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34話

 ルドルフ殿から手痛い檄を飛ばされ、口元に滴った血を袖で拭いながら、馬を駆ってアンナのアウエルバッハ家のタウンハウスを目指した。

玄関を拳でたたき、出てきた執事にアンナの所在を聞いたが、もう馬車で出かけた後だった。

いつ戻ってくるのかと聞いたら、微かにそれとわかるほどの、憮然とした表情で、存じ上げませんと、返答された。

いつ、どこに向かったのかと、問うとシュタイン公爵令息様にお伝えすることはできませんと、言われた。

これで、アンナが修道院へ行くと言っていた、ルドルフ殿の情報の信憑性が増した。

ルドルフ殿は、今日、出発したと言っていた。

早く追いかけねば・・・。

しかし、王都の門は西門と東門がある。どちらの門に向かたのか・・・アンナなら、土地勘のあるアウエルバッハの領地方面ではないかと当たりを付け西門に向かって馬首を巡らせた。


 逸る心を押さえつけながら、王都の道を西門に向け走らせた。

西門では、積み荷をたくさん乗せた商隊がずらりと並んでいたが、貴族専用の門へ向かい、警備兵へ通すように話したが、ろくに貴族の顔を知らない警備兵は、シュタイン公爵家の名前を出しても、許可書がないと言って、通してくれそうになかった。仕方がないので、公爵家の紋章入りの剣を警備兵に預け、必ず、すぐに戻ってくるからと言って、その場を強行突破した。


 しばらく、馬を走らせると、貴族が乗っていそうな馬車を見つけた。

紋章を見ると、アウエルバッハ家の紋章に違いなかった。

御者が、僕の顔を見て、驚いている。


「この馬車にアンナは乗ってる?」

「あ、あの・・・シリル様。どうしてここに」

「いいから、アンナは乗っているのか聞いている」


 アンナに会わせていいのか、判断に迷っているのだろうが、御者が逆らえるわけもなく、アンナに僕ことを伝えた。


 少し渋ったものの、アンナは馬車から降りてきてくれて、僕の顔を見て驚いていた。その様子に、そういえば、ルドルフ殿に殴られたのだったと、思い出したが、それどころではない。アンナの修道院行きを阻止しなくては。


「アンナ、お願いだから、修道院になんて行かないで」


 僕は悲壮な決意でもって、アンナに懇願した。


「何を言っているの?」

「ルドルフ殿の婚約の申し込みを断って、修道院に行くって、ルドルフ殿に聞いたんだ」


 ところが、怪訝な様子で言い返されたから、ルドルフ殿の名前を出した。

そして、僕が婚約破棄に至ったのは、ルシアンにコンプレックスを抱いていて、アンナの相手に自信を失くしていたからという事情を話した。

全く、情けなさ過ぎて、こんなことはアンナに知られたくはなかったが、ルドルフ殿と幸せになると信じていたアンナが一人で幸せから遠ざかろうとしているのは、絶対に防がなければ・・・できれば、僕がアンナを幸せにしたいと必死だった。


「私がいつ、ルシアンやルドルフ様が好きって言ったかしら?

知ってる?私が好きなのは、シリルだって・・・貴方は、私のために留学してまで努力してくれたでしょう。すっかり、逞しくなって帰ってきた貴方に、私、恋してしまったのよ。責任、取ってくれるわよね。ルドルフ様じゃ、ダメなの」


そして、アンナは僕が一番欲しかった答えをくれた。


「ほんとに?ルシアンでもなく、ルドルフ殿でもなく、僕でいいの?」

「シリルがいいのよ。私が恋したのは、他でもない貴方だわ」

「ああ、アンナ」


 蹲った僕の心にアンナの言葉がじんわりと染みてきた。


「じゃあ、アンナ、修道院へは行かないよね」

「そのことだけど、シリル、私、領地に引きこもるつもりだったし、修道院へ行く予定なんかないわよ」

「そうなの?・・・・・ルドルフ殿は・・・・」

「ルドルフ様もご存じよ」

「・・・・・・・・・そうか」


どうやら、修道院の話は、ルドルフ殿のちょっとした意地悪だったようだが、殴ってまで、僕をここへ、導いてくれたルドルフ殿には感謝しなければ。

優しく、涙を拭ってくれるアンナの手が、痛む頬をかすめるけど、僕は幸せをかみしめていた。


 本当は、政略結婚を装わずに、アンナに求婚しなければならなかったのだ。

アンナの両手を持って、彼女を立たせると、跪いて愛を乞わなければ・・・。


「アンナ、いきなり婚約破棄して傷つけて悪かった。許してほしい。僕には、君しかいないんだ。記憶を失って目覚めたとき、一目で君に恋したんだ。ルシアンとは関係なく、やっぱり、僕は君が好きなんだ。年下だけど、努力して君に見合う男になって見せる。どうか、僕と結婚してください」


ルシアンの影に怯えて、そのルシアンを彷彿とさせるルドルフ殿ではなく、僕を選んでくれるというアンナの言葉に、やっと、資格を得た気持ちになった。

 

「はい。末永くよろしくね、シリル」

「ああ、アンナ、ありがとう。必ず、君を幸せにするよ」


 抱きしめたアンナはすっぽりと僕の腕の中に収まり、もう放さないときつく抱きしめた。



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