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「あの子、鏡のなかに入ったきり帰ってこないんだってね」

旧校舎 大きな鏡の前


靴と手紙を置いて


腕時計を確認する


もうすぐみたいだ



それを聞いたのは昨日のこと


クラスのなかで流行ってる噂


「旧校舎の大きな鏡のなかに入れるらしい」


「入ったら二度と戻ってこれない」


「既に入ったきり帰ってこない子がいるらしい」



生きることにはもう疲れたし


だからといって死にもしないし


でももう、さよならしたいし


そんなわたしには朗報だ



興味半分 本気半分


よくある内容の手紙を片手に握りしめ


旧校舎に忍びこんで


噂の鏡の前に相対する


死ぬ覚悟も生きる覚悟も無い


わたしにはお似合いだ



ひきつった笑みのわたしが


目を鈍く光らせ 立っている


ほら、


靴を脱いだら手紙を置いて


時間を確認したら前を向け


半端者の末路を


鏡のわたしが嘲笑いながら


待っている





時間になった


唾をのんで 鏡に触れてみる


手に伝わるのは 冷たく硬いいつもの感触


押してみても もう一度触れてみても


何も起きやしない


わたしはため息をついて


乾いた声で笑って


そんなもんだよねって


突き飛ばすように押した



途端、ぐらりと揺れる体


近づいてくる床


空を切る感触



嘘、


そう思った時にはもう


わたしは鏡のなか



四角く切り取られた 


さっきまでいた場所に


手を伸ばしたら


見えない壁の感触が伝わって


冷たさが全身を巡った



もう、本当に戻れない


そう言って俯いた瞬間


さっきの乾いた笑い声が


自然に漏れた


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