ドキドキした
急な告白を受けた翌日の仕事終わり。
わたしは基地に併設されている図書館に来た。
一般にも解放されているこの図書館は、ハワイ一の蔵書量を誇っている。
国内外、発行年代、ジャンル問わず幅広く揃っているので、わたしもよく利用している。
わたしが読むのはもっぱらファンタジーだけども。
最近は五十年ほど前に執筆された、少年の魔法学校での成長を描いた物語を読んでいる。
やっと三部目を読み終わったところで、今日は四部目を借りに来た。
明日は休みだから、今夜は夜更かししても大丈夫だし、明日も一日部屋で読書するつもり。
一昨日からわたしの置かれた状況が変わりすぎて、なんだかぐったりしたので、空想の世界へ現実逃避したいのだ。
目的の本はすぐに見つかった。
でも四部の上巻はあったけれど、下巻が貸出し中だった。
上巻だけだと、今夜だけで読み終わってしまうかも。
この際、新しいジャンルにも手を出してみようか。
わたしは児童文学のコーナーを離れ、館内を散策することにした。
歴史小説、料理に裁縫、卿土史、宗教関係。
一階をぐるりと回ってみたけれど、どれもいまいちピンと来ない。
専門書が多くてあまり得意ではないけれど、二階も見てみよう。
二階は医学やら経済やら、専門書というのか学術書というのか、背表紙の文字だけで頭が混乱するような本ばかり。
ダメだこれ、さっぱり分からん。
奥まで来たところで、閲覧用のソファーによく知った人物を見つけた。
ノアだ。
ふかふかのソファーに沈むように身を委ねて眠っている。
わー、寝てるとこ初めて見た。
こうして改めてじっくり見ると、やっぱりイケメンだなあ。
顔立ちは日本人だけど、おばあさんがアメリカ人のクオーターだから、西洋的な要素もある。
手足も長くてモデルみたい。
わたしこんな人に告白されたんだ、すごいな。
「ノア、風邪ひくよー?」
疲れてるのかな?
寝かせてあげたほうがいいかな?
とは思ったけれど、ここはクーラーがよく効いている。
このまま寝てたら本当に風邪ひきそう。
「ノア?起き―――」
肩を揺すろうと手を伸ばした時だった。
伸ばした手をぐっと引かれ、踏ん張りきれずノアの上に倒れこんだ。
「寝覚めにお前の顔見れるなんて、今日はついてるな」
至近距離にノアの綺麗な顔があってドキドキした。
悪い意味で。
寝てると思って油断してたから、突然腕を引かれて超がつくほどビビった。
「ちょっ、起きてるなら言ってよっ」
「言ったらこんなに近くに引き寄せられなかっただろ」
ノアはわたしの腰に手を添え、逃がさないように抱き寄せた。
わたしの今の体勢は、座っているノアに跨がっている状態で、恥ずかしいことこの上ない。
ここ公共施設ですよ、分かってますかー?
「いつから起きてたの?」
「多分ミコトが俺に気づくちょっと前」
「いや、もう本当に寝たフリした意味!ていうか離して、人が来たらどうするの」
「誰も来ないだろ、こんな奥」
そう言うと、ノアは添えていた手で腰を撫で回した。
ゾワワワワワワ。
うわ、鳥肌たった。
「ミコトが上っていうのもいいな。ちょっと興奮する」
「ごめんなさい、本気で離してください」
あとちょっととか戯言をほざきながら、いやらしく腰を撫でている手を、ベシベシ叩いて抗議すると、しぶしぶ解放してくれた。
まったくセクハラが過ぎるぞ。
「ミコトが医学書見に来るなんて珍しいな。勉強でもする気になったのか?」
からかうような口調で言うノアに、ちょっとムッとした。
事実なのがまた悔しい。
「何で珍しいって分かるわけ?」
「一人の時は大抵ここにいるからな。ここで会ったの、今日が初めてだろ?」
「医学書読んでるの?」
ちょっと驚いた。
頭が良いのは知っていたけれど、まさか医学にも手を出していたとは。
「いろいろとな。知ってるのと知らないのとで、生存率が変わるんだよ」
あっ。
そうだ。
ノアは最前線で戦う兵士で、部下の命を預かってる隊長なんだ。
生きる死ぬのやり取りの中で、ちょっとしたことが命取りになったり、逆に命を助けることになるんだ。
「一人でも多く、生きて帰してやらないとな」
だから少しでも知識を身につけるんだ、って。
責任と重圧を背負って、それでもみんなを守ろうとするノアは、すごく格好良かった。
「今、不覚にもノアのことカッコいいと思った」
「惚れた?」
「それはない」
でも、ノアのひたむきなところは見習おうと思った。
「わたしも本当に何か勉強しようかな」
「どうした、熱でも出てきたか?」
「どういう意味かなっ!?」
「で、今は何読んでたの?」
「ああ、女医が教える本当に気持ちいいピー(自主規制)」
「結局頭の中そればっかか!感心して損したわっ!」
「なんせ経験がないんでな。お前、気持ちいいほうがいいだろ?」
「しないからねっ!?」
今日もありがとうございました!




