聖女様は最強よ!〔アニーside〕
私はアニー。この国の公爵家の長女。第二王子クリス様の婚約者。我が国の成人は十五才。王族や貴族の子供たちは、殆んどが十才前後で婚約し、成人後の十五才~十八才で結婚する。
私は十才の時に三才年上のクリス王子と婚約をした。私とクリス王子とは幼馴染み。私は小さい頃から優しくて素敵なクリス王子が大好きだった。だから婚約は本当に嬉しかったの。
実は私の最初の婚約者予定は、クリス王子の兄の王太子様の予定だった。しかし神からの神託が下り、近い内に聖女が異世界より遣わされるという。ならば次期王妃の座は空席にとのお偉方の考えにより、私との婚約は急遽変更になったのだ。私は正直嬉しかった。でもクリス王子はどうなの?王子の周りにはたくさんの女性がいた。多重婚が認められているこの国では、一夫多妻が圧倒的に多い。特に王族はハーレムを作り、後宮を持つ者も少なくはない。でも正妃は私。それだけが私の拠り所。私はクリス王子との、婚約者としての初めての顔合わせをドキドキして迎えた。
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しかしそんな杞憂は直ぐに晴れた。クリス王子は可愛らしい私を小さい頃から好きだったと言ってくれた。会える日には優しいキスに贈り物。私は本当に幸せだった。しかしある日私は、クリス王子が女性と半裸でキスしてる場に居合わせてしまう。流石の私にも何をしていたのかは理解できた。呆然とする私にクリス王子は囁く。
「アニーごめん。君が大好き過ぎて手が出せない。だって君はまだ子供だろ? 君が怖がりそうで触れられなかった。大丈夫。君以外は割り切った相手だ。相手も同じ。子供はアニーとの子しか欲しくはない」
私が子供だから?なら子供じゃなければ良いの?怖がらなきゃ触れてくれるの?他の人には触れないでいてくれるの?確かにクリスは既に成人している。性的な興味も有るのだろう。だから他の人と……私はありったけの勇気を出してクリスにしがみついた。
「お願い。他の他人を抱かないで。私は怖くない。クリスになら何をされても嬉しい」
その夜私はクリス王子に抱かれた。それからは殆んど毎日の様に閨に呼ばれた。私はあらゆる事を試された。ハッキリ言ってクリス王子は変態だと思う。でも私が嫌がればまた違う人の所へ行ってしまう。それだけは嫌で無茶な要求をものみ続けた。
しかしクリス王子は私に隠れて他の人と遊んでいた。誘われると断れないと言い訳をする。優しいと思っていたけど、それさ優柔不断でも有った。でも愛してるのはアニーだけだと……正妃になって僕の子を産んで欲しいのは私だけ……怒ってはいても、ついつい甘い言葉にほだされてしまう。すると更に行為はエスカレートしてゆく。私を呼ぶ時抱くのは私だけだけど、室内に第三者を同時に侍らせるまでになっていた。でもクリスは私以外には本気にならない。私はその言葉を信じていた。
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聖女召喚の前日に、私はクリス王子と共に王様に呼び出された。王様の話によると、聖女召喚を反対していた王太子様が失踪されたとの事。その為一時的にだが、召喚された聖女の婚約者をクリス王子にする。これはあくまでも表向きの事。私との婚約は解消にはならない。心配はいらないとの話だった。クリス王子も心配しないで大丈夫だからと、私の頭を撫でてくれた。
召喚の儀式は無事に終了した。クリス王子は私を抱きしめキスをしながら、男みたいなデカい奴が出てきた。胸の谷間すらないと憤慨している。聖女も生意気でいつの間にか逃げ出してたと怒っている。でも仮の婚約なのよね?それなら気にする事はないのでは?しかし事態は翌日急展開した。
私はクリス王子と共に、何故か宰相様に呼び出された。呼び出された部屋には、私たちが婚約の儀をした際の魔術師がいた。到着すると問答無用に腕を取られその魔術師により、クリスと私の婚約の証の腕輪が外された。
「アニーには悪いがこれは王命だ。聖女とクリス王子の婚約を正式なものとする。そなたはニ人の婚姻後、側室として後宮入りして貰う。王子もすでに了承済みだ」
私が驚きクリスを見ると、ばつが悪そうに目を反らしてしまう。どうして?昨日と言ってる事が全く違うじゃない!
「クリス王子……どうしてなの? 」
「すまない。アニーは大好きだ。私の気持ちは変わらない。ただ兄上が見付からなければ、僕が聖女と結婚するしかないんだ……」
なら何で一時的になんていったの!それにまだみつかるかも知れないじゃない。まさか聖女がクリスを気にいって誘惑したの?それで強引に婚約したのね!私は何も考えられなくなりその場を走り去った。
廊下を走る!淑女のマナー何て知ったことではない。すると前から知った顔が歩いてくるのがみえる。あれって多分ルードよね?彼は確か聖女の護衛をしていた筈。なら後ろの女が聖女なのね。
「…………」
ちょっと!クリスの言っていたこととまったく違うじゃない。確かに女性としては少し背は高いけれど、バカでかい訳ではない。男みたいって言うけれど、凛とした中性的な美人よ。胸だって凄いボリュームじゃないの!あの胸フェチめ!もしかしなくてもこれが原因なの?
「こら! そこのデカパイ女! 私のクリスをたぶらかさないでよ! クリスは私のなの! 私もクリスのものよ。貴女の入る隙間はないわ! 」
私は溢れでる怒りを言葉にのせ、ついつい怒鳴り付けてしまった。きょとんとする聖女。しかし話を聞いて驚愕する。実は聖女はクリス王子の名前すら知らなかった。しかも気さくで話易く、一方的に怒鳴り付けた私を怒りもせず、クリス王子の目を覚まさせる!とまで言ってくれる。一体どうして?私は彼女の強さが羨ましかった。
***
そして彼女は約束通りにやってのけてくれた。パーティー会場にいた人々は、彼女の素晴しさと神々しさに皆目を見張っていた。
【神に愛された真実の愛を説く聖女様】
会場内で皆がそう囁く。でも私とルードは知っている。声には出さず泣くリョウの姿を。止めどなく静かに流れ落ちる涙。元の世界を思ってなのか心が痛む。だってリョウは二度ともとの世界には戻れない。大切な人たちに合うこともできない。
なのに……
リョウ……本当にありがとう。私はクリスを愛している。でもいいなりになるだけの女じゃ駄目なのね。私の為に動いてくれた友人や貴女の為にも強くならなきゃ!
リョウが戻してくれたこの腕輪に誓います。
貴女は私を友人だと言ってくれた。私も貴女の友人だと胸を張りたい。私も精一杯頑張る!
友人としてリョウの幸せの報告を待っています。
でもルードってば知らないわよ?結局本当のことを言わなかったのね。私ですら真実を知り驚愕したのに、後で聖女様にバレたら怖いわよ。
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