お城7日目・婚約破棄はざまぁ?聖女は去ります。
光溢れるきらびやかなダンスホール。中心には二組の男女。一組は可愛らしくドレスアップしたアニーとクリス王子。もう一組は艶やかに装った私(衣装係談)と、ルード扮する王太子。クリス王子は私をチラチラ見ている。しかし完全にスルーを決め込む。
私はクリス王子にもルードにも勝利した。勝利後のダンスは楽しいわね。聖女様と踊りたいと、皆が順番を待っている。この主役のダンスが終わればフリータイム。一斉に舞踏会のスタートよ。参加者は誰でも自由に踊れるし、婚約者がいなければ誰とでも踊れてしまう。私もガンガン踊ります。
何故なら私!聖女は現在フリーなのですから!
只今、優しい旦那様を大募集中。ちなみに神様のチートはビシバシ効いています。害虫はバッチリ排除され、私に近付くと電撃が走る様です。皆驚き離れてゆきます。しかしクリス王子とルードに、電撃が走らないのが不満なのよね。
さあお義理のダンスは終了よ!イケメンにシブメン。気の合う方なら何方でも!万々お誘いウェルカム。初めてのダンスパーティー踊りまくるわよ。張り切りまーす。
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聖女のお披露目と婚約発表の場は整いました。近隣諸国の来賓に国内の有力貴族。会場に集まる人々の前で、王様が高らかに宣言した。
「この者を聖女と認めわが息子のクリスとの婚姻を認める。この場にて正式な婚約とする」
拍手喝采の会場。別に聖女と認めてくれなくても構わないのです。婚姻も認めなくてOK。私は頼んでいませんよ?何て突っ込みは今はなしね。さあ行くわよ!
アクションスタート!
私と王子の回りに人垣ができ、皆が口々にお祝いの口上をのべる。お偉い方々の波が引くと、若者たちがお祝いを述べに集まり出す。アニーさんと友人たちもやって来た。アニーさんが微笑みながら祝辞を述べる。王子はだんまり。するとアニーさんの友人たちが私に、アニーさんを虐めないでくれと話し出す。それを止めるアニーさん。王子は未だに何も言わない。
「私は虐めなど致しません。何か証拠が有るのでしょうか? 」
友人たちは私が直接手を下した証拠はないと言う。しかし聖女を崇める貴族が手を下している。私が指示していると口々に訴える。貴族の名前も出した。もちろんこれは私も承知済み。聖女かぶれの貴族は本当に存在している。しかし私にかぶれてる訳ではない。聖女と言うブランドかぶれなの。現に数代前からの事らしいからね。今回もアニーさんを引摺り下ろそうとしていたらしい。はむちゅに調べて貰い判明しました。
貴族名が出た為か、段々と騒ぎが大きくなる。
「クリス? 私は虐められてなんていないわ。聖女様とはお友だちよ。私はあなたのそばにいられたら、それだけで幸せなの」
アニーさんの言葉に静まり返る場内。アニーさんもお上手!真実を述べているだけだけど、虐めを疑う人たちからは、聖女を庇い王子を愛する健気な乙女にしか見えません。そして私はその二人の邪魔をする当て馬。いわゆる悪役令嬢ポジ。渦中のお二人は私をガン無視。しっかりと抱き合い二人の世界に浸っています。
アニーさんを抱き締めた王子が、突如高らかに宣言を始めた。
「私は聖女との婚約を破棄する! 弱き者を虐げる様な女と結婚など出来ない! 私はアニーと結婚する! 我が国に聖女など要らん! 貴様は我が国から出てゆけ! 追放だ! 」
静まり返る会場。アニーさんは王子の追放発言にオロオロとしている。友人たちも心配そうに私を見ているる。王子はそこまで言っちゃいますか?聖女を否定した上、国外追放まで言わなくても良いのでは?いくら頭にきたとはいえ、あなたにそこまでの権限がないこともわからないの?アニーさんやお友だちは理解している様です。異世界人の私でさえ理解しているのに……まあこれはテンプレですので私は別に構いませんけど?それはさておき、そろそろ私の出番ですよね!
反撃開始よ。もちろん倍返しよね。
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私は周囲を見渡し適当な場所を探す。あ!王様の横が空いているわね。雛壇だし目立つしあそこにしましょう。しかし王様はなぜなにも発言しないの?ならば私は逃走許可を戴いたと判断します。これは追放発言にまったをかけない王様のミスですよ?まあ国まででる予定はありませんけど。私はスタスタと王様の隣へ歩いてゆく。そして周囲を見渡し話しを始めた。
「王よ。今の騒動に対して貴方の発言がないことを遺憾に思います。勝手に私を異世界から誘拐し、戻せないから聖女として国に尽くせ。さらには王子と婚約しろとは、さすがに勝手すぎるのでは? しかもこの暴挙です。私はこの国の王族を敬えません。追放上等ですわ! 」
王の周囲を囲むお偉方が不敬罪だの、発言の許可をとれなどとの罵声を飛ばしてくる。しかし王様は沈黙を貫いている。
「私は聖女として認めて貰わなくても構いません。聖女のつとめなどしたくもありません。神も囲い込もうとする王族の話を聞く必要はないと仰いました。私は自由にして良いそうです。またアニーとは彼女も言われた通り友だちです。私はその友の不幸を望んでもいません」
私ははむちゅに調べて貰った、聖女派と言われる貴族についても話す。彼らに私はいっさい関わってはいない。なぜなら会ったこともないのだから。しかもこれらの派閥は、私が聖女として召喚される前から存在している。つまり私ではなく聖女という存在を神聖化しているだけ。もちろん私は個人的にも、アニーさんを虐めたりはしていない。それらを順序立てて説明してゆく。
王子は怒りに任せて大変な事を仕出かした事に、ようやく気付いたみたい。顔が青褪め拳を握りしめブルブルと震えている。確かに言い過ぎよ。追放は余計よね。私も王子がそこまで発言するとは思いもしなかった。まあそれだけアニーさんが好きなのよね?まあ変態みたいな所は心配だけど、アニーさんが受けとめているならば私が口を挟むことはできない。王様からのゴリ押しがあったのかもしれないけれど、アニーさんを愛しているのならば、しっかりと私との婚約を拒否しなさいな!
聖女派と呼ばれる貴族たちは会場から引摺り出され、現在は別室にて尋問をされている。やがては牢へ連行されたそう。
「私は私の身の潔白が皆様に伝わればそれだけで構いません。アニーさんは素晴らしい女性です。沢山の良い友人にも囲まれていますし、王子を一途に愛しています。王子はどうなのですか? この近隣諸国の重鎮方の揃う、聖女のお披露目という公の場で、高らかと婚約破棄を宣言する位です。私は潔く身を引きますので、どうぞお幸せにおなりくださいませ」
アニーが涙を堪えて私に向かい駆け寄ってくる。しがみつき泣きじゃくる彼女の背を撫でながら、私はいったん婚約破棄の芝居の幕をひく。
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ざわめきが収まらない場内。さあ最終アクションスタート!神々しく大袈裟に締めるわよ!
「皆様! 只今神様より神託が御座いました。神はクリス王子とアニー姫の婚約を祝福するそうです。その証しとして私の手首の婚約の腕輪を、アニーさんにお返しして欲しいそうです」
「「そんなバカな! 誓いの腕輪は婚約をしたニ人に嵌めた、魔術師が解除せねば外せないはずだ! 」」
王様と宰相が見事にハモっています。しかしようやく王が言葉を発しましたね。今まで対応を考えていたのかしら?
「アニーは泣き止んだ? さあ腕を出してね」
私は自身の手首にある腕輪に触れ、それらしい呪文モドキを呟いてゆく。もちろんこの呪文モドキはパフォーマンスよ。
「神の名を借り私は願う。この世の理よ。真実の愛に答えよ。正しい伴侶に幸福を運べ」
腕輪は光り私の手首からパキンと外れる。外れた腕輪をアニーの腕に添わせパチンとはめる。もちろん光るパフォーマンスつき。アニーの腕が光り輝き周囲の人々が息を飲む音が聞こえる。私は手でクリス王子を招き寄せアニーと並ばせる。さらには王の横にいたルードを呼び、しっかりとはまり外れないことを確認させた。
「皆様。ご覧の通りです。神はニ人を祝福しました。もはや誰にも邪魔は出来ません。神より王子へ伝言です。愛する者を庇う気持ちが有るのならば、少しは自身の衝動を抑えよ。余りにも不遜な態度は見苦しく不快だ。女性を不幸にする者には天罰が下るとの事です」
一斉に会場内の電源が落ち周囲が暗闇に包まれる。頭上でパチパチと光が跳ねる。皆が天井を見上げると同時に電気がつく。皆は神の意思だと戦いている。
「皆様! 突然堅苦しくなり申し訳ございませんでした。私、聖女改めリョウです。只今よりフリーになりましたので、優しい旦那様を大募集致します。冤罪が証明された今、さすがに追放は撤回してくださるでしょう。しかし国外の方でも構いません。私はこの国に固執はしていません。皆様。ダンスのお申し込みをお待ちしています! 王様? そろそろダンスを始めてはいかかでしょうか? 」
「皆の者! 息子が騒がせてすまん。今日はあっぱれな聖女の采配と、クリスとアニーの婚約を祝ってくれ。もちろん聖女を追放などはしない。だが自由意思は認めざるをえまい。ではダンスを始めよう。主役の聖女のパートナーは王太子が努め、クリスとアニーとの二組でファーストダンスだ。さあ楽団よ曲を奏でよ! 」
ダンスホールに楽団の演奏が流れ始める。アニーとクリス。私とルードが中心に躍り出る。
さてこれにて一段落ね。しかし王様のあの言いようでは、王は聖女の囲い込みに入りそうね。影武者のルードと婚約とかになったら最悪よ。明日の朝には脱走しましょう。
皆にはお手紙を書いておきましょう。早起きをするためにも、今晩はさっさと寝るに限るわ。
私は婚約破棄の喜劇の幕をひく。カーテンコールはいらないわよ。
異世界生活……テンプレばかりで疲れマックスよ。はぁ……
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