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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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違和



 南へと快走を続ける馬車の車中で、二名の幼い美女が私の足下へと縋りついている。

 魔国の幹部であるバディスの精魂込めて作り上げた駆動部が、客車へと伝わるはずの悪路の影響を僅かな微振動に抑えていた。

 何をどうすればこんな快適な乗り心地を実現出来るというのか。その中世にあるまじき車体構造、そして原材料など私には良く判らない。だが使用している素材はおそらく何かの骨。そんな現実逃避を繰り返しながら、私は足下の女性達から視線を逸らし続けた。


「キャラケンダ、此処はどの辺りなんだ?」


「ガミュ゛ざまぁー!」

「嫌ですー!」


「……先ほどの村跡から南東に五十里の地点。丁度、ウェスリブとの中間です」


 足下が嫌に騒がしいこの状況を意識の外に置きながら、私は移動の状況をキャラケンダへと確認する。

 目的地であるウェスリブまでは、まだ半分の距離を残す道程とのこと。

 燦然と輝いていた太陽は中天から大きく傾き、その色調は既に赤みを帯び始めていた。


「そうか。まだ大分あるな」


「ハゲの言うことを聞いてはダメなのよー!」

「このままお供したいのじゃー!」


「はい。それにもう直ぐ日が暮れます。如何いたしましょうか?」


 漂うオーラを困惑色に染めたキャラケンダへと苦笑を送りながら、私は脳内で今後の予定を立てる。

 キャラケンダは現在、御者台に座り馬車の操縦に腐心中だ。

 今も足元を襲い続ける精神的な負荷が気に掛かるところだが、私は敢えてそれを気にすることなく只管に前だけを見つめ続けた。


 この移動にキャラケンダが居てくれて助かったのは、彼女が唯一ウェスリブの位置を知っていたこと。

 当然ながら私は全く知らないのだが、驚いたことにベンヌもサリアもウェスリブを知らないという。

 長年この世界に住んでいて何故知らないのか? という疑問を消し去ることは出来ない。だが私にはそのことが何故か当たり前のように感じられた。


「夜通しでの移動か……。この辺りは危険――」


「ガミュ゛ざまぁー!」

「お願いなのじゃー!」


「お二方、お静かに。カミュ様のお声が聞こえません」


 未だ泣き叫ぶ二名へと、キャラケンダが冷たくも的確な指摘を飛ばす。

 唾や鼻水を飛ばし続ける二名と比べれば、その口から出される毒々しい指摘もなんと奇麗に感じられることか。

 騒音に悩まされ続ける私を余所に、キャラケンダは雑音を気にすることなく冷静な対応を続ける。


「で、ウェスリブとはどんな街だ?」


「キャラケンダは少し黙るかしら!」

「カミュ様、あんな根暗と話し続けると根暗が伝染(うつ)ります!」


「辺境伯が直接治める人口二十万の、少々大きめの都市です」


 バカと話し続けるとバカが伝染(うつ)るのだろうか? 直ぐ近くにその病原体の気配がある。気を付けねばなるまい。


「お前達、少し落ち着け」


「この緊急事態、落ち着いてなんていられません!」

「そうなのじゃ! 我はカミュ様のもの、ハゲのところになぞ戻りません!」


「……ハゲって」


 ハゲという隠語、いや悪口が誰を指しているのか瞬時に理解出来たのだろう。居心地悪そうにキャラケンダが首を竦めている。

 だがいくら同格の道主と言えど、その物言いはあまりに酷いのではないだろうか?


「流石に妙齢の女性に対してハゲは失礼だろう」


「で、ですが本当のことです!」


「本当のことだとしてもだ。本当だからといって何を言っても許される訳ではない」


「は、はい……」


 首を竦めて項垂れるベンヌ。

 やはり配慮というものを彼女に教えてあげるべきだろう。


「せめて、ゲーハーと呼んであげなさい」


「げいはぁ?」


「そうだ。禿ている人に直接"禿げ"と指摘するのはあまりにも失礼な話だ。せめて親しみを込めて"ゲーハー"と呼んであげるのが魔族の情けだろう」


「そ、そうですね! その通りです! アスタロトは"げいはぁ"なのよ!」


 彼女達を叱れるのは、ゴルトやカールの他にはおそらく私しか居ないのだろう。

 先ほどまで彼女達をエスタブリッシュへ戻すか悩んでいたが、私が直接(たしな)めて指導していけば良いと気付いた。そしてそう心に誓ってしまえば意外にも心は軽くなる。

 このままでの移動を私は密かに決意し、未だ泣き続ける二名へと自然に溢れた笑顔を自然に贈った。


「お前達を戻すことはしない。このまま旅を続ける」


「ほ、本当かしら! あ、ですか!?」


「あぁ、本当だ。だから安心しろ」


「我は一生カミュ様に付いて行くのじゃ!」


「あ、あぁ……期待している」


 泣き顔を満面の笑みに変えた二名から、やっと両脚が解放される

 彼女達は何故、困ったことがあると私の足に縋りつくのだろうか? 縋りつくこと自体に文句はないのだが、せめて涙と鼻水を擦り付けるのだけは止めて欲しい。

 幼女の縋りつく姿に心が痛まぬ訳ではないが、こうも自前の衣装を汚され続けては怒りと相殺されて、可哀相という気持ちが芽生えてこないのだ。


 私の言葉でやっと安心したのか、跪き私を見上げていた二名がやっと立ち上がった。

 そのまま振り返りソファーへと腰掛ける二名だったが、常識のある者であれば上位者に尻など向けぬはず。その小さい尻で私に何かをアピールしているのだろうか?

 そのベンヌとサリアはご満悦でソファに腰掛けながら、私の顔をにこやかに見続けている。尻を見せつけた後での笑顔の供与、一体何の思惑があるのだろう? 私には彼女達の考えが一mmも判りそうになかった。



 事の発端はアスタロトとの一本の念話。

 ラゴが無事に帰り着いたのかが気になり先ほど彼女と連絡を取ったのだが、その念話の終わりに彼女はこう切り出したのだ。ベンヌとサリアをエスタブリッシュに戻して欲しい、と。

 何となく事情は察せられた。だが万が一の早とちりを懸念した私は、事の成り行きを慎重に彼女へと尋ねる。それは何故か? と。


 アスタロトの説明は簡潔にして明瞭だった。

 バチとビマシタラへの凶行を簡単に許してはならない。そしてゴルトとカールが溢れる愛で、彼女達に道理を説いて差し上げたい、そう言っていると。

 彼女の放つその重苦しい空気に耐え切れずに、ゴルト、そしてカールの名前をつぶさに呟き終えたその時、ベンヌとサリアの表情が一変していた。それはまるで、頸動脈を絞められチアノーゼとなった格闘家のように。


 私は悩んだ。アスタロトの言うことは尤もだし、早まった私の決断を撤回するのはこのタイミングしかないからだ。

 例えベンヌとサリアが説教地獄に堕ちようとも、精神衛生的に健やかな生活が送れるのであれば、私にとってその提案は吝かではないどころか歓迎すべき僥倖。

 そんな結論を出そうとした矢先、酸欠状態で今にも死にそうだった二名が、恥も外聞もなく一心不乱に私の足へと縋りついてきたのだ。


 そして……ニーズヘッグ製のボディスーツを纏った私の足は、美少女と美幼女の顔面から出た体液によってデロデロにされてしまう。

 

「<蘇生(ブレッシング)>」


 五Sの内の三S、そう清掃と清潔を終えた私は、最後に残ったSである躾を実践すべく、二人へと強い視線と強い憤りを送る。

 彼女達には深く反省して貰わなければならない。今後二度と仲間を踏み台にせぬように、そして私の足をデロンデロンにしないように。


「カミュ様、本当に申し訳御座いませんでした」

「わ、わらわも深く反省しているのです……」


「う、うむ……今後は粗相のないようにな」


 危機感知能力がとても高いのだろう。私が何かを言う前に、彼女達は真剣な面持ちで謝罪を伝えてきた。

 此処で反省の色を見せる二名に追い討ちを掛けては、主君としての度量を疑われてしまいかねない。

 あの人、ああ見えて凄く狭量なの。なんか笑えるーとかなんとか。女性の陰口は際限がない。此処は心して怒りを抑えるべき魔の時間帯なのだ。


「「ありがとうございます」」


 秋の空のように、ベンヌとサリアの美しい顔に笑顔が戻る。

 このままずっと大人しくしていてくれれば良いのだが……。だがその理想が長く続くとはとても思えない。今度奴等が我儘を言ったら、鉄拳制裁でぶっ飛ばしてやろう。

 いや、魔国屈指の力量を考えれば逆に私がぶっ飛ばされてしまうのか? やはり暴力は良くないな。説教に留めて平和的に威厳を保つのが、(ロー)リスク(ハイ)?リターンの最良な解決方法のはずだ。


 左右を見るとベンヌとサリアが尊敬の眼差しで私を見つめ続けている。簡単に許した所為で、懐が深いとでも勘違いされたのだろうか? それにしても彼女達の顔が近い。今までなら顔を(しか)められそうなほどの至近距離だ。

 そういえば私の身体には、今や小汚いおっさん臭さは疎か加齢臭すらも漂っていなかった。ある意味、理想的かつ完璧なボディを手に入れたのかもしれない。もう恐れることなど何もない……はず。

 妙齢?の女性達を前にしても怯むことなく、私は力強い視線と気持ちで、彼女達に相応しい主君を演じるべく凛と構えた。


「お前達は見た目()良いのだ。もう少しお淑やかにした方が良いぞ?」


「は?」

「え?」


「ど、どうした? 何かおかしいことでも言ったか?」


 私の言葉を聞いたベンヌとサリアが見つめ合っている。


「ぱ、パパイヤ。カミュ様がわらわを見て可愛いと仰ったかしら! それともわらわの聞き間違いかしら!? ううん幻聴じゃなかったのよ!」


「何!? プリクラ、貴様もか? 我もこの身体を凄く熱い眼で見つめられた気がするのじゃ!」


「……い、いや――」


 新しい名前が(いた)く気に入ったのだろう。両名はオフなのにコードネームを使い続けている。

 命名したのは確かに私なのだが、あまりにも適当に付けた名前であるため、彼女達の様相と名前の違和感が半端ない。

 正直に言ってもう少し真面(まとも)な名前に変えたいのだが……もう今更だな。


「心の準備は万端です! 今宵直ぐにでも、わらわ行けます!」

「わ、我も! 我の熟れた身体を貪って欲しいです!」


「お前達……少し落ち着け。私の方は全然万端じゃないし、それにお前の身体は熟れていないぞ。サリア」


「うぐぅ……」


「そもそもお前達のことを、欲望に満ちた目でなど私は見て――いや、何でもない」


 もしかすると私の無意識下での深層心理には、幼女に対する欲望が潜んでいるのだろうか?

 確かに今まで女性の背や胸の大きさを気にしたことは無いが、それが幼女趣味に直結するとは考えたことすらない。

 改めてベンヌとサリアを見つめるが、暫く待っても私の食指は一mmも動かなかった。やはり彼女達と私の考え過ぎなのだろう。


「ど、どうされました? カミュ様」


「ベンヌの顔が気持ち悪くて、気分を害されたのですか?」


「ア゛ァ!? 不細工なのはお前の方かしら!」


「フンッ! 毛も生え揃わぬガキが何を言うのじゃ。頭の中身と同じで見る目も腐っておるようじゃ」


「ハァ!? い、今は毛の話なんて関係ないかしら! それに腐っているのはお前の身体なのよ!! 腐った臭いがするかしら!!」


「く、腐ってなどおらん!! だいたい貴様は――」


「止せ!!」


 ヒートアップし続ける精神年齢的に幼い女性達を強く窘めて、私は渾身の力で大きな溜息を一つ吐き出す。

 つい半日前に、喧嘩をするなと確かに注意したはず。もしかして私の記憶違いだろうか? いや、確かに注意したはずだ。

 だがここで怒りに身を任せて叱りつけるのは、彼女達の上位者として少々大人気ないだろう。そう冷静に、冷静に諭す必要があるのだ。


「私はお前達に注意したはずだな? 喧嘩はするなと」


「そ、それはこの馬鹿が――」


「――馬鹿って言う方が馬鹿なのじゃ。この阿呆が!」


「良い加減にしろ!!」


 怒りに身を任せて怒鳴ってしまった。

 一方の怒鳴られたベンヌとサリアは驚愕に目を見開いている。

 彼女達は暫く硬直した後で、溢れんばかりの涙を湛えながら首を竦めて震え出してしまった。


「「も、申し訳ございません!!」」


「お前達、本当に大丈夫なのか?」


「だだ、大丈夫です! もう喧嘩はしません!」

「そそ、そうかしら! もう大丈夫です!」


 大丈夫と断言した者が本当に大丈夫だった試しは、古今東西ただの一度として聞いたことがない。

 だが此処で統計結果を理由に彼女達を除外するのは何か違う気がするし、私には主君として彼女達を導いていく責任があるのだ。

 おそらくまた同じことを繰り返すのだろう。だが私は心穏やかに、彼女達へと優しい視線を無理やり作って送った。


「判った。今後は注意するように」


「「わかりました!!」」


 滲んでいた涙も何処へやら。笑顔の二名が何度も頷きながら、フゥと安堵の息を漏らしている。

 まぁ仕方がない。旅は道連れ世は情け。もう少しだけ彼女達と一緒に居よう。

 そう結論付けた私は、蟀谷(こめかみ)へと手を当てながら遠く離れたアスタロトへと思念を送った。


「アスタロト、聞こえるか?」


『カミュ様! この念話は先ほどの件についてでしょうか?』


 一瞬だけ声を大きくするアスタロトだったが、直ぐに冷静さを取り戻して静かに質問を返してくる。


『そうだ。それでベンヌとサリアのことだが、このまま同行させることにした』


『よ、よろしいのですか?』


『あぁ、これは決定事項だ。くれぐれもゴルトとカールにはしっかりと伝えてくれ』


『……承知しました』


 不承不承の感が否めないアスタロトの返答に苦笑を浮かべつつも、この状況に不安を隠せないでいるベンヌとサリアに作り笑顔を送る。

 何故私は配下のために百面相をやっているのだろうか? 思うところは多々ある。だが今は念話中であり、余計なことを考えている暇などないのだ。

 色々な想いを腹の底へと仕舞い込み、私は平静を装いながらアスタロトとの会話を続けた。


『ゴルトとカールが言っていた、彼女達への指導は私が直接行おう』


『カミュ様のご指導であれば何ら心配はございません。ですが彼女達を諫めるのは……疲れますよ?』


 何故だろう? アスタロトの言いたいことが詳しく聞かなくても良く判る。

 もしかすると私は、何某かの超能力的ポテンシャルを密かに秘めているのかもしれない。という妄想は横に置いておく。

 だがアスタロトの言うことは尤もだ。確かに、このまま彼女達と始終一緒に居続ければ、最後には疲れ果てて倒れてしまう可能性もあるだろう。


『心配は無用だ。私は以前、過酷な環境下で修業したことがあるんだ』


 だがしかし私は違う。学生時代とは違い、社会に出れば様々な困難が常に人々を襲い続ける。

 胸を刺すような辛辣な嫌味、せせら笑いから繰り出される聞えよがしの陰口、そしてあからさまな嫌がらせ。骨格と性格の歪んだ女性が放つ陰湿な凶攻撃は留まることを知らない。

 言葉が人を殺しかねない凶器であると知りつつ、全く意に介さぬまま攻撃を加え続けるその姿勢は、弱肉強食の世にあっては至極正しいのだろう。まぁ私は全く共感出来ないのだが。

 そんな経験を重ねた私であれば、可愛い少女、幼女と繰り広げるコメディなど、精神的な負荷どころか楽しい思い出にさえ出来るはずだ。


『そうですか……。流石はカミュ様、全てにおいて万全の対策を講じられておられるとは』


『転ばぬ先の杖……いや、違うな。災い転じて、という奴か』


『そのような以前から対策をお考えとは……その遠謀深慮、感服致します』


『そんな良いものではない。結果的にそうなっただけだ』


 ご謙遜を、と続けるアスタロトに、いやいやいやと、縦に固定した手を軸に首を左右へと振りながら否定を送る。

 そんなアクション、アスタロトには全く見えていないのだが、心の奥から湧き出す拒絶反応が私の静止を許してはくれなかった。


『では、そんなところだな。シャングリラのことは引き続き頼んだぞ』


『ハッ! お任せ下さい』


『お前も、あまり無理をするな。体を大切にしろ』


『あ、ありがとうございます』


 アスタロトとの念話を終えて、フゥと大きく息を吐き出す。

 口に出すことなく無言で念話を続けていた為、ベンヌとサリアはまだ会話の内容を知らない。

 直ぐに彼女達の不安を払拭すべく、エスタブリッシュに戻る必要が無いことだけを伝えると、御者台に座るキャラケンダへと視線と意識を移した。

 ちなみに彼女達は、とてもほっこりとした安堵の顔を見せている。


「ところでキャラケンダ、そのウェスリブは誰が治めているんだ?」


「王国の辺境伯である、アルベルト・マルクグラーフ ・フォン・バイエルンですね」


「ふーん、どんな人物なんだ?」


「詳しくは知りませんが、忠誠心の高い人物だそうです」


 操縦中のキャラケンダが、振り返りながら困った表情を見せる。

 私の質問にもっと詳細に説明したいのだろうが、他国の、それも中途半端に偉い人物など詳しくは知らないのだろう。

 質問の仕方が悪かったことを内心で反省しつつも、会話が途切れることに恐怖を覚えた私は強引に会話を続ける。


「そうか、その情報だけで十分だ。ありがとう」


「あ、はい。それで夜のご宿泊は如何いたしましょうか?」


 彼女は手綱を握ったまま、全く前を見ずに話を続ける。

 そうバイコーン馬車は、敵を警戒する必要はあっても操る必要は全く無いのだ。何故なら、バイコーンと言葉が通じるから。

 それよりも宿泊か。私は全く眠くないので必要ないのだが、他の者は果たしてどうなのだろうか?


「このまま移動を続けたいと思うが、お前達は大丈夫か? 眠くはないか?」


「我は大丈夫です!」

「わらわも問題ありません」


 聞いてもいないのに、元気な二名から即答が来る。


「お前達は眠らなくても大丈夫なのか?」


「はい。我は睡眠を必要としませんので」


「わらわは適当に寝ておきますので大丈夫です」


「……ふむ。そうか」


 サリアは眠らなくても大丈夫だという。種族的な特徴だろうか?

 だが一方のベンヌは私を前にして居眠りをこくという。性格的な特徴だろうか?

 ベンヌの見た目は非常に幼い。睡眠が必要なのであれば遠慮なくとって貰うべきだ。寝るなと言って幼児虐待と捉えられては、そのつもりがなくとも堪ったものではない。


「キャラケンダ、それにバイコーンは?」


「問題ございません」


「そうか。ではこのまま移動を続けよう」


「畏まりました」


 やっと前を向いたキャラケンダが、力強く手綱を握りしめる。向かう先は南東にあるウェスリブという名の都市。

 私は稀に視界を横切る村々を見つけながら、遥か南東にあるという大都市を幻視していた。

 だが胸に込み上げるこの奇妙な違和感の正体は一体何なのか? 私はヘルマンの要請によってモンスターの行軍を追っていたはず。

 夕闇の中、村の家屋から立ち昇る暖炉の煙と家路につく人々を見ながら、私は違和感の正体を突き止めるべく拳へと顎を乗せて考えた。






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