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魔界サバイバル  作者: nyansan
学校転移
5/18

白井の力

「ちょーウケる。キョドりすぎて何言ってんのか全然分かんねーし」


 放送の内容は要約すると『校内に不審者がいるので生徒は教室か体育館に避難、近くの先生の指示に従うように』だそうだ。流石にこれじゃこの騒動は治まらないだろう。それに相手は人間ならまだしも化け物だ。教室や体育館に避難したところで身の安全が保障される訳でもない。

 おまけに指示を出す教師はこの教室で死んでいる始末だ。


 二人の遺体は白井によって教室の隅に運ばれている。しかし古志は聞いていた。白井が鈴木の首を体の元の位置にそっと置いた時、ボソッと『ドッキング』と言った事を。コバセンの体をうつ伏せにするか仰向けにするかで悩んだ事を。


「コバセン、俺はストレートにお前が嫌いだった。お前が俺に対して言った『刺身の上にタンポポ乗せるぐらいの仕事しか出来ない奴』その言葉は死んでも忘れない。思い出したらムカついてきた、一発ぶん殴っていいか?」


 他の二人は『お前はそれすらまともに出来ないと思う』と言いたかったが何とか飲み込んだ。


「さあ、ナベさん何か食いに行くか」

『ようやくか。もう待ちくたびれたぞ』

「ちょっと! 女二人こんなとこにほっぽって行く気!?」

「放送で教室に待機してろって言ってたと思うんですが……」


 教室から出る事を躊躇う二人に対し、白井はナベさんを引き連れて教室を出ようとする。だが扉に手を掛けると何者かが先に扉を開けた。


「ん?」


 扉の開いたそこには人影はなく不思議に思うが、違和感を感じその場を飛び退く。勘が功を成したのか大事には至らなかったが、白井のズボンの裾は鋭利な刃か何かで斬られ若干の血が滲んでいる。


「し、白井君っ! それです! それが二人を殺した奴ですっ!!」


 足元に視線を移すと、背丈は白井の膝までもなく異様に長い手の先に鋭い爪を携えた猿のような生物が座っている。


「やってくれんね! ヒキガエルみたく潰れてけよっ!!」


 近くにある椅子の背もたれを掴み猿に叩きつける。が、手に残ったのは背もたれのみ。椅子は猿に届く前にバラバラに切り刻まれた。おまけにいつの間にか右腕が斬られ出血している。


 一瞬の内に全身から汗が噴き出る。シャツが汗でへばり付き不快感を感じるが、恐怖がそれを上回った。過度の緊張に目眩すら覚える。白井は生まれて初めて、いや、“二度目”の平和な日本では味わう事のない命の危機というものを実感した。


『人とはかくも脆い生物だな。たかが下位のクリファに這う魔物如きに傷をつけられるとは』

「ナベさん、コイツ知ってんのか!?」

『下位クリファ、物質世界に限りなく近い領域に棲む名も無き魔物だ。そんな事より私は腹が減った、さっさと始末しろ』

「どうやってだよ!? つか魔物って何だよ!? 無茶言うな!!」

『魔素を纏え。やり方は先ほど教えただろうが』


 さっきのバファリンもどきの不思議パワーか! 確かに少し前から体の中に不思議な感覚が渦巻いているのには気付いていた。

 とにかく気持ちを落ち着かせ、その不思議な感覚が全身に行き渡るイメージをする。

 恐怖と緊張は身を潜め、代わりに高揚感が芽生える。集中力も研ぎ澄まされ、時間の流れを緩やかにさせる。

 動体視力も上がっているのか、何をされたのかすら分からなかった猿の動きは手に取るように分かり、爪よりも先にこちらの拳が届く、その確信をもたらす。


「フッ――――――!!」


 猿が動いた瞬間、拳を握り締め真っ直ぐに猿の顔面へと打ち込む。


「え?」

『は!?』


 傍観していた二人には白井の腕の動きは全く捉える事が出来ていなかった。気付いた時は白井が拳を振り抜いた後、猿の顔面だけが細かな肉片となって爆散しているところだった。

 ビチャッと水分を多分に含んだ肉片が教室の壁にへばり付き、顔を失った猿はそのまま倒れ込む。それを行った当の本人は自分の拳を見つめ呆然としている。

 だがそれはナベリウスにも同じ事が言えた。彼の眼にも白井の動きを正確には捉える事が出来ていなかった。

 自分で説明しておいて何だが、つい先ほどまで魔素の存在すら知り得なかった人間風情が我々“悪魔”同等にそれを扱えるものなのか。それとも我が主が求める者がこの男なのか? 

 いずれにせよまだ不確定な要素が多すぎる、【アスタロト】様への報告は今しばらくは控えておくか。そう結論付けると何事もなかったように廊下へ進み出る。


『さあ、食堂へ向かうぞ!』


 ――同時刻


「では全生徒を負傷者も含め体育館へ誘導、教職員は常に複数人で行動してください。それから学年主任は不明生徒のリストを早急にお願いします」


 職員室では緊急の職員会議が開かれ、教職員が慌しく行動している。当たり前の事だが、教師と言えど人間。この騒動に怯える者も少なくない。

 本来であればパニックに陥る前に教師が制止するはずが流石に想定外だ、この状況を誰が責める事が出来るだろう。


「夢日先生は体育館で負傷者の対応に当たってください。私はもう一度外部との連絡を試します」


 教職員に指示を出すと校長は教頭を伴い校長室に戻る。ドアを閉め、室内に教頭と二人しかいない事を確認すると声を荒げ、来客用のテーブルを叩く。


「何なんだッ! 何でこんな事になっているんだッ! 何で定年まで後僅か、何でこんなタイミングで……」


 外部との連絡手段は全て試した。携帯、固定電話回線、インターネット回線、防災用無線機その全てが使用出来ない。


 時間も経てば外部もこの学校の異変に気付くだろう。父兄や納入業者からの連絡、警察へ通報もあるかも知れない。マスコミ連中だって動き出すだろう。


「校内で少なからず死傷者が出ている、その誰が責任を取るんだッ! 化け物? テレビや映画じゃないんだぞ、誰がそんな与太話信じると言うんだッ!!」


 教員となり、はや何十年。今まで何事もなく無難に勤め上げてきた。任期中に起きた非行生徒の起こした騒動、苛めや自殺の問題など教育委員会と共に全て適切に処理してきた。だが、今回ばかりはどうにもならない。


 備え付けの冷蔵庫から水をコップに移し渇きを癒す。一息はついたが火は治まらず、コップに亀裂が入るほど荒々しくテーブルに叩きつける。


「マスコミや大衆の興味を他に逸らす必要がありますな。例えば……」

「なるほど。もうすでに何人も死んでいるんだ、今更一人二人増えたところで変わらんという事か。では手頃な奴を集めるか――」

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