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本編

本編です。楽しんでいただけると幸いです。

誤字修正しました。

 逆さ虹の森。

 いつ見ても、虹が逆さに架かる不思議な森。

 光を通さない程に濃い霧を抜けた先にあるその森には、幾つかの不思議があります。


 ドングリを投げ入れてお願いをすれば、それが叶うと言われるお池。

 嘘を許さない木の精霊が住む、根っこに覆われた小さな広場。

 いつからあるのか、ボロボロになってしまった橋。


 月明かりが木々の隙間から差し込む森は、夜であっても温かい光があちこちを照らしています。

 今夜もそんな森の一角に、動物達が集まり始めました。


『今夜も月が綺麗だね。』

《ふふ。今日も歌いたくなるよ。》

【そんなことより、食べ物な~い?お腹すいちゃった~。】

“うるせぇ!俺は寝てぇんだ!!”

(び、びっくりするから大声出さないでよ…。)

[はは、相変わらずクマさんは怖がりだね。]

 キツネさんが言うように今夜は、真ん丸の月が二つ輝いています。


 一つは青く、もう一つは白い。

 それは、虹も相まって森を見守るようでした。


《~♪》

『君の歌はほんと綺麗だね。』

《あれ?歌はなのよ?》

『おっと。勿論姿も君は美しいよ。』

 キツネさんとコマドリさんは、二人で空を見上げ。


【わ~。木の実だ~。ありがと~アライグマさ~ん。】

“うるせぇ!偶然拾ったからお前にやるだけだよ!”

 ヘビさんとアライグマさんは、一本の木の下で、アライグマさんが持ってきた木の実を一緒に食べていて。


[クマさん?]

(何リスさん?)

[それ!]

(わわわ?!?!)

[ははは。わわってクマさん。ははは。]

 どうやらクマさんは、リスさんが隠し持っていた落ち葉を顔に当てられて驚いたようです。


『さて、そろそろ今日も行こうか?』

 キツネさんが先導するように、そう声を掛けました。

《~♪》

 コマドリさんは歌うように返事をし。

【う~ん。】

 ヘビさんがどこか間延びした返事をし。

“しゃあねぇな。”

 アライグマさんが仕方無そうに返事をし。

[ははは。はーい。]

 リスさんが笑いながら返事をし。

(ま、待ってよ~。)

 クマさんが遅れない様に慌てながら返事をし。

 キツネさんを先頭に動物達は、歩いていきます。


(な、何度来てもここは怖いね。)

 動物達が来たのは、崖と崖の間に架かる今にも崩れてしまいそうな、ボロボロの橋でした。橋の下では大きな川が勢いよく流れている様で、橋を渡る前から水の音が聞こえてきます。


[クマさん、また怖がってるの?]

“何度も来てるんだから、いい加減慣れろや!”

 渡ろうとすれば落ちてしまいそうなボロボロな橋を見て、怖がるクマさんをリスさんがからかい、アライグマさんは呆れているみたいです。


(だ、だって怖いものは怖いよ~。)

『そうだよ二人共。落ちたら助からないからね。気を付けて渡るんだよ。』

 怖がるクマさんをキツネさんは庇いつつ、みんなに注意を促します。


 動物達は、各々の仕方で返事をしてキツネさんを先頭にボロボロの橋を渡り始めます。

[あ。]

 リスさんが、何かに気付いて声を上げます。

『どうしたんだい?リスさん。』

 先頭のキツネさんが、代表して声を掛けます。


[ううん。なんでもないよ。]

『そうかい?じゃあ、行こうか。』

 そう言って動物達は、また橋を渡り始めました。

 橋の上は暗いので、動物達は慎重に渡っていきます。


『さぁ、行こう。』

 向こう岸へと渡りきった動物達は、またキツネさんを先頭に進んでいきます。

 橋を渡った先は、さっきまでの森とは違い大きな木がたくさん在り、光も少なくて、進む方は真っ暗です。

 さらに大きな木の根が地上へ出てきていて歩きにくそうです。


 動物達は、根が足に絡まない様にゆっくりと進んでいきます。


【ん~。】

『どうしたんだい?ヘビさん。』

 ヘビさんが立ち止り、呻るような声を出します。


【お腹空いた~。】

 どうやら食いしん坊なヘビさんが、お腹を空かしているみたいです。

“あぁ?しかたねぇな。さっきの木の実の余りだ。食ぇ!”

【ありがと~う。】

“うるせぇな!余ってても仕方ねぇからやるだけだ。”

 アライグマさんが、ヘビさんに先程の木の実の余りをあげたみたいです。

 ヘビさんは、満足そうに木の実を食べています。


『さぁ、行こうか?』

 キツネさんが声を掛けて、再び動物達は進んでいきます。

 

 大きな木が立ち並ぶ森を動物達が進んでいくと、開けた場所へ出ました。

 開けた広場の中心には池が、いえ…、池と言うには大きな湖が在りました。


『さぁ、さようならだ。』

【だー。】

[そうだね…。]

 キツネさんが、そう声を掛けるとヘビさんが相変わらずマイペースに。

 また、リスさんが声を絞り出す様に、声を出しました。


《~♪》

 コマドリさんが歌をさえずります。けれど、その歌は悲しげで別れを惜しむような、そんな歌でした。


 湖に集まった何匹もの動物達は、それぞれの手にドングリを持って、互いに別れを惜しむようにそれぞれの方法であいさつを交わしているみたいです。


《~♪》

『本当に綺麗な歌だ。今回が聞き納めなのが悲しいな。』

《ふふ。私も話すのが最後なの、悲しいなのよ。》

 キツネさんとコマドリさんが「私」の近くでそんな話をしています。


《私も行くなのよ。》

 コマドリさんも口に咥えたドングリを持って、湖へ飛んで行きました。

 そして咥えたドングリを、二つの月と虹が映った湖へと落とすと、コマドリさんは向こう岸で見た宙に浮かぶ光の玉に成ってしまいました。

 それは、空に浮かぶ月の光とは違う温かな光を放っていました。


『リスさんは行かないのかい?』

 辺りを見れば、どうやら先程までたくさんいた動物達は私達を除いて、湖の上に輝く光の玉に成ってしまったみたいです。

[ううん。行く。折角自由になれるんだもんね。]

『そうだ。ほら、行きなよ。』

[うん…。]

 リスさんも、手に持ったドングリを湖に投げ入れ光の玉に成ってしまいました。


『さ、今回の最後は君だ。』

「はい。」

 私も、手に持ったドングリを湖へと投げ入れる。


 私の意思は、光となって消えていく。

 最後に思い出すのは、あの人の泣き顔。

 泣かないで。

 笑って?

 大好きだったあの人は、涙でぐちゃぐちゃにして笑ってくれた。

 私の大好きな笑顔で。


 さようなら。

 やっと言えた。

 ちゃんと言えた。

 届いたかな?

 届いたよね。

 私の事は忘れ…。


 …。


 忘れて…。


△△△


 彼女が光の玉に成ると、湖の上に漂う光達は上へ上へと昇って、逆さの虹へと飛んで行った。

『今回は百を返せた…。』

 そして、昇った光とは反対に青い月から幾万の光が森へ落ちてくる。


 逆さ虹は現世と天国を繋ぐ橋。

 逆さ虹の森は、未練を残して死んでしまった人を閉じ込める監獄。

 光の玉から動物の形になるまで長い時間を過ごし、そして未練を悔やむ場所。


 未練を果たすことも、逃げることもできない監獄。

 霧に包まれた監獄を出る方法は、ただ一つ。

 ドングリを投げ入れてお願いをすれば、それが叶うと言われる池で願うこと。

 それをするためには監獄内にある、いくつもある不思議を乗り越えなければならない。


『まだ僕は頑張らないとね。』

 湖に残った彼は、そう零して歩き出す。動物達を助けるために。

投稿日の11時に後書きを投稿します。

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