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16話

誤字報告ありがとうございました。

変更させていただきました。

この人は誰?

留学から帰ってきたシリルが馬車から降り立ち、こちらへ歩いてくる。

以前は後ろで括ることができていた長い髪を短く整え、光を弾くプラチナブロンドがそよ風に揺れている。碧眼の光はより強く、きりりと引き締まり、体つきも少年の名残を残さず、肩幅も広くたくましくなっている。アンナより頭半分ほどしか高くなかった身長も見上げるほどになって、すっかり大人の男性になっていた。

このころの少年の成長は目を見張るものがあることは知っていたが、久方ぶりに会うシリルは、もう弟とは呼べないほど紳士然として、アンナを戸惑わせた。


「アンナ、久しぶり。帰ってきましたよ」


久しぶりの再会だというのに、余裕の態度でにっこり微笑むシリルに、本当にこれがあのシリルかと愕然とし、返答が遅れる。

それに、呼び捨てにされたことにも驚いた。

記憶を無くす前は、不遜な態度と言葉とともに、呼び捨てだったが、記憶を無くしてからは、丁寧で優しい言葉とともに、アンナさんと呼ばれていたはずだ・・・。


「アンナ?」


驚きに固まっているアンナに、不安そうな顔でシリルが呼びかける。


「あ、あの、シリル。お帰りなさい。随分立派になっていて、驚いたわ」


やっとそれだけ口にしたアンナに、ふっと安堵の笑みをこぼす。


「それは、誉め言葉と受け取っていいのかな」

「もちろんだわ、すっかりたくましくなったのね。髪は切ったの?」

「ああ、剣の稽古をするのに邪魔だったからね。アンナが長い方がいいのだったら、また伸ばすよ」

「・・・・短い方も素敵だわ」


ポーっと顔を上気させながらそういうと、シリルの顔も上気した。

「ありがとう」


それだけ口にすると、シリルはふいと視線を外した。

どうやら照れているようだ。

なんだか、かわいい。大人の男性になったように見えて、シリルはやっぱりシリルなのだわと、うれしくなって微笑んだ。


「シリル、この方が、君が言ってた婚約者のアンナ様かい」


シリルに見惚れていたら、その後ろからひょっこり顔を出した少年がいた。


「ああ、ジルベルト殿下、婚約者のアンナです」

「アンナ、アンブローズ国の王弟殿下のジルベルト殿下と、王妹殿下のエリアンヌ殿下だよ。留学中は大変お世話になったので、僕の帰国を機にご招待したのさ」


見ると、少年の後ろから、その少年とそっくりな少女が顔を出した。

二人とも、美しい銀髪に碧眼の妖精かと見紛うほどの美貌の持ち主だった。


「これは、失礼いたしました。シリルの婚約者のアンナでございます。ようこそお越しくださいました。どうか、お見知りおきを・・・・」


スカートの裾を持ち上げながら、片足を引き、膝を曲げて丁寧にカテーシーで挨拶した。


「アンナ様、公式の訪問ではないのですから、そんなに畏まらないで下さいな」

「そうだよ、僕らは15歳で年も近いのだし、気にしないでね」


そっと微笑む、エリアンヌ殿下の隣で、ははは・・・とおおらかに笑いながら手を差し出すジルベルト殿下。


「ジル、貴方も王族なのですから、もっと威厳を持って、接しなさいよね」

「えー、無理。いいじゃない、そういうの肩凝るし」

「まったく、あなたは・・・」


目の前で目くじらを立てるエリアンヌ殿下に、それを、あっさりいなすジルベルト殿下がほほえましく思えて、つい笑ってしまう。


「とにかく、よろしくね」

「はい」


ジルベルト殿下の手を取って握手をすると、シリルが咳払いしながら、割って入って来た。


「アンナ、案内をお願いしても?」

「ええ、この季節の庭の花が見事ですから、応接室へ向かいながら、そちらを通って、ご案内いたしましょう」


シリルだけならともかく、アンブローズ国の王弟殿下と王妹殿下もご一緒なら、気軽に庭へと案内するのは(はばか)られたので、使用人にはアイコンタクトでそれとなく応接室を使うと伝え、庭にご案内しながら時間を稼ぐので茶器の準備をお願いと暗に指示を出す。

きっと今頃奥では、庭のポーチに(しつら)えられた仕様変更にバタバタしていることだろう。


応接室に到着すると、優秀な使用人により、茶器がちゃんと人数分整えられ、茶菓子も多めに置かれていた。

二人掛けのソファーに隣り合ってシリルと座り、向かい側のソファーには殿下方が座られた。

優雅なしぐさでソファーに腰を下ろしたエリアンヌ殿下に、少し乱暴ともいえるほど勢いよく椅子に腰かけ、足を組んで寛いでいるジルベルト殿下は、顔こそそっくりだが、その仕草で間違えることはないなと思えるほど対照的だった。


「いや、それにしても、アンナ様は可憐でかわいらしいね。シリルがあんなに頑張っていた理由がわかるってもんだ」


何度か頷きながら、ジルベルトがアンナを見ながら、納得したとでもいうような表情を見せると、隣で、シリルがお茶を吹き出しそうになり、咳き込みだした。


「そうね、フランツ兄さまについて、政策を立案したり、ジルについて剣術の練習したりと、ずいぶんと熱心だったわね」

「ジルベルト殿下、エリアンヌ殿下、勘弁してください」


エリアンヌの同調にシリルが顔を赤らめながら慌てた。

その慌てる様子に、シリルにまだ幼い部分が残っているのを見て、安堵して、ほほえましく思った。手紙のやり取りはしていたけど、シリルは殿下方に認められるほど頑張ったのね。

それから、殿下方から留学中のシリルの様子を聞き、内容によってはシリルが慌てながら、お茶会を楽しんだ。


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