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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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跳躍



 戦いは何時しか掃討戦へと移行し、オーガを主体とした数千にも及ぶモンスターは粗方駆逐されていた。

 先陣を切っていた魔国所属の三名は掃討戦に参加することなく、既に私が寛いでいる客車の中へと帰陣している。

 そんな目覚ましい活躍をした女性達は現在(いま)、サリアを先頭に片膝を付きながら、大きな顎の中で三角形を模した魚燐の陣を敷いている。だがおそらくではあるが、彼女達には陣を敷いているという意識など欠片もないだろう。


「皆、ご苦労だったな。それに無事でなによりだ」


「あぁ、なんと勿体なきお言葉。主君の命に従って懸命に働くことこそ、我々配下の喜びにございます」


「あ……そう」


 恍惚とした表情で戯言をほざくサリアにドンっと引きながらも、予想以上の活躍をしてくれた配下達へと労いの言葉を掛ける。

 彼女達が途轍もない強者であることは何となく予想していたし、侮っているつもりなど微塵もなかった。だが先ほど目の前で繰り広げられた殺戮劇の残虐さは私の予想を遥かに超えており、その甘過ぎた認識は早急に是正されるべきものだった。

 巨体を誇るオーガの四肢が無造作に、血飛沫を上げながら間断なく宙を飛び交うのだ。その光景たるや見るに堪えない醜悪さであり、夢に見そうなほど胸糞の悪いものであった。


「それで、この後はどうされるのでしょうか?」


「その問いへ答える前に確認しておきたいんだが、この都市の兵士と先ほど何を揉めていたんだ?」


 ホイスディンク? という名の賢そうな優男との交渉を経て、城方の兵をモンスターとの戦闘に巻き込むことに成功した我々だったが、彼等との連携で少しだけ問題を起こしていたのだ。

 城外で優位に戦闘を繰り広げるサリア達を目指して、先ずは甲冑に身を包んだ騎馬隊が、続いて皮鎧(レザーアーマー)に身を包んだ一般兵と思しき一団が城門から駆け出した。

 そして騎馬隊が戦場へと到着する直前で魔法と思しき砲撃が城壁から射ち込まれるが、その威力はサリア達の戦闘を見守っていたモンスターの一団を軽く吹き飛ばすに止まる。この砲撃が戦況に大きな影響を与えたかと言うと甚だ疑問であり、まあ正直に言って蛇足という表現でも過言ではないだろう。


 だが屁の突っ張りでも騎馬隊の突撃に、微妙に寄与したのは間違いなかった。砲撃の混乱に乗じて斬り込んだ騎馬隊は、組織的な反撃を受けることなくモンスターの集団を蹂躙。その彼らに続いた兵士達は、手傷を負って動きが緩慢となったモンスターを効果的かつ効率的に狩っていく。

 そんな組織的な戦闘を続けていた兵士の一部に動揺が広がったのは、嗜虐的で華やかな戦闘を繰り広げるサリアに辿り着いた後だった。戦いの趨勢が都市側の勝勢で決しようとしていたその時、未だ混戦が続く戦場で何故か彼女と一部の兵士が揉め始めたのだ。


「そ、そうなのじゃ! 聞いて下さいカミュ様!! あの兵士達が我を厭らしい目で見たんです!」


 必死に主張するサリアを見て私は思った。それは君の勘違いではないのか? と。


「そ、そうなのか? だが見られたとの理由だけで、彼等の手首を切り落とす必要はなかったんじゃないか?」


「そうじゃないんです! 我の可愛らしくも官能的なこのお尻に、あ奴等は触れたのです! あぁ……なんと汚らわしい!!」


「それは撫でられた、若しくは揉まれた、という意味か?」


「いえ。まぁ濃厚な視線に()てられた、という程度でしょうか?」


 それが何か? とでも言いたげな表情でサリアが小首を傾げる。

 あの乱戦の最中に獅子奮迅の活躍を見せる彼女の尻を、足下にも及ばぬほど戦闘力に乏しい一般兵が(まさぐ)ったのであれば、それはそれで奇跡的快挙と褒め称えるべきであろう。

 彼女の身のこなしはそれほどに常軌を逸していたのだ。正直私でも触れられる自信が全く無い。まぁ、それ以前に触ろうとも思わないのだが。


「それで手首を切り落とすのか……。今度からは物理的接触が無い限り、人間の手は切り落とすな」


「……はい、承知しました」


 一瞬だけ目を見開いた彼女だったが、直ぐにバツの悪そうな顔で下を向いた。

 サリアの後ろに控えるカルラは私に同意しているようだが、その横で跪いているネビロスについては、私に賛同してくれたのかその表情から察することは出来ない。


「バイコーン達が戻ったようだな」


「今まで何処に行っていたのですか?」


「北門の掃討だ」


「なるほど……戦力的には過剰だったかもしれませんね」


 その微妙な雰囲気を一蹴するかのように、北門へと向かっていたバイコーンが戻って来る。

 息一つ切らさず、傷一つ追わずにタイミング良く戻った彼等もまた、超常の戦闘力とエアリーディング能力を誇るのだろう。

 というか、過剰戦力と言った後で口角を上げてニヤリと嗤うサリアの顔が、何故だか無性に鼻に付く。


「そうだな。で、話は今後の予定だったな。もう日が暮れたし……今日はこの街に泊まろうと思うが、何か問題はあるか?」


「いえ問題はございません。ちなみに……宿屋の部屋割りは、どのような感じなのでしょうか?」


 西の空は既に赤から紫紺へと変わり、昼の暑さを湿り気のある優しい風が一掃している。

 このまま行動を続けるには時間的に問題があるし、この街というか人間が営む都市そのものに興味もある。この街で一泊するのは必然であろう。

 だがサリアは何故、部屋割りに拘るのだろうか? 一人一部屋と思っていたのだが、セキュリティ面で何か問題でもあるのか? その疑問を晴らすような閃きは、私の脳裏に未だ降りて来ていない。


「一人づつ部屋を用意するつもりだが、何か問題でもあるのか?」


「そ、それはいけません!!」


 目を見開いたサリアが、唾を飛ばして必死に訴える。


「……何がだ?」


「宿代が勿体無いのです! 此処は贅沢をせずに、二部屋に留めるべきです!」


「ふーむ……確かに。サリアの言は尤もだな。宿泊の際、参考にさせて貰おう」


「は、はい!!」


 目を輝かせたサリアが、平たい胸の前で両手を合わせている。

 何に感動しているのか全く判らないが、今は深く関わり合わないのが賢明な判断というものだろう。


「さて……都市内に入る前に、ベンヌの様子でも探ってみるか。その前にお前達、その恰好で居続けるのも何だ。ソファに座って寛いでくれ」


「ありがとうございます。それでは失礼いたします」


 深く一礼した三名が、銘々にソファへと座りだした。

 ネビロスとカルラは半身に構えつつ、此方へ尻を向けぬようソファへと腰掛けているが、彼女達の上位者であるサリアは、その小さい尻を思いっ切り私に見せつけている。

 その幼さの残るセクシーショットに、私の食指が動くことは全くない。それどころか、その無礼なケツに渾身のパンチを叩き込みたい衝動に駆られるが、私はその危険極まりない衝動を必死に抑え込む。

 下手に触って斜め上な勘違いでもされようものなら、私は自分自身を許すことが出来なくなりそうで怖かったのだ。


「ふぅ……。あ、ネビロス。バイコーンを馬車に繋いでくれ」


「畏まりました」


 座ったばかりのネビロスだったが、彼女は一礼とともに立ち上がると直ぐに馬車を降りた。

 休んだばかりのところで本当に申し訳なかったのだが、バイコーンをそのままにしておくのも私が気持ち悪かったのだ。

 ネビロスの可愛いお尻から出ている尻尾に目を奪われながらも、私は自身の蟀谷(こめかみ)に指を当ててベンヌを思い浮かべた。


『ベンヌ、そちらの様子はどうだ?』


『か、カミュ様ですか!?』


『ん? あぁ、私はカミュ様だ。というか今、私の名前を口に出せる状況なのか?』


『あ、はい。わらわの隣にはビマシタラしかおりません』


 マンティコア達の案内を頼んだのに、何故周りに誰も居ないのだろうか?

 彼女の状況が良く判らないが、何かトラブルでもあったのかもしれない。もっと詳しく聞いてみるべきだろう。


『何か問題でもあったのか?』


『はい……実はつい先ほど、モンスター達に襲われました』


「お、襲われた!?」


 声を荒げた私に、サリアとカルラの訝し気な視線が突き刺さる。

 だが私はその視線をスルーして、言葉に違和感が残るベンヌへと質問を重ねた。


『何があったんだ? もう少し詳しく説明してくれ』


『はい、あれは今日の終わりが近付きつつある逢魔が刻、鬱蒼とした草原の中で我々は――』


 その様相とこの場に似つかわしくない独特な口調でベンヌが語り始めたのは、あまりにも衝撃的な内容であった。

 あの友好的だった佐藤が、突如として彼女に襲い掛かったというのだ。

 平和ボケした元日本人であるはずの彼の暴挙。俄かに信じられなかった私は、その真相を確かめるべく彼女の応答に耳を傾けた。


『佐藤がお前に襲い掛かったのは、間違いないのか?』


『は、はい。間違いございません。わらわに対して突然火魔法を放ったのです! それはもうあまりに恐ろしい表情で……』


 襲われた恐怖が未だ残っているのだろうか? ベンヌは焦りの混じった口調で私の問いを肯定する。


『キャラケンダにも話を聞いてみたいところだが……』


『キャラケンダですか? 少々お待ち下さい』


 少々お待ち下さい?

 その電話のような応対に、私は少なからぬ疑問を覚える。


『カミュ様、キャラケンダです』


『!? ……何故、話せるんだ?』


『え? あ、いえ。只今、ベンヌ様の肩をお借りしていますので』


 肩を借りると何故念話が可能になるのだろう?

 全く理解出来ないのは、私の頭が弱い所為なのか?

 腕組みしながら必死に首を捻るが、その真相に辿り着く遥か手前で、私は状況の看破を早々に諦める。判らないことを必死に考えるのは、総じて時間の無駄であることが多いのだ。


『まあ良い。ベンヌが襲われたのは間違いないんだな?』


『はい、間違いございません。スズキと名乗る雌の横柄な態度に堪り兼ねたベンヌ様が、その態度を強く指摘をされたのですが……その指摘に逆上した雌が、あろうことかカミュ様を侮辱し始めたのです』


 何故、鈴木の逆上が私への侮辱に繋がるのか。

 本当に、全くもって一mmも理解出来ないのだが、自分が気付いていないだけで私の頭は、本当は相当にアレなのかもしれない。

 なんか段々と自信が無くなって来た。私は魔王としての演技をこのまま続けても大丈夫なのだろうか?


『それで?』


『カミュ様への侮辱を受けたベンヌ様はその雌を軽く窘めたのですが、その光景を見たサトウなる者がベンヌ様へと火魔法を放ったのです』


『その火魔法は明確にベンヌを狙った攻撃だったのだな?』


『はい、間違いございません。もしこの攻撃を受けたのがカール達であったならば、間違いなく彼等は即死していたでしょう』


 俄かには信じられない話ではあるが、説明しているのはあのキャラケンダなのだ。

 彼女が嘘を言っているとは思えないし、その口調には一片の澱みも感じられない。

 モンスターへと生まれ変わったことにより、彼の精神がダークな方へと引っ張られた可能性も零とは言い切れないだろう。

 彼女達の話だけで真実を見抜くことは出来ないが、いずれにせよベンヌとキャラケンダが無事だった――無事?


『お前達は無事なのか? 三百体近いモンスターが同行していたよな?』


『はい、全く問題ございません。皆、殺し尽くしました』


 語尾にハートマークを幻視させるような口調で、朗らかに語るベンヌに空恐ろしいものを感じる。

 何故そんなに明るく語れるのだろうか? 襲われたことで彼女は恐怖に苛まれていたはずではなかったのか?

 まるで心配されたことが嬉しかったかのような彼女の反応に、私は大きな違和感を覚えながらもこの話題の終息を心から望み始めていた。


『そうか……無事でなによりだ。何もないのであれば、此方へと帰還してくれ』


『はい。承知しました』


 ウフフ、と気味の悪い笑みで念話を締め括られてしまったが、彼女との会話で私の心に二つほど気掛かりが生じていた。

 一つはアルフレート達に同行させたバディスの状況。もう一つは佐藤以外の転生者の有無だ。

 先ず確認すべきはバディスの状況だろう。彼とは念話が通じるのだ。直ぐに確認すべきと私は西の空を見上げる。


「カミュ様、どうかされたのですか? 先ほど「襲われた」と聞こえましたが」


「あぁ、先ほどベンヌが襲われたそうだ」


「プリクラが!? それであ奴は、死んだのですか?」


「い、いや……死んではいないし、寧ろキャラケンダと共に無事とのことだ」


 そうですか、と何故か残念そうに肩を落とすサリアも気になるが、それよりも先ず把握すべきはバディス達の状況である。

 例の爆心地へ向かいたいというアルフレート達を心配してバディスを同行させたのだが、何かの間違いでベンヌの様な状況に陥っている可能性も無くはないのだ。

 その懸念が急遽浮上したことで不安になった私は、黙ってさえいれば国民的美男子と言えるであろうバディスの姿を思い浮かべて、先ほどと同様に蟀谷(こめかみ)へと指を当てた。


「お話し中に申し訳ございません。サリア様が言われたプリクラとは何でしょうか?」


 奴と念話しようとしたまさにその時、今まで静かに話を聞いていたカルラが、小首を傾げて疑問を口にする。

 レイアーヘアーが似合う彼女であるが、この手の話題にも好奇心は旺盛のようだ。

 まったく無表情のネビロスとは対照的なその姿に、私の好奇心も少年のように盛り上がる。


「あぁ、説明していなかったな。プリクラとは、ベンヌに与えたコードネームだ」


「こーどねいむ?」


「あぁ、そうだ。作戦中に名乗る偽名のことだな」


「そういうことですか。素晴らしいお名前ですね」


 目を輝かせたカルラが、その眼差しだけで胸の内を伝えてくる。


「もしかして……お前も欲しいのか?」


「え!? 我々にも与えて下さるのですか? その貴きお名前を」


「とうと……い? え? あ、まぁ、そうだな」


「「ありがとうございます!!」」


 そのあまりの食い付きに思わず首を捻ってしまうが、それでも彼女達の目の輝きが損なわれることはない。

 意外だったのはネビロスがカルラと声を合わせて食い付いたことだ。

 感情の一切を悟らせぬ無表情にも拘わらず、視線だけに熱いものを乗せるとはなんと器用なことだろうか。


「うーむ、さてどうしよう。何が良いだろうか?」


「適当でよろしいかと思いますが?」


「そういう訳にもいかないだろう。まぁ、ある意味適当と言えば適当なんだが……」


 サリアの横槍にも気を奪われることなく、適当な名前を真面目に考える。

 真面目に考えた名前が悉く不評で、適当に考えた名前が受け入れられる奇妙な世界だ。

 今回もあまりにも真面目に考えるより、心の底から適当に考える方が良い結果を生むのだろう。


「もう決められたのですか?」


「ん? まだ決めていないが、急いだ方が良いのか?」


「い、いえ、そういう訳ではございませんが……」


 サリアがネビロス達の名前を異常に気にしている。

 何故そんなに気になるのだろうか?

 もしかすると、あまりにも変な名を付けやしないか、私を心配してくれているのかもしれないな。


「よし。まぁ、これで良いか」


「何と名付けられたのですか?」


「あぁ、先ずはネビロスからだが――」


 緊張の面持ちで佇むネビロスへ視線を向けると、彼女の可愛らしい喉がゴクリと鳴った。


「――お前のコードネームは、真夏の小悪魔セカンドラヴ、だ」


「「おぉ!」」


 ネビロスとカルラから歓声のような驚嘆の声が上がる。

 今か今かとそわそわしていたサリアだったが、コードネームを聞いた途端に余裕の笑みを浮かべた。


「続いてカルラだが――」


 緊張の面持ちで身を乗り出すカルラへ視線を向けると、彼女は可愛らしい瞳をキラリと輝かせる。


「――お前のコードネームは、エキゾチック撫子(なでしこ)、だ」


「「おぉ!!」」


「フンッ」


 先ほど同様、ネビロスとカルラから歓声のような驚嘆の声が上がった。

 つい先ほどまで余裕の笑みを浮かべていたサリアは、遂に両腕を組んで喜び浮かれる二名を見下し始めた。


「流石はカミュ様、素晴らしい命名です。ですがやはり、我が頂いたパパイヤ天国レボリューションには二歩も三歩も及びませんね」


「……あ、そう」


「はい! 我のこーどねいむよりも劣る名前をお選びに……あぁ! その深きご配慮、感謝の念に絶えません」


「う、うむ。と、当然だろう?」


 正直に言って、今付けたコードネームも超適当なものだ。

 その下らない名前に優先順位があり、かつそれがサリアの欲求を満たすものであることなど、名付けセンスが壊滅的な私には一向に理解出来ない。

 ネビロスとカルラの両名に満足を与えつつ、その上位者であるサリアをも満足させる名前か。なるほど。全く意味が判らないな。


「さて、バディスに様子を聞いてみるか」


 カルラの眩い笑顔に目を奪われながらも、私は自身の蟀谷(こめかみ)に指を当ててバディスの顔を思い浮かべた。


『バディス、そちらの様子はどうだ?』


『ガッ!!』


『が?』


 久しぶりに話をしてみたのだが、いきなりの応答が「が」とは……。相変わらず何を考えているのか理解に苦しむ。

 暫く離れているうちに、その狂った思想に拍車でも掛かったのだろうか?


『し、失礼致しました! シューベルト様でしょうか!?』


『ん? あぁ、シューベルトだ。というか今は状況的に、念話しても大丈夫なのか?』


『勿論にございます。それで如何されたのでしょうか?』


『ちょっとお前のことが心配になってな』


 ――なんだろう。バディスが突然無言になってしまった。

 沈黙という名の、背筋が凍るようなこの間が怖い。

 呆けていないで早く何か話して欲しいところだ。


『バディス?』


『は!? あ、し、失礼しました。少々至福の時間へと至っておりました』


 何故私の腕に今、鳥肌が立っているのだろうか?

 毛穴が無いのだから、鳥肌が立つなどある訳がないのだが。


『そちらは特に問題はないか?』


『はい……特に問題は――いえ、同行者の体調に不備が生じたようです』


『不備? 彼等に何があったんだ?』


『はい、魔力(マナ)中毒が発症したものと思われます。水魔法であれば治療が可能ですが、この場に水属性を持つ者が居りません』


 元気そうだった彼等が、マナ中毒? に陥ったらしいとのこと。

 マナ中毒が何かは判らないが、水魔法で治療が出来る程度の症状だ。まぁ死ぬほどではないだろう。


『放っておいても問題はないのだろう?』


『いえ、一月も放置すれば間違いなく死ぬでしょう』


『……え? 死ぬの?』


『はい、確実に』


 中毒という名前とは裏腹に、彼等を確実に死に至らしめる病気とは一体どのようなものなのか。

 今すぐにバディスへ質問したいところだが、あまりに詳しく聞き過ぎると彼の中に不信感を芽生えさせ兼ねない。

 泉のように溢れ出す興味をグッと堪えて、私は解決法をバディスへと伝えた。


『この場に丁度、水魔法を使える者がいる。そちらへ送り出そう』


『格別のご高配、ありがとうございます。それで、誰を送って頂けるのでしょうか?』


『エキゾチック撫子(なでしこ)、だ』


『……えきぞちっくなでしこ、でしょうか?』


『あ、そうか。カルラのことだ』


『あぁ、なるほど。彼女のことですか。良きこーどねいむですね』


 真剣な面持ちでウンウンと頷くバディスを幻視して、彼から伝わってくるその口調に空恐ろしいものを感じる。

 何故こんな変な名前にそこまで感心が出来るのだろうか? やはりこの世界が、名前に対する価値観を大きく歪めているのは間違いない。

 世界の綻びの一端を垣間見た気がした私は、大きな違和感を覚えながらもこの話題の終息を心から望んだ。


『カルラがそちらへ着くまで、彼等のことを頼んだぞ』


『ハッ! 承知しました。このゴジョウにお任せ下さい!』


 鼻息荒く宣言したバディスに一抹の不安を覚えながらも、先ほどの気掛かりをもう一度思い出す。

 一つは今終わったアルフレート達に同行させたバディスの状況確認。そしてもう一つは佐藤以外の転生者の有無だったな。


「カルラ、今すぐにバディスの下へ向かってくれ」


「畏まりました。それで、バディス様は今どちらにおられるのでしょうか?」


「……エスタブリッシュとセントラルレガロの間だ」


「えすた? ……ああ! カミュ様が新しく築かれているという街ですね」


 中々に察しが良い。

 ベンヌやサリアと長く話をした所為か、何故か彼女との会話に新鮮味を感じてしまう。


「その通りだ。此処から真西に向かった後、北上していけば遭遇出来るだろう」


「承知しました。急いだ方がよろしいのですよね?」


「あぁ、そうだな。疲れているところ悪いが、今直ぐに向かってくれ」


「では、直ちに移動を開始します。御前失礼致します」


 大きく一礼したカルラが、ふわっと大空へと飛び立つ。

 彼女が空を飛べるとは聞いていなかったが、何か似たようなスキルでも持っているのだろうか?


「あ! カルラ! バディスのコードネームは悟浄だ!」


 はい、と頷いたカルラが、私へと微笑みを送った後で更に大きく飛び跳ねる。

 辺りが闇に包まれようとしている中、うさぎのように大きく跳躍した彼女は、西の空に浮かんだ月とその身を重ねて、和服に包んだ姿を艶やかに映し出した。






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