城下町7.5日目。
つっ疲れた。舞踏会前にヘロヘロよ。通常の流れだとあの後補正下着の採寸に着付けを行うそうだけど、私はありがたい事に、コルセットをしなくて大丈夫とのこと。コルセットしなくてすんで良かった……良く苦しくて何も食べられないとか、内臓が千切れそうになる苦しさだとか聞くわよね。怖いわー。なので着替えまでの約一時間程を、休ませて貰える事になりました。すでにお風呂も済んでいるし、軽食を食べて私は寝ます。
コルセットをする場合この時間はないとの話で、もちろん追加の軽食もなし。コルセットを締める前に食べたならば、本当に大変な事になるらしい。この世界のお嬢様たちは美しさの為に頑張っている。湖で優雅に泳ぐ白鳥が、実は水面下で必死に水をかいている。社交界の華々しい花たちは美しい蝶を引寄せる為、こうして努力をし続け咲き誇っている。(衣装係の方々談)だから我慢しろとのお言葉ですが、私は我慢したくは有りません!ドレスの直しは大変だったけど、今回ばかりは自分の体型に感謝です。
ではではお休みなさい。起きなければ起こして下さい。宜しくお願い致します。スコーンとピザをレモン水でゴックン。ふわふわお布団に包まれ極楽ゴクラクよ。
ちなみにドレスは、空色の光沢の有る生地に白色で雪の結晶を沢山刺繍した物。ボールラインドレスと言うそうで生地の上に、銀糸と金糸で雪の結晶が刺繍された薄いシフォンを幾重にも重ねている。腰の部分のボリュームを抑えてる為、甘過ぎず可愛すぎにもならないという。しかし背中がほぼ全開な上、胸の谷間をこれでもかと強調しているのはどうにかならないの?文句たらたらしていたら、ローブ・デコルテはドレスの基本!と捲し立てられてしまいました。それでも少しでも手直しして欲しいと奮闘をしたら、シースルーの袖付ボレロの様なのを羽織らせてくれました。結局肌は見えてしまうのだけど、一枚布が有るだけで気持ちが変わるわよね。安心感よ。
他にフルオーダーで数着。こちらは王様からのプレゼント。さらには下着と夜着等を一式。此方はシスルからのもの。後日私の部屋に届くそうよ。たしかに下着は欲しいけれど、他はもうお腹一杯です。子を助けて貰ったお礼にと、貢ぎ物で部屋がパンパンなのよ……
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さあ始まりましたよ舞踏会!今晩の舞踏会は、この国の伯爵家以上の貴族の当主と家族。騎士団&魔術師団の役職つきの人々の集りです。近隣諸国の方々も招いた、あの婚約破棄の時のパーティーよりは規模は小さい。しかし客層が落ち着いていて上品な感じよ。今回は他国からの来賓は招いていない。あっ!たまたま一人だけいたのよ。
隣国の王太子様が、たまたま外交の為に来ているそうなの。もちろん舞踏会にも出席する。金髪青目のルードの実物だよ?私は形式上では、あの婚約破棄のパーティーで一曲踊ったことになっている。つまりこの国では、私は王太子様と顔見知りだと思われている。でもあの時の王太子はルードだからね。正直私は興味津々よ。聖女召喚を誘拐だと止めてくれてた人だよね。以前確かルードに、出奔してしまった王太子何てヘナチョコよね!みたいな事を言ってしまった気がするけど、王太子様は止められなかった事を嘆く程、歴代の聖女様たちを心配してくれたのよね?体験の時の聖女様だって、喚ばれなければ幸せになれたのかもしれない。もしかしたら結婚生活に幸せも有ったかもしれないけれど、心を病んでしまったのは事実よね。それらを知っていたからこそ、きっと召喚に抵抗を試みていたのよ。
しかしルード何て何も考えずに、魔方陣に魔力を注いでいたのよね?それを考えたなら王太子様は偉いわよ!惚れちゃうかもしれないわ。しかしルードと同じ顔なのよね……
体の相性バッチリ!ならば心の相性もバッチリかも!もしかしたら、顔なんて気にならない位に愛せちゃうかしら?金髪のルードのアップ……イケメン何だけどどうしても先入観が……違うとは理解はしているんだけどね。うーん。
「…………」
やはり駄目だわ……二人並べて見てみたい。期待しないでいましょう。
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終始和やかで華やかな舞踏会です。やはり皆儀式には思う所があったらしく、なくしたいとは思っていた。しかし王様も信じていたため、臣下は何も言えなかった。王様は会場の皆に全ての真実を話し、今後二度と漬け込まれぬ事を誓った。そしてシスルとルリちゃんの契約の報告。ルリちゃんの人型は普通の聖獣よりも幼い。しかし本当の理由は公にせず、まだ子供でこれから成長すると言う事にする。やがてはルリちゃんもタルバの様に、徐々に成長してゆくとの事。つまり嘘ではなく、必要ではない事を言わないだけよね。レインにラス。人型のタルバも同席していたから、特に不信がられる事もなかった。ルリちゃんは皆に紹介され、青い小鳥になり会場を羽ばたいた。私は天井から花びらを降らす。
ルリちゃんは隣国の幸せの青い小鳥となりました。
もちろん私も紹介されました。何故か来賓の王太子と共に紹介されたのよ。何故よ?しかもファーストダンスも王太子とになったの!王太子が単独で来訪していた為パートナーがいない。さらには年と身分の釣り合う女性が捕まらなかった。てな訳で急遽私になった訳よ。シスルはルリちゃんと踊る。まあ話もしてみたかったし構わないけど……
さあ!ダンスのお誘いウェルカム。聖女はフリーよ。優しいヤンデレではない旦那様募集中よ!
ヤンデレではない!これ追加。これが最重要なのよ!
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ダンスホールの真ん中で、先ずは王族と私たちが一曲踊る。王様にお妃様。王太子様に婚約者の他国の姫様。宰相夫妻に娘夫妻。(宰相様は王弟)シスルとルリちゃん。私と王太子様ね。
「初めまして。聖女様には国も私も、大変ご迷惑をお掛けしました。心弱き私をお許し下さい。私はライドと申します。どうぞライドとお呼び下さい。以降お見知りおき願います」
「貴方様とはお初にお目にかかります。私はリョウとお呼び下さい。心弱き何てルードが告げ口したのかしら? 私こそ無礼をお許し下さい。貴方は歴代の聖女たちを心配してくれました。しいては私をもです。心弱くなんて有りません。何も考えず魔力を注いでいたルードの方が駄目な奴ですわ。側近にされるのは止めて置いた方が宜しいかも。では一曲お相手宜しくお願い致しますわ」
何だか引きつった笑顔のライドにリードを任せて踊り出す。流石に緊張しているのかしら?しかし流れる様な足さばき。流石にダンスはお上手ね。ルードもダンスが上手かったから、まったく違いがわかりません。うーん。しかしどうみてもルードよね?声までそっくりよ?一卵性の双子だと言われても可笑しくはない位だわ。やはりまだ王太子が見付からずに、ルードが影武者をしているのかしら?でも今回の訪問は突然で、王太子からの要望だと聞いたわ。ならば影武者を寄越す必要はないわよね?躍りながらもついつい不躾に顔を見てしまう。
「この国には暫し逗留されるのですか? 聖女様のお噂は聞き及んでおります。また是非我が国の城へもいらして下さい。決して失礼な事はしませんしさせません」
「アニーもいるしクリス王子の更正も確認したいから、近い内にこっそりお邪魔するわ。しかしルードと本当に良く似ているわね。似ていると言うより本人にしか見えないわ。実は影武者だとかのドッキリとかではないの? 」
「ドッキリは良く解りませんが、私は間違いなく王太子です。ルードは現在反対側の国境へ、魔物退治の援軍に騎士団を率いて向かっています。ルードと似ているこの顔はお嫌いですか? 私はは空色のドレスの似合う貴女にドキドキしています。やはり貴女には空色が良く似合う。黒髪に白い雪の結晶も良く映えますね。流石は神様も魅了される美しさです。フリーとの事ですが、私からの愛の告白はリョウの重しになりますか? 」
「…………」
やはり空色が似合うって……やはりルードではないの?でもルードが私を口説く訳がないわよね?ルードからの愛の告白?寒すぎるわ。でも王太子だって今日会ったばかり。もしかして体の相性がバッチリだから?何だか頭グチャグチャで理解不能だわ。
「お褒めに預り光栄ですわ。でもごめんなさい。どうしても貴方がルードに見えてしまうの。次回は是非お二人に揃ってお会いしたいわ。貴方がルードと別人だと認識出来なければ、その問いにも答えられないわ。見分けが付かなくてごめんなさいね」
「いえ。確かにそうですね。なるべく早くに本来の私を取り戻し、貴女の側に参ります。その時には真剣に考えて下さいね」
曲が終わると王太子は私の手の甲にキスを落とし、シスルに私を託して去ってゆく。直ぐに次の曲が始まり、シスルのリードで踊り出した。
「リョウ? 顔が赤いよ? 飲み過ぎていない? 」
「大丈夫。ちょっと暑かっただけ。でもシスルは大きくなったわね。流石にもう子供扱いは出来ないわね」
「しないでよ! でもリョウには恥ずかしい所を見られ捲ったからね。でもこれら挽回するよ! 兄上を支えて立派な公爵になる。未来の公爵婦人にはリョウがなってくれる? 」
「シスル? 侯爵の件は既にお断りしたわよ? 」
「そっちじゃないよ!僕はリョウが好きなの! 」
「私もシスルが大好きよ? 」
「……絶対に解っていないよね! 」
***
ダンスが終わり次々と曲が変わる。何人と踊ったかもう解りません。つっ疲れた……
翌朝シスルに、たくさんの下着をプレゼントされました。
「これは普段使い用ね。急いで作らせたの。勝負用は制作中だから、出来たらリョウのお部屋に置いておくよ。僕の為に着てくれたら嬉しいな」
「ブラは本当に嬉しいわ。シスルありがとう。でも勝負下着はしまって置いて。神様から貰ったものも仕舞っとこうかしら。まだ使う予定はまったくありません! 」
「はいはい。リョウらしいや。リョウたちはもう帰るんでしょ? 贈り物で長持ちしないものや、必要な品は必ず持って帰ってね。また絶対に遊びに来てよ。お部屋は掃除しておくからね。あ! 騎士団総団長と魔術師団総団長に口説かれたでしょ!リョウがお城に来たら自分たちにも絶対に声をかけろと脅されたよ。全く遠慮しない奴等だよね。兎に角絶対に遊びに来てよ! 」
シスルが私に抱き付き泣き出した。私より背が高くなってしまったから、ナデナデも出来ないし胸を貸してもあげられない。ハンカチ位だね。ごめん。
ぎゅっと私を抱き締め涙を流すシスル。ん?旋毛がくすぐったい?頭にデコをスリスリしている?見上げるとピタりと目が合い、目を閉じたシスルの顔が近づいて来る。サッと顔を右に傾け逃げようとしたが腕が外れない!仕方がないわね。お別れのサービスよ!頬にチュー。思いっきりチューチューと吸い付いたら、ビックリしたのか腕の力がゆるみました。
「シスル! 朝から盛らないの! さあ朝御飯よ! しっかり食べて今日も一日頑張りましょう! 」
「リョウのバカ……」
私は馬鹿ではありません!さあさあ朝御飯をしっかりと食べ、皆にお別れをして我が家に転移しましょう。今日はゆっくりしたいけれど、取り敢えずギルドには報告に行かないとね。あっ!タルバのお部屋が足りないわ。小さいから一緒に寝たいの?しかしそれは駄目です!中身がオヤジとは寝ません!ギルマスに相談しよう。さあ一休みして皆でギルドへ行きましよう!
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