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10話

エアハルト様とダンスを楽しんだ後、シンシアのところに行こうと思ったが、シンシアはシンシアで、ダンスを踊っていたので、休憩することにした。

エアハルト様とのダンスは、何度もターンを繰り返し、動きが激しかったので、疲れてしまった。


「アンナさん、ずいぶんお楽しみだったようですね」


記憶を無くしてから、始終穏やかだったシリルが、なんだかとげのある言い方で、眉を寄せて不穏な目つきをしている。


「シリル。あなたもイレーヌ様とのダンスは楽しめたかしら。あなたとは年回りもいいし、話も合うのかしら」


とげのある物言いに笑顔で返したのに、片眉を上げて目を細めたシリルは不機嫌さを増したようだ。

どうして、そんな表情をするのよ。


「・・・・それなりに、楽しみましたよ。次こそは、僕と踊っていただけますよね」

「そうね、ルドルフ様とエアハルト様と踊って、思った以上に疲れちゃったみたい。もう少し、休ませてくれるかしら」


エアハルト様とのアドリブ満載の激しいダンスで、足がおぼつかなくなっているから、もう少し待ってほしいわ。


「あなたと踊っていたのは、ルドルフとエアハルトという方なのですね」

「ええ、有名な方々だから、あなたもよく知っている方々だけど、覚えてないわよね・・・ルドルフ様は、経済学者として有名な方だわ。著作も拝見したけど、とてもためになるわよ。エアハルト様は、武術大会で準優勝なさった方だわ。武術大会はあなたと一緒に観戦したけど、それは見事な戦いで、優勝は逃したけど、善戦なさったのよ。敗れた後も、きっと悔しいでしょうに、そんな様子をおくびにも出さず、ご立派だったわ」


胸に手を置いて、その時の光景に思いをはせていると、シリルにぐいっと手を引かれ、ダンスの輪の中に入ろうとする。


「待って、シリル。もう少し、休んでから・・・のども乾いたし、何か飲みたいわ」


制止の声も聞かず、シリルはホールの中に入っていくと、腰に手を回し、私の体を強引に引き寄せ、必要以上に密着してきた。

あまりの強引さに、驚きながらも、くっつきすぎた体に心臓がはねる。

ちょっと、シリルってば、休みたいって言ってるのに、どうして急に引っ張っていくの。


「シリル、ちょっと強引だわ、ひょっとして怒ってる?」

「・・・・アンナさんが、楽しそうに他の男性と踊っているのを見て、胸が苦しくなりました」

「・・・・どうして?」


ルドルフ様やエアハルト様とは踊ったことはないけど、いつも夜会では、シリル以外の男性とも踊る。以前はそんなこと言われたことはない。記憶を失ったシリルはなぜそんなことを言い出したのか。

分からないわと、首をかしげて様子を見ると、シリルが大きなため息をついた。


「僕は、記憶はありませんけど、あなたのことが好きなのです」

「えっ・・・・」


い、今好きって言った?あのシリルが?


「目が覚めて、あなたの顔を見たとき、天使がいたと思いました。そのあと、その天使が僕の婚約者だと知って、どんなにうれしかったことか。他の男性と嬉しそうに踊るあなたを見て、僕は嫉妬したのです」

「・・・・し、嫉妬?」

「そうです。嫉妬です。僕は、あなたが好きなんだと自覚しました。だから、婚約破棄なんてしませんよ。馬車の中でも思いましたが、どうやらあなたは、僕のことを単なる幼馴染としか思っていないようだ。僕を年下の弟だとでも思っていますか」

「・・・・・・・・・」


シリルの言う通りだわ。私はシリルのことを婚約者だけど、幼馴染としか思っていないわ。

イレーヌ様とダンスしているのを見ても嫉妬なんて感情は湧いてこなかった。

幼いころの2歳差は大きい。体格も体力の差もシリルはずっと私にはかなわなくて、、シリルのことは昔からかわいい庇護すべき弟のように思ってきた。

でも、この嫉妬に顔をゆがめて見下ろしてくる、こんなシリルは知らない。

記憶を無くして、別の男性になったようだわ。それに、私のことを・・・す、好きだって・・・・。

だんだんと顔に熱が集まってきて、心臓の鼓動が耳まで届いているみたいにどきどきする。


「いい顔になりましたね。やっと僕のことを男性として意識してくれましたか」


シリルの顔を見ると、してやったとでもいうように口の端を上げ、にやりとした。


「シリルからそんなことを言われるなんて、初めてだから、びっくりしたのよ」

「そうですか。では、これから覚悟してくださいね」


覚悟ってなんなの。

私は、心の中で絶叫した。


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