7話
「アンナ、シリル様、こんばんは」
「シンシア・・・。シリル、こちら、シンシア・ウェルガー伯爵令嬢よ。私の親友なの。前にも紹介したことがあるのだけど、記憶がないからやっぱり覚えてないわよね。」
「・・・すみません。シンシア様。僕、覚えていなくて・・・」
「あら、いいのよ。シリル様が記憶喪失だって噂は皆さんご存じだから、大丈夫よ・・・。それより、イレーネ・アルノルト伯爵令嬢を紹介するわ。イレーネ様が、シリル様とダンスなさりたいのですって。申し込みたいのに、いつも勇気がなくて、できなかったそうなのよ。シリル様、お願いできませんか」
「あ、あの・・・お願いします」
ピンクブロンドのふわふわのくせ毛がかわいらしいイレーネが勇気を絞り出したように申し出てきた。
「まだ、婚約者のアンナさんと踊っていないので、その後でならいいですよ」
こちらを見て、シリルは婚約者を優先させるのだと主張したが、シンシアが連れてきたということは、シリルを狙っているご令嬢の一人なのだわと思った。
今まで交流はないが、年も私より下のようだし、シリルにはいいんじゃないかしら。
「あら、かわいらしいお嬢さんだこと。シリル、私は大丈夫よ。先に踊って差し上げて」
「・・・・アンナさんがそうおっしゃるなら・・・イレーネ様、踊っていただけますか」
「はい。喜んで」
ぱっと花が咲いたように笑ったイレーネがシリルの差し出した手におずおずと手を乗せて、ダンスの輪に入って行った。
「本当にかわいいお嬢さんだわ。イレーネ様は、シリルより年下かしら」
「シリル様と同じ15歳よ。公爵夫人目当てじゃなく、本当にシリル様がお好きなようなのよ」
「それはいいわね。性格も素直そうだし、このままシリルがその気になってくれたら、婚約破棄も夢じゃないわ」
顔を紅潮させてシリルとダンスを踊るイレーネ様がうっとりと恥ずかしそうにシリルを見つめている。
これで、シリルもその気になってくれるといいのだけど・・・。