城下町1日目・テンプレ三昧と赤い屋根のお家。
うーん。やはり町は活気の有るのが一番よね。おばちゃまパワー炸裂の市場でお買い物を済ませ、私たちが帰宅したのは、こじんまりした赤いお屋根のメンヘンチックな可愛いお家。赤ずきんちゃんとかが住んでそうな、そんな可愛いお家の一室で、私ははむちゅとティータイム中。暫くしたら夕食を作りましょう。
アラカル改めラスは只今床の雑巾がけ中。実はお掃除は既に魔法で終わらせている。なのにラスが暴れて床を汚したの。我が儘でできた汚れに魔法は使いません!
「リョウ。このブラウニーと言うお菓子はショコラですか? 甘さ抑え目で大人の味ですね。手作りとは恐れ入ります」
「ううん。面倒だけど溶かして混ぜて焼くだけだから意外に簡単なの。でも砂糖もショコラも高いのよね。こんな所でも異世界テンプレ発動よ。砂糖と塩がバカ高いの。 キャラメルも簡単だけど砂糖の塊なのよ。手軽には作れないわ。この袋の中なら減らないから良いけど……」
「その袋に後から入れたお弁当も、食べてしまったらもとに戻ったのですよね? ならばお砂糖も可能なのではありませんか? 」
「はむちゅそれナイス! まったく気付かなかったわ。そうよね。使いきったら元に戻るかしら? 後で試してみるわ! 」
「甘いものより魔力をくれ……」
「…………」
「はむちゅは平気なのにラスはどうしてダメなの? 魔力線を繋いでいれば共有出来るのよね? 」
「ふれ合いたいのだ」
「…………」
***
ラスはともかくスキンシップを好む。この世界の聖獣は人間と性的な関係を持つ事も可能だそう。しかしそれは快楽としてのみ。種族の違う恋愛は不可能。なぜならば聖獣には死の概念がない。いわゆる不老不死であるため、生殖する必要もない。そのため他人を愛するということがなく、主との信頼関係は築けども、愛という概念が薄い為に愛情には至らない。それが聖獣界の常識だという。人は先に死ぬ。その後殆んどの聖獣は、再度魔力の波長の合う新たな主をさがす。しかし稀に聖獣界に戻り、聖獣同士で番になる者がいる。
はむちゅは模範的な聖獣で、学園でも優等生だったそうだ。しかしラスはかなり人間臭い。その為かスキンシップを好み嫌がられる落ちこぼれだった。
「ラス? ふれ合うなら幾らでもモフモフしてあげる。でもね。キスやそれ以上は無理よ。私の住んでた所ではキスは挨拶ではなかったのよ」
「モフモフでも構わんが刺激が足らんのだ」
刺激って何よ!いやぁー。
「ラス。聖獣本来の姿でモフモフして貰ったらどうですか? タヌキでは小さいのでは?
貴方の聖獣姿はかなりのもふもふ具合です。大きければ満足感が出そうな感じもしますよ」
「ふむ。はむちゅも中々良い事を言うな。確かにふれ合う面積が増えれば満足出来そうだ」
えっ!もしかして私の考えすぎなの?ラス疑ってごめんなさい。大きいモフモフは嬉しいわ。はよっ!はよ変身して!元の聖獣姿ってどんな感じなの?めちゃ楽しみよ。ビックもふもふウェルカムー。
「ウキャー! ラス凄いー! 可愛いー! トラさん? 白銀のトラなの? 可愛いだけではなく、もの凄く格好良いじゃない! もー最初から見せてよ! これは離れたくないわね。毎日一緒に寝ちゃうわよ! うわーふわふわでモフモフーん」
私は全身でラスを愛でる。最後にはでろでろに惚けたラスの腹の上に、私は突っ伏して寝ていた。起きたらはむちゅと目が合った。毛布がかけられている。はむちゅありがとう。ラスはまだダラリと脱力して転がっている。
醜態を晒してしまいました。もの凄く気不味い……モフモフがいけないんです!
***
「リョウはふわふわな毛並みが好きなのですね。ラスも満足した様で何よりです。ラスは寂しがりやなのです。私もですが通常の聖獣には親はいません。聖獣界の聖なる泉の畔で、神の導きにより自然発生します。聖獣界で番う場合も有りますが、殆んどの聖獣は人間界におり主につかえます」
普通の聖獣には親がいない?ならばいる場合もあるの?
「聖獣は番っても子は殆んど産まれません。聖獣は不死のために出産は必要ないのです。しかしラスは聖獣同士の番から産まれました。しかも母親は出産で弱り数ヵ月で死亡し、父親はその後を追いました。ラスは短い間ではありますが、母の温もりを知ってしまいました。私の様に初めから親がいなければ、知らずに苦しまなかったのでしょうね」
ラス……
「良し! ならば私が存分に愛でましょう! 白銀のトラ! モフモフ加減が素晴らしいです! またまたテンプレ発動のモフラーよ! ちなみにはむちゅもトラなの? 」
「いえ。私はモフモフでは……」
はむちゅは空色のペガサスになった。背中に純白の大きな翼。翼が有るからユニコーンではかいのよね?角もないしね。でも凄く綺麗。
はむちゅは気にもしない様に、聖獣には親がいないと言いきった。知らないから苦しまないって……私にはラスの様に、死んでしまったけれど親がいた。元から親がいないと気持ちは、きっと一生解らないと思う。
でもね。知ってしまい苦しいと感じるのならば、知らないから苦しく感じるる事も有ると思う。はむちゅがそうであるかは私には解らない。でも今は寂しくないよね。私はニ人と今を楽しく過ごしたい。
「素敵すぎね。はむちゅらしい。是非ブラッシングさせて欲しいわ。でも神々しくてはむちゅとか呼んだらバチが当たりそう。人型の時もはむちゅは変よね?うーん。あ! レインじゃダメ? 空色にも合いそう。ねぇ。レインと呼ばせて」
はむちゅは人型に戻り、私に向かいニッコリと微笑んだ。
「レイン。良い名ですね。是非レインと呼んで下さい。でも私は雨の日でも、ョウを乗せて空を飛べます。聖獣時は雨とは無縁なのです。ペガサスは晴れ間を呼びます。是非乗って下さいね」
「凄く楽しみ。レインありがとう」
おや?ようやくラスも起きたわ。では晩御飯の用意をしましょう。ニ人はゆっくりしていてね!
***
何て感じて私たちは、到着初日から住みかをゲットし寛いでます。何としっかりキッチンにお風呂も付いてるんです!しかも平屋ながらも3LDKもあるちぬ。お風呂は王侯貴族だけ!何ておきまりすぎの異世界テンプレが発動しなくて良かった。タライで体拭くだけでは絶対に嫌よ。
夕食はオムライスにポテトサラダにオニオンスープ。マヨネーズもケチャップも有ったの。皆品名は違うけど鑑定すれば、なにそれと同じ品とかの説明がでてきる。又はなんちゃらの代替え品などと鑑定される。マヨネーズで一儲け!みたいな調味料チートはなかった。私的に内政チートも無理でしょう。普通の女子高生にはムリゲーすぎます。
市場はおばちゃまパワーでめちゃくちゃ楽しかった。お城に出店しているお店の本店がたくさん有るの。表通りにはお世話になった洋品店のおばちゃまのお店と、息子さんの雑貨やさんと言うか何でもやさんが並んでいた。
実はこんなにまったり出来ているのは……
城下町の入り口で門番さんたちに歓待をうける。どうぞこちらへとばかりに手を引かれ、ギルドに行くとまたまた歓待を受けギルマスと意気投合。初ギルド入り口でのテンプレな初心者虐めも発生せず。ビックリして目を真ん丸にしていたら納得。あれもこれも全てお城の厨房でのおばちゃまたちの紹介状のおかげだったの。おばちゃまたちが色々手配してくれていた。私には肝っ玉母ちゃんがたくさんいるのね。何てギルマスと話をしていたら!
そのギルドにおばちゃまたちが雪崩れ込んで来たのよ!そこでハプニングが有り可愛い住みかもゲットてしたの。でもね?一番の驚きは、おばちゃまたちがギルドの諜報員だった事。お城にはかなり潜り込んでるそう。お城は出奔した王太子が産まれた辺りから、かなりきな臭いんだって。
「王族は大丈夫なの? 」
「平気さ! ライドもようやく本来の姿に戻ったし、クリス王子もビシバシ更正中だ。みんなアンタのおかげさ! 」
「私ライドさんを知りませんし、何もしていませんよ? 」
「そっくりさんは知ってるだろ! 後はヤツの甲斐性だよ。本人に聞きな! 」
?????
おばちゃまたちは、直ぐに解るから大丈夫だと言う。気にはなるけどまあ良いや。さあ買い物をしてお家に戻り、夕食はゆっくりお家で食べましょう。
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