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4話

シリルとは、週に1回だけの訪問なので、それ以外の時は、家庭教師による淑女教育だとか、刺繍したりだとかで、日々が過ぎていく。

 おととい、シリルと湖に行ったので、その時咲いていたユリをハンカチに刺繍していた。

男性に渡すには、花の刺繍なんてダメかなと思うものの、ユリの凛とした姿がシリルに似合うのではないかと思うのだ。

あまり刺繍は得意ではないし、記憶喪失になる前には、渡した刺繍のハンカチを散々貶されたので、もう二度とさしてやるものかと思っていたけれど、今の穏やかなシリルなら、喜んでもらってくれるのではないかと、ちょっと楽しみだ。

出来の悪い刺繍だな、とは言ってたけど、貰ってはくれたのよね。でも、一生懸命さしたのに、やっぱりあれはなかったわ。

シリルの可愛がっている、鹿毛の牝馬であるライラを刺したのに、犬かなんて、やっぱりひどいわ。

ああ、思い出すと、腹が立ってきたわ。


「お嬢様、シンシア様がいらっしゃいました」

「あら、もうそんな時間なのね、今行くわ」


シンシアは私の親友で、何かと私の相談に乗ってもらっている。

シリルが記憶喪失になったと噂を聞きつけて、なんでもっと早く教えてくれなかったのと手紙が来て、今日の訪問となったのだ。


「ああ、アンナ大変だったわね、大丈夫?」


 顔を見て両手を広げて突進してきたシンシアにしっかり抱きしめられてしまった。


「シンシアごめんなさい、心配かけて、でも、シリルの怪我は大したことないし、記憶はないけど、以前のように皮肉や悪口を言わなくなって前よりいいくらいよ。とにかく、座りましょう」


興奮気味の親友を席に座らせて、落ち着かせようと、お茶を勧めた。


「あら、このお茶おいしい、ってそんなことより、あなた、社交に出ていないけど、今その噂でもちきりよ。あの、シュタイン公爵家の麗しのシリル様が記憶をなくされて、婚約者の存在も忘れてしまわれているから、今がチャンスだって、ご令嬢方が、張り切っているわよ」

「・・・・そ、そうなの?・・・シリルが記憶をなくしてて、社交に出すには不安があるからって、なるべく屋敷とうちの侯爵家以外には出さないようにされてるのよ。婚約者である私も、シリルが一緒じゃないと出られないから、全然知らなかったわ。でも、社交に出かけても、基本シリルと一緒だし、心配ないわよ」

「もう、暢気なんだから・・・まあ、あなたらしいと言えば、らしいわね。婚約解消したいって散々言っていたし、これで、ご令嬢方の猛アピールにシリル様がのってくださると、婚約解消も夢じゃないわね。そしたら、新たな恋人探しよ。気に入った人が私とダブったらどうしましょう」


同じ男性を二人で取り合う妄想が始まった親友にため息をつきつつ、戻ってきてと、手を握った。


「そのことなんだけど、シリルが記憶をなくして、ずいぶん穏やかな性格になったのよ。だから私、このまま婚約を続けてもいいと思ってるの」

「えっ、一体どういうこと。・・・・アンナ、記憶って突然戻るって言うじゃない。それで、記憶が戻った後、また、あの嫌みな性格に戻ったらどうするの」


 おととい、湖に行ったときの紳士的で優しいシリルがずっと私の婚約者として隣にいるものだと疑っていなかった私は、その可能性に、全く気付いていなかった。


「・・・・・・そ、それは・・・・考えてなかったわ。私、ずっとこのままだと思ってたわ」

「今は、穏やかかもしれないけど、あなたがいい年になって、記憶が戻って、酷い性格に戻ったら、それでも、シリル様の側に居られるの?」

「・・・・・確かにそうだわ。結婚した後、あの鼻持ちならないシリルに戻って、ずっと一緒なんてやっぱりいやだわ」

「そうよ、シリル様目当てのご令嬢方にお任せして、シリル様が婚約解消してくれれば、あなただけを大事にしてくれる素敵な殿方との出会いが待ってるのよ」

「・・・・ありがとうシンシア、私、目が覚めたわ。うっかり、記憶のないシリルにほだされるところだった。社交に出るようになったら、他の殿方にも目を向けてみるわ」

「そのことなんだけど、再来週、ブレナン侯爵家主催の舞踏会が王都で開かれるらしいのよ。シリル様を誘って、出席しましょうよ。もちろん、私も出席するわ」

「そうなの、分かったわ。シリルに話してみる」

「出席が決まったら教えてね、シリル様が出席されるって、噂流しておくから、シリル様目当てのご令嬢方がどっと押し寄せるわよ。どのご令嬢が、シリル様を射止めるのか見ものだわ。いやん、なんだかわくわくしちゃう」


 ふふふ・・・と笑って私たちは、手を取り合ったのだ。




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