きですか? 他には何かしていたのですか? 」
「流石の元騎士団長よね。そうよ。スポーツだけど防具を纏い、互いに細い剣の様な物で突きあいを競うのよ。後アーチェリーをしていたわ。これは弓矢よ。的に当てて競うの。もちろん敵を倒したりはしないわよ。魔物なんていなかったからね」
「では戻ったなら武器の新調をしましょう。すこし鍛えれば使えそうです。魔法と剣技で無双です。これでリョウは無敵ですよ」
ちょっとやだ!私は無双なんてしたくはないわよ!まったく冗談ではありません。そんなんことしたらますますいき遅れるわよ。
「私に無双なんて必要はないわよね?
ラスにも言われたし、これ以上色気がなくなっても困るわ。この世界の女性は余りに強いと敬遠されてしまうのよね?この剣を貰ったときに、ウィンは護身用だといったわ。無理はせずに互いの足りない部分を補いあえたら良いですねと……」
やだ……ライドのオーラが……ウィンの名前を出したのが不味かったの?でも私はライドと付き合っているわけではないし、すべて本当の事よ。私だって誰かに守られたいのよ。無双何てしたくないわよ……
「そうですね。女性に無双は失礼でした。リョウの筋が余りに良いのでつい鍛えてみたくなり……しかし色気はそれ以上は必要ないのでは? まあ次のフロアを頑張って下さい。呼ばれたなら幾らでも、私が不足を補いますよ。私を呼んで下さいね」
何だか嫌な言い方よね。物分かりが良すぎるしなにか含んでいる様な口調よ。まあ気にしても仕方がないし、さっさとテントを張って寝るわよ。お風呂は流石に無理だからクリーンね。晩ご飯は豚汁だけ作りましょう。おにぎりとおばちゃまたちからの差し入れが有るからね。ライドがラスとレインと、三階層を下見に行った間に豚汁を作る。しかし中々戻らないから、次いでとばかりに玉子焼きとゴブリン肉の味噌焼きも焼いたわ。漬け込んでいたから美味しい筈よ。別にライドの機嫌を取ろうとしてる訳ではありませんから!しかし眠くなってきたわね。流石に一日にニボス退治は……
「あーあ。リョウが寝ちゃってるよ。僕が布団に運んどくよ。ライドはちょっと苛め過ぎじゃないの? 」
「焼きもちを焼きおってまだまだガキだな。まあワシらにやかぬだけマシだろう。リョウも聖獣に好かれ人間にもとは大変だな。+神もか? 」
「それ自分が言っちゃうの? ならばタルバは離れられるの? 僕は無理だよ。多分子孫にまですがり付きそう。リョウには悪いけどね」
「それは皆同じだろ。悠久を生きる我らのエゴだ。だからこそ主が大切なんだ。幸せになって欲しい。運命の相手がヤンデレらしいけどな」
話してるのはタルバとモノク?後は宜しくね。お休みなさい。ぐぅー。
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