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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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出立



 まだ建設中の建造物が目立つ巨大な岩山の上。シャングリラの中央へと今まさに城が形作られる中、唯一完成形を見せる一階のロビーへと主要な配下達が緊急招集されていた。

 この緊急会議に参加しているのは、総勢十一名からなる男女。ちなみに、この会議のために城の工事は一時中止にされている。

 玉座の直ぐ横に侍るのは、パーラミターの一角にして地獄道のロードマスターであるアスタロト。漆黒の衣装に銀髪を靡かせて、慈母のような微笑みを湛えながら毅然と佇む。

 玉座の向かって右側に居並ぶのは、アスタロト配下のフルーレティ。更には修羅道に属するアスラ配下のラゴとバチ。向かって左側に居並ぶのは、デザイアーの一角にしてスペリオールであるレストエス。下半分が際ど過ぎるメイド服に暗い茶髪を垂らして、娼婦のような微笑みを湛えながら悠然と佇む。続いて並ぶのは修羅道に属するアスラ配下のキャラケンダとビマシタラだ。

 彼女達の主人である修羅道主のアスラは、本拠地であるイノアノクシャルの防衛指揮を執っており此処にはいない。またデザイアーの一角にしてスペリオールであるバディス、畜生道に属するラウフェイも別の任務でシャングリラを離れている。

 そして玉座の正面には幹部達の執事であるゴルト、アンニバレ、ガスパリスの三名が、眩い光りを放つ金のプレートを胸元に煌めかせながら、胸を張りつつ堂々の直立不動で眼前の玉座を睨むように見つめる。


 その彼等に包まれる形で居心地悪そうに玉座へと鎮座するのは、この城の城主にして魔国の王であり絶世の美貌を誇る美少年であった。


「カミュ様……ご出立に異論はございませんが、御身をお守りするに相応しい供を伴っていただけませんと……」


 困惑気味の表情で主君を窘めるアスタロトが、言葉の終わりとともに玉座の正面に控えるゴルトへと厳しい視線を送る。

 いくら此処が国境沿いの比較的安全な地域だとしても、主を守るに不適切な執事との二人きりでの行動など、この地を預かる城代としても主君に忠誠を尽くす配下としても見過ごせるものではなかった。

 自分が仕事中に主君と二人きりで出掛けるなんて許せない。二人きりで出掛けるなら拙こそ同行させるべきだ。などと思っている訳では決してない。


「お前に相談せず行動したことについては、済まないと思っている」


「い、いえ、そのような意味で言った訳では……」


「だが最低限の自己防衛力がゴルトにあるなら、それ以上は私が彼を守ってみせるさ」


「……私が……守る……?」


 主君に謝罪をさせてしまったことが心苦しかったのか、申し訳なさ気に視線を落とすアスタロトだったが、突如としてその目に嫉妬の炎が揺らめく。

 ゴルトへと向けられたその視線には、謎のビームが出そうなほどの鬼気迫った眼力が宿り、精神的な防壁すら貫通した視線がゴルトを一歩だけ下がらせていた。

 同様にレストエスもゴルトへと視線を送っているが、額の青筋と眉間の深い皺を披露しているあたり、彼女の長所とも言うべき判り易い性格が出ているのだろう。


「アスタロトよ……ゴルトは私が無理に連れ出したんだ。これ以上、彼を責めるな」


「……承知いたしました」


 納得しなければならないのだが、どうしても納得できない。そんな表情でアスタロトが頭を垂れる。

 一方のレストエスは、自分が叱責されなかったことにホッと胸を撫で下ろしている。


「では話を元に戻すが、王国領へ侵入する前に、もう一度両国の関係を確認したい」


「では拙からご説明いたします。一般的には知られておりませんが、現在、王国は我等が魔国に従属しております。その見返りは連合王国との間に緊張が走った際、従属国である彼等を魔国が助けること。これが従属の前提条件です。なおその返礼として、年に一度だけこの地へと朝貢品が届けられております」


「なるほど。では彼等がこの地へ来る時に随行していたという荷駄隊は……」


「その朝貢品を運んでいた一団に間違いないでしょう。ラゴ、(けい)達が此処へ来た目的は?」


 カミュの推測を引き継いだアスタロトが、結論を口にした後でラゴへと水を向ける。


「朝貢品の受け取りです。今回はミナヨリ達に代わって、我々がディアブロを引き連れて参りました」


「それで、受け取りの時期は今か?」


「例年通りであれば、明日か明後日には到着するはずです」


「なるほど、良く判った。であればディアブロ達は此処にこのまま待機だな」


 アスタロトとラゴの遣り取りを聞いたカミュが、引き連れてきたディアブロの処遇を結論付ける。

 此処で待機させていれば、数日後には向こうが此方へとやってくるのだ。凶悪な魔物達を態々移動させる必要はない。

 だがここでカミュの脳裏に一つの疑問が浮かぶ。


「因みに、朝貢品とは一体なんだ? 金や希少品などか?」


「いえ、一般的な日用品です。量にして馬車百台分、全てフィードアバンへ運んでいます」


「日用品……? 何故そんな物を?」


「それは……拙には判り兼ねます。そもそもカミュ様からのご指示でしたので……。おそらくですが、最新の意匠や製法を自国民へ伝える為ではないか、と愚考します」


 アスタロトの必死な説明を聞いてもなお、カミュは首を傾げ続ける。

 そんな理由だけで毎年、日用品を納めさせ続けるだろうか? 昔の自分はもっと深く、事を考えていたのではないだろうか?

 そんなこと今の自分に判るはずがない。だがそれでも気になる。そんな葛藤に苛まれるカミュだったが、直ぐに考えるのが面倒になって思考を放棄した。


「まぁ理由はどうでも良いな。話を戻すが、供はゴルトにしようと思っている」


「ゴルトでは王国の団長級に及ばないどころか、兵長級にさえ敵わないでしょう。どうかご再考のほど、お願い申し上げます」


 アスタロトからの必死な懇願を受けて、カミュは困惑を浮かべながらゴルトへと視線を移す。


「ゴルト、そうなのか?」


「……はい。その通りにございます」


 申し訳なさで圧し潰されそうなゴルトが、眉間に皺を寄せながら浅く一礼する。

 彼の眼光が鋭いままだったのは、顔面の筋肉が機能不全を起こしている為だろう。

 彼の表情に笑顔が戻るのは一体何時になることか。それはゴルトにすら判らない、永遠の問題なのかもしれない。


「そうか……残念だ。ところで、カメオウ、バディス、イリア・ガラシャ、それとバアル・ゼブルだったか? それ以外の男性配下とは……?」


 この辺りは非常にデリケートな質問になる為、カミュは出来る限りふわっとした質問で投げ掛ける。

 余りにも素直に聞いてしまっては、どのタイミングで偽物であるとの疑念を抱かれるか判らないからだ。

 ふわっとしておけば、さらっと流せる。この時点で彼が取り得る、最高にして唯一の対策がその程度だった。


「地獄道から順にお伝えして、ルキフグス、サタナキア、アガリアレプト、サルガタナス、ミズガルズ、フレイヤ、ニーズヘッグ、レギン、シグルド、クロノス、ミノスです」


「ほぉ……それで? 王国への潜入に適した、人間と同じ見た目の者は?」


「居りません」


「……ぇ?」


「彼等は全員、異形の者です」


 アスタロトが列挙した配下名を既に半分ほど忘却したカミュが、自分の供に出来そうな配下を彼女へと尋ねる。

 だがその答えはカミュの想像を超えるもの。既に出会っている二人にはもう別の用事を言い付けているし、再び呼び戻すことは今更難しいだろう。

 残るイリア・ガラシャはイクアノクシャルを守っており、バアル・ゼブルに至っては行方不明の状態だ。ということは必然的に、随行者の男性候補は皆無ということになる。


「そ、そう。そうだったな。ではこの中から選ぶしかないな」


 何故かカミュの声が少々上ずっていたが、それを気に留める者は誰も居ない。

 それよりも彼女達が気になったのは、主君の言にあった"この中から選ぶ"の思し召し。

 その後に続く"しかない"は、何故か都合良く彼女達の耳には届いていなかった。


「勿論、アスタロトはダメですよねー」


 笑顔のレストエスが、即座に第一候補の希望を粉砕しにかかる。


「え?」


「確かに……アスタロトには此処で指揮を執って貰わなければならんしな」


「あ……」


 同輩からの突然の死刑宣告により、アスタロトの美しい顔が絶望色に染まっていく。

 主君との蜜月を示唆する二人旅。こんな垂涎もののチャンスを何故レストエス如きに潰されるのか。

 怒りの炎が心の底へと堕ちていき、粘つく沈殿物が暗雲のように巻き上げられた瞬間、アスタロトの瞳に暗い輝きが灯った。


「ですよね! じゃあ、あたしがお供しますね」


 語尾に音符マークを幻視させるほどの快活な一言に、ダークなアスタロトさんが冷やかな視線を送る。


「勿論、レストエスも不適切ですね。寧ろ害悪でしょう」


「え?」


「あぁ確かに……レストエスから私の貞操を守らなければならんしな」


「えー! なんでですか!?」


 巨大なブーメランが、レストエスの後頭部へと突き刺さる。


「レストエス! その態度と言葉遣いはなんだ!」


「うるさい、ヅラ! なんであたしの邪魔すんのよ!」


(けい)がカミュ様に迷惑ばかりかけるからだろう! 少しは自重しろ!」


「め、迷惑なんてかけてない! そ、それに、カミュ様からかけて貰うのはあたしの方!」


 私が一体何をかけるんだ? そんな危険極まりない一言を、類まれなる危機感知能力でグッと飲み込んだカミュが、まだ下らない言い合いを続ける配下二人へと厳しい視線を送った。


「二人とも、いい加減にしろ!」


「も、申し訳御座いません!」

「申し訳ありません」


「判ってくれれば良い。さて、話を続けるぞ」


 勢いよく謝罪する二人へと掌を翳して、怒りの矛を収めたカミュが話を続ける。


「先ほどお前の話にあった王国の団長級とは、自分と比べてどの程度の強さなんだ? アスタロト」


「拙と比べて、でございますか? 率直に申し上げますが、前提条件が一対一であれば只の雑魚です」


「雑魚? ほぉ……アスタロトは強いんだな」


「拙などカメオウに比べれば……力不足は否めません」


 自分と王国の団長級の実力差を謙遜することなく語ったアスタロトが、カミュの驚愕を余所に自分とカメオウの実力差を素直に吐露する。

 配下の中でもカメオウとアスラが強いことは、カミュも以前から聞き及んでいた。だが配下全員の詳細な戦闘力など知る由も無い。

 まぁ皆が皆、自分より強いことは間違いないだろう。そう思い込んでいるカミュが好奇心から、先入観の抜けきらない思考のまま配下達の実力を尋ねる。


「ところで、この中で一番強いのは誰なんだ?」


「条件にもよりますが……特に前提条件が無ければ、この中で一番戦闘力が高いのはレストエスでしょう」


「むっふー」


 得意満面のレストエスが、唯でさえ存在感の大きい双丘を、更に胸を張って強調する。

 レストエスが本来の戦闘力を発揮するのは夜から朝方にかけてでは? と密かに疑うカミュであったがセクハラ問題を危惧し、それを口に出すことは無かった。


「確かレストエスの属性は――」


「――風と水です! 武器はジャマダハルです! 得意なのはお料理です!」


 カミュの言葉を引き継いだレストエスが、自信満々に自分をアピールする。そして何処からともなく自身のメインウェポンである武器を取り出す。

 形状を例えるならダガー。だがその柄はH型をしており、剣とは違ったある種の異彩を放っていた。握りは刀身と垂直に、鍔とは平行になっており、手に持てば拳の先に刀身が来るだろう。

 (すなわ)ち、あたかも拳で殴りつけるように腕を突き出すだけで、敵を刺し殺すことが可能な形状をしている。

 その武器を自慢気に翳したレストエスが、聞いてもいないのに料理が得意だと更に胸を反らす。バチが羨ましそうにレストエスを見ているが、羨ましいのは料理を特技としている一面だろうか? それとも……


「料理? 魔国に食事が必要な者は居るのか?」


「ゴルトやパラス達は食事をしますよ?」


「そうなのか……で、ゴルト。味はどうなんだ?」


「レストエス様が作られる料理は、他の追随を許さないほど美味で上品です」


 ゴルトが止せば良いのに真面目に答えた所為で、レストエスの姿勢が完全にイナバウアっている。

 無性に腹が立ってきたカミュであったが、先ほど聞いたレストエスの戦闘力を考慮し、調子に乗るその憎たらしい顔へのパンチを密かに封印した。


「昼は胃、夜は金、二つの袋を掴む美女か……嫁としては最高なのか? いや、だがなぁ……」


「え!? 今、あたしのこと美女って言いました?」


「ん? ラゴ達の顔は判らないが、此処にいる女性は皆、非常に美人だと思うぞ?」


「あ、ありがとうございます」


 レストエスは元より、アスタロトもフルーレティもカミュの基準から言えば物凄い美人だ。

 特にレストエスが飛び抜けて整った顔立ちをしているが、それを言うと間違いなく彼女が調子に乗るだろうと考え、カミュはそれ以上を語らなかった。それを正直に言うとするなら、彼女を(おだ)てるためか煙に巻くためしかない。

 その正面では、満更でも無さそうなアスタロトの横で、フルーレティが頬を赤らめて下を向く。

 仮面の所為でその表情は伺い知れないが、ラゴ達の肩がガクンと落ちたように見えるのは、カミュの気の所為なのだろうか。


「パラス達も笑顔を見せれば、もっと素敵に見えるのだろうが……まぁ個性だからな。仕方ないか」


「彼女達はホムンクルスですので、感情の起伏を無意識下でもまだ制御出来ないのでしょう」


「笑顔とは親から習うものらしいからな。まぁ徐々に覚えれば良いだろう」


 アスタロトへと向けていた視線を、カミュはレストエスが持つ武器へと戻した。


「だがジャマダハルとは……随分マイナーな武器を選択したものだな」


「な、何か問題があるのでしょうか?」


「言い方が悪かったな。いや、問題など何一つ無い。唯一の問題は、私がその武器の扱い方を知らないことだ」


 アハハと快活に笑うカミュへと、小首を傾げたレストエスが提案する。


「よろしければ、あたしがお教えしましょうか?」


「興味深い提案だが、それはまた今度にしよう。それで、アスタロトの武器は?」


「拙ですか? 武器、と呼べるかは微妙ですが、拙の身を守るものはこれです」


 言い終わると同時にアスタロトが両腕を突き出すと、その広い左右の袖口から極太の何かが一体づつ飛び出した。


「……それは一体?」


「バジリスクです。主に噛みつきによる神経毒の注入を主攻撃としますが、耐性が低い者であれば即死の魔眼で戦闘前に倒すことが可能です」


「なるほど……それは厄介そうな攻撃だな」


「上位者には効果が薄いので、正直に言えば微妙な攻撃です」


 人に優しくない凶悪な能力を披露したアスタロトが、更なる高みを見つめて苦笑を浮かべる。

 カミュからすれば十分凶悪な攻撃なのだが、彼女にしてみれば納得がいかないものなのだろう。


「剣でも使ってみるか?」


「お気遣いは非常にありがたいのですが……申し訳御座いません。拙は武器を扱うことが出来ません」


「そうか……まぁ、お前の本領は戦闘以外のところにあるからな。今後もそちらを頑張ってくれ。頼りにしているぞ」


「はい。ありがとうございます」


 先ほどの苦笑を哀愁漂う笑顔に変えて、アスタロトが主君へと微笑みかける。

 我が主君は本当によく見て下さっている。そんな想いがアスタロトの胸中を駆け巡り、彼女の表情を甘酸っぱいものへと変えていく。

 配下としての矜持とは、単なる戦闘力の高さではない。常に主君を想い続ける誇り高き忠誠心なのだ。アスタロトは己の思想が正しかったことを確信し、やる気(みなぎ)る視線と気持ちを主君へと向ける。


「あとはフルーレティだが、流石に人目を引いてしまうだろう。特にその頭髪がビジュアル的に問題だな」


 フルーレティの頭部でゆっくりと蠢く蛇を見つめながら、カミュは同行者の候補から彼女を即座に除外した。


「……蛇を切り落としましょうか?」


「……止せ。それにお前を連れて行けば、一人で指揮を執ることになるアスタロトが困るだろう」


「……畏まりました」


 不承不承で承諾するフルーレティを不憫に思いながらも、ほっかむり如きでは隠しきれない彼女の頭部へとカミュは無言で視線を送る。

 フルフェイスのヘルメットでも被れば見た目的には全く判らないだろうが、ヘルメットを被ったまま街中を練り歩く女性など、傍から見ればバディス級の変態であり、それ以外の何者でもないだろう。

 それに蒸れた所為で髪の毛ならぬ蛇の毛が抜けてしまっては一大事だ。やはりここは心を鬼にしてでも彼女を此処に残すべき。カミュはそう心に深く刻み込む。


「あの……あたしは同行させて頂けないのでしょうか?」


 蚊帳の外に置かれたレストエスが、肩を竦めて恐々と尋ねる。


「レストエス……おそらくだが、お前はこの国は疎か世界でも屈指の美人なのだろう」


「……へ?」


「お前ほどの美人を、私はこれまでの人生で見たことがない」


「……」


 いつもの彼女とは打って変わり、レストエスが目と口をあんぐりと開けてカミュを凝視した。

 カミュが予想していたのは「それほどでも……ありますね!」とかなんとか言いながら、自身の類まれなる美貌を誇る彼女の姿。

 しかしその態度は皆の予想を大きく裏切るもの。主君から褒められる事態など、彼女は全く想定していなかったのだろう。


「聞いているか? レストエス」


「あ……は、はい!」


「そんなお前が此処を離れてしまっては、シャングリラを訪れた者が皆、看板娘が居ないことに落胆してしまうだろう」


「そ、そそ、そうですね! その通りです!」


 竦めていた肩と表情は何処へやら。

 全身に喜悦を貼り巡らせたレストエスが、鼻息荒く大きく頷いた。

 単純なことは良いことだ。カミュは改めてそれを思い知る。


「残るはラゴ達だが……大丈夫か?」


「何が……でしょうか?」


「なんと言うか……仮面を付けていると変に思われないか? 変態と仮面を続けて呼ぶと、非常に危険な呼称になるぞ?」


「カミュ様が危惧されている懸念事項を量り知ることは出来ませんが……例え仮に変態と仮面を続けて呼ばれようとも、この溢れんばかりの忠誠心は揺らぎようがない、そう(わたくし)めは確信いたします!」


 主従の会話が大きく擦れ違う。

 暗に仮面を取ったら? と提案した主君に対し、例え自分の呼称が変わったとしても愛という名の忠誠心は永遠だ! とラゴが吠えた。

 寧ろ彼女は、その奇妙な呼称を心の何処かでカッコいいとさえ感じ始めている。


「因みに……ラゴの戦闘力は?」


「レストエス様に遠く及びませんが……人間や妖精如きに遅れを取るほどではありません」


「ラウフェイと同程度、と思って間違いないのか?」


「彼女は多対一の戦闘でこそ、その能力を十全に発揮します。(わたくし)めは一対一を得意としますので、単純に比較するのは難しいかと……」


 ラゴの困ったような仕草に、カミュは質問の仕方が間違っていたことを痛感する。

 戦闘スタイルとは個性。個性とは生まれ持った資質に大きく左右される足枷。愛するには憎しみが勝り、手放すには惜しさが募る、鶏肋のようなものなのだろう。


「意味の無い質問だったな」


「い、いえ。無意味などということは……」


「キャラケンダを同行させることは既に決めていたが、さてどうしたものか……」


 カミュの独り言を聞いた、キャラケンダの顔が跳ね上がる。

 その勢いは付けていた仮面が大きくズレるほど。

 チラと見えたその鼻筋は、カミュの予想を遥かに超えて非常に整っていた。


「そうだな。アスタロトよ――」


 静粛を破り、誰かの喉がゴクリと鳴り響く。


「――ラゴ、バチ、キャラケンダ、ビマシタラの四名を連れ出しても問題ないか?」


「数日後にはバディスが戻るでしょうから、防衛面での問題はございません。シャングリラの建設についても拙とフルーレティが居れば、ご心配頂く必要は何もないと申し上げます」


「では、供はお前達にお願いしよう。構わないか?」


「喜んで!」


 喜悦を爆発させたバチが、身を乗り出して承諾の意を伝える。

 仮面の奥を覗き見ることは出来ないが、ビマシタラの口元も何処となく嬉しそうだ。


「では準備が整い次第、王国へと出立する。アスタロト、後のことは頼んだぞ」


「御意。後のことは全て拙にお任せ下さい」


 アスタロトからの熱い視線を受けたカミュが、勢いよく玉座から立ち上げる。

 視線の先には自らが切り開いた川沿いの道。馳せる想いは未だ見ぬ王国の都市へ。

 玉座からゆっくりと歩みを進めるカミュであったが、逸る想いを抑えきれないのか一足先に大地へと降りて行った。






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