表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
78/180

説明



 アホみたいに剣を作った翌日、例の如く私はお誕生席に座っている。いや、座らされている。

 昨日製作した剣は、オリハルコンが百本、妖精剣が十本、アポイタカラが三本だ。

 材料が高額なヒヒイロカネは最初から作るつもりは無かったが、アポイタカラの製作が三本に留まったのは何故かスキルが使えなくなったからだ。


 これはあくまで私の推測なのだが、おそらく電池切れを起こしたのだろう。今朝になってスキルを使用したら何故かまた使えたので、中らずと(いえど)も遠からずと私は思っている。

 尚、剣は既にレストエスへと渡している。サンプルの各一本は私が持ったままだ。

 レストエスから値段の設定を聞かれたが、物価が全く判らないので適当に答えておいた。金貨百枚くらいでいいんじゃないか? と。


 さて今日は何をしよう。そんなことを考えながらゴーレム達へ視線を向けると、アスタロトの歩み寄る姿が視界に入る。

 ゴーレム達の指揮を執っていたはずだが、何かあったのだろうか?


「どうしたアスタロト。何かあったのか?」


「昨夕入ったゴーレムからの報告が気になっているのですが……カミュ様はどうされるおつもりでしょうか?」


「……報告?」


「え? あ、いえ。橋の袂に設置したヒュドラのゴーレムから、侵入者の報告が入っているのですが……」


 今初めて聞いたように思えるのだが、私は健忘症にでもなったのだろうか?


「初めて聞いた気がするのだが……気のせいか?」


「え!? あ、失礼しました。指揮権をお持ちのカミュ様には、既に報告が入っているものと思い込んでおりました」


「特に何も無かっ――たような気もするが、気のせいかもしれないな」


 私の意に反して、乾いた笑いが止まらない。

 ゴーレムからの報告? なんだそれ? 美味いのか?

 それよりも気になるのは、ゴーレムからの報告を私が受け取れなかったことだ。もしかして気合いが足りないのだろうか?


「昨夕、四名の人間が橋を渡って魔国領へと侵入しました。最終の目的は不明ですが、当座の目的は緊急避難のようです」


「緊急避難?」


「はい。モンスターに襲われた五名が二手に別れ、内四名が此方へと逃げたようです」


「ふむ……」


 それは良いことを聞いた。

 侵入したのが二本目の橋からであれば、方角的には此処から真南の位置だ。

 不審者が居るのであれば、必然的に調査が必要だろう。だがその前に自由を確保する必要もある。


「対処については考えておこう。アスタロトは作業に戻ってくれ」


「御意」


 一礼したアスタロトが颯爽と踵を返し、作業現場へと戻って行った。

 さて、どうしたものか。

 ゴルト達でも呼んで、それっぽい話でもしてみるか。



「ん? あれは?」


 私が作った道を此方へゆっくりと進む小集団を脳裏に浮かべて、わざとらしくゴルトへと意識を向ける。

 想像では冒険者的な一団だと思われるが、見た訳ではないので曖昧な話で誘導するしかないだろう。

 私が此処へ来て初めて見るお客さんだ。先ずはフレンドリーに接することを心に決め、横に侍るゴルトへと視線を戻した。


「ゴルト、あれが見えるか?」


「何方でしょうか?」


「此処へと通じる道が、南から川沿いに続いているだろ? そこを四人の男女が歩いているんだが」


「申し訳ございません。私にはまだ見えないようです」


 恐縮する心情を声に滲ませつつも、表情は怖いままのゴルトが胸を張って謝罪する。

 私の問いに答えられなかった彼は、本当に申し訳ないと思っているのだろう。だが、あまりにも堂々としたその態度に、奇妙な違和感と微妙な緊張感を覚えてしまう。

 このおっさん顔が怖いなーと思いつつも、私は心の中でゴルトへ謝罪した。スマン、実は私も見えていないのだ、と。

 だが作戦は始まったばかり。気を取り直して、同じ質問をメイドへと投げ掛けてみる。


「パラス、ちょっと良いか?」


 少し離れた場所で控えるメイドへと声を掛けてみたのだが、彼女は何故か怪訝そうな顔で私を見つめていた。

 私の方へと歩み寄る最中も、彼女の表情が優れることはない。

 もしかして私の嘘が既にバレているのだろうか?


「……誠に恐縮ではございますが、カミュ様。私はベスタです」


「……あ、スマ――」


「いえ」


 無表情のまま口調に不満を滲ませたベスタが、私の言を遮ってこの場を収める。

 何だろう……空気が重い。そして胃が痛い、ような気がする。

 何処の世界でも女性の名前だけは絶対に間違えてはいけないのだ。とても面倒なことだが、男なら肝に銘じなければならないこと。ベッドの中であれば尚更だ。


「ベスタ、あれだ。見えるか?」


 気を取り直して南の方角を指差すと、ベスタは眉間に皺を寄せて目を細めた。

 真剣に南を凝視する彼女であったが、その表情が優れることはやはりない。


「申し訳ございません。私にも見えないようです」


「そうか。さて、どうしたものか――」


 此方へと近付く彼等の目的が一体何なのか、先ずは調査が必要だろう。だがその前に、全く見分けがつかない配下達の識別方法を、可及的速やかに立案するのも喫緊の課題だった。

 問題はどうやって識別するか。外見から判断するのは間違いなく不可能だろう。であれば髪型を変えさせてはどうか。しかしその髪型の種類を覚えるのが不可能な気がする。

 此処は一つ前世の記憶でも掘り起こしてみるか。


 南の地へと未だに目を凝らすゴルトとベスタの尻を見ながら、淡い記憶となった過去の光景を脳裏に浮かべる。

 数百もの人間を誰一人間違えずに見分ける方法。そんなものは一つしかない。そう、ネームプレートだ。

 だがこの世界には合成樹脂、所謂プラスチックが存在しない。合成樹脂を作ろうと思えば作れる気もするが、透明性を持つ非晶性樹脂や共重合体など作れる気がまったくしないし、原料となるナフサの抽出方法など調べたことすらない。

 更に問題なのは成形方法だ。圧延機を作るのも面倒なのに、射出成形機を作るなど夢のまた夢。私は樹脂製のネームプレートを早々に諦めた。


「――となれば金属製のプレートか」


「何か仰いましたか?」


「いや、なんでもない。気にするな」


 独り言を聞きつけた耳聡いゴルトが、振り返りながら私を見つめる。

 彼はただ単に質問をしているだけのはず。だがその視線には何処とない厳しさがあり、何故か怒られているような気がした。

 小首を傾げながら視線を戻すゴルトの姿に不思議な安堵感を覚えつつ、手持ちの金袋から十三枚の金貨を取り出す。


 私如きの知識で加工し易く錆びない金属と言えば、金しか思い浮かばなかったのだ。他の候補としてチタンも上げられるが、手持ちもなく加工性が悪いため脳内で却下しておく。

 アルミニウムも錆び難い金属ではあるのだが、"難い"だけで実際には白く粉をふいた状態で錆びる。それに一円玉なみの安っぽさには心がときめかない。手持ちにクロムがあるのでステンレス鋼を作っても良かったのだが、これもアルミニウムと同じで錆びないという訳ではない。

 ちなみに、どの金属もアモルファス化させればほぼ錆びなくなるのだが、ネームプレート如きにスキルを態々過剰使用するのも正直面倒だった。

 そんなことを考えながらも手は止めずに、溶融した金を板状へと加工する。


「カミュ様、それは一体なんでしょうか?」


「ん? ネームプレートだ」


「ねいむぷれえと、ですか?」


「あぁ、名札のことだ」


 早速、金貨一枚を使ってネームプレートを作り上げると同時に、何故か目聡く気付いたゴルトが此方へと振り向く。

 彼は超能力でも持っているのだろうか? 何かに気付くタイミングが、あまりにも絶妙過ぎるんだが。

 だがそんな彼でもネームプレートの存在は知らないようだ。確かに名札を付けた魔族など、ファンタジー物ですら私は見たことがない。


 ゴルトに続いてベスタが振り向く。彼女も小首を傾げて此方を見つめるが、説明するのが面倒なので気付かないフリをする。

 そんな彼等の前でネームプレートに文字を刻むが、彫刻機など無いので当然ながら私の手書きだ。お世辞にも奇麗とは言えないミミズの這ったよう字ではあるが、なんとも言えない味が出ているようにも思える。

 そんな汚い字に心地良い満足を覚えつつ、小首を傾げるベスタへとプレートを差し出した。


「わ、私にですか?」


「そうだ。これを常時、左胸に付けておくように」


「は、はい! ありがとうございます!」


 言葉のテンションは非常に高いのだが、顔は無表情のベスタが頬を紅潮させて大きく一礼する。

 喜んで貰えて何よりだ。それに彼女の表情に喜怒哀楽はなくとも、心の喜怒哀楽は人並にあったようで、正直ホッとした。


「どれどれ……ほぉ、金のプレートですか。それで何と書かれているのでしょうか?」


「ベスタ、と書いたのだが、やはり読めないか」


「見たことがない文字です。古代文字でしょうか?」


「まぁ、そんなところだ」


 片仮名で書いた文字を見て、ゴルトが首を傾げている。

 やはりこの世界では日本語が通じないようだ。どうせネームプレートは私しか見ないし、彼等には関係ないだろう。第一、説明するのが面倒だ。

 あ……そういえば、アスラへと渡した手紙の文字は日本語だったが、果たして彼女は手紙を解読出来たのだろうか?

 だが今更だ。気にしないのが一番だろう。


「ところでベスタよ。何故お前は胸を露出させているんだ?」


「え? カミュ様が左胸に付けろと仰ったので……」


「そういう意味では無い。左胸の場所に、服の上から付ければ良いのだ」


「こ、これは失礼しました。お目汚し、申し訳ございません」


 先ほどよりも更に顔を紅潮させたベスタが、手早く乳を仕舞い込む。

 別に謝る必要など無いのだが、彼女からすれば耐え難い失態なのだろう。

 美女の生乳が眼福であったことを否定はしないが、この状況では必要としていないのも偽ざることなき本音だった。


「それでゴルト、これがお前のだ」


「あ、ありがとうございます。まさか私にも頂けるとは……」


 顔に一切の笑みを浮かべぬまま、ゴルトが嬉しそうな口調で一礼する。だが彼等は何故ここまで無表情なのか。もしかして顔の筋肉が死んでしまっているのだろうか?

 そんなことを考えつつ、視線を手元へと戻して作業を再開する。残るは九名のメイドの名前だが、私の集中力では残念ながら思い出せそうにない。聞きなれない十名ものメイドの名を、一度で覚えられるほど私の頭は柔らかくないのだ。

 それでも作業を続けながら必死に頭を捻ってみるが、やはり思い出すことは出来なかった。


「それでベスタよ、パラス、ジュノー、アストラエア、ヘーベ……それ以外のメイドの名前を教えてくれないか?」


「は、はい。残るはイリス、フローラ、メティス、ヒギエア、パルテノペでございます」


 乳を仕舞い終えたベスタが、まだ赤みの残る顔で同輩の名を告げる。


「なるほど。――メティス、ヒギエア、パルテノペ……と。出来たぞ」


「わ、私だけではなかったのですね……」


 消え入りそうな声でベスタが何かを呟いているが、声量があまりにも小さくてほとんど聞き取れない。

 少々気になるのは、何故か彼女が肩を落としていること。その理由をほんの少しだけ推察してみるが、その無表情さも相まって何を考えているのか全く判らなかった。


「お前以外の九名の分だ。後で配っておいてくれ。それと、こちらはアンニバレとガスパリスの分。これも渡しておいてくれ」


「畏まりました。カミュ様からのご下賜品、皆も喜ぶことでしょう」

「わ、私だけではなかったのですね……」


 ベスタの承諾に被せながら、ゴルトが何か呻いていた。

 ベスタ同様、何故か彼も肩を落としているが、考えてもどうせ判らないだろう。だから面倒なのでスルーする。


「ではゴルト、私は客人を迎えに行ってくる」


「供は誰に致しましょうか?」


「……単独ではダメか?」


「駄目でございます」


 ネームプレートを左胸に付け終えたゴルトが、私の提案をあっさりと却下する。

 顔が怖いのでこれ以上グダグダ言う心算は無いが、このおっさんは魔国に於いて一体どれ程偉いのだろうか?

 態度は堂々としているし、物言いは厳しいし、(あまつさ)え怒られている錯覚に陥ってしまうのだ。


「だがアスタロトとフルーレティは忙しいし、カメオウは帰ってしまったし……誰も居ないんだよな」


「ラゴ様達では如何でしょうか?」


「彼女等は必要以上に好戦的、或いは不必要なまでの無関心だし……それに人間を見下しているしなぁ」


「そうですね……では、私がお供いたしましょう」


 残り二人の名前を出さずに自分をアピールするとは……流石はゴルト。空気が読める。


「それは構わんが、お前はどれほど戦えるんだ? 自分の身は守れるのか?」


「私の強さは魔国の中で最底辺です。一言で表すならカス、そこのベスタにさえ及ばないでしょう」


「それはベスタが強いということか?」


「いえ、単に私が弱いだけです」


 自分で自分のことをカスと言い切るなんて……ゴルトは中々の男前のようだ。

 私なら多少なり強がってしまう場面だが、それを潔しとせず正直に告白する勇気。大したものだ。

 だが供にするかとなると事情は変わる。自分の身さえ守れるか判らず不安なのに、守り切れるか判らない非戦闘員を連れては行けやしない。


「であれば供は無理だろう」


「いえ、問題ございません。私にはカミュ様からお預かりしているシャドーデーモンが付いておりますので」


 シャドーデーモンとは一体なんだろう? とういうか何故そんなに自信満々なんだこの人は。


「お前達、カミュ様にご挨拶を」


 目線を足下へと移したゴルトが声を掛けると、彼の影から三体の何かが盛り上がるように出現した。

 影のように真っ黒なその様相を的確に例えるなら、それは悪魔としか言いようがない。爬虫類のような頭に鶏冠を立て、背中から蝙蝠のような羽を生やした存在。

 昔の私であれば、一見しただけで腰を抜かしたのは間違いないだろう。だが今は何故か、恐怖よりも不思議な安心感が心を満たしていた。


「なるほど……確かにシャドーデーモンだな。それで彼等の強さは?」


「戊級にございます。同級のモンスターは、ワイバーンやキマイラですね」


「そう……だったな。であれば大丈夫か」


「はい」


 跪くシャドーデーモンを足下に従えて、ゴルトは力強い視線で大きく頷く。

 胸元の金のプレートが自慢げな光りを放ち、謎の自信がゴルトの顔に輝きを与える。

 確信の源泉はよく判らんが、凄い自信だ。まぁ、死んだら死んだで生き返らせれば良いだけか。


「因みにゴルト、お前は生き返ったっことがあるのか?」


「生き返る……? カミュ様のご高察を理解し得ず、誠に申し訳ございません。死んだことがあるのか、というご質問であれば死んだことはございません」


「……そうか。やはり死とは忌避すべき最終符だな」


「その通りにございます。もし死を軽んぜられるとすれば、ベンヌ・オシリス様、サリア様の御二方だけでしょう」


 ゴルトの言った言葉の意味がよく判らない。死んでも構わないとは、果たしてどういう意味なのだろうか?

 言葉通りであれば、とても不謹慎で、とても不穏な意味になる訳だが。

 しかし彼が真面目な顔で毒を吐くとはとても思えない。ということは……


「その二名は不死の存在なのか?」


「はい。首を刎ねたくらいで死に至ることはないでしょう」


 なんだその化け物は?


「首だけでも生きていられる、ということか?」


「サリア様ならどうにか。ですがベンヌ・オシリス様は爆散されるかと思います」


 ゴルトの言っていることが全然、全く、一ミリも理解出来ない。

 首だけで生きる配下と、散らばる配下? 想像しただけでも気色悪いこと悪夢の如しだが、それで死なないとは一体どういう人体構造をしているのだろうか? いや違った、彼等は根本的に人間ではなかった。

 だが例え彼女達が人間ではないにしろ、これ以上そのスプラッタな光景を想像したくはない。まだ一抹の疑問を残している状態だが、現在(いま)は先に別の問題を解決することにする。


「ところでゴルトよ。お前は復活魔法に耐えられるのか?」


「復活魔法……にございますか? そのようなもの、この世に存在しないはずですが?」


「ん? そんなはずは――いや、死んだ者を生き返らすことは出来ないのか?」


「聞いたことはございません。もし出来るとすれば六大神だけでしょう」


 私が使っていた蘇生とは、復活魔法では無かったということなのか? 定義として蘇生と復活の違いがいまいち判らないが、結果だけを見れば生じる現象は全く同じもの。

 それに件の村でティムを生き返らせたことは間違いのない事実だ。だがゴルトは蘇生魔法が存在しないという。であれば、あれは一体何だったのだろうか?

 というよりも六大神ってなんだ? やはりこういう世界には、当然のように神様が居るのか?


「それで、六大神とは?」


「やはりご記憶が……いえ、失言でした。六大神とはこの世を司る絶対的存在にございます。火神ヘラクレイトス、風神アナクシメネス、地神クセノパネス、水神タレース、魔神アンラ・マンユ、太陽神ラーの六柱です。その他に闇神ヒエロニムスが存在しますが、闇は死を司りますので死人を生き返らせることは有り得ません」


 何故かゴルトに同情の目で見られた。

 とても屈辱的なのだが、彼の言う話を私は全く知らない。此処は黙って聞いておくべきだろう。


「因みに、風神アナクシメネスにはアネモイという配下が存在しますが、この場では割愛します。その六大神に闇神を加えた七柱ですが、それぞれに神器を生み出しています。今、カミュ様の右のお御足を飾っている璧もその一つにございます。その他は剣、杖、角――」


 ゴルトの話は大分長くなるらしい。

 彼は私のことをどれだけ優秀だと思っているのだろうか? そんな多くを一遍に語られても覚えきれないのが道理。彼は私の能力を大きく勘違いしているようだ。

 だが必死に語る彼へ「もう良いよ」とはとても言えない。顔は真剣そのものだし、何よりもその目が怖い。話の腰を折って怒られるよりも、聞いた振りして聞き流すのが大人というもの。


「――但し、太陽神ラーの神器であるアッサルの槍だけが未だ見つかっておりません。ラーの警戒心は七柱随一ですので、誰にも与えず何処かに隠したものと思われます。そして最後に光神アルケーにございますが、その存在を知る者は誰も居りません。荒唐無稽な唯の伝説だという説と、ある条件を満たすと降臨されるという説が一般的ですが――」


 ゴルトの話はまだ続くらしい。

 そろそろ飽きてきたのだが、当然ながらそんなことは言えない。

 アスラが東の横綱とすれば、彼は差し詰め西の大関あたりか。話の中身がアスラより充実していることだけが唯一の救いだろう。


「――ということです。多少なり思い出して頂けましたでしょうか」


「あぁ。ありがとう、ゴルト。何となくだが思い出してきたぞ」


「おぉ、なんと勿体ないお言葉。私のつまらない話をご清聴頂きまして、誠にありがとうございました」


 深々と一礼するゴルトを見て、とても心が苦しくなる。

 嘘をつくと眩暈を覚えるのは私だけでしょうか? あまりの苦しさに視点が定まらず、彼を直視することが出来ません。


「いや、中々興味深い話だった。準備が整っているなら、そろそろ移動するか」


「私の方は問題ございません」


「ゴルトは空を飛べるのか?」


「私自身は飛べませんが、シャドーデーモンが居りますので」


 自分の背中を見たゴルトが、飛翔に問題が無いことを伝えてくる。

 シャドーデーモンが居ると何故大丈夫なのか判らないが、まぁ飛んでみれば直ぐに判るのだろう。

 無駄に質問を重ねて、またあの説明地獄に陥っては堪らない。沈黙が精神的な健康に繋がることを確信し、南の地へと興味溢れる視線を向けた。


「彼等も大分近付いて来たな。では行くぞ、ゴルト」


「承知しました」


 背中に趣味の悪い黒い羽を生やすゴルトを一瞥し、勢いよく南の空へと飛び立つ。

 目的は謎の男女四人との接触。兼、暇潰し。

 この世界に来て二度目となる人間との接触だ。今度こそ失敗しないと心に誓い、彼等から見えない位置で大地へと降り立った。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ