14話
ルドルフ様のお茶会の次の日も、シリルは屋敷にやってきた。
庭のポーチにティーセットを用意して、お茶を飲んでいるけど、昨日のこともあって気まずい。
「アンナさん、昨日は、酷い態度を取ってすみませんでした。それなのに、こうして会っていただいて、ありがとうございます」
しゅんと項垂れて、反省の色を見せるシリルが、なんだか痛ましく見えた。あまりの消沈ぶりに庇護欲が湧いて、席を立って駆け寄り、その手を取って顔を覗き込んだ。
「確かに、びっくりしたけど、もういいのよ。気にしないで」
「嫌いになったりしませんか?」
「シリルを嫌いになったりはしないわよ」
「ルドルフ様を好きになりましたか?」
少し顔を上げて、首をかしげながら、不安そうな顔をするシリルに、なんなのこの可愛い子は・・・。
「・・・・・ルドルフ様は、確かに素敵な方で尊敬しているわ。でも、好きになってないわ」
「ルドルフ様の有能さは、王宮でも頼りにされているようですよ。それでも?比べて僕は、ルドルフ様から見たらとんだお子様だ」
「ルドルフ様は、貴方より7歳も年上なのよ、貴方はまだ、家庭教師をつけて勉強している身でしょう。そんな、較べられないわよ。貴方、経済学とか領地経営とか、歴史学だとか難しい勉強をしてて、かなり優秀だと聞いているわ。これからじゃないかしら」
「でも、僕は貴女より2歳も年下だ。貴女から見るとやっぱり、頼りないですよね」
「私たちが、結婚するのは、3年後じゃないの、それまでには、立派な紳士になっているわよ」
・・・・ちょっと待って、なに励ましてるの?
3年後にシリルが立派になったとき、私は、行き遅れぎりぎりじゃないの。
本当にそれまで、シリルはこの優しくて、私を想ってくれるそのままの甘いシリルのままなの?
「では、それまでに、しっかり学んで、立派になって見せますから、待っててくださいね」
「・・・・・・ちょっと待って、私、待てるのかしら」
「えっ、待っていてくれないのですか?」
「シリルって、まだ記憶が戻っていないのでしょう。政略だからと結んだ婚約だけど、やっぱり、破棄しましょう。だって、記憶が戻って、私のことを好きじゃない気持ちを思い出したら、どうするの?」
「それは・・・・でも、記憶を無くす前も、婚約は破棄しないと言っていたのでしょう」
「そうだけど、あのまま夫婦になったとしても、とても結婚生活を続けられるとは思えなかったのよ。だから、お願い。一旦、破棄させて」
「・・・・いいえ。・・・僕、思ったんですが、アンナさんが馬から落ちたときに、僕がアンナさんを庇って記憶喪失になったのですよね」
「・・・ええ、そうよ」
「好きでもないアンナさんを、自分の身を挺してまで、庇ったりするものでしょうか。僕がアンナさんにずいぶんと酷いことを言っていたというのは聞きましたが、僕は記憶を無くす前にアンナさんのことをなんとも思わなかったわけはないと思っています。むしろ、その頃も好きだったのではないでしょうか。記憶はありませんが、婚約を破棄するのは絶対に嫌だと思ってしまうのです。・・・・・お願いです。せめて、あと2年いえ、1年時間をください。きっと、あなたにふさわしい男になって見せます」
肩を震わせたシリルは、真剣な眼差しを向けてきた。
あと、1年後、もし、シリルと破談になっても年齢的にぎりぎり間に合うのかもしれない。
「・・・・・わかったわ」
「ありがとう」
シリルは、私の手をしっかり握って額に押し当てた。
翌日、シリルから隣国のアンブローズ国へ1年間留学するという手紙が届いた。
アンナとシリルが婚約した年齢を12歳と10歳に変更しました。
1話の部分です。
これから二人がどうなっていくのか見守っていただけたらと思います。
宜しくお願いします。




