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Lords od destrunction  作者: 珠玉の一品
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失態



 まだ朝露の光る草原の中で、見つめ合いながら相対する異質な男女。

 男は幼さの残る容姿を真っ白なローブで隠し、体躯に似合わぬ長剣を背負いながら無骨な靴を履き大地に立つ。

 女はアクアマリンの青い瞳を強い怒りで歪ませながら、茶色のショートカットを振り乱して男を睨んでいた。

 膝上二十cmの黒いスカートの裾から覗く膝上十cmの白いレース地。そこから伸びるニーソックスに覆われた長い脚を大きく開くと、彼女は少年へと向かって凶暴な牙を剥く。


「さて、そろそろ準備は良いかなー? ねぇ……クソガキ!!」


 一瞬だけ笑みを浮かべるバチ。だがその表情は暴言とともに直ぐに色を失い、怒りに任せた渾身の力が彼女を少年へと押し出した。


「フンッ!!」


 バチの右脇に抱えた禍々しいランスが唸りを上げると、穏やかだった空気が切り裂かれて死の影が少年に襲い掛かる。

 その鋭さは並みのモンスターを軽々と凌駕する威力を誇り、その気炎は彼女の美しい顔に歪んだ愉悦を齎す。

 だが、その豊かな表情も長くは続かなかった。


「なっ!?」


 少年の胸にランスの鋭利な先端が吸い込まれようとしたその時、バチの視界から突如として少年の姿が消える。

 必死に目で少年を追うバチだったが、彼女はまだ少年の姿を捉えられない。


「ほぉ、なかなか鋭いな」


 焦りから冷静さを失う彼女の挙動が不審まで達した後、彼女の意識の外から感心するような声が悠長に届いた。

 そう、彼女の背後から。


「なっ! い、いつの間に!?」


「ん? そんなに意外だったか? だがお前も侮れないな。攻撃は右手だけに任せて、左手で乳をガードするとは。私はお前を見縊っていたようだ」


「少年……あんた、一体何者なの?」


 その美しい顔を驚愕に塗れさせて、バチは振り返ながら異質過ぎる少年へと今の素直な気持ちを伝える。


「私か? 只のおっさん……いや違った。普通の少年だが?」


「ふ、普通な訳ないでしょ! もしかして……あたし舐められてんのかなぁ?」


 額に青筋を立てたバチが、眼前の少年を親の仇のように睨む。

 だが少年は涼しい顔で彼女の詰問を聞き流すだけだ。


「ねぇキャラ、今のって……見えた?」


「見えませんでしたね……」


「一瞬だったよねぇ。何の恩恵(ギフト)なのかなぁ?」


「本当に恩恵(ギフト)……なのかしら?」


 ラゴとキャラケンダの動体視力を超える少年の動きに、ビマシタラがとある可能性を示唆する。

 だがその可能性は余りにも低い。

 その他の可能性を模索するラゴは、顎に手を当てたまま思案の海に耽っていった。


「舐めるか……奴なら喜ぶだろうが」


「奴? って誰かな?」


「ん? あぁバ……いや、悟浄という者だ」


「……随分と格好良い名前だね」


 バチの感想を聞いた少年が、一切の澱みもない瞳で小首を傾げる。

 本当に、何かを不思議に思っている様子だ。


「ま、そうなのだろうな。では再開するか」


「今度は全力で行くよ?」


「お手柔らかにと頼みたいものだな」


「フンッ、冗談は名前だけにしたら? <地獄の業火(ヘルフレイム)>!」


 バチの突き出した左手に魔法陣が浮かび上がり、全てを焼き尽くす地獄の業火がその手から放たれる。

 その赤黒い炎が少年に襲い掛かるのと同時に、ランスを構えたバチが再び少年へと突進。

 炎を目眩ましにする魔法と物理の同時攻撃。格下の相手であれば瞬殺されるほどの凶悪な連続攻撃なのだが……その苛烈な攻撃に晒されながらも、少年は何気ない素振りで右手を突き出すのだった。


 ボウッ!!


 その直後、見えない壁に地獄の業火は遮断され、その比類なき猛威を奮うことなく敢え無く霧散していく。

 だがバチの突進は直ぐには止まらない。前傾姿勢で禍々しいランスを突き出し突進する彼女だったが、不自然な違和感が不意にその左手を縛り付ける。

 バランスが崩れたことで異変を察した彼女が見たものは、物理法則に逆らうおうとする不自然な左手の挙動だった。


「っ何!?」


 微動だにしない彼女の左手は、まるで空気に捕らえられたように固まっている。異常に気付いたバチが制動に腐心するが、その突進力を即座に消すことは出来ない。

 状況を把握できないバチは慣性が働くまま左手を軸に、目を見開きながら反時計回りに一回転させられる。

 何とか速度を落とし元の場所へと戻った彼女の、前に咲き誇るのは優しい眼差しで微笑む少年の笑顔。

 そして、バチの胸に耐えがたい羞恥の衝撃が走った。


「ぃやん!」


「ふむ……Bか」


 羞恥と屈辱で顔を染め上げたバチが、所謂女の子座りで敗北感と自己嫌悪に陥る。

 彼女は負けたのだ。

 訳も判らぬまま、何も出来ぬまま、一方的に屈辱だけを味わされて。


「な、何なの? 今のは一体、何!?」


 己の不甲斐なさに涙ぐむバチが、自分を今の状態へと貶めた少年にその理由を尋ねる。

 負けたことは紛れもない事実。なのだが、何故負けたのかその原因が全く想像出来ないのだ。


「まぁ簡単に言えば、時間的なものだ」


「時間?」


 少年が発動したのは<時空間(ワールド)>と呼ばれる、絶大な効果を生み出すスキルだった。

 少年は目の前の空間とバチの左手周りだけを限定的に遅延させていたのだ。その結果、疑似停止した時間により炎が遮られ、独楽のようにバチは回されたのだ。

 だがそんな説明を受けても、彼女はそれを理解することが出来ない。


「これで気が済んだか? じゃ私は――」


(わたくし)めがお相手いたしましょう」


 少年の別れの挨拶を遮って、禍々しい武器を携えたラゴが立ちはだかる。

 膝上十五cmの白一色のメイド服を纏い、ナースキャップに似たホワイトブリムを乗せるラゴ。

 その手に持つのはバルディッシュと呼ばれる戦斧の一種であり、その凶悪なフォルムは生真面目そうな外見の彼女には余りにも不似合いだった。


「……帰りたいのだが、ダメか?」


「ダメです」


「そんなに揉んで欲しいのか?」


「も、揉まれたくなんて! ……な、ないわ」


 小首を傾げる少年のおっさん臭い台詞に、ラゴは強い否定で己を守ろうとしたが……その強かった意思も尻窄みに小さくなっていく。

 その様子を困った表情で観察していた少年が、溢れる辟易を隠しきれずに苦笑する。

 だがラゴも然る者。その光景を目の当たりにしても尚、彼女の心が折れることはない。


「ハァ……では勝敗については同じルールで良いか?」


「構いません。では好きに攻撃して下さい」


 赤面を隠すかのように眼鏡のフレームをクイッと上げたラゴが、少年への先制攻撃を促すと両手でバルディッシュを構える。

 常に片手でバルディッシュを持つ彼女が両手で構える理由、それは先ほどバチを襲った不可解な現象によるものだ。

 油断ならない少年の一挙手一投足に意識を集中するラゴは、一分の隙も見せない面持ちで静かに挑発するのだった。


「なるほど……その戦斧の柄で胸を守りつつ、カウンターを狙う訳だな?」


「まぁ……そうね。でも、それだけかしら? <演技(パフォーム)>」


 一切の緊張感を排除するように立つ無防備な少年を、重心を落としたラゴが真剣な眼差しでじっと見据える。

 彼女が所持するスキルの名は<演技(パフォーム)>。相手が放った技能をコピーする能力だ。

 フルーレティが持つ<石化の神経毒(ニューロトキシック)>やイリア・ガラシャのブレスの様な、余りにも特殊な技能はコピー出来ないが、一般的な攻撃スキルであれば問題なくコピーしてしまう反則技。

 コピーさえ出来れば、その能力も解析が可能。彼女はその一点に掛けることで、この勝負に勝機を見出そうとしていた。


「何やら秘策がありそうだな。では私も少々本気を出そう」


「……フッ、楽しみね」


 解けない緊迫感に包まれたラゴの蟀谷(こめかみ)から、滴った一筋の汗が引き攣る頬を伝う。

 そんな彼女を面白そうに見つめる少年は、口端を上げながらおもむろに両手を広げ、悲壮感を醸し出すラゴを挑発するのだった。


「揉まれたくなければ、死に物狂いで掛かって来い!」


「……手をワキワキさせるな!」


「そう怒るな。これも無意識の赤心だ」


 己の手を見つめながら、少年がフッとニヒルな笑みを溢す。

 幼い見た目と仕草のギャップがラゴの心を(くすぐ)る。

 だが彼女は、今は戦闘中なのだと意識を改めてお尻の穴をキュッと締めた。


「安心しろ、殺しはせん」


「淑女としては殺されそうだけど……ね。<砂嵐(サンドストーム)>!」


 バルディッシュから少しだけ手を離したラゴの右手に、直径二十cmの緑の魔法陣が浮かび上がる。

 そしてその緑の輝きが中央へ集束されると、巨大な砂嵐が生じて少年へと襲い掛かった。


 身長百六十cmの少年に迫る巨大な砂嵐。その暴威が彼の華奢な身体を飲み込んでいく。

 ラゴを含む四人が想定していたのは、先ほどの良く判らない障壁による魔法の防御、そしてそれに続くカウンター攻撃。だが少年の居た場所を砂嵐が包み込んでも、ラゴの放った土魔法が霧散することはなかった。

 その結果に大きな疑問を覚えつつも、ラゴは目を凝らして砂嵐の終わりを見つめ続ける。


「イ゛ッ!!」


 だが得体の知れない脅威は、突如として彼女の背後から襲い掛かった。

 その攻撃はラゴの乙女を的確に捉え、彼女から羞恥心と戦闘意欲を根こそぎ奪っていく。


「ッタァイ!!」


 大切な武器であるバルディッシュから両手を離したラゴが、ダメージを負ったお尻の中心をその両手で強く押さえる。

 エビ反りで仰け反る彼女のダメージは如何ばかりか。苦痛に顔を歪めて身悶えるラゴだったが、突き出したその胸に突如として優しさが降り注いだ。


「ぁん」


「ふむ……Dだな」


 膝から崩れ落ちたラゴが、地面へと座り込む。


「い、今のは一体?」


 女の子座りのラゴが、少年を見上げながら涙ぐむような声で、たった一つの疑問を投げかけた。


「三年殺しだ」


「さ、三年殺し? ……って、臭いを嗅ぐなぁあーーー!!!」


 両手の人差し指を立て手を組み合わせた少年が、自分の鼻の下へとその指先を差し出す。

 その羞恥心を掻き立てる仕草に身悶えながら、ラゴは赤面している顔を両手で覆い隠した。


「スマン、スマン。つい……な」


「も、もうお嫁に行けない!!」


「その心配は不要だぞ? 何故なら、今の攻撃によるダメージでお前は三年後に死ぬ……からな」


「なっ!? そ、それは本当なの!?」


 驚愕を顔面だけで表現するかのように大きく口を開いたラゴが、どう考えても出鱈目な予言に異常なほどの反応を示す。

 乙女にアタックされると三年後に死ぬ。そんなことは有り得る筈がなく、嘘八百なのは明白なのだがしかし……彼女は気付けない。


「だが武士の情けだ。その呪いだけは解いてやろう」


「……ぶし?」


 小首を傾げるラゴを余所に、少年は右手を翳す。

 少年から放たれた淡い光が彼女を包むと、彼女を襲っていた凶悪で猛烈な痛みが霧散していった。


「……え? えぇ!?」


「やはり陥没よりは消費魔力が少ないな。あ、呪いは解いたぞ」


 呆然とするラゴ。何処かの伝承者のようなことを恥ずかしげもなくのたまう少年。

 静粛が辺りを包み二人の視線が交錯する中、少年の背後から禍々しい気配が歩み寄って来た。


「行動が正におっさんですね」


「んー、見た目とのギャップが凄いよねぇ」


「でも、出鱈目な強さですね」


「このままじゃ不味いかもぉ?」


 前が黒、後ろがブロンドの髪をポニーテールに纏め、オーソドックスなメイド服に身を包むキャラケンダが率直な感想を述べると、ピンクの髪をツインテールに纏め、その根元をリボンであしらい、襟元とスカートの裾にピンクをあしらったビマシタラが今後の方針を相談する。

 それに続きダメージから回復したラゴと、混乱から回復したバチが立ち上がり、少年を取り囲むように周囲を固めた。


「まだ帰らせてはくれないか。お前達の気が済むまで付き合っても構わんが……私に勝つことは難しいぞ?」


「この四人を前にして、凄い自信ですね」


「自意識過剰ぉ?」


 少年の発言を聞いた二人の表情が豹変する。

 彼女達は魔国の中枢を担うアスラ直属の配下であり、魔国の国威を担う者達。その者達が得体の知れない人間如きに見下されるなど、あってはならない異常事態なのだ。

 この戦闘が唯の敗北で終わるのであれば、彼女達もここまで固執はしなかっただろう。だが彼女達の屈辱的な敗北は魔族の威厳を失墜させるものであり、例え死が間近に迫ったとしても、圧倒的な敗北だけは絶対に避けなければならないのだ。


「まぁ、やってみれば判るさ」


「そこまで自信があるなら、四人同時でも構わないですよね?」


「あぁ、構わない。だが四人同時でダメなら、今度こそ諦めてくれるよな?」


 その軽過ぎる答えを聞いた四人の、仮面から唯一露出する口元が鋭く牙を剥く。

 四対一の一触即発の状況。一人でも動けば即座に戦闘が開始され、即座に戦闘が終結するそんな均衡状態。

 だがそんな状況も長くは続かなかった。上空からほぼ垂直に落下して来た流星によって、均衡は脆くも崩されたのだ。


 ちなみに彼女達は、アスラから事前に聞かされていた。

 主君の容姿が変わってしまったこと、そして主君が名前を変えられたことを。

 だが肝心の服装と装備については、アスラが心に傷を負った所為で、正確には伝えられなかったのだ。


「あ! 危な――」


 ドッゴォーーン!!!


 バチの悲痛な叫びが響き渡ろうとしたその刹那、暗褐色の塊が緊迫した空気を切り裂いて、轟音を撒き散らしながらキャラケンダとビマシタラに直撃。そして、彼女達を地中へと押し込んだ。

 もうもうと土煙が立ち込める中、唖然とする三人を余所に銀髪の女性が、重力に逆らうかのように静かに舞い降りる。

 その漆黒のローブを纏う女性が落ち着きなく辺りを見渡すと、熱い視線で少年の姿を認めながら恭しい安堵の笑みを浮かべるのだった。


「……三蔵か?」


「あ、はい! 御身に危機が迫っていると聞き、急ぎ駆け付けました」


「そうか、ご苦労だったな。だが何も問題はない。そう、何も揉ん……でいない」


「誰だお前は! ッていうか、何であたしの連れを()っちゃってくれてんの!?」


 ぎこちなく視線を逸らす少年とその傍で寄り添う三蔵を咎めるように、怒り心頭のバチが般若の形相で声を荒げる。


「何でって、ガーゴイルで吹き飛ばしたのだが? というか……もしかしてバチか?」


「……え? ぇえ!? もしかして、アスタロト様ですか!?」


「何だ、知り合いか?」


「はい。彼女がバチ、隣がラゴ。そしてあそこで地面にめり込んでいるのが、キャラケンダとビマシタラでしょう」


 イマイチ話の噛み合わなかったアスタロトとバチが、奇妙で唐突な再会に驚きを隠せず茫然と佇む。

 片やハゲからロンングヘアーへとイメージチェンジを図り、片や目元を仮面で覆い隠す珍妙な出で立ち。

 すぐさま気付けないのも致し方ないことだった。


「か、髪が……戻ったのですね。おめでとうございます」


「ありがとうラゴ。で、(けい)達は此処で何をしていたのだ?」


 地獄道主の頭へと女性の命が戻ったことに、ラゴは引き攣りつつも祝辞を述べる。

 アスタロトが敬意を払うということは即ち、目の前の少年がより上位の存在ということ。

 その事実に気付いたラゴが、メイド服に仮面という奇抜な様相とは裏腹に、今の状況を慎重にアスタロトへと尋ねた。


「アスタロト様……あの、もしかしてそのお方は……」


「カミュ様に決まっておろう。気付いてなかったのか?」


「カミュではない。外ではシューベルトだ」


「し、失礼しました。シューベルト様」


 顔面蒼白のラゴが恐る恐る少年の顔色を伺うと、呆れた視線のアスタロトが衝撃的な事実を突き付ける。そう、先ほどまで敵対していた少年が、あろうことか彼女達の主君だと言うのだ。

 頭の中が白一色となったラゴ、そしてバチが、金魚のように口をパクパクとさせる。受け入れ難い真実に戸惑い、認めたくない過去へと蓋をしたいのだろう。

 だが現実とは無情なもの。何を狙っているのか全く理解し得ないが、主君はシューベルトという偽名で彼女達の心を弄んでいたのだった。


「しゅ、シューベルト……様ですか?」


「ん? あぁ、もう良い。身内だけであれば、名前を隠す必要は特にないからな」


「あ……はい。か、畏まりました」


「それで? (けい)は此処で何をしていたのだ?」


 怪訝な表情のアスタロトが、まだ自意識のハッキリしないラゴへと厳しい眼差しで追い討ちをかける。

 此処に来る前にフルーレティから伝えられたのだ。主君が戦闘を開始した、ガーゴイルがそう言っていると。

 しかし遭遇したのはアスラ配下のラゴ達四名であり、主君に敵対するなど考えられない面子だ。ではガーゴイルの情報が間違っていたというのか?


「……」


「どうした? 何故、何も答えない?」


「乳……」


「父?」


 今にもぶっ倒れそうなほどの虚ろな視線のまま、ラゴは己を想いを空想の言葉へと懸命に乗せる。

 違うんです、知らなかったんです。その少年が主君だと判っていたならば、矛先を向けるなど絶対に有り得なかったんです。

 どこをどう解釈すればシューベルトという偽名になるのか、その要点さえしっかり掴めていれば……こんな状況には陥らなかったはず、と。


「乳を揉んで頂いておりました」


「……は?」


「ですから、カミュ様に揉んで頂いておりました」


「なん……だと? なんと羨ましい! い、いや、けしからん!!」


 既に頭が飽和状態となったラゴの放つ会心の一撃で、アスタロトの心のHPが大きく削られる。

 主君に胸を揉んで貰えるという快挙は、女性配下達にとっては垂涎の的。

 もしこの衝撃的事実がレストエスの耳にでも入ろうものなら……彼女達の身の安全は薄氷を踏むが如きだろう。


「……アスタロト?」


「い、いえ! ななな、なんでもありません!!」


 カミュの冷たい視線に晒されたアスタロトが、両手と顔を振って身の潔白を必死に主張する。

 もう全部言ってしまっている感じもするが、冷静さを欠いた彼女にはまだギリギリセーフに思えるのだろう。


 ボンッ!!


 そんなアスタロトの懸命な欺瞞を余所に、ガーゴイルが落下した地点の地面が大きな音を立てて爆ぜる。






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