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17話

シリルがアンブローズ国の王弟、王妹殿下を連れてお茶会をした2日後、親友のシンシアとルドルフ様をお茶会にお招きした。

シリルという婚約者のいる身なので、ルドルフ様と二人だけで会うわけにもいかず、シンシアに同席してもらっている。

シリルに1年間待つと約束しているので、それまでは、ふしだらなことはしないと心に決めている。

だが、王室にも政策面で頼りにされているルドルフ様の知識や見識には目を見張るものがあり、お会いする度、知識欲を刺激される。

シリルが留学中にもルドルフ様にお誘い頂いて、観劇会や食事をご一緒したが、そのたびにシンシアに付き添ってもらっている。

シリルはよく思わないだろうけど、留学とは言え、突然、1年もほったらかしにしたのだから、私もシリルに意趣返ししてもいいと思う。

もちろん、ルドルフ様と会っていることは、シリルにも手紙で知らせているが、その返事はやはり、不満そうだった。


「シリル殿が留学から戻ってこられたと聞きました。もう、お会いになられたのですか」


ルドルフ様が、茶器を片手に微笑みながら、シリルのことを聞いてきた。


「ええ、一昨日アンブローズ国の王弟殿下と王妹殿下とご一緒に、こちらに顔を見せに来てくれました」

「王弟殿下と王妹殿下とご一緒とは、あちらで随分ご活躍だったと聞きました」

「ええ、何でも、政策立案で役立ったと伺いましたわ」

「シリル様も、ご立派に成長なさっておられたでしょうね」


ルドルフ様とシリルの活躍の話をしていると、シンシアがシリルの成長に言及し、一昨日、久しぶりに会ったシリルの変貌ぶりを思い出す。


「ええ、背丈も伸びて、向こうでは、剣術にも熱心だったそうで、体つきもすっかり大人びて、見違えました」

「そういえば、シリル様が留学されてから、そろそろ1年になるのね、婚約解消を1年待ってくれといって、あちらに行かれたのでしょう。あなた、どうするつもりなの」


成長したシリルのことを話していると、シンシアが婚約破棄の話で切り込んできた。

え・・・・シンシアったら、ルドルフ様がいらっしゃる前でその話するの?・・・。


「ちょっと、シンシアったら、ルドルフ様の前でなにを言い出すのよ」

「・・・アンナ様、私も1年待ったつもりです。お気づきではないようですが、私は、アンナ様に求婚したいと思っています。シンシア様の前ですが、いえ、シンシア様の前だからこそ、私が本気だと思っていただけるのではないでしょうか。・・・私では不足ですか」


手に持った茶器を静かにソーサーに戻し、こちらを見つめながら、ルドルフ様がいきなり求婚された。

話を振ったシンシアは、私とルドルフ様に挟まれて、交互に顔を見て、息をのんで状況を見守っている。

ちょっと、居心地悪そう。


「・・・・・・・あ、あの・・・・あまりに急なことで・・・」

「急ではありませんよ。もうずっと前から、貴女をお慕いしているのです。シリル殿が戻っていらっしゃるまでは、貴女も踏ん切りがつかないのではないかと、待っていたのですよ。留学から帰って、成長したシリル殿と会われたのでしょう。・・・どうか、私を選んでもらえませんか」


えええ・・・・あの、あの大人なルドルフ様が、本当に、こんなお子様な私を望んでいらっしゃるの?

どうしよう・・・・ああ、胸が破裂しそうにドキドキする。


「・・・・・・・・」

「私にとっては、やっとの求婚でしたが、貴女にとっては、青天の霹靂(へきれき)だったようですね。シンシア様、私の応援をお願いします」


ルドルフ様は、シンシアに目を向け、頭を下げた。


「も、もちろん。ルドルフ様はとっても素敵な方ですもの。アンナにはシリル様よりルドルフ様をお勧めしますわ」

「ありがとう。シンシア様が味方になってくれるとは心強い」


シンシアとルドルフ様がにっこり微笑み合っていると、部屋から何やら声が聞こえてきた。


「やあ、アンナ様、突然お邪魔するよ」

「ごめんなさいね。ジルベルトったら、アンナ様のお屋敷にルドルフ様がいらしてるって聞いて、いきなり乗り込むぞって息巻いてしまって」

「アンナ、済まない。僕じゃ止められなかった」

「え、ジルベルト殿下にエリアンヌ殿下・・・・シリルも?」


使用人の案内も受けずにずかずかやってきたのは、アンブローズ国王弟殿下と王妹殿下、それにシリルだった。突然の訪問に、使用人たちも椅子を増やしたり、ティーセットを出したりと、バタバタせわしなく動き出した。


「ルドルフとやらが、シリルの婚約者にちょっかい出してるって聞いてね、こうやって邪魔しに来たってわけさ。ところで、その男がそのルドルフか」


仁王立ちになったジルベルト殿下が、指さしながらルドルフ様に鋭い視線を向ける。


「ひょっとして、アンブローズ国の王弟殿下と王妹殿下でしょうか。いかにも、私がルドルフ・エルトマンと申します。」


ルドルフ様は、席を立って、優雅なボウ アンド スクレイプでお辞儀をして、ジルベルト殿下のあんまりな言いようにも大人な態度で余裕を見せる。


「シリルはな、アンナ様のために、この1年すごーく努力したんだ。婚約者がいない間にちょっかいかけるって、どうなんだよ」

「殿下、どうか、落ち着いてください。・・・・アンナ、ルドルフ殿、シンシア済まない」


激高するジルベルト殿下をシリルが何とかなだめようとする。


「ジルベルト殿下。お言葉ですが、シリル殿とアンナ様は幼いころよりの政略のため婚約されたと聞きます。しかし、シリル殿はともかく、アンナ様はシリル殿と結婚するのに、いささか戸惑いがある様子。もう何度も、アンナ様はシリル殿に婚約破棄を申し出られたと聞きます。・・・・そうですよね、シンシア様」

「うぇ・・・私?・・・・た、確かにアンナからシリル様と婚約破棄したいと何度も相談受けましたわ」

「だそうです。ですから、婚約しているとはいえ、アンナ様ご自身が乗り気ではないのですから、私もなんら疚しいことはしておりません。シリル殿が1年待ってほしいと言われて留学されたと聞いて、私も1年待ったのです。つい先ほど、アンナ様に婚約を申し出まして、お返事をいただこうとしていたところなのです」


畳みかけるようにシリルとの不仲をシンシアの戸惑い気味の援護とともに主張するルドルフ様に、話す態度こそ穏やかだが、絶対に引くものかという気合いが感じられた。

婚約を申し込んだと告げたルドルフ様にシリルの視線が鋭くなる。


「本気ですか、ルドルフ殿。アンナは僕の婚約者ですよ。ね、アンナそうでしょう」


え、ここで、私がこの状況を収めなくちゃいけないの?

無理、無理、無理です。

っていうか、なんでこんなことになってるの。

心の中で叫びながら、シンシアに助けを求めるべく視線を向ければ、いやいや、私だってどうしていいかわからないわよという風に顔を反らされた。

もうどうしたらいいか、分からないわ。ずいずいと寄ってくる、シリルとルドルフ様に、背筋に汗を伝わせながら、じりじりと後ずさるが、壁に阻まれて追い詰められて、目が回ってしまいそうだ。


「まあ、落ち着きなさい二人とも。アンナ様も困っておいでですわよ」


助け船を出してくれたのは、この状況を静観していたエリアンヌ殿下だ。


「見たところ、アンナ様は、婚約者とは言え、このままシリルと結婚というのは抵抗があるのでしょう。ルドルフ様も、アンナ様に婚約を申し込まれたとはいえ、アンナ様自身がまだそれまでのお気持ちではないのでしょう。そうですよね、アンナ様」

「・・・・はい、そうです」


私の返事を聞いて、がっくり肩を落とすシリルと、まあ、今は仕方がないという様子のルドルフ様と、なんだか二人とも落ち着いてくれたようで、ほっと胸を撫でおろす。


「とはいえ、私は諦めませんからね。何といってもアンナ様のお気持ちはまだ、シリル殿のものではないようですし」

「僕も、アンナとは婚約解消するつもりはないし、留学して、アンナにふさわしい男になったとアンナに認めてもらうつもりだ」

「このまま、二人で言い合っても、アンナ様の心は手に入りませんよ。ここは、ひとまずお開きにいたしましょう」


再び、睨み合う二人を、エリアンヌ殿下が収めてくださった。

今日のところはと、納得は行かないものの、とりあえずこの場は引きましょうと、お茶会はお開きになった。


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