避けるの禁止
わたしが落ち着くのを待って、食堂へと移動した。
わたしは基本早番で、十五時には仕事が終わるから、夕飯はいつもノア達と一緒にとっている。
それは今日も例外じゃないようで、今日は気まずいから後で行きたいなーというわたしの申し出は、ノアの「ああ?」という一言で却下された。
バイキング形式に並べられた料理をとり、いつもの定位置に座る。
ハナとアレンはまだ来ていなかった。
「お前、気まずいとか言って避けたりするなよ?」
ぎくっ。
実は少し距離を起きたいと思っていた。
「ソンナコトスルワケナイジャナイカー」
「する気だったんだな」
ノアはじとっとした目でわたしを見た。
でも、つい三十分前まで仲の良い友達の一人だったのに、いきなり好きだと言われて平静でいられるほど、わたしの神経は太くない。
ノアみたいに告白しておいて平常運転なのがおかしいと思う。
「マジでやめろよ?やったら毎晩の妄想を実行にうつす」
「仰せのままにっ」
目が本気ですごく怖かった。
妄想の内容は分からないけれど、誰が来るとも分からないような場所でいたす男だ。
絶対ろくなことじゃない。
「ミコト、お待たせっ」
「二人で先に来てたんだね」
わたしがノアに屈したところで、ハナとアレンが合流した。
「ミコトー、疲れたよぉっ。今日の訓練すごくハードだった」
ハナはトレーをテーブルに置くと、勢い良く抱きついてきた。
ハナは人懐っこくてスキンシップ多め。
そこが堪らなく可愛い。
おー、よしよし。
可哀想に、お疲れ様。
「よく言うよ。ノア以外の男子に追随を許さなかったじゃないか」
アレンは呆れたように言って、ノアの隣に座った。
わたしの隣にハナ、正面にノア、ノアの隣にアレン。
だいたい、いつもこの並び。
「こいつ運動神経イカれてるからな」
「でもノアにはいつも勝てない」
「お前が男だったら負けてる」
「あー、男に産まれたかったよー」
うわーんとさらに抱きつかれて、グフフなんて役得。とか思った。
変態だと思われるので顔には出していない。
……はず。
「それに男だったら、ミコトのことお嫁さんに貰えたのにー」
なぁんて可愛いこと言ってくれちゃって。
ハナが男だったら今すぐ嫁ぐわ。
女同士でうふふきゃっきゃっ。
ハナとのこういった戯れはすごく楽しい。
一通りきゃっきゃっしてから、みんなで料理に手をつけた。
「俺、ミコトに告ったわ」
突然、ノアが爆弾を落とした。
わたしは口の中のアボカドサラダを危うく噴き出すところだった。
んんんんん!?
え、言うの!?
「えー!ついにー!」
「時間をかけるんじゃなかったの?」
あれ、何その反応。
え、二人とも知ってたの?
「そのつもりだったけどな。抜いてるとこ見られた」
「うわっ、なにそれ。ダサすぎでしょ」
「うっせ。とりあえずそういうことだから。何かあったら協力よろしく」
いや、わたしの前で協定を結ぶなよ。
アレンもまかせてーじゃないから。
「それで、二人はお付き合いするの?」
ハナは目をキラキラと輝やかせて、期待した様子でわたしに尋ねた。
女の子だもんね、恋バナ好きだよね。
わたし応援するよー!
とか言ってるけど、ごめん。
「いや、付き合わないよ」
「えっ」
苦笑しながら言うと、ハナは一瞬で絶望したような顔になった。
そんな……え……なんで……?と、涙目で腕を掴まれた。
怖い怖い怖い、まばたきして!
「ミコト、ノアのこと嫌い?」
「嫌いじゃないよ。でも、友達って思ってたから、男の人として好きかって言われると、まだそういうのは……」
「ノアなら絶対ミコトのこと大事にしてくれるよっ」
ハナは必死の形相で、ノアの良いところをプレゼンし始めた。
いや、何でハナがそんなに真剣なの!?
「ハナ、落ち着いて」
「まだそんな段階じゃねーよ。そういうのはもーちょい先」
アレンになだめられて、ハナは少し落ち着きを取り戻した。
というか、何で付き合う前提なのさ。
「いや、落ちないからね!」
「なんで?落ちろよ。さっき俺が迫ったとき拒否しなかったじゃん」
わーっ!!
ハナとアレンの前で何言ってんだこいつっ!!
一瞬で顔に熱が集まったのを感じる。
「あれは驚きすぎて体が動かなかっただけっ」
「へぇ?じゃあやっぱりあのままキスしときゃよかったな」
「よくないわ変態っ」
わたしが一人ムキになっているとーーノアは涼しい顔で応戦しやがった、ふいに視線を感じた。
はっとしてハナとアレンを見ると、二人はニマニマした顔でわたし達を見ていた。
なんだよそのニヤニヤは!
「これは時間の問題かな?」
「なんだ。さっきは心配しちゃったけど、大丈夫そうだね」
二人はいやー良かった良かったと言って食事を始めてしまった。
全然、何にも良くない!
「諦めろ」
ノアはニヤっと不敵に笑った。
ノアもハナもアレンも、誰一人わたしが陥落するのを疑ってない。
何だかそれが、すごく悔しい気がした。
「俺が全身全霊で可愛がってやるよ」
「結構ですっ」
今日もありがとうございます!
二時間サスペンスが好きです。
恋愛小説書こうとしてるのに、恋愛ドラマは苦手だったりします。




