プロローグ
初夏。蝉が喧しく鳴き叫び、ほとんどの生物が空からの熱で体温維持が不安定になり始める季節。それは人間にとっても例外ではなく、茹だるような暑さに皆が冷房機能の付いた機械を使用してなんとか免れようとしている。
学生にとってはその辛い要素よりも夏休みと呼ばれている楽しい要素に心惹かれ歓喜し、そしてある一部の学生達は堕落していく。
最近17歳になったばかりの深山は、その一部に見事仲間入りを果たし怠惰の限りを貪っていた。本来であれば母親のような保護者によって喝を入れられ、そのような事態に陥ることも無いのかもしれないが彼は違う。現在彼は親元を離れ、一人で暮らしているからだ。両親の徹底した放任主義によって、高校に進学する際一人暮らしを許された。否、そのほうが面倒が少なくて済むと考えそのようになったのかもしれない。一般的に見れば物件探しだの諸契約だのでそっちのほうが遥かに踏むステップが多いように思えるのだが、これまた彼の家族内では考えるべきところが違っていたのであろう。彼本人としては一人暮らしは自らが望んだことであり、身内のその考えが自分に利となっていたのでさして放任に関して気にする訳でもなくむしろ助かっていた。
このような流れで、彼は自身が通う学校に近いその部屋に楽園を造っていた。
(ああ、なんてパラダイス。)
夕闇迫る時間になってようやくその身を起こした深山は、ただただ今という幸せな時をかみ締めていた。そして昨夜からなにも食べていないことに気づき、ふらふらと身体を動かし冷蔵庫に向かう。
が、しかしここで事件が発生する。物を冷却し長持ちさせるためのその白くてデカい図体に何も入っていなかったのである。正確に言うならば、調味料や飲料水等は入っていたが体に入れて腹を膨らますものは存在していなかった。ここで深山は絶望する。わざわざ外に出て買いに行かなければならないのかと。
深いため息を吐きながら財布をポケットに突っ込み、帽子を浅めに被った。ここから近くのコンビニまで歩いて約十分。近いようで遠いその距離に憂鬱な気分になりながらも、とぼとぼとその足を動かした。
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もしここで家に食べるものがあったら、別の人生になったのかもしれない。
もしここで近くのコンビニではなく、反対方向にあるスーパーに向かっていたら今までの延長線上にあるような生活を送り続けていたのかもしれない。
事実は小説より奇なりというが、彼を描いた小説はあなた達の送る人生という事実より幾ばくか奇妙であるかも知れなかった。
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