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5話

シリルを舞踏会に誘ったら、アンナが一緒に記憶のないシリルをフォローしてくれるならとシュタイン公爵家からも許しがもらえた。衣装の準備をしていると、シリルから贈り物が届けられた。

記憶を失う以前から、贈り物はあったが、記憶のない今、どんなものが送られてきたのだろうかと、箱を開けてみると、大きなサファイヤが美しく蒼く輝くネックレスが入っていた。

手に取ると、繊細なデザインの台座に収まったサファイヤが、きらめいて、うっとりしてしまう。

 シリルの目とおそろいってことかしら、なんだかシリルにじっと見られているようで、きれいだけど落ち着かないわね。

シリルとは、婚約破棄を目論んでいるのに、いつものプレゼントとは別格の高価な品を貰うのは気が引けてしょうがない。

ああ、こんな素敵なネックレスをどうしましょう・・・・・。

 そうだわ、シリルが新たな婚約者と結婚するときにお祝いをして、お返しすればいいのだわ。

ネックレスをこのままお返ししても、シリルのお相手は、元婚約者に贈ったお下がりなんて、きっといやでしょうしね。

シリルと婚約破棄したいけど、幼いころはとっても仲良しだったのですもの、幸せになってほしい気持ちはあるのだもの。

 それにしても、シリルのネックレスに合わせて、ドレスはどうしましょう。

手持ちのドレスじゃ、デザインがかわいらしすぎて、このネックレスには合わないわ・・・。

とはいっても、新しいドレスを仕立てるには時間が足りないし・・・。


「お嬢様、こちらの紺のドレスのフリルを取ってはいかがでしょう。」


ドレスのデザインに悩んでいると、メイドのミラが紺のドレスを手に勧めてきた。


そのドレスは、紺の生地に、ストライプ柄のフリルのついたものだったが、フリルを取ってしまえば、シンプルで大人っぽいデザインになり、確かにネックレスをうまく引き立ててくれるように感じた。


「そうね、今までフリルたっぷりの子どもっぽいデザインだったから、シンプルで大人っぽいデザインのドレスを着るのもいいかもしれないわ。それに、このネックレスに合いそう。・・・ミラ、じゃあそれでお願いするわ」

「お任せください、お嬢様」


ドレスも決まり、このドレスとネックレスに合わせて、いつも下ろしている髪も結い上げないといけないわね、などと話しつつ、ミラと楽しく準備にいそしんだのだった。


 そして、当日、シリルが迎えに来てくれて、階段をしずしずと降りていくと、こちらに目を向けたシリルがぽかんと口を開けて呆けていた。


「あら、なんて顔しているの、シリル」


扇で口元を隠しながら、くすくす笑って、シリルのもとに向かう。


「アンナさんのあまりの美しさに、見惚れてしまったのですよ。この前の湖でご一緒した時のあなたも、妖精のようでかわいらしかったが、今のあなたは月夜に輝く女神のようだ。プレゼントのネックレスをつけてくれて、うれしいです」

「まあ、シリル褒めすぎよ。今までのシリルにそんなに褒められたことはなかったわ。でも、褒められるとうれしいわ。ありがとう。シリル、あなたも素敵よ。その茶色のタイは私の髪に合わせてくれたのかしら」

「気づいてくれましたか。あなたの色を纏うのは、気持ちが華やぐ」


そう言って、手を差し出すシリルの手にそっと手を差し出し、馬車までエスコートを受ける。

あまりに絶賛して微笑むシリルに調子がずれる。

今までは、冷たい目をして、まるで似合っていない、髪で顔を隠して来い、などと言われ、そんなにひどいのかと、髪を結い上げたことはなかった。

要するに、褒められ慣れていないのだ。

記憶がないとはいえ、まるで別人のようだわ。

こんなシリルなら、このまま、ずっと一緒にいてもいいのに・・・いえいえ、ダメよ、いつ記憶が戻って、以前のようになったらどうするの。この優しいシリルは一時的なのだから、ほだされてはいけないわ。


「ねえ、シリル、あなた記憶が亡くなって何も覚えていないのでしょう。私という婚約者がいるなんて、混乱するわよね。舞踏会では、未婚で婚約者もまだなご令嬢がたくさんいらっしゃると思うの。だから、もし、気になるご令嬢がいたら、私のことは気にしなくていいのよ」


馬車に乗って、しばらくたって、シリルに切り出した。


「・・・・それは、どういう意味でしょう。アンナさんと婚約しているのに、他のご令嬢に心変わりしてもいいとおっしゃっていますか」


シリルが、理解に苦しむというように眉を寄せて、目を向けてきた。


「あなたが記憶を失って、私のことを覚えていないのなら、また新たな関係が生まれるのではないかと、あなたにご執心のご令嬢方が期待しているらしいのよ」

「アンナさんは、その話を聞いて、僕に他のご令嬢が近づいて、僕が心変わりをしても、なんとも思われないのですか」

「もともとシリルは私のことが好きじゃなかったのよ。だから、記憶がなくなったのは、いい機会だと思うの。あなたは大切な幼馴染なのだから、幸せになってもらいたいのよ。だから、あなたが本当に心惹かれるご令嬢を見つけられるのを祈っているわ」

「・・・・・・先ほども、褒められたことがなかったとおっしゃっていましたが、以前の僕は、どんな様子でしたか?」

「・・・・アンナは髪の色も目の色も地味で、不細工だから僕以外貰い手はいないとか、おてんばで、がさつだから、素のアンナを知れば、他の男は逃げていくとか・・・・まあ、随分な言われようだったわよ。そんなにいやなら、婚約破棄しましょう、と言っても、政略結婚だからいやでもしょうがないだろうと言われたわ。もともと婚約破棄を望んでいたのですもの、心変わりしても、大丈夫だわ」


ああ、あの時の言葉を口にすると、悔しさがよみがえって来たわ。やっぱり、シリルとは無理だわ。


「・・・・以前の僕は、あなたにそんなひどいことを言っていたのですね。覚えていませんが、すみません」


向かいに座っているシリルが私の手を取って、頭を下げている。

記憶のないシリルに謝られてもと言って、顔を上げてもらった。


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