お城6日目・私はメイド。おばちゃま最強。
私は只今おばちゃまたちと、お芋をムキムキしながら井戸端会議中。昨晩瞬間移動でリネン室に潜り込み、メイドさんのお仕着せをゲット。お城の朝は早い。何と早朝四時から調理場は動いていた。みな忙しくててんやわんや。潜り込んでもバレはしない。一緒にお仕事頑張りました。
どんなに多忙でもおばちゃまたちはお喋り好き。テキパキ手を動かしながらも、同時に口もペラペラと動いてる。もっぱなの話題は、聖女様と王子様の婚約話。さすがに誰も聖女(私)を見た事はない。だからか噂は凄い事になっている。
どうやら私は傾国美女。王子はすっかり逆上せて毎晩閨に侍らしてる。王子は聖女を正妃に。元婚約者のアニーさんを正妃ではなく側室として侍らす事に変更。しかし聖女に入れあげてる貴族等が側室などは要らぬと、アニーさんを排除しようと虐めをしている。しかしアニーさんは健気で、聖女に入れあげてる王子でも愛してると言う。そんなアニーさんの為にと、アニーさんの友人たちが聖女のお披露目の時に事を起こす。
「聖女様がしてる訳じゃないけど、虐めの事実等を公表して婚約破棄に持ち込みたいんだって」
あれ?ならば私はここに潜り込む必要がなかったのでは?
「でもそれ位で破棄に出来るのかい?それに虐めの証拠は有るのかい? 虐めだって聖女様がしてるんじゃないんだろ? それじゃ聖女様が否定し破棄を拒否したら無理じゃないか? 王子だって逆上せているんだろ? 」
私は否定も拒否もしません!冤罪上等。婚約破棄喜んで!
「それが王子はどっちつかずなんだって」
「あのすみません! そのアニーさんのお友たちに会えませんか? 私、聖女様のお付きのメイドをしてるんです。アニーさんの為の情報を差し上げたいです! 」
おばちゃまたちはビックリ!聖女様は本当に傾国美女なのかい?噂は本当なのかい?と揉みくちゃにされてしまう。どこの世界でもおばちゃまパワーは凄い。私は自分が聖女で有ること以外を全て話した。
「やっぱりね。アニーちゃんは本当に良い子何だ。ただ惚れた王子の下半身が弛くてね。でも聖女様が味方なら安心だよ! 直ぐにでも繋ぎを付けるよ。パーティーは明日の午後だろ? 善は急げだ! 」
数分後の厨房の控え室には、寝惚け眼の貴族子息が二名。おばちゃんパワーは凄いもんだね。
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う~ん。君たちそれではダメダメよ。計画が生ぬる過ぎる。アニーさんが幾ら公爵家の娘でも、下手したら皆で不敬罪よ。大体、証拠のない虐めでは話にならない。しかも私がしてい訳ではないからね。虐め事態も噂の域だし、もしかしたらそんな事実もないのでは?只の噂だったら目も当てられないよ。友人たちは本人に虐めの話を聞いた事はかいと言う。それでは尚更よ。私は傾国美女じゃないし、私に入れあげている貴族にも心当たりはない。うーん。
「もしかしてアニーさんはこの事を起こす事知らないの? それでは下手をしたら、関係のないアニーさんまで不敬罪になるわよ。悪い様にしないから私に任せてくれない?私はアニーさんにも真実を伝えているの。貴方たちは噂を出来るだけ広めて、明日のパーティーで虐めの話をするだけで良いわ。後は私が上手く纏める。どう? 」
黙り込む二人。幾らでも考えてみて。でもこの二人も馬鹿ではない。自分たちだけでは、アニーさんの為にならぬ事も解るでしょう。
「「お願いします」」
よーし!エキストラ二人ゲットよ!え?友だちはもっと沢山いるの?皆貴族だからパーティーに出席する?ならばなるべく沢山呼んで来て。パーティーを盛り上げなくてはね。エキストラはたくさん欲しいわ。
アニーには良い友だちが沢山いるのね。下半身の弛い王子にはもったいないくらい。でもその愛が、きっと王子を更正させてくれるわ。
「はむちゅお願い! 明日まで連絡役をしてくれる? 鳥さんが良いかしら」
ハムスター姿で掌の上に乗っていたはむちゅが、クルリと白い小鳥になる。代表の子にはむちゅを託す。肩に止まったはむちゅを見た代表の子が目を真ん丸にしている。
「まさか聖獣樣ですか!? 貴女はメイドではないのですか? 」
聖獣ってもしかしてレアなの?はむちゅも教えて置いてよ。じっと見ると小鳥なのに目が合った。慌てて鳩時計みたいに首を縦に振り始めた。もしかしなくても怯えているの?何故?私が怖いの?いやねぇ。アラカルをさすがに弄り過ぎたのかしら?だって謝らないし、さらには夜中にこっそりチューをしようとしていたのよ?魔力線から魔力を貰えなくても、粘膜摂取は可能らしいの。だからって寝込みを襲うのはダメよね?気が付いて良かったわ。だからお仕置きをしたの。ゲージを用意しハムスター姿のままのアラカルを入れ、エサはヒマワリの種のみ。ヒマワリの種を剥きながら食べる姿は可愛らしくて癒されるわよね。実際にゲージの中で、剥いて食べているのはアラカルだけど。
ハムちゅ?私はさすがに教えてくれなかった位では怒らないわよ?私が知ってると思ってたのよね?でもやはりレアなのね。
「二人共お願い。このことは誰にも言わないでね。周囲にバレるとアニーも困るの。内緒でお願いね」
あら?今度は二人がガクブルしながら頷いている。さっきは小鳥のはむちゅも怯えていたわよね?私ってそんなに怖いの?威圧的なの?結構ショックよ。
***
私は全く気付かなかった。私の背後の窓からおばちゃまたちが覗いてた事を。メイドだと言う私を案じて、貴族のボンボンたちに睨みを効かせてくれてた事を。聖獣にまで睨みを効かせる、厨房のおばちゃまたちは最強です。
お披露目パーティーの裏方で働くおばちゃまたち。城下町に逃げてからもお世話になる事を、今の私は知るよしもなかった。
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