ノア=ツキモリ
ラブ(75%)下ネタ(24%)シリアス(1%)を目指して。
人々が寝静まった深夜二時。
いつもならわたしも寝ている時間。
基地内の数ある食堂の一つで働くわたしは、明日は早番で、四時には起きて朝の仕込みをしなくちゃいけない。
それがこんな時間まで起きている羽目になったのは、全自動で野菜の皮剥きをしてくれていた機械が故障して、数百人分の朝食に使う野菜達の皮剥きを、他のスタッフ達と一緒に、一つ一つ手で剥いていたからだ。
なんだって急に壊れるのか。
幸いなことに、故障が判明したのが夕飯の片付けをしている時で、朝から訓練に励む兵士の皆様に影響を及ぼすことなく済んだ。
それでよしとしよう。
徹夜になるけど、よかったことにしよう。
しんどいなーとかそんなんは……うん、ないことにしよう。
わたしは溜め息を飲み込んで、廊下を進む足を早めた。
一旦部屋に戻ってシャワーを浴びて、汚れた制服を取り替えなくては。
あまり使われていないし、出るという噂があるからいつもなら絶対使わないけれど、今日は近道したくて、物置き部屋が連なる廊下を通ることにした。
普段でさえほとんど使われることのない廊下は、深夜二時という時間も相まって、より一層不気味だった。
覚悟を決めて廊下を歩きだした直後、物置部屋の一つから、何か音が聞こえてくるのに気がついた。
「――、――――」
耳を澄ますと、人の声のように聞こえた。
全身に鳥肌がたった。
どうしよう、やっぱり噂は本当だったのかも。
足が固まってしまって動けない。
息を殺してじっとしていると、さっきよりはっきり声が聞こえた。
「―コト、――ミコトっ」
ミコト。
それはわたしの名前だった。
数万人いる基地の関係者に、日系はそれほど多くない。
ましてやミコトなんて、日本人でもなかなかいない。
何故自分の名前が呼ばれているのか、声の主が誰なのか、急に気になった。
こんなところで、一体誰が。
固まっていた足を叱咤して、声がする部屋へと近づいた。
荒い息遣いと、わたしの(同名の別人の可能性もあるけど)名前がはっきりと聞こえた。
ここまで来ると、もう噂のアレとは思えなかった。
物置部屋の引き戸に手をかけ、中にいる人物に気付かれないように、そっと隙間をあけて中の様子を伺った。
最初は暗くてよく見えなかったけど、暗さに目が慣れてくると、徐々にその姿がはっきりと分かるようになった。
その人物が何をしているのか分かった瞬間、わたしは再び凍りついた。
この人物を、わたしはよく知っている。
「ミコトっ」
彼は最後にわたし(同名の別人以下略)の名を口にして、切なげにその身を震わせた。
何故このとき何も見なかったことにして、そっとこの場から離れなかったのか。
わたしは後に、何度も後悔することになる。
「……ノア?」
「っ!」
わたしの存在に気付いてなかった彼は、ばっとこちらに顔を向けた。
きっと声で誰か分かったんだと思う。
こちらを見た彼の目は、見たことがないくらいまん丸に見開かれていた。
「ミコト……」
どうやらわたしは、人類最強のエースパイロット――ノア=ツキモリが、わたし(同名以下略)の名を呼びながら絶頂に達した瞬間に遭遇してしまったようだった。
シリアスめの小説の構想を考えてたら
急にただひたすらに馬鹿な話が書きたくなりました。
お付き合いいただけたら幸いです。




