お城5.5日目。
昼寝から起きたら目の前には厚い胸板。見上げるとマッチョなイケメン様のご尊顔。何故か私はそのイケメン様の腕の中。しかもしっかりと抱え込まれています。
「いやーん! 変態ー! 誰か来てー! 」
イケメンを引き剥がし蹴り転がす。慌ててベッドから下り、叫びながら呼出しベルをならす。
「どうかされましたか? 」
ルードがバタンと扉を開け突入して来た。随分早いわね。でも助かったよ。ありがとう。
「モフモフを抱いて寝ていたのに! 起きたら目の前にイケメンが! イヤ、変質者がいたの! 早くソイツを摘まみ出して! 」
「…………」
ん?どうしてルードは動かないの?
「寝惚けられましたか? ダンスまではまだお時間が有ります。お疲れでしたらもう一眠りして下さい。お茶は此方に用意させます」
ルードは呆れた顔して去って行った。
***
可笑しいわ。私は絶対に寝惚けて何ていない。しかしベッドの上にはアラカルが寝ているのみ。部屋をクルリと見渡す。やはり誰もいない。ん?
「はむちゅー、起きたのー? 可愛いでちゅー。でもはむちゅは夜行性よね。もっと寝てて良いでちゅよー。んー可愛すぎる。スリスリ」
「おい! 貴様も同類だろ! 可愛い子ぶっているな! 貴様も名を名乗れ! どうせ聞いていたんだろ? 」
「可愛い子ぶってなんていないですよ。可愛いんです。それは聞かれた貴方が悪いのでは? 他人のいる前で、真名を名乗るなんて信じられません。何も知らぬのに、寝惚けながらも心配するすずさんは素晴らしい。間抜けなラスティさん」
「ぬぬぅ。貴様はやはり同類か! 貴様が私の名を呼ぶな! 消し炭にするぞ! 」
「まあまあ。今日からは同じ魔力兄弟です。喧嘩はよしましょう。ならば解決ですよね」
「…………」
はむちゅとアラカルが喋っているの?ラスティって何か夢でみた様な?魔力兄弟って何?
「すずさん。私はハムレインです。ですがどうぞそのまま、はむちゅとお呼び下さい。既にお名前を知ってしまっている無礼をお許し下さい。出来れば貴女からも、お名前をお聞きしたいです」
やはりはむちゅが喋っているの?ファンタジーの世界では動物も喋るのかしら?喋る動物を火あぶりにするの!?ファンタジーの世界怖い。ブルブル。右掌に乗せたはむちゅを目の前に寄せじっと見る。
「はむちゅ? はむちゅが喋っているの? 私の名はすずよ。でもリョウと呼んでね。この世界の動物さんは皆喋ることができるの? 」
はむちゅをじっと見ると、いきなり顔にジャンプしてくる。ん?スリスリしたいの?可愛いわね。頬に近付けるとスリスリしてくる。あら?アラカルが何かを騒いでいるわね。かまってほしいの?ちょっと待ってて。はむちゅが可愛すぎる!こらっ!お口は舐めちゃダメ。お目めもよ。ファーストキスになっちゃうからね。こらっ!くすぐったいよ。ぺろぺろは許します。だって可愛いんだもの。戯れていたらいきなりドロン。はむちゅが爽やかイケメンにー!視線を感じて振り向くと、後ろには変態マッチョイケメン!いやー。私はすかさずはむちゅの後に隠れてしまう。
「すず! 此方に来い」
「リョウは貴方を怖がっています。それに彼女はすずでは有りません。リョウですよ。しかも無断でファーストキスを奪いましたね。リョウは私が守ります。貴方はアラカルに戻りなさい」
「ふざけるな! 」
「ふざけてなんていませんよ。私と貴方は同等です。擬態が小さいからとバカにしないで下さいね。リョウに全てをお話しましょう。貴方は話せますか? 」
「ぐぅ…………」
??????
もしかしなくてもファンタジー?でも人型になるって、召喚獣とか獣人とか精霊とか妖魔の擬態とか?でも元がハムスターとアライグマ何てパターンは聞いた事がないわよ?考えていたら扉がノックされた。ノックの主は、リードがお茶の支度を頼んだメイドさん。イケメンズは動物に戻っていた。メイドさんは大人しく掌に乗ってるはむちゅを見てビックリしていらひ。この世界ではネズミだからね。可愛いのに。
お茶を飲もうとソファーに腰を下ろす。はむちゅは私の膝の上にちょこんと乗っている。めちゃ可愛いい。アラカルは膝にちょこんと手を乗せ、恨めしそうに私を見上げている。上目遣いが可愛いけど、聞き捨てならない事をはむちゅが言ってたわね。話を聞くまでは愛でません。
「ではアラカルさん? 全てを話して下さい。先程聞き捨てならない事を聞きました。その辺を詳しくお願いします。ちなみに私はリョウです。違う名で呼ばないで下さいね」
はむちゅが人型になり隣に座った。アラカルも人型になり隣に座ろうとしたけれど、私はお尻を叩き前に座らせた。
「真剣な話は向かいあい、キチンと相手の目を見て話しなさい! 」
***
「なるほど。害獣になっていたのは、主に見付けて貰う為の試練の試験なのね。でもそのまま処分されたら大変よ。はむちゅ何て火炙りなのに! 」
「それは大丈夫です。処分される前に不合格として聖獣界に戻されます」
実はこの二人は精獣の学校を卒業し、人間界に主を探しに来ていた。精獣が主を見付け契約するまでが卒業試験だという。今期の試験では害獣の姿を選び人間界に混じる。姿は毎年違うそう。
魔力の波長が合い更には魔力の多い人間を見付け契約交渉をする。その契約方法が主になる人間からの魔力譲渡と真名の交換。やはりこの世界では、真実の名(真名)は名乗ってはいけないそうだ。
「真名の交換は解ったけど、魔力譲渡っていうのは? 」
「簡単なのは唾液か涙からの摂取です。血液や体液からも可能です。精獣は主の魔力で活動するため、契約時に魔力線を繋ぐ事が必要なのです」
「はむちゅが口と目を舐めてた奴? あれは最初だけ? もしかしてファーストキスってのは!? 」
「…………」
「アラカル? リョウさんに正直に話しなさい」
「アラカルではない。ラスと呼べ。リョウが寝惚けてるのを幸いにと、キスでまりを貰い繋いだ。まさかその年でまだとは思わんだろう! そんなにモテんのか? それとも奥手なのか? 」
「ふ・ざ・け・る・な。私の世界では普通なの!
ともかく契約解除が出来ないのなら仕方ないわね。視かさ反省するまではアラカル呼びを続行し、魔力は絶対にあげません」
接触しての魔力譲渡は契約時だけて大丈夫。魔力線が繋がれれば、魔力は常に行き来するそう。もちろん主の魔力だから、譲渡を一時止める事も出来る。良かった。良く有るテンプレのエロゲ仕様かと心配したよ。ちなみに契約は主が死なない限り、永久に解除は出来ないという。
はむちゅは私からの魔力でうさぴょんになった。人間界では人型が通常の姿で、主が願えば好きな動物になれるらしい。ならばアンゴラうさぎでしょう!
いや~ん。モフモフー。
「アラカルはハムスターになってカゴの中ね。寝る時ははむちゅと寝るから! さてオヤツにしましょう」
あら?アラケルはいじけているの?カゴから出て来ないわね。
「今の変化で魔力切れです。リョウが線を繋がねば、しばらくはあのままですよ」
反省中だから仕方がないわね。オヤツはあげましょう。カゴの側にクッキーとマフィンを置く。じっと私を見つめる瞳。反省したなら魔力をあげるから我慢ね。
結果、私は城を出るまで魔力をあげず、ラスとも呼ぶことはなかった。この頑固ものめ!
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