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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
81/180

性能



 魚の干物作りとモンスターの解体をゴルトとマテウスに任せた三人と一名は、魔道具に続く武器談義に花を咲かせていた。

 話題は丁度、シャルロッテの持つ弓へと移ったところだ。


「シャルロッテはアーチャーなのか?」


「ん? 名前はシャルで良いよ。それによく判ったね」


「まぁ弓を持っているし、それに右にだけ胸当てをしているからな」


「へぇー、詳しいね。誰かさんとは大違いだ」


 シャルロッテがアルフレートに白眼視を向ける。

 シューベルトにはその理由が判らなかったが、不自然に視線を逸らすアルフレートの態度から察するに、何か後ろめたいことでもあるのだと思われた。


「少し弓を貸して貰えるか?」


「少年も弓が使えるの?」


「あぁ少しな。昔、嗜んだ程度だ」


「へぇー……はい」


 シャルロッテが弓と矢を少年に手渡すと、受け取った少年がおもむろに矢を番え始めた。

 そのまま足を大きく開き高々と弓を掲げて、少年が見慣れない動作で弓を引き絞りながらその口元へと矢を当てる。

 そして一瞬の静粛が訪れ……


 ガッ!!


「おぉーー!」


 優雅な所作から放たれた少年の矢が、目にも止まらぬ速さで枯れた木の幹を大きく穿つ。

 自分よりも数段見事なその腕前に、シャルロッテが無意識のうちに素直な称賛を送っていた。


「弓と矢、それぞれに問題があるな」


「え? 今ので不満なの?」


「この弓だが、引くのが重過ぎないか?」


「まぁロングボウだし、重いのはしょうがないよね」


 苦笑を浮かべたシャルロッテが、少年からの指摘を肯定する。

 弓の威力とは単純に重さであり、弦が重ければ重いほど矢の飛距離と威力は比例するだろう。

 軽くて攻撃力の高い弓があれば喜んで使っているところだが、そんな高級品を購入出来るほどの金銭的余裕などシャルロッテにはない。


「弓全体がたわめば、今よりも威力が上がるぞ。それに素材も改良出来そうだしな」


「弓全体を……?」


「あとは矢だ。矢自体に奇麗な回転を加えれば飛距離と直進性が増す。甲矢(はや)乙矢(おとや)のどちらを選ぶかは個人の好みになるが、一応どちらも持っておいた方が良いだろう」


「はや? おとや?」


 少年の説明を理解出来ずに、シャルロッテは只々首を傾げる。

 そもそも洋弓使いの人間に和弓の仕様を説明する少年が間違っているのだが、それ以前に彼女は和弓の存在も知らないし、その違いなど判るはずがない。

 少年の言うことが()も当然のように思えた彼女は、少年の話をそのまま食い入るように聞き入っていた。


「時計回りと反時計回りのことだ。羽をカールさせると、矢は自然に回転する。まぁ見た方が早いな」


 何かを強請るように差し出した少年の手へと、シャルロッテは無言のまま矢を一本だけ乗せる。

 その矢を目線の高さへと持ち上げた少年が、包むように羽根を掴んで巻くように一方向へと倒し始めた。

 その羽根を筈側から見たり、横から見たりを繰り返していた少年だったが、漸くその出来に満足したのか作業を終えて再び弓を構える。


 そして先ほどと同じフォームから少年は矢を放つが、今度は先ほどと違って枯れた木を貫通せしめていた。


「おぉー! 凄いじゃん、少年!!」


「これが直進性だ。力が一点に集まれば威力は増す。回転は大事だぞ?」


「そうなんだ! ありがと。それで弓の方は?」


「そうだったな。この中の誰か、風魔法は使えるか?」


 皆の視線がビアンカへと集中する。


「え? 私?」


「ビアンカだったな。<風の刃(ウィンドカッター)>は使えるな?」


「えぇ……一応」


「ではこの丸太を細長く切り揃えてくれ。長さはシャルの身長くらい、幅は指三本分、厚みはとにかく薄くだ」


 いつの間にか少年が何処からか取り出していたのは、直径二メートル、長さ十メートルの丸太だ。

 魔法の袋(マジアコモ)から取り出しのだろうが、少年が身に着けているものでそれらしきものは見当たらない。

 だがビアンカはその大きな違和感よりも、少年からの無茶な要求に気を奪われていた。


「いやいやいや! それは無理でしょ! 絶対に無理!!」


「そうなのか? 困ったな……」


 いつもは沈着冷静なビアンカの絶叫を前に、少年が眉尻を下げて腕を組みながら頭を捻る。

 困った少年はそのままゴルトへと視線を移してみるが、距離があるためかゴルトはその視線に気付けない。

 暫く悩んでいた少年であったが、唐突にこめかみへ指先を当てると、突如として独り言を語り始める。


「悟浄か? 私だ。今直ぐに私の下へ来てくれ」


「ゴジョウ?」


「ん? あぁ、私の配下の名前だ。変な名前だろう?」


「え!? ううん! 凄く格好良い名前だね!」


 余りにも素晴らしいそのネーミングセンスに、シャルロッテは心の奥から素直な称賛を贈った。

 しかし褒められたはずの少年の反応は、彼女と反比例して芳しくない。それに何故だか判らないが目が死んでいる。それはもう、マテウスが今捌いている魚のようだった。

 引き攣った口元を気力だけで押さえ込んだ少年が、疲れた表情(かお)でシャルロッテを見上げる。


「そ、そうか……その通りだな」


「どうかしたの?」


「いや、なんでもない。なんでもないんだ」


「そう?」


 小首を傾げるシャルロッテ。その彼女から視線を外し、大きな溜息を吐く少年。

 そんな少年をシャルロッテは眉根を寄せて観察するが、彼が何故溜息を吐いているのかさっぱり判らない。素直に素晴らしい名前だと褒めてあげたのに、その意に反して少年は落胆の色を見せている。

 何故そんな表情をするのか聞いてみたい彼女であったが、少年の背中におっさんのような深い哀愁の漂いを認めて、無意識にそれ以上の追及を踏みとどまっていた。


「それよりもコカトリスの肉だが、どうやって運ぶ?」


「それが問題でしょう。まぁ、持てるだけ持って移動するしかないですね」


「だが……勿体ないな」


「魔法の袋は持ってないのか?」


 マテウスが捌いているキマイラは体長五メートルもある。それだけならまだしも、コカトリスに至っては体長十メートルもあり、何らかの輸送手段無しに持ち運べる大きさではなかった。

 確かに、少年の言う通り魔法の袋なら持ち運びが可能だろう。だが異空間への収納が可能な魔法の袋(マジアコモ)を持てる者など、貴族や大商人など一握りの金持ちだけ。彼等のような万年中級探索者に買える代物では決してない。

 それを少年以外の人間が言えばただの嫌味になっただろう。だが少年の無垢な笑顔は、彼等に悪感情を齎すことはない。何故なら彼の持つ非常識さと巨大魔石が、彼が一般人でないことを如実に物語っていたからだ。


「欲しいんだが……買えるほどの甲斐性が無くてな」


「そうか。ところで、その馬はお前達のものか?」


 自虐的な苦笑を浮かべるアルフレートへと、何を思い立ったのか突如として少年が尋ねる。


「あぁ、今は俺達の馬だな」


「飛燕っていう名前なの。カッコいいでしょ?」


「飛燕……?」


「そうだけど……どうかしたの?」


 シャルロッテが自慢気に馬の名前を告げ、少年が腕組みをして首を傾げる。

 何か思うところがあるのだろうか? 少年は暫く考えた後、何処からともなく草臥れた馬車の荷台を取り出した。


「いや、なんでもない。気にするな。それより荷物の運搬だったな。この荷台を使ってくれ」


「え!? それを私達にくれるの? それって私が可愛いから?」


「前者は肯定するが、後者は否定して構わないか?」


「う……」


 微笑みながら釘を刺す少年へと、シャルロッテが恨みがましい目を向ける。

 だがそれすら意に介さない少年は、荷台を指しながらシャルロッテの縋る視線を振り解く。


「この荷台の名前は"雷電"。そこの飛燕に連結されることで、名前が"月光号"へと昇格するだろう」


「うわぁ……素敵」


「……なるほど」


「少年って良い感性してるね! 月光号かぁー、良い名前だ」


 先ほどの表情は何処へやら、シャルロッテが馬と荷台を見つめて目を輝かせる。その横では少年が何とも言えない苦笑を浮かべていた。

 それが彼女の反応に対するものなのか、自身の命名に対してなのか、アルフレットらには判らない。

 だがアルフレートは思った。シャルロッテの言う通り、彼の命名に対するセンスは群を抜いて素晴らしいものであると。


「本当に良い名前だ。ところで君、その背中の剣から凄い圧を感じるんだが、それは名の有る一品なのか?」


「これか? そういえばサーシャが良いものだと言っていたな。名前は確か……アメノムラクモだったか?」


「聞きなれない名前だ。だが、それが良い。そんな凄い剣、俺も一度は持ってみたいものだ」


「貸してやりたいのはやまやまだが、これは貰ったものだしな。ふむ、代わりにこれをやろう」


 絶大な力を内包する剣を易々と渡そうとする少年。そんな彼をアルフレートは心の底から心配する。

 彼は物の価値が本当に判らないらしい。それも悪質な冗談のように嫌味なほど判っていないのだ。

 だがそれが真実かカマトトなのかは、アルフレットは疎か他のメンバーにも判らない。

 そんな疑問に捕われる彼等を置き去りにして、少年がまたもや何処からか剣を取り出す。それは黄金色に輝く、見たことのない不思議な剣であった。


「な、なんだ、その剣は? それを俺にくれると言ったか!?」


「あぁ、袖振り合うも他生の縁と言うしな。ここで会ったのは何かの運命(さだめ)だろう。この剣の素材はオリハルコン、良ければ貰ってくれ」


「い、いや……こんな高価な物をただで貰う訳には――因みに、この剣の価格は?」


「今は金貨百――いや十枚だ。価格に問題があれば、もう少し勉強したいとは思っている」


 金貨十枚、その価格にアルフレートは驚きを隠しきれない。


「じゅ、十枚だと?」


 少年が元居た世界の基準で例えるなら、その価値は百万円。

 その剣が内包する力は、戊級のアルフレートですら即座に解るほどに大きい。

 たった金貨十枚で買えるような代物では決してないのだ。


「やっぱり高いか?」


「いやいやいや、違う! 安過ぎるんだ!」


「そうなのか? まぁこれは試作品だ。遠慮せず貰ってくれ。ちなみに刃毀れはし難いはずだが、もし刃毀れした場合はその時点で諦めてくれ。おそらくだが刃先の研磨はほぼ不可能だろう」


「だがしかし……いや、遠慮しては折角の好意に水を差すな。有難く受け取らせて貰おう」


 だらしないほどニヤけた顔で、アルフレートが恭しく剣を受け取る。

 鞘の無い抜身の剣。その黄金の煌めきは全ての剣士を魅了し、その内包する力は全ての脳筋を虜にするだろう。

 試しとばかりに受け取った剣をアルフレートが近くの岩へ振り下ろすと、刀身を当てられた硬い岩は豆腐のように切り裂かれた。


「やはり……物凄い切れ味だ。本当にありがとう」


 アルフレートは剣を持ち上げて、刃毀れが無いことを直ぐに確かめる。


「気に入って貰えたようで何よりだ。もし何かあれば、私の街を訪ねてくれ」


「君の街? 三十里先にあるという街か?」


「そうだ。名はエスタブリッシュ。まぁ住民はまだ一人も居ないがな」


 アハハと快活に笑う少年を、アルフレートは不思議な気持ちで見つめる。

 自分の街というからには彼が領主なのだろう。だが貴族ではないという。では一体なんなのか?

 見た目は美少年、言動はおっさん。そんな謎の存在を前にして、彼は無意識のうちに理解不能という名の苦笑を漏らしていた。


「良かったですね。アル」


「あ、あぁ。これが俺の物なんて……正直、未だに信じられないな」


「いいなぁ……ねぇシューさん、私にも何かありますか?」


「シューさん? 直訳すればキャベツさん、或いは週三回という意味だが……まぁ良い。お前には杖が良いだろう。だが、威力とサイズのバランスがなぁ」


 ビアンカの願いを聞き入れるべく少年は頭を捻るが、彼の脳裏には未だ妙案が浮かんでいないようだ。

 威力を高めれば取り扱いに問題が生じ、機能性を重視すれば効果に不安が残る。

 取り回しを一切無視して固定砲台にすれば話は早いのだが、魔法の袋を持たない彼等では持ち運びに困難が伴うことは明白だった。


「魔石をギュッと潰して、小さく出来れば良いんだけどねー」


「出来るか! シャル、もうちょっと頭を使おうぜ」


「えー、出来るかもしれないじゃん。やってみなきゃ判らないでしょ?」


「……なるほど、ギュッとか。迷いは自分を殺すことになる……か。ここは異世界だぞ? やってみるか」


 シャルロッテの無理難題を聞いた少年が、腕組みしながら真剣な眼差しで意味不明な独り言を呟きだす。

 彼の言うイセカイとは一体何のことだろう。そんな疑問を浮かべながらアルフレートは首を傾げて少年を見つめる。だが少年はそんな視線に気付くことなく白い魔石へと両手を(かざ)し始める。

 少年の手と連動するように、白い魔石がふわりと浮かぶ。少年は目の高さに魔石を滞空させて、意を決したように鼻息荒く高らかに叫んだ。


「クラッシュ!」


 言葉の意味は判らないが、何故か力強さを感じさせる少年の叫び。

 耳朶から脳へと伝わるその異質な響きに、一瞬だけ意識を奪われていた三人が改めて視線を戻すと……直径一メートルの魔石が拳大の大きさまで圧縮されていた。

 体積自体は明らかに縮小している。だが存在感は先ほどと何も遜色がない。そんな不思議な塊を目にして、口を開けた三人が只々放心する。


「適当にやっても出来るものなのだな。ふふ、良い実験結果が得られた」


「な、な、何を! 君は一体なにをやったんだ!? 何故魔石が縮む? 恩恵(ギフト)か? それが君の持つ恩恵(ギフト)なのか!?」


 機嫌よく微笑む少年へと、アルフレートが唾を飛ばしながら激しく詰め寄る。

 彼は一体何をやったというのか? 何をすればあの一瞬で魔石を小さく出来るというのか?

 アルフレートには判らない。判りたくもない。だが正体不明の激しい衝動が彼の体内を駆け巡り、その理由を聞けと彼の心を突き動かした。


「ギフト? アズユーライクか?」


「あ、あずゆう……? スマン、君の言っていることが全く判らないんだが……」


「まぁそうだろうな。恩恵(ギフト)技能(スキル)は同義、と捉えて間違いないのか?」


「あ、あぁ。その通りだが、珍しい例え方をするのだな」


 困惑に歪むアルフレートとは対照的に、納得顔の少年が表情を明るくする。

 こんな常識的な情報を得ただけで嬉しそうにしている彼を、アルフレートは諦観の滲む苦笑で見つめた。

 あまり深く考えるのはもうよそう。そんなことを考えながら。


「であれば、お前の言う通りだな。私が持つギフトは、空間に干渉する能力だ。まぁ、戦闘では役に立ちそうもないがな」


「いや、凄い能力だと思うぞ。実に羨ましい限りだ」


「それでお前達の恩恵(ギフト)は一体?」


「俺に贈られたのは<指示(インストラクション)>。戦闘中の混乱からメンバーを回復させる能力だ」


 ほぉ、と呻きながら、少年が興味津々の瞳でアルフレートを見つめる。

 正直に言って大した能力ではないのだが、何かが少年の琴線に触れてしまったようだ。

 そんな少年の食い気味の態度に、アルフレートは気恥ずかしさを感じながらも説明を続けた。


「マテウスが<狩猟(ハンティング)>、今やっている作業の通りだな。ビアンカは<拡張(エクステンション)>、そしてシャルロッテが<狙撃(スナイプ)>だ。その効果は――」


「あぁ、何となくだが想像はつく。ありがとう、色んなギフトがあるんだな」


「シューベルト様、只今戻りました」


「ご苦労、ゴルト。もう終わったのか?」


 アルフレートからの説明が終わると同時に、解体を指導していたゴルトが少年の下へと戻って来る。

 向こうに居るマテウスはまだ作業を続けているが、既におおよその解体は終わり問題はないようだ。

 後は部位毎に切り分けた素材を、要、不要に分ければ終わりだろう。整然と並べられた魚の開きも壮観である。


「粗方終了しました。後はマテウス様にお任せして私だけ戻った次第です」


「そうか。そういえば、ゴルト。今思い出したのだが、アッサルの槍を持っていたのはラーではなくルーではなかったか?」


「私の知識にルーという名はございません。ですがシューベルト様がそう仰るのであれば、そうなのでしょう」


「うーむ……違ったか? まぁ良いか」


 腕組みをして小首を傾げる少年を、ゴルトと呼ばれた執事が優しく見守る。

 アッサルの槍。またの名を"必滅"と呼ぶその槍は、確かに王国の御伽噺にも登場する伝説の神器だ。

 だが今や神名すら口伝で伝えられているだけ。その名が正式なものであったか、長い歴史の末に埋もれてしまった通称なのかは、今となっては誰にも判らない。


「これで食糧と輸送の問題は解決したな。後は武器を残すのみか。それで? お前達はこの後、何処に行くんだ?」


「俺達の最終目的地は、此処から遥か南にある謎の爆発地点だ。凶悪なモンスターが(ひし)めくこの魔国領、目的地まで無事に辿り着けるかは判らない。だが俺達はどうしても行かなければならないんだ」


「ふーん。だがあんなとこ何もないぞ? 命懸けで行くのはどうかと思うがな」


「君は其処に行って来たのか!? 君は生き延びることが出来たのか!?」


 アルフレートの熱い決意に、冷めきった少年が水を差す。

 彼は何処からか取り出した木の棒に、先ほど圧縮した魔石を無理やり括り付けているが、一体何をしているのだろうか?

 だがそれよりも重大なのは、彼が爆心地から生きて戻ったという事実。その話が本当なら、その轍を踏みさえすればアルフレート達の生還率は格段に上昇するはずだ。


「あぁ、間違いなくこの目で見てきた。だが何もない。そう、何もな。だから行くだけ無駄だと思うぞ……っと出来た」


「そうなのか……だが俺達は、それでも俺達は行かなければならない。例え其処に何も無いと判っていても、報酬を得るには約定の遵守が必須だろう」


「お前が取引き相手なら、昔の私はもう少し楽が出来ただろうな。ほらビアンカ、出来たぞ」


「え? 私にですか? あ……どうも、ありがとうございます」


 商人のような少年の感性に首を傾げながら、突発的な話題の切り替えにアルフレートはつい苦笑する。

 この少年は掴みどころがないのだ。不思議であり自由であり、知識はあるようだが常識はない。悪気も悪意も全く感じられないが、人の話をよく聞かないし他人への感心もない。

 だが何故か憎めない少年の、彼等に対する一連の行動だけには、彼の本当の想いが込められている気がしていた。

 そんな彼の想いが込められた余りにも不細工な杖を、逡巡しながらもビアンカは恐々と受け取る。


「まぁ見た目はあれだが、杖としての機能に問題はないだろう。その属性は光、<光の矢(マジックアロー)>くらいは放てるんじゃないか?」


「ま、まじっくあろう? それって伝説の……」


「伝説? そんな大した魔法ではないぞ? 先ずはあの石に向けて放ってみろ」


「は、はい! ま、<光の矢(マジックアロー)>!!」


 十メートル先にある大きさが墓石ほどの石へと向け、ビアンカは不細工な杖を翳して光魔法を詠唱する。

 詠唱の終了とともに突き出した魔石へ白い輝きが灯り、杖の先に直径が十cmほどの魔法陣が浮かぶ。

 やがて魔法陣の放つ光が中央の円に集束すると、強烈な光が石へと向かって一気に飛び去った。


 ドンッ!!


「うわぁ!」


 魔法の威力に驚いたビアンカが尻餅をつくより先に、放たれた光魔法が目標へと着弾する。その威力は大きな石を軽々と砕き、その後ろにある更に大きな岩を爆散させたほど。

 その驚愕の光景を目にしたビアンカは、心の衝撃とともに後ろへと転倒する。その慌てぶりは転倒による臀部への殴打の拍子に、足を開いて純白の下着をご開帳するほど。

 だがそのセクシーショットも<光の矢(マジックアロー)>の威力に目を奪われ、彼等が目にすることは無かった。既にその魔法を見慣れていた一人を除いて。


「大したサービス精神だな。ところでどうだ? 使えそうか?」


「……え? あ、はい」


 服の乱れを直しつつ慌てて立ち上がったビアンカが、引き攣った笑顔でその効果のほどを肯定する。

 使えるか否かなど論点にすらならない、彼女達の常識を覆すほどの高火力なのだ。

 これほどの魔道具を本当に只で貰って良いのか、ビアンカはそちらの方が心配になっていた。


「こ、こんな凄いもの、本当に貰って良いんですか?」


「デザインをもうちょっと何とかしたいところだが……まぁそれは奴に任せるとしよう。あぁ、貰って良いかだったな? 勿論だ。大事に使って――」


 少年の言を遮るように、莫大な量の空気が彼等の全身を隈なく叩く。

 まるで大きな爆発に巻き込まれたかのような、激しい空気の濁流が数瞬だけ彼等を襲った。

 そして彼等の前に、上空から一人の男性が静かに降り立つ。






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