城下町2日目・コレ松茸&くっコロっけ。
私は朝一でギルドへ仕事を貰いに、レインとラスとやって来ました。はむちゅ改めレインと、アラケル改めラスと一緒よ。しかしギルマス様?呼出しが早すぎませんか?まだ朝の七時ですよ?私は正直眠いです……
うわっと!私がギルドの扉を開けると、仕事を貼り出している掲示板には人!人!人!の山が!
「…………」
そう言えば朝一で仕事を探さないと、目ぼしい依頼はなくなるってテンプレも有ったわよね。ギルマスに直接仕事を貰えるのは、ある意味ラッキーかもしれない。あのカオスの中に突っ込みたくはない。
さてさて初仕事は何でしょう?やはり初心者のテンプレとしては、薬草摘みは外せないでしょう。鑑定使えるからレア薬草もゲットとかね。
ギルマスさんー!お仕事下さいなー。
「え………」
いきなりそれはないでしょう?
「ゴブリンはいやー! いきなり討伐何て無理よ! しかもゴブリンとオーク? それってあれでしょ? 女騎士が、くっ! 殺せ! とか言う奴! 」
「まったく今更何を言っているんだ? 昨日大量殺略したばかりだろ? 山側にゴブリンの集落が有るんだ。更には最近、近くにオークの集落も出来てしまった。奴等は性質が似ているんだ。徒党を組まれ街を襲われたら大変な被害がでてしまう」
「昨日は緊急だったし魔物も遠かったから! 私は魔物何て初めて見たし、戦うのも初めてなの! 」
「流石に私も鬼ではない。リョウには昨日の様に、遠くから広範囲の攻撃魔法を使って貰いたい。それに聖獣様がいるんだ。守って貰えるだろ? 」
でも怖い……ついついレインとラスを見てしまう。
「頼む。被害が出てからでは遅いんだ。特に女と子供は嬲りものだ。それ位は解るだろ? 」
「解ります……でも最初は薬草摘み位からだと思い心構えがまだ……」
「薬草摘みがしたいのか!? ならば一石二鳥だ。あの山は素材の宝庫だ。だから奴等は巣を作った。一発かニ発ぶっ放したら、気が済むまで摘んでいろ!
これが無事終われば、暫くのんびりすれば良い。おばちゃまたちも話をしたいとウズウズしている。昨日は時間がなかったからな」
薬草摘みにそこまで拘ってはいません。テンプレだと思っていだだけだし、正直ゴブリンたちが怖いだけよ。だっていきなり魔物を倒すのよ?
「それはまさか私たちも戦力に入っているのですか? 私たちはリョウの言う事しか聞きませんよ? 昨日はリョウの頼みだから力を行使しただけです。例え討伐が失敗に終わっても、私たちはリョウだけは逃がします。他は知りませんが構いませんか? 」
「そうだ。主の魔力で動く我らは、死にはせんが主が倒れたら共倒れだ。主のみが至上なんだ。他の奴等までの面倒は見切れん。確かに我らは主を守る。だがそれ以上は求めるな。それ以上は主次第だ」
レイン……ラス……
聖獣って意外に頑固なのね。守ってくれるのはめちゃ嬉しいけれど、ラスの最後の一言は余計よ。それ以上が私次第ならば、出来るのに逃げたら人でなしみたいで嫌よ。まあ見捨てて逃げられる性格ではかいと自分でも思うけど……
「それは構わない。確かに聖獣様は主次第だ。過去の聖獣様は主の命で一国を滅ぼした事も有る。確かに腐りきった国だったそうだ。しかし諸刃の剣だ。聖獣の主は心強く有らねばならん」
ちょっとー。然り気無く私にプレッシャーかけていませんか?ギルマスも案外腹黒いわよね。
「はいはい! 解りました! 腹黒い三人に囲まれて、主はプルプルと震えております! 取り敢えず着替えて来ます。流石に丸腰では怖すぎます」
「魔術師は杖が標準装備だが、どうやら必要はなさそうだな。なにか身を守る防具は有るのか? 」
「お城の買い物時におばちゃまの息子さんのお店で、物理的攻撃を阻むインナー上下と、魔法防御のローブを買いました。後はもしもの時の短剣も。どれも高価ではあるけど、超お勧めだと勧められました」
「その店なら安心だ。なら直ぐに着替えろ。着替え次第出発するぞ! 」
ギルマスに顎で部屋の隅に行けと追い立てられる。確かに荷物は全てインベントリに入っているけど、此処で着替えるの?衝立しかないわよ?私が抗議の視線を向けると、はよ行けとばかりにシッシと追い立てられる。まあ全部脱ぐ訳でもないし我慢しましょう。あらこの気配は?
フワリと私の周囲をなにか、半透明の膜が包みこむ。
「女性にそんな衝立一つは失礼ですよ。この膜は結界に識別阻害を組み込んでいます。此方からは見えません。安心して着替えて下さいね」
レインってば男前!超ナイスよ。
「冒険者は気にしないぞ? 」
「冒険者でも女性ですよ。もしかしなくてもギルマスは独身ですね? 気遣いの出来ない者はモテませんよ」
「ぐぬぬぬぅ……」
レイン!気遣いをありがとう。然り気ない気遣いってス・テ・キ。私も旦那様には然り気ない気遣いを求めるわ。もちろんたくさんの愛を返すわよ。さあ着替えたわよ!
私たちは転位陣があると言う部屋から、集落の有る山の裾野に転位した。これは緊急時用にと、各ギルドに設置されてるそう。人員はすでに全てが待機していた。先に到着し私たちの到着を待っていたみたい。
ゴブリンとオークたちはまだ寝ている。寝込みに魔法ぶちこみ、残りを殲滅する作戦よ。
さあ。魔物の血にまみれる戦いが今始まる……
***
なーんて事はなかった。
只今私は大きなカゴを小脇に抱え常時鑑定を展開しながら、薬草摘みに励んでおります。時折現れるカラフルなスライムたちと戯れ癒される。スライムももちろん魔物なの。但しこの辺りのスライムには害がないと聞く。たくさんのスライムたちが楽しそうに集り、ぷよんぷよんと弾んでいる。なんだかとてもなごむわね。人懐こくて背中に乗って来る子まているのよ。ついついムニョムニュ弄り倒して遊んでしまう。
討伐はどうしたって?はい。冒険者の方々が総出で、只今素材等を回収し後始末中です。私はギルマスの言う通り、昨日の雨降らしと雷を落として終了です。残党も弱ってる上に残りは二十匹程。即終了してしまいました。
オークやゴブリンから取れる魔石や素材。そしてお肉。お肉は街の皆に分配し残りは売却。魔石や素材もね。それらの売却金は後程ギルドが各自に報酬として分配してくれる。
「よっ! 念願の薬草摘みはどうだ? ん? 中々頑張っているな。レア物もチラチラ入っている。大満足だろ? そろそろ後始末も終わる。今回は大きな怪我人はいないが、やはり多少の怪我人は出ている。すまんが回復してやってくれ」
「…………」
「そんなに薬草が摘みたかった訳ではないんです!
余りからかうと大笑い茸を食べさせますよ。でも大満足です!私たちは是松茸ね。変な名前だけど松茸なのよ。芳醇な香りにコリコリとした食感。超高級茸だって!もったいないからこれは売りません! 食べちゃいます! ご飯にお吸い物に土瓶はないから茶わん蒸しー。楽しみだわ」
「こら食べるな! 依頼で一本金貨五枚だ! 貼り出して既に一ヶ月近い。何本だ? 何本見つけたんだ! 」
「教えませーん。お金より食い気でーす。異世界の松茸楽しみー」
「ぐぬぅ。まあ良い。取り敢えず回復を頼む。薬草類の鑑定は明日にする。今日はオークとゴブリンの後始末で終わるな。ほら行くぞ! 」
「は~い。スライムちゃんたちバイバーイ! 」
あっ! あの石の下にも……
えへへ。またまたゲットよ。うふふ。
***
ギルドに戻り、昨日の残りの報酬を貰う。昨日の討伐は金額に換算するとこの街では払いきれない。でな訳で街からの感謝として、現物払いとして可愛らしいお家を貰ったのです。これは私への報酬。ワイバーンも倒したからこれでも相場よりは安いらしい。
けれど私が一人前になるまで、ギルマスがサポートしてくれるためここまでとなる。私的にはワイバーンは偶然だし、お家を貰えただけでも充分なのにね。
今から貰う分は皆での分配分。ブラックバッファの肉とワイバーンの肉。それらと大金貨ニ枚でした。今回は肉は街中でわけ、ワイバーンの素材売却分を被害に有った隣町の復興の為に寄付をした。その為に今回の報酬は少な目だと言われる。
「となり街の被害が甚大で、復興にかなりの資金が必要なんだ。寄付でかなりの金額が飛んだんだ。思ったより少なくてすまんな」
この国の物価は日本とほぼ同じ。塩、胡椒、砂糖等が高い位。でもバカ高い訳ではない。大金貨ニ枚でも約二十万よ!お家もゲットしたし充分よ!
貨幣の単位は……
銅貨1枚=100円。銀貨1枚=1000円。金貨1枚=10000円。大金貨=100000円。相当ね。銅貨以下はなく、安い売り物は銅貨単位で、数個に纏められて売られている。
「充分ですよ。助け合いは必要ですよね。それであの? 魔物の肉って普通に調理をするんですか? 」
普通の家畜と同様だそうだ。バッファは牛肉。ゴブリンは豚肉。オークは高級豚肉。ワイバーンは鳥のささ身みたいな感じ。話を聞いたおばちゃまたちが試食にと焼いて来てくれた。魔物の肉が普通に流通し、家畜の肉の方が高級品になるんだって。
さて今日はいつもよりも早いけれど、さっさと帰宅をします!そう松茸よ。松茸!でも松茸はやはりゆっくり夜にだよね。昼はバッファの肉でコロッケにでもしようかな?サラダに使ったじゃが芋を蒸かしてつぶしたものがまだまだ沢山有るのよ。ビーフコロッケ擬き!贅沢だよね。残ったらサンドイッチにしても良いから、焼きたてパンを買って帰りましょう。
「ではでは皆様お疲れ様でした。明日また参ります。今日はこの辺で失礼しまーす」
レイン、ラス帰ろうー!
ドアを引こうとしたら、急に開いて扉が顔面直撃する。
「はっ鼻が……顔が痛い。女優は顔が……」
「こら! おい! 貴様か! 是松茸を食べると言うバカは! 寝るな! さっさと出せ! 私が買い上げてやると言っているのだ! 」
ブンブン振らないで!気持ちが悪いー。 鼻も痛いわよ!
ふっと体が浮いたと思ったら、私はレインに抱えられ、瞬く間にその場から消え去っていた。
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