お城滞在一日目・テンプレイケメン王子と召喚。
もうすぐ高校の卒業式。ほんの少し前まで、卒業パーティーで演じる演劇練習をしていたはずなの。演目は男装の麗人が主役のあれ!そういわゆるベルバラね。私は主役だったからかなり張り切っていたの。しかし主役が突然いなくなったら皆困るだろうな。私は演じる事が大好きなの。演じている時私は別人になれるし、色々な人生を体験できる。人生は一度だけ。それが何通りも体験できるの!演じるって本当に素晴らしいのよ。でも私は特別上手い訳ではなく、なんでも無難にこなす感じなの。いわゆる器用貧乏って感じ。今回も全寮制の女子高の中で、一番背が高かったからと言うだけで選ばれたの。しかしどんな理由であれ主役なの!もう本当に張り切って、寝る間も惜しんで練習したんだから!
年に数回系列の男子校との、合同イベントが開催されていた。このとき私も彼氏をゲットしたわ。確かに女子高で女の子にもモテたけど、男の子にもモテたし彼氏もいたのよ。そりゃたしかに私は可愛いタイプではないけれど、それは人それぞれだし仕方がないわよね。なのに何故こんなに罵倒されなくてはならないの?しかも初対面の金髪青眼のキンキラテンプレ王子によ。あれ?もしかして王子とやらが私よりも背が低いからなの?でも私は非常識に高い訳ではないわよ?ほら周りを見てみてみなさいよ。騎士らしき人たちは皆私より大きいじゃない。騒いでいる王子が小さいのでは?キャンキャンうるさい、女々しい王子の方が女の子みたい。顔もだけど特にそのネチネチした性格がね。
それより何時まで私は転がっていれば良いの?何てついつい冷たい床の上に放置されたままの自分をかえりみる。寒いし冷えるんですけど。この王子からしてなんだか変よね?なんて考えながら脳内で冷静に状況判断をしている自分が嫌だわ。でも無駄にお高い大理石は冷たくて冷えるのよ。冷えは女性の天敵です!女性を気遣えずに人を罵倒するとは何様なの?って王子さまですね。ムカつくけど仕方がないわね。とほほ。
つまり喚く王子の話を纏めると、この召喚は異世界から聖女を呼ぶ儀式だった。その聖女はこのキンキラ王子の嫁候補だったと。しかも元の世界には戻せないと。なのに出てきたのが男性で失敗だからやり直せと喚いてる訳ね。
ひっ酷い!私は男じゃないわよ!キチンと女性です!見て解らないの?あなたの目は節穴なのですか?
年嵩過ぎて可愛くない!背が高すぎる!胸がない!服が男物だ!絶対に男だ!神官たちにやり直せ!などと騒ぎキャンキャンと喚いている。可愛いこそ正義なのですか?あなたは世の中の女性に喧嘩を売っているの?女々しく喚く王子こそ女じゃないの?肝っ玉の小さい男は嫌われるわよ?しかも年嵩って何よ。私はまだ十八才よ!もう年増扱いなの?あ!異世界だから成人年齢が低いとかのパターンかしら?でももう一つのパターン。黒髪に黒目は子供に見えるパターンてのはないのね?まさか逆とは……とほほ。王子よ。心配せずとも私もすでに貴方が大嫌いです。結婚なんてノーサンキューです。
ちなみに胸がないのはコルセットで押さえてりるからだし、服は演劇の衣装が男装の麗人用だからよ。背が高いのは仕方がないし、可愛い系統ではないのも私のせいではないよね。年はどうにもなりません!
まあ別に構いません。つまり私はこの王子の好みではない訳よね。だったらトンズラしてしまいましょう。こんな女々しい王子の嫁もごめんだし、聖女なんちゃらとかもしたくはない。戻れないのならばなおのこと。でももしかして魔法とかが使えてしまうの?それは楽しいかもしれない。私は周囲をぐるりと見回し決心する。良し!あの扉の入り口で暇そうにしている、イケメン騎士さんの所からにしましょう。今だに喚く王子の様子を伺いながら、尻もちをついたままズリズリと入口間際に近付いてゆく。直立して立つ騎士さんの足の上にお尻を下ろすと、ビクリと足が動いた!じっと王子たちを見ていて直立不動だったから、私の移動に気付かなかったみたいね。イケメンのドングリ眼って可愛いわね。下から見上げると騎士さんが慌て出したため、私は自身の唇に人さし指を当て黙ってのゼスチャーをする。騎士さんの足を無理矢理開かせその隙間からこっそりと、尻もちをついたまま扉に向かい後退してゆく。扉は両開きの押すタイプだから、このまま上手く脱出出来そうよ。
ズリズリ。ほいほい。ズリズリ。騎士さんバイバイ~!
扉が閉まったわ!脱出成功よ!さあさっさと逃げましょう。取り敢えず何処かで服を借りられないかしら。この衣装のキンキラでは目立ちすぎてしまいそう。そして逃亡先は教会に決定よね。この世界の神に文句を言わなきゃ駄目よ。だってまだテンプレ神様にあっていないのよ?もしかして死んでいないからチート特典はなしとかなの?そんな無茶は止めて!全く知らない世界で無理ゲー過ぎよ。でも聖女召喚だといっていたわよね?なら無双チート位は欲しいわ。まあ私は何処でも生きられるつもりだけど、今の状態では情報が少なすぎる。ともかく神よ!神様出てきてヘルプミー。
何て現実逃避していても仕方がないわよね……
さて服をちょろまかせる様なお部屋はありませんかー?んんぅ?突如後ろから両脇に腕を差し込まれ、スクリといきなり立たされてしまう。もしかして捕獲されちゃったの?気配をまったく感じさせないとは大物よね。しかも何故か抱えたまま歩き出されて宙ぶらりん。ずいぶんな力持ちなのね?身長があるから私は軽くはないはず。顔を見ようと頭上を見上げると、扉の所にいたイケメン騎士さんとバッチリ目があいました。私が見上げるなんて、この人はかなり背が高いわよね。やはり王子がチビなんじゃないの!でも首が痛い……しかも何時の間に背後にいたの?もしかして私ってばお持ち帰りをされているの?なんちゃってそんな訳が有りませんよ!
「ちょっと! どこにつれて行くつもりなの? 」
私を高く持ち上げ足を地面に着地させないまま、彼は私をクルリと引っくり返した。さらには一端肩に抱えてササッと横抱きに!これっていわゆるお姫さま抱っこじゃない。かなり手慣れているわね……イケメンはジト目になる私に微笑み、パチリとウィンクをしてくる。
「…………」
もうダメ……日本人の私には理解不能過ぎ。この世界ではこれが常識なの?姫抱きって普通する?恥ずかし過ぎでいたたまれなくて……そのまま私は意識を手放したみたい……
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