城下町2.5日目。
るんるんるーん。コロッケ作りは楽しいわー。揚げたてコロッケはご馳走よー。
ギルドの扉に鼻をしこたま打ち付けた私は、気付くとレインに抱えられてパンやさんの前にいました。何時もありがとうございます。しかもパンを購入したいことまで、気を遣ってくれるなんて……本当にお恥ずかしい限りです……
「玉ねぎとバッファのみじん切りー。良ーく炒めて塩胡椒をふーりふり。荒熱がとれたならマッシュポテトに混ぜ混ぜまーぜ。小判の形に成型したなら、小麦粉に卵を纏わせパン粉でドレスアーップ。パチパチ跳ねる油には気を付けて。さあさあこんがりきつね色ー。サクサクコロッケのでーきあーがりっと! 」
うーん良い匂い。ついつい鼻歌まで出てしまいました。コロッケのソースにはデミグラスソースモドキ。最初に玉ねぎとお肉を炒めた時に出た肉汁と、ケチャップとソースを共にフライパンで温めるだけ。付け合わせはキャベツの千切りにトマト。それにインゲンとコーンのサラダね。
焼き立てパンと野菜スープでごはんにしましょう。
「レインー。ラスー。少し遅いけどお昼にしましょう。こんがりできたよー。凄く良い匂いよー」
ガサガサ!ドッカン!
はてな?いったいなんの音かしら?
「おっお前!まさか是松茸を料理してしまったのか? このアホが! 戻せ! 早く元に戻せー!! 」
コイツって誰よ?あぁ!たしかギルドで私の鼻を潰した奴よね。まさかここまで追って来たの?
「まったくしつこいですね。しかもリョウに詫びもせずに怒鳴り付けるなど、その無礼な神経が信じられません。捨てて来ても良ろしいですか? 」
レイン!不法侵入者だから構わないけれど、もしかしなくても侵入を見逃したわよね?
「元から低い鼻を更に低くした詫びもせずに不法侵入だ。わざわざ伺いを立てる必要もなかろう。戻れない位遠くに捨てて来い。隣国辺りが良いのではないのか? 」
「嫌だー! 是松茸がないと国に戻っても追い出されるんだ! 頼む是松茸をきれ! 」
ラス?然り気無く私を貶めてくれましたね?どうやらまたお仕置きが必要みたい。あら?まさかラスはSなの?もしかしてお仕置きはご褒美?それは不味いわね。流石に私には女王様は無理よ。
「取り敢えずご飯を食べましょう。さすがにお腹がすいたわ。二人ともわざと侵入させたのよね? あなたたちに気配を探知できないはずがないわ。でもそれは後にしましょう。不法侵入者さん? 貴方の話しも後で聞くわ。お茶くらいなら出すから、私たちが食べ終わるまで大人しくしていてね」
「是松茸を食べるのか? 」
「違うわよ。でももしすでに料理をしていたなら、さすがき元には戻らないわよ? 食べ物は美味しく食べてあげなきゃ駄目! 」
不法侵入者さんを部屋に招き入れ、お茶とブラウニーとキャラメルを出す。初対面の人にはこれに決まり。喜ばれるからね。では私たちはコロッケを食べるわよ!
「ではではいただきまーす! 」
「「いただきます」」
「…………」
***
んーん。やはり揚げたてのサクサクは美味しいわね。バッファのお肉ってばめちゃジューシー。まんま牛肉よ。そのままステーキで食べたいわね。ビーフコロッケは本当に贅沢すぎるお味!めちゃ美味しい!
「魔物のお肉って美味しいのね。初めてだからビックリよ。明日はゴブリンとオークのお肉も貰えるから、次回は豚肉モドキコロッケにしようかしら? でも豚肉モドキならばやはりトンカツかしら? 」
きゅるるるー。きゅー。
「くーっ。コロッケ美味しーい」
きゅー。グー。ぐるるるるー。
「ねえ! やだ笑っちゃう。くっ! コロじゃない。でも、くっコロにならなくて良かったわ。私もさすがにあのテンプレだけは勘弁よ」
…………ググゥーグゥー。
「我々は魔力を得ていれば食はさほど重要ではない。しかしリョウの料理は旨い。また食べたくなるな。魔物の肉以前の話だ。しかしそのオヤジギャグは戴けん。言葉も下品だ」
グググゥ。ぐぅ。グー。
「そうですね。リョウはお料理が本当に上手ですよね。ブラウニーもキャラメルも絶品です。しかしリョウをくっコロな目にあわすなど、私たちが絶対に許しませんよ。下手なオヤジギャグは必要ありませんし、要らぬ心配は無用です」
ぐー。グー。ぐぐぐぅー。
?????
「学校の寮でも自炊していたの。でも二人共辛辣ね。ちょっとした冗談じゃない。それよりさっきから聞こえる音は空耳なの? もしかしてお腹がすいているの? 」
振り返るとお菓子を食べきり机に突っ伏す侵入者さんの姿。しっかりとわかるくらいに、お腹が壮大なリズムを奏でている。訪ねると侵入者さんはもう丸二週間ほどパンと水しか口にできず、しかも一週間程前には、宿にも泊まれなくなっていたという。
クンクン。
そうね……確かに匂うかも……
「仕方がないわね。ご飯を用意してあげるから、先にお風呂に入りなさい。着替えは私のでも大丈夫そうよね。悪いけど男物の下着はないわ。え? 下着は持っているの? それならば汚れた服も全部出して。今洗濯すれば直ぐに乾くわよ」
私は侵入者さんからリュックを受け取り洗濯物を取り出し、さらには彼を裸にひんむきお風呂に放り込んだ。でも訳有りなのかしら?かなり身なりの良い服を着ているし口調もそんな感じよね。是松茸の依頼も多分彼よね?依頼料の金貨は有るのかしら?まあ取り敢えず食べさせなきゃ駄目よね。
厄介事にならないと良いけど……
***
ほらやっぱりね。身綺麗にしたら中々の有望株よ。何と言うか美少年タイプだから、女装をしたら美人になりそうなタイプ。口の悪さを除けばね……
「おい! 是松茸を寄越せ! ギルドに一ヶ月も依頼を出していたんだ! 報酬は金貨五枚だぞ! 冒険者には大金だろうが! 何故依頼を引き受けんのだ! 」
ごいん!こう言うお馬鹿なくそガキには躾が必要よね!侵入者さんは痛そうに頭を抱えつあ涙目になりながらも、私をジッと睨み付けている。
「初対面の人には先ずは名乗る。そしてお詫びやお礼よね? 頼み事には礼を尽くす。人間としての基本です。子供でも同じです! 」
「いっ痛い……オヤジギャグを言う様な奴に言われたくはない。是松茸を寄越せ! 拒否するのならば貴様など、この国にいられなくしてやる! それに僕は十八才だ! もう子供ではない! 」
こやつめ。中々の悪よのう。
「これ? これが欲しいの? これは間違いなく是松茸かしら? もしかしたら偽物かもしれないわよ? あら? これ松茸? これも駄洒落よ。下らないけど面白いわー」
「「「…………」」」
酷い……皆してそんなに呆れなくても良いじゃない。でもこの子が私と同じ年なの? 小柄なのかしら?
え?ラスどうしたの?えー。それマジなの?事実なの?只の言い伝え?それでチンマイのね。それが事実ならば許せないわね。
なるほど……レインとラスはこの子のわけありに気付いていて侵入させたのね。
「はいはい。訳は理解しました。しかし試練を他人任せにするのは不味いのでは? しかし無駄な儀式に試練よね。貴方は運良く生き延びたけれど、成長出来ずに死んだ子もかなりいるのではないの? 隣国も無駄な事をするのね。あ! 今のコロッケにはお肉を使っていたけど大丈夫なの? 」
「我が国を愚弄するな! 肉絶ちは十才から試練に出る前までと決まっとる。それに肉の代わりとなる補助的な栄養食が教会で売られている! それでも死ぬのは根性が足らんのだ! 」
「その儀式は平民も受けるのよね? 魔力の多い子供は強制なのよね? 貴方は多分貴族でしょ? あり余るお金で購入した栄養食を沢山食べてもそのサイズなの?どう見ても栄養不足で成長が遅れている様にしかみえない。同じ年の女の私より小さいわよね? 死んだ子たちは平民なのではないの? 本当に栄養食は充分に行き渡ったの? 無料ではないのよね? しかも最終試練が各国の珍品採取って、自分たちが食べたいだからではないのかしら? 悪徳生臭坊主の気配がビンビンよ」
「大神官様を愚弄するな! 」
「ではでは今私にこれらの情報を与えてくれた、ここの二人に聞いてみましょう。隣国の儀式は本物ですか? 意味は有りますか? 」
「ないな。アホとしか言えん」
「有りえませんね。痩せこけて覇気のない不味い魔力が好きな聖獣など、どこを探してもいませんよ。私ならばその思考と行動に気持ちが悪くなり、国自体を抹消したいくらいです」
「まさかソイツら…」
最初から堂々としているのに気付かなかったのかしら?しかしどの世界も宗教は怖いわ。宗教を必要な人は確かにいるけど、人間界では神は目には見えないし、その宗教を説くのは人間よ。神は腐らなくても人間は腐敗するからね。
ではそろそろ名乗って貰おうかしら?私の躾は厳しいわよ。ビシバシ行っちゃうからね。
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