わたしの生きる時代
あの後どうやって部屋に戻ったのか、全く記憶がない。
後から聞いた話だと、きちんと早番の始業時間には厨房にいて、どこか虚ろな顔で黙々と仕込みを始めたというのだから習慣とは恐ろしい。
わたしが働くここは、地球連合軍ハワイ基地の第六食堂だ。
わたし達は今、戦争をしている。
相手は三十年前に、突如地球にやって来た地球外生命体。
彼らは最初、世界各地に宇宙船で降り立ち、人類を攻撃してきた。
アメリカやロシアを中心に、軍隊がこれに対応したけれど、彼らの進撃を食い止めるのが精一杯で、防戦を強いられた。
それから一年のうちに、ここハワイ島と同じくらいの大きさの母艦と思われる宇宙船が、太平洋に降り立った。
いよいよ人類滅亡かと思われたとき、日本の自衛隊が災害救助のために開発を進めていたパワードスーツが戦闘用に改造され、試験的に戦場に投入された。
これが、予想以上の効果を発揮した。
パワードスーツを着て、特殊合金で日本刀の切れ味を再現したブレードでぶった斬る。
これが最も地球外生命体に対して有効な攻撃手段だった。
それから人類は、三十年かけて世界各地の地球外生命体、および彼らの拠点となっていた宇宙船を制圧。
人類の勝利まであと一歩というところまできていた。
そして今、人類はこの三十年で最も強い兵士を有している。
一騎当千という言葉がまさに相応しいパワードスーツのパイロットが、同時期に三人存在しているのである。
彼らは人類の希望そのものだった。
その内の一人が、昨夜物置き部屋でいたしていらっしゃったノア=ツキモリである。
軍で勤務するようになったばかりの頃、エースパイロットの紅一点、ハナ=スペンサーと親しくなった。
それがきっかけで、常にハナと行動を共にしているノアと、もう一人のエースパイロットのアレン=ハワードと知り合った。
今ではそれぞれの勤務時間以外は、ほとんどの時間を一緒に過ごしている。
そんなノアのハッスルシーンを目撃してしまったのである。
もう気まずいったらありゃしない。
「おはよーミコトー」
朝食をとりに来たハナが、勤務中のわたしを見つけて、満面の笑みで声をかけてくれた。
ああ、その笑顔がたまらない。
まじ天使、まじ癒し。
「おはよう、ミコト。今朝のオススメは何?」
ハナの隣には、保護者役のアレン。
爽やか笑顔のスーパーイケメンで、基地中の女の子の憧れの的。
お腹の中真っ黒だけど。
「マッシュポテトと野菜スープ。昨日みんなで一生懸命皮剥きしたから、是非食べていって」
「あぁ、自動皮剥き機が壊れたんだっけ。お疲れ様、頂くよ」
「わたしマッシュポテト大好きっ。なくならないうちに取りに行ってくるっ」
元気に駆け出したハナと、父親の表情でハナの後を追ったアレンを見送って、わたしも厨房に戻ろうとした。
「おい」
目の前に立ちふさがるのは、言わずとも知れたノアである。
だよねー、いるよねー。
三人いつも一緒だもんねー。
「オ、オハヨウゴザイマス。私仕事スルデス」
「ちょっと待て」
捕まった。
がっちり腕を捕まれた。
「夕飯の前に時間作れ」
ノアの背後にどす黒いオーラが見える。
口止めですね、分かります。
「大丈夫、ワタシ誰ニモ言ワナイヨ」
「いいから作れ」
「かしこまりましたっ」
わたしは有無を言わせない圧力に屈した。
イケメンが凄むと怖いんだよ。
「十八時過ぎに昨日のとこな」
「はい……」
わたしの返事に満足したノアは、掴んでいた腕を離すと、ハナとアレンの元へ向かった。
わたしも仕事に戻ったけれど、魂が抜けたように上の空だったとか。
今日、残業になればいいのに……。
そんなわたしの願いも虚しく、時間通り十五時に上がらせていただきました。
今日もありがとうございます!
SF映画が好きです。
今回時代設定は録画してたインデペンデンスデイ見ながら書きました。
ジェフ=ゴールドブラムかっこえぇ。




