城下町3.5日目。
只今ラスとスライムちゃんずが、私の周りをぐるぐる追い掛けっこしています。レインはシスルたちを探しに行きました。しかしコヤツらは何時まで廻ってるの?溶けてバターになるまでか?スライムバターって何だか美味しそうな響きよね。でも私まで目が廻るよ。
「ラス? 何でスライムちゃんを虐めるの? もしかして魔物だけど知りあいなの? 」
「バカタレ! まだ気付かんのか? 」
えー。バカタレ呼ばわりはないんじゃない? どうみても只の色違いのスライムよ?でも害はないといって……あ!あー!
「もしかしてラスたちのお仲間なの? スライムも一応魔物だから害獣扱いなのかしら? 」
スライムたちたちは 喜ぶ様にぴょんぴょん跳ねだした。
「リョウが気付いたならば、もう人型になれるだろ! お前らはキチンと説明しろ。リョウ! 半人前はお勧めしないぞ! 」
半人前って?
「気付いてくれてありがとう。僕たちは双子の聖獣だよ。貴女の魔力が気に入りました!
是非契約して下さい。普段は適当にブラブラしてるから、二人みたいにはうっとおしくないよー」
「ないでーす」
「ラスたちはうっとおしくなんてないわよ? それよりラスの言うキチンと説明って何のこと?
契約しても自由でいるのは構わないけれど、一応すべてを説明してね」
「「…………」」
「やはり! リョウ! 良かった!
どうやら間に合いましたね……それらと契約するのは待って下さい。安易に頷いてはいけません。貴方たちには説明の義務が有ります。説明を省くのならば排除しますよ! 」
「解ったよ……」
「細かいわね……」
***
この双子の聖獣は、元は一体の聖獣だった。双子は二年前に罪を犯し、力を二つに分散され二体に分けられた。事の起こりは二年前の卒業試験時。聖獣は妊娠中だからと断る契約者に、無理矢理迫り契約をさせた。契約は無事完了したが、聖獣は自由気ままに遊び回る。その間契約者は魔力線で魔力を徐々に吸いとられ、やがて胎児が耐えきれずに死亡。子を流してしまった悲しみに耐えられず、契約者は自らの命を経ってしまう。伴侶も後を追い自殺してしまった。聖獣は魔力線が切れ契約者の死亡に漸く気付いたが、そのときには何もかもが手遅れだった。
「その聖獣は聖獣界に戻され罰を受けました。力を半分に分割され二体に。さらには二年の幽閉と再教育です。今回の卒業試験の前に伝えられた筈です。貴方たちは同じ主と同時には契約は出来ない。また力は元来の半分で有ることと、その理由を正直に話し、それらを理解し契約してくれる主を探す事。なぜ約束を守れないのですか? ならば処分になるのも仕方がないですよね? 」
「どうしてそんなに大切な事を黙ってたの? 」
双子の聖獣たちは泣きながら話し出した。二年前契約者を殺すつもりはなかった事。卒業試験の期限が迫っていて、焦って無理矢理契約をお願いした事。その時契約者の女性が、子供が産まれて落ち着くまでは伴侶と二人きりにして欲しいと頼まれた事。魔力線は繋がってはいたが、聖獣は主からの魔力を使ってはいなかった。繋ぐだけでも胎児に影響が出るとは思わなかったと……。
今回も落ちた所が悪いのか、中々契約者候補が見付からない。ようやく見つけた私には、幸いにも二体もの聖獣が契約している。それでも尚魔力が溢れている。妊娠も間違いなくしていない。これならさらに二体纏めての同時契約も可能であると思ったそう。
「リョウの魔力の質と量ならば、確かに問題はないだろう。妊娠はする筈もないしな。だがそれだけではないのだ。お前たちは一つの体に二つの思考持ちだった。主の魔力を使ってはいなかったのに、何故胎児は死亡したのだ? 聖獣は同性よりも異性の魔力を好む。男性型は優しさを。女性型は力強さを。見かけは男性型だったお前は、確かに主たる彼女の魔力は拒んでいた。しかしお前の女性的な思考部分が、無意識に男児であった胎児から魔力を吸収していたんだ。いわゆる二重人格って奴だ。だから男女の二体に分けられた。聖獣同士から産まれた子に起こり易い病気だ。お前たちには聖獣の両親がいた。お前たちは我の兄貴だ。いや今は弟と妹だな。まさか知らされていなかったのか? 」
「知らない……」
「聞いていない……」
聖獣の両親から産まれた子には、必ず何かしらの異常が出るという。典型的なのが性格異常。発狂してしまう場合も多く、この場合殆どが自害してしまう。次に多いのが魔力過多の上での偏り。ラスはかなり魔力が高く、魔力量だけではレインよりかなり上回る。しかも戦闘型に偏っている為、加減を覚えないと魔力暴走を起こし上手く使えない。ラスは何年も訓練をし魔力コントロールを覚えた。過多な魔力を押さえ込む為に更なる魔力を使う。かなり大変だそう。
「こう見えてラスは、只の脳筋ではないんですよ。現在の魔力操作力は私と殆ど同等です。学舎で優等生だった私と同等なんですよ?
貴方たちだって二体に別れてもその魔力量なのです。もう少し成長すれば、他の聖獣にも劣りません。別れて努力出来ませんか? 」
聖獣たちは俯いたまま……
ラス……意外に繊細なんだね。そんなに細かい作業が出来る何てビックリよ。しかしまた余計な事をいったわね!する筈もないは余計なのよ!
「そう言えば聖獣は死なないのよね? 自害が出来るの? 」
「聖獣界に『眠り逝く者の墓場』といわれる場所がある。聖獣が死ぬのを唯一許された場所だ。いや、そこでしか死ねない。そこで死ねば次代が神により遣わされる。新らしい聖獣が誕生するんだ」
ふんふん成る程ね。あー。シスルたちをすっかり忘れていたわ。あれ?
もしかしてお昼を食べているの? 確かにお腹が空いたわよね。自分たちの分は、キチンと用意をして来たのね。
「ねえ。取り敢えずお昼にしましょう。お腹が空いたわ。お腹が空くと頭も働かないわ。シスルー! お待たせしてごめん! お昼を食べてるの? 」
やはり用意して来たのね。ならば多めに作った分は、双子の聖獣さんたちにご馳走しましょう。さあ食べましょう!
***
食べ終わったシスルたちも合流しワイワイお喋り。実は私はシスルたちの分も食事の用意をしていたのよ。シスルは完璧な栄養不足だから、たくさん食べて少しでも成長して欲しいと感じたからよ。
「シスル! サンドイッチがもう一人前残っているから食べなさい! パンに干し肉に水って何なの? だから成長しないのよ! 何時までもチビでいたいの?
護衛さんたちもパンとスープならまだまだ有るから食べて。幾ら携帯食でこれが普通と言われても見ていていたたまれないわ。デザートも残しておくわよ」
「僕はチビではない! でもコロッケは戴く」
コロッケが気にいったのね。次回からは肉食で行くわよ。兎に角太らせなきゃ。
「子供は遠慮なく食べなさいな。食事は私が作るから任せて。ゴブリン肉で生姜焼きかトンカツも良いわよね。昨日摘んだ薬草の中に生姜擬きが有ったの。それともガッツリステーキかしら。バッファの肉は山程有るしね。でも暑いならワイバーンの肉で棒々鶏も良いわねー」
「子供ではない! しかしもしかしなくとも、このスープの肉はワイバーンなのか? リョウも討伐にも参加していたのか! 」
「あら? シスルたちも町にいたのよね? ならばシスルには無理でも、護衛さんたちは参加しなかったの? 護衛が忙しかったのかしら? でもワイバーンはオマケよ。運良く放った雷にあたったの。お陰で家なし子ではなくなったわ。あのお家も報酬の一部なのよ」
あら?護衛さんたちは気まずそうにしている。さては酒場で飲んだくれていましたね?シスルはポカンとしている。知らなかったのかしら?
「まあ良いじゃない。取り敢えず食べなさいな。私はお魚が食べたくなってしまったの。この世界に来てからお米とお魚を食べていないわ! だから絶対に海辺の漁村に寄りたいのよ。間違いなく今日中に是松茸をゲットして! ゲット出来たら夕食は松茸ご飯にお吸い物! 私の松茸放出するわよ! 」
「ならばその是松茸をくれれば早いだろう。まあ良い。リョウは最近この国に来たのか? 」
「そうよ。まだ二週間位かしら? 話は良いから取り敢えず先に食べて! 双子の二人はシスルを手伝ってあげて。働かざる者食うべからずよ」
少々遅れたお昼を食べたのち、シスルたちは再度茸探しに向かう。私たちはテントを組み立て寝床をセット。私は聖獣姿のラスと寝るためあとは毛布だけで良し。レインは久々にはむちゅになってくれる。双子の聖獣達はまだ主がいないから、魔力不足で人型かスライム形態。このテントは八人用。ラスが大きいけど双子とシスルは小さい。人型のままでも充分寝れるでしょうう。無理ならスライムね。
何故皆で寝るのって?だってシスルたちのテントがボロボロなのよ。隣国からの旅路の途中で嵐にあったらしい。寝具が無事だったのが救いよ。実はちょっと思惑も有るの。双子とシスルが仲良しになれば良いなと思う。シスルが一人。私がもう一人と契約すれば、何時でも会わせてあげることができるから一石二鳥よ。
さて私も薬草探しをしましゅう。ハーブを探してみましょう。夕食の用意は万端。あとはご飯を炊くだけ。生姜焼きも焼くだけにしてあるの。付け合わせもお吸い物も準備OK。さあ行くわよ。
更なる是松茸をゲットよー!
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