表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/35

2話

 意識を失ったシリルは、アウエルバッハの屋敷に運ばれた。

医師の診察を受け、頭を強く打ったシリルは、顔を青白くさせ、意識も戻らずベッドに横たわっている。

どうしよう。シリルがスピードを落とせと言ってくれたのに、言うことを聞かず、突っ走った私のせいだわ。

私が、シリルの言うことを聞いていれば、草むらからうさぎが飛び出しても、あんなに馬が驚くことはなかったし、私も振り落とされることもなく、シリルも怪我をすることもなかったのに。

シリルの青白い顔を見つめ、目を潤ませていた。


「アンナ、食事くらいしないと、あなたが参ってしまうわ」


食事を乗せた盆を持って、寝室に入って来たのは、母のアマリエだ。

「お母さま、ありがとう。でも、食欲がないの」

「・・・・シリルが目覚めたとき、あなたが弱っていたら、シリルに心配かけるわよ。…ここに、置いておきますから、そのうち食べるのよ」

「わかったわ」


そう言って母は、食事をテーブルに置いて部屋を出て行った。


 いつも、嫌みを言ってくるシリルは鼻持ちならないけど、こうやって眠っているシリルは幼く見えるわ。シリルが5歳のときは、天使と見紛うほどに、かわいらしい男の子だったけど、金色に光る長い睫毛は、ランプの光で影を作り、すっきりとした鼻梁に薄い唇、今だって十分麗しい男の子だわ。

うっかり、見惚れていると、睫毛がぴくりと動いた。


「・・・・シリル?」


そっと、名前を呼んでみると、うっすらと目を開けた。

「シリル・・・わかる?・・・アンナよ」


何度か瞬きした後、視線をさまよわせ、やっと視線が交わった。


「シリル?」

「あなたは、だれ?」

「・・・・シリル?・・・わたしよ、アンナよ」

「アンナ・・さん?」

「・・・・・・・?」

「ここは、どこでしょう・・・・」

「馬から落ちた、私を庇って怪我をしたのよ。ここは、アウエルバッハの屋敷よ」


「ぼくは・・・・シリルってだれ?」


 驚愕におののきながら、医者を呼びに部屋を後にした。


頭を打ったことによる記憶喪失という診断が下った。

記憶は、何かの拍子に戻るかもしれないし、このまま戻らないかもしれないということだった。

記憶がないことを除いて、怪我は大したこともなく、その日のうちにシリルの実家であるシュタイン公爵の屋敷に戻っていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ